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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第3章 男爵家の人びと
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第79話  文句言いたいカモ!

 やっと落ち着いて来た小屋の中で、あたしは寝藁の上で鴨ちゃん達に囲まれている。

みんないい人たちだけど、信仰心の厚い人が多いこの世界で、あたしのようなイレギュラーがどのように目に映るのか。


ガイルさんは、やれやれと額の汗を拭い、のんびりした声で、静まり返っていた空気を破った。


「こいつらアンジェに言われて来たのか?」

『そうです、ガイルさん、鴨ちゃん達が火に焼かれないように気を付けて下さい』


頭の中に響いた声に、ギョッとしながらも、ガイルさんが自分を落ち着けるように、ひと呼吸ついてから答えた。


「わ、わかった。俺は紅茶とミルクが有るから用意するよ」


『ガイルさん達も濡れて寒いでしょう?砂糖が有ればたっぷり入れて飲んで、身体がはやく温まるから』


「なるほど、わかった。任せておけ」

甘い物好きなガイルさんは砂糖をたっぷりと聞くといそいそと茶器を並べた。


鴨に埋もれて顔だけを出して、ぼんやりとしているダミアンさんを見ていたフェーデ君が、首を捻りながら言った。


「なんだかさっきよりダミアンさんの顔色が良くなっているようだけど、あれでしっかり温まったのかな?」


何を言っているのです、水鳥の鴨は最高級の羽毛を持っているのだよ。


『温かいって。天然の羽毛布団だよ?フェーデ君も埋まってみる?』

「おわ!これアンジェちゃんの声?俺にも聞こえたぞ!」


興奮気味のフェーデ君とは対照的に、料理をしていたディオ兄がブスッとした顔つきで、ぽつりと言った。


「アンジェはダミアンさんを助けたくてやったんだからね。アンジェは今まで何度も俺を助けてくれた、俺の大事な妹なんだ」


セリオンさんが近づいて来て、鴨の中からあたしの抱き上げると、躊躇いがちな声でパパに懇願した。


「ルトガーさん、今まで内緒にしてすいませんでした。アンジェは奇妙な力があるけど、中身はただの子供です。

バッソにいたらは不都合だというなら、俺はこいつを連れて出て行きます」


「おい、セリオンそれはバッソに不都合とはどういうことだ?」

唐突にバッソから出るというセリオンさんの言葉に、ルトガーさんが詰め寄った。

レナート神父が続いて言った。


「アンジェはダミアンを救済するために、隠していた力を発揮したのです」


「神父さんも知っていたようですが…アンジェが空を飛ぶし、鴨を連れて来たし…ダミアンを助けるし、アンジェは一体…何者ですか?」


ダミアンさんの傍で様子を見ていたレナート神父は、ため息をひとつ漏らすと強い口調で話した。


「アンジェは不思議な力を授けられて産まれたのです…話す以上あなた方にも協力して欲しい、いや、してもらいますよ。

わたしは自分のせいでアンジェを処刑させる訳にはいきませんから」


 難しい顔をした神父さんの横にはダミアンが寝ている。

先程迄の小刻みな震えは治まり、呼吸は静かになり落ち着いて来た。

良かったダミアンさん助かりそうだわ。


さて、これからが大変だわ、あたしはどうなるかな…

そう思っていたが、話はあたしの事でなく神父さんのほうにそれていく。


「レナート神父、貴方がバッソに来るとき、カラブリアの司祭から直に貴方の事を頼まれました。それに、カラブリア卿からの口添えも。貴方は一体誰を怒らせたのです?」


「教皇です、細かい事情をお話したらこの場の全ての人間に迷惑をかけてしまいます。これ以上はお許しください」


その場にいた人は教皇と聞いてびっくりしていた、リゾドラードの国土の四分の一の領地を持ち、今では王さえ脅かす権力を持っている。


ガイルさんが口を開いた「子供もいる、今はやめておきましょう」

そうだなと頷いたルトガーパパは話題を変えた。


「そういえば、アンジェはどうやって鴨に協力してもらったんだい?」

ルトガーパパが不思議そうに聞いた。


『頼んだの、鴨ちゃん達に。こんなふうに空を飛んでみんなを見つけてね』

セリオンさんの腕からするりと離れ、ふわっと浮かびスーッと飛んで見せた。


 それは少し前だった、あたしは皆と別れた後、川に向かったあたしは、お目当ての相手を探した。


ペッシェ川に戻ると探している相手が河原で寛いでいた。

『ひさしぶり~アッカ隊長~元気だった?』


途端に鴨の軍団がギャアギャアと大騒ぎとなった。

『悪魔!悪魔っ子だ!』

『こっち来るなー-!』

『食わないでー――――!』


『教会ではいうとおりにしただろうが!まだ何かあるのか?!』

群れの中のひときわ大きな鴨がヨチヨチとそばに出て来て言った。

以前、あたしと取っ組み合ったアッカ隊長だ。


『つれないこと言うんじゃないわよ~♪もう友達じゃないの~♪』


『『『『『『お前は友達を鴨鍋にするぞと脅かすのかー!!!』』』』』』

一斉に突っ込みが入ったがあたしは気にしない。


かなりお冠である、憤懣(ふんまん)やるかたないとばかりに翼をバタバタと動かして、まだ怒りをぶちまけている。


ここは友達といえども非常時なので威圧させてもらおう!

ギロリと鴨達に目を向けた。


『やーねー、まだ鍋にしてないじゃないの。それより手を貸して欲しいのよ』


有無を言わぬ迫力と、「まだ」という意味深な言葉にアッカ隊長と群れの鴨達は、ジリジリと後ずさりした。


『ちなみに、逃げようとしても無駄だからね』

『ぐう』と呻き声をあげてアッカ隊長がぐったり翼を下ろした。

長い物には巻かれよ!鴨達は泣きの涙で屈服した!!


 というわけで鴨の協力をお願いしたのですよと説明した。

ガイルさんはルトガーパパの顔色をちらりと窺った、パパは信じられないのか呆然としている


「アンジェはいったい…」

そのまま言葉を失ったルトガーパパは改めて、浮かんでいるあたしを見ていた。

あたしはパパから視線を外した。その目を見る勇気がなかった、パパの目のなかに、何を見ることになるのか知るのが怖かったからだ。


可愛がってもらっているパパとは、もしかしたらお別れになるかもしれない。

ハイランジア家には申し訳ないが、子供の死亡率は高いのだから、あたしが消えても、適当に言いつくろうことは出来るだろう。


ディオ兄は泣いて、もう顔を手で覆っている、これだけ堂々とバレたらあたしだって覚悟を決めましたよ。


ディオ兄ごめんね…でもダミアンさんの命が掛ってたもん、こうするしかなかったんだよ。


原因はあたしの酒癖の悪さからくる暴走だけど…一応反省しておこう…

だいぶお酒も抜けて来た、何でこうも遊びたいとか、食べたいとかいう我慢が出来ないのかな?…


ダミアンさんの顔色がだんだん良くなってきた、紫色になっていた唇も本来の色に戻っている。


ダミアンさんの意識がはっきりする前に、まだフヨフヨと浮いていたら、ルトガーパパに、がばっと捕まって抱え込まれてしまった。


セリオンさんとディオ兄が一瞬顔色を変えたが、パパはふたりの様子に気がついて、大丈夫だと言った。

そしてチラリとダミアンさんに視線を向けた。


「俺はなんでこんな事に…?どうして鳥?鴨…?」

ダミアンさんが、正気に戻ってボソッと独り言をはいた。


ようやく命の危険が無くなってきたダミアンさんに、ディオ兄が出来たパン粥をよそって、ガイルさんがちょっと御免と、鴨達を除けながら上半身を支えて起こしてあげた。


ここに運び込まれて2時間は経った、ダミアンさんは体を支えて貰いながらも自力で食べるまで回復している。


細切れにして、トロトロに煮込んだ野菜とソーセージ、そして摺り下ろしたチーズの入ったトロリとしたパン粥を、ダミアンさんはディオ兄の介助でゆっくりと食べた。


ディオ兄の作ったパン粥をすっかり食べ終えると、ダミアンさんはすっかり元気になった。

再度念視したが、骨折箇所も全て治り、体内温度が上がって血色が戻っているからもう大丈夫だ。


「美味いなあ、やっぱりディオの作ったもんは何でも美味いや」


はっとしたダミアンさんは、ルトガーパパの顔を見ると「つい、すいません」と謝った。


パパは構わないと微笑み、あたしを抱っこしたまま、空いている右手で下を向いていたディオ兄の頭を撫でた。


「それにしても、着替えがあって助かったな」

そう言って、食べ終わった器をセリオンさんが受け取ると、ダミアンがご迷惑掛けましたとルトガーパパに謝罪した。


「野良仕事の後、汚れた服でお屋敷に入れてもらうのは気が咎めたので、ここに着替えを置いていたのです。それがこんなことで役に立つとは…」

そして、ダミアンさんはパパに視線をむけた。


「旦那様、ガイルさん、助けて頂いて有難うございました。それからアンジェちゃんも有難う」


うっ、とパパが呻いた、やっぱりダミアンさんにもバレたらしい。

そのとき、フェーデ君が感極まって興奮気味に言った。


「ダミアンさん!アンジェちゃんが天使の力で、助けてくれたんだよ!」

フェーデ君の言葉に、潤んだ目のディオ兄が顔を上げた。


「俺、お前がただの妹馬鹿だと思っていた。信じていなくてごめん」


すると、神父さんとセリオンさんが視線を合わせた、光明を見た神父はすかさず言葉を入れた。


「そうです、アンジェは神より授かった不思議な力でダミアンを助けたのです。アンジェは天使の生れ変りです」


「神父さん、どういうことですか?」

セリオンさんも神父さんに補足してパパに謝罪した。


「ルトガーさん、すいません。俺たちアンジェが迫害されるかもしれないと思って、黙っていました」


「迫害?もしかしてドットリーナ教会からか?」

パパはすぐにドットリーナ教会の名を口にした、すかさず神父さんが応えた。


「私の教区にこんな子供がいると知ったら恐ろしいことになるでしょう」


「なるほど、ドットリーナ教本部か…まあ、詳しい話は後だ。神父さん取り敢えず、有難うございました。

セリオンはもう少し俺を信用して欲しかったぞ」


パパがチラリとセリオンさんに目をやると、肩をすくめた彼は申し訳なさそうに土間に目を落とした。


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