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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第3章 男爵家の人びと
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第72話  クイージさんの逡巡

 男爵屋敷の敷地は結構広い、今までは打ち捨てられていたので、どこからどこまでが庭なのか怪しいものだったが、村人の手伝いのお陰で敷地の整備も進んでいる。


 裏庭の奥には神父さんが好きな白椿が咲いている。

冬に咲く大きな花はこの辺りではとても珍しいから、以前カメリア様の庭師が挿し木で増やそうとしたが上手くいかなかったそうだ。


冬の冷たい空気のなかに咲く姿は、可憐にして清澄、凛として気高い。

ディオ兄とあたしはその花を見上げていた。

ここの花だけが違う空気を纏っている気がする。


「綺麗だねアンジェ、この花だけ少し違う気がするね」

『本当だね、なんだか特別な気がするよ』


大きな椿の木は3メートル程の高さがあり、根元に小さな岩が埋まっている。

何かペットのお墓みたいに見える。


「さあ、風邪をひかないうちに中に入ろうか?」

『賛成~』


玄関に入るとダミアンさんが畑に出掛けるところだった。

「お早う、ダミアンさん。畑に行くの?」

やあ、そう言うと、にっこり笑ったダミアンさんが、ディオ兄の頭を撫でた。


「うん、植え付ける前に邪魔な根っこや石を掘り起こさないとね。3月には何か植え付けようと頑張っているところだよ」


階段下の下男用の控え部屋にいたセリオンさんが、伸びをして首や肩を回しながら出て来て言った。


「ダミアンひとりじゃ開墾するのは苦労だろう、手伝いをするよ」

有難がるダミアンさんをディオ兄が見上げた。


「カラ芋じゃ駄目なの?ダミアンさんは植えていたから失敗も少ないでしょう?」


「もちろん、カラ芋は植えるよ。親分…旦那様から屋敷の食料はなるたけ畑から収穫したいと言われてさ」


セリオンさんが思いを巡らすように頭に手をあてて口を開いた。


「なるほど、ルト…じゃない、旦那様も金が無いからな。

耕作地が少ない領地なら産業から税金を取りたいが、みなフォルトナで働いてバッソに帰る、ここにはこれと言った大きな産業が無いから」


腕を組んでいたダミアンさんは相槌を打った。


「本当なら領地の山や森に入るとき税金を払わないといけないのに、黙認しているし、情け深い領主様だとあっちこっちで聞いてるよ。


領地で薪一本拾ったって税を掛けられる土地だってある。

酷いときは狩場に入っただけで腕を切り落とされる領地だってあるのにな」


ダミアンさんの里であるカズラ村では、昔、処罰を受けた領民がいて老人たちはいまだに村人が森に入るのを嫌がるという。

バッソの領主のあの人は人が良いからな、とセリオンさんがぼやいた。


「おかげでバッソに貧民が集まって来るのさ。

栄えているフォルトナのおかげで何とかなっているが、このままだと領地は借金して、行く末は破綻の危険が出てくるとガイルさんは考えているよ」


「おいおい、俺は雇われたばっかりなんだ、怖いこと言わないでくれよ」

ダミアンさんが顔色を悪くして困惑した。


「はは、ごめん。今はフォルトナのお陰で部屋貸しが利益をだしている。

それに領地の子供を使用人や騎士見習いに教育して斡旋する紹介業も回っているが、あれはバッソに産業がないので、人減らしに考えたものだから収益とは言えないしな」


ディオ兄は早く目玉になる産業が動き出すといいなあと溜息をついた。


「今年は柿渋を頑張って生産を増やすことだな。今年は手伝いがいるからもっとできるだろう?」


「うん、このあいだフェーデと幼木を探して見つけたんだ。今年はダミアンさんともっと増やしたいと思っているんだよ」


「おう、庭師じゃないけど、俺だって結構役に立つと思うよ。畑仕事は無理しないで良いと旦那様から聞いているからな」


 今年は防水剤がたくさんできるといいね、と楽しそうにディオ兄が言うと、セリオンさんは貴族としての勉強忘れるなよと釘をさした。

それを聞いてディオ兄が首をすくめるのを皆で笑って励ました。


*      *       *       *


 庭をダリアはひとり箒で掃いていた、まだ下働きの者達が決まっていないので、率先して手伝いを買って出たのだ。


 裏庭の白椿のそばに来ると背を向けた少年が立っていた、ディオかなと一瞬思ったが髪の色で別人だとすぐわかった。


この寒いのに絹らしいシャツを着ているだけだ。ディオより大きい子だ、髪の色は輝くばかりの銀色だ。


その後姿を見た時、ダリアはテーブルの下で見た銀髪の首が脳裏に浮かび震えあがった。

まさか、そんなことはあるわけがない、自分に言い聞かせていると彼が振り返った。


美しい面立ちの子供だ、彼は笑顔でダリアを見つめ、近寄って来た。

首の落ちた白椿が地面を埋めている上を、彼は滑るように歩いてくる。

草の上に落ちている枯れた枝を踏みしめても、彼の足元からは何の音もしなかった。


猫よりもしなやかに、何の気配もしない足取りで、ダリアに近づいてくる。

その顔は間違いなくあのときの顔だ!


「きゃああああぁぁぁー!」

恐怖で耐えきれなくなったダリアは叫び、箒を放り出して走った。

誰も助けてくれない庭から逃げ出して屋敷に向かった。


玄関脇に来ると遠くに門を通り過ぎる警邏兵の姿が目に入って安堵した。


ー良かった、助かったわ。あの人を呼んで助けてもらおう。

さらに動こうとしたダリアは腕をぐいっと掴まれ振り向かされた。


銀髪の少年が彼女の腕をしっかり掴んで見上げ、薄い唇で微笑んでいた。

「駄目だよぉ逃げちゃ。ダリアは怖がりだねぇ。うふふ」

青白いほどに白い肌の銀髪の少年は琥珀の瞳を彼女に向ける。


瞳は怪しくひかり出すと金色に変わった。

その目に射すくめられたダリアはガタガタと震えながら地面に座り込んだ。

身動きできないでいると、少年は彼女の額に指を当てた。


「あのときは屋敷に忍び込んだりするからだよ。アンジェ達の味方なら僕も手出しをしないよ。

あの時のことは忘れな」


ピシッと彼は額を指で叩くと、彼女はぐらりと体を揺らしてから凍り付いた。


 セリオンが悲鳴を聞きつけて外に出たところ、ダリアが地面にうずくまっていた。

その異様な雰囲気を奇妙に思いながらそばに来ると呼び掛けた。


「おい、あんた大丈夫か?」

「へ?あ、はい?あたしは一体…」

「凄い悲鳴が聞こえたけど、どうしたんだ?」

「あ、いえ御免なさい。何か見て悲鳴が出ちゃって…何だったのかしら?」


手を貸して立たせてやったセリオンは、彼女の汗と呼気が荒いのを見て不審に思ったが、それ以上追及はしなかった。


「昨日来たばかりだろ、長旅で疲れているんだろう。今日はゆっくりしていろよ。ダリアさん」

ありがとうと躊躇いがちに言う彼女を、セリオンはメガイラに来てもらい、3階の彼女の部屋でゆっくり休ませるように頼んでおいた。


*      *       *       *


 ジロリと冷ややかなセリオンさんに睨まれている、なんで?

メガイラさんが外にお買い物に行っている間に、今にも怒られそうな雰囲気なのですが、なんで?


「おまえ、今日、ダリアさんに何かしたのか?」

『何が?何にもしてないわよ!今日も良い子のアンジェちゃんだもん!』

「嘘くさいな…お前のどこが良い子なんだ…」


ぐりんとほっぺを掴まれて、目線を合わせられても、知らんものは知らん!

*ピシッ!* デコピン発動!

うずくまるセリオンさんに向かってディオ兄が言う。


「セリオンさん、アンジェは()()()()()()()()()()と思うよ」

『今日ならって…ディオ兄まで!あたしはいつもいい子だもん!』


フン!フンフン!フーン!!

鼻息荒く抗議するもふたりから冷ややかな目線で見られてしまった。

くそー!なんで信じないのよ!!最近、あたしは何もやってないー!




 その頃、ダリアは考え込んでいた。

なんで来るのが嫌だったのだろう?はて???

この屋敷では嫌な先輩もいないし、出会った人たちも良い人なのに。

どうして、ハイランジア家に来るのを、気が進まなかったのか、どうしても思い出せなかった。


*      *       *       *


 翌日からダリアさんは元気に働きだした、以前はなんかビクビクしていたのに、そんな様子は微塵もなくなってしまった。

悩みがなくなったのかな?まあ、元気で良かったというべきだろう。


ダリアさんはあたしを可愛がってくれるし、料理人のクイージさんの仕事も仲良く手伝いをしている。

あたしもダリアさんが大好きだ!抱っこしてくれると良い匂いがする。


 クイージさんは最近なにか考えている事が多くなった、あたしにおもちゃを渡した後、静かに見ていることが多くなった。


「じいじ?」

一緒にソファーに座っている横で、何かぼうっとしているクイージさんが心配になって来た。

「ああ、アンジェ様、どうしました?」

どうしましたはあなたでしょ?クイージさん元気ないよ、どうしたの?


「クイージさんが元気ないからアンジェは心配しているんですよ」

ディオ兄がそう言うと、クイージさんはハッとして膝に上がって来たあたしを、手を添えて支えながら見つめた。


「じいじ、ぎゅー!ぎゅー!」

手を一杯に広げて精一杯の笑顔で元気づけだよ!

クイージさんにぎゅむー!と抱きついた、あたしに何にもできないかもしれないけど、一緒にいるってことだけはわかって欲しい。


 あたしとディオ兄を守るために引き取ってくれると言ったクイージさん。

あたし達にとって大事な人なんだよって伝わると良いな。

抱きついていると、お腹から伝わってくる体温がぬくぬくと心地よい、うつらうつらと船を漕ぎだしちゃった…ふあ~眠たい…駄目だ…。


*     *      *      *


 スウスウと寝息をたてる赤ん坊に目を落としていたクイージは、ほうっと溜息をついた。


―わしは何を迷っていたのだろう、あのとき、この子達を守ろうと誓ったのではないのか?わしはこの子を孫と思って見守ろうと思ったのに、何を迷っていたのだろう。


 クイージはアンジェを愛しんで抱きしめた。

ディオは不思議そうに涙を浮かべているクイージをみていた。




 今まで「いいね」はツイッターのことだと思い、受付してませんでした。(アホですね)

受付を〇にしたら早速つけて頂き有難うございました。

続きも読んで頂けると嬉しいです (*^-^*)

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