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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第7章 天国への階段
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第7話   ディオ兄は運を掴みました

「おつかれさん、4時間で600スーだ。今日はいろいろあって疲れたろう」

「有難うございます」

ダミアンさんはお金を渡すと、ディオ兄の肩をぽんぽんと軽く叩いてから、あたしの顔を覗き込んだ。


「いない、いないばあああー」

うぷぷ、変な顔!アップで面白い顔、破壊力有りすぎ!

*キャッキャッキャッ*

子供は笑いの沸点が低すぎなの!手足をジタバタして大笑いしてしまった。


「お前の妹は全然泣かないしいつもニコニコしていて、可愛いな」

「あ~い」*にこにこ*

ディオ兄のためなら愛嬌くらいサービスしますよ、何しろ大っぴらに行動できませんので、早く大きくなりたいわ。


肉屋のポルトさんも店のバラしが終わって近づいて来た。

うんうんと彼も同調して言った、「結構、赤ちゃんが客寄せになっていたようだぜ。おかげでいつもよりずっと早く帰れる」


ポルトさんのバラした店は荷馬車に積んでしまっている、さっき話していた冷魔石というのを見たかったなあ。


―見たいなあ、見たいなあ、見たいなあ、凄く見たい!


そう残念でたまらずに思っていたら、突然ポルトさんが手のひらに美しい青い石を乗せて見せてくれた。

3センチから4センチくらいの大きさで少し平べったい楕円形をしている。

表面のツルンとした澄んだ深い青のなかに時おりキラキラと金箔のような欠片が光っている。


「ほーら、アンジェちゃん。綺麗だろう?冷魔石って言うんだよ」

「ポルト、どうしたんだ?冷魔石なんぞ赤ん坊に見せるなんて」

「いや、なんか見せてあげたくて堪らなくなった…なんでだろう?」


何と!しまった!また念を送ってしまった!

『アンジェ~、何やってるの~』

『見たい、見たいと思ったら、勝手に。ごめんなさい』


しょうがないなあ、という顔をしたディオ兄はポルトさんに見せてくれた礼を言うと質問した。


「それは高いのでしょう?一番安いのでいくら位ですか?」


「大きさか色の濃さによって値段が違うよ。これは7万スーだった。

俺は肉屋だからちゃんとした物を購入したよ。家で肉や魚の保存に使いたいならもっと安いので大丈夫だよ。欲しいなら安く買えるところを案内してやる」


小さいものは2万スーもあれば買えるらしいが、今のディオ兄にはちょっと無理だね。綺麗だな、これアクセサリーにしたいくらいだわ。


「ディオ、ちょっと触ってみろ」

「良いんですか?」

「ああ、硬い石だから大丈夫、触ってみろ」


「あれ?冷たくないですね。冷魔石っていうからてっきり冷たいのかと思っていました」

「ああ、魔法陣が描かれた場所にセットしないと効果は出ないんだ」


「ディオ、冬になる前に金を貯めて温魔石を買うといいぞ。冬凍えなくてすむ、俺の家では寝るとき足を温めるのに使っているよ」

ダミアンさんが教えてくれた温魔石、それも使い道を考えればかなり役にたちそうだな。


「買うときにはお願いします。さあアンジェ、バイバイの時間だからね」

「あ~い」


ポルトさんの手の中の冷魔石は澄んで青く輝いていた。

まだまだこの世界のことは知らないことばかりだ。

ポルトさんはディオ兄に小銅貨と穴鉄貨を1枚づつ渡してくれた。


「俺からの駄賃だ、今日は途中の4時からだから同じ一時間で150スー。

いきなりだったからな、迷惑かけた。なあ、ダミアンだっけ?

次から俺たち仲間で、折半にして200スーでディオを雇うということで良いよな」


「うん、だけど俺、明日は来られねえ。今日は来る途中、自分の荷馬車が壊れちまって、流しの馬車に乗って来たんだ」


 荷馬車が立ち往生したダミアンさんは、知り合いの宿で馬車の修理を頼み、仕方なく流しの辻馬車に荷物を乗せて市場まで来て、御者の言いがかりでトラブルにあった。

そのおかげでディオ兄はダミアンさんと知り合いになれたのだけど。


「ダミアン帰るのはどこだ?カズラ村?なんだ、俺の村の途中じゃないか、帰り乗せてやるよ」


ぺこりと二人と頭を下げて別れを告げ、ディオ兄は市場を後にした。

市場の店をみて、この世界の良いところを発見した、有難い事に香辛料などが安い!砂糖だってそんなに高くない!ありがたやー!である。

これなら料理の幅も広がる、できれば市場をゆっくり見物してまわりたいな。


「今日は市場と掃除で1150スーの給金が貰えた。アンジェと家族になってから運が巡って来たみたいだね」

『いや~、ディオ兄の人望でしょう。うふふ』


サシャさんの家で授乳をしてから帰宅すると、朝見かけた柿の木を見に行った、なんと庭の奥には他にも渋柿があった。ディオ兄に頼んで落ちている青柿を全部、拾っておいてもらった。


やった!実は渋柿は使い道が一杯あるのだ!青柿の状態で作るのが柿渋、これで色々なものが作れるわ。

ディオ兄のためになるものをこれで作ってあげるからね。

そして今日聞いた魔石の存在、あれがあれば発酵食品も管理が簡単だろう。

いろんなものを作れるようになるに違いない、絶対手に入れてやるわ!


 翌日、市場にポルトさんだけでなく、馬車が壊れて来られないはずのダミアンさんも来ていた。


「お早うございます、ダミアンさんはお休みじゃなかったんですか?」

「ポルトが、馬車が直るまで俺の村に寄ってくれるって。だから、今日もよろしく」


それは良かった、ダミアンさん。しばらく会えないかと思ったよ。

「ああ、それからさっきルトガー親分がやってきてさ、俺たちに挨拶にきてくれたんで、お前の事を話したら、今日、帰りに寄れって」


 ルトガーさんから話はなんだろう?まさかあたしの事かしら?

ディオ兄がちょっと不安そうにしているので肩をぽてぽてと叩いて気合を入れてあげると、やっと彼は肩越しに笑顔を見せてくれた。


それからディオ兄は忙しく働いた、小っちゃい体で良くぞこんなに働くものだ。朝の手伝いが終わると、道路掃除をして、お昼前にサシャさんのところに寄って、家でお昼を食べたらまた市場でお手伝い。


『今日もディオ兄は良く働いたねえ』

うふふとディオ兄は笑うと「ちょっと疲れたけど、ご飯が一杯食べられるもん。嬉しいよ」

それを聞きつけたポルトさんが気をきかせたのか葉っぱで包んだ肉をくれた。


「ディオ、塩豚だ。お前にやるよ、塩を揉みこんだだけの生肉だから明日までには食べろよ」

「うわ!有難うございます」


「じゃあ、俺からはこれ。たまたま手に入ったよくわからない芋だったけど、うまいこといって、収穫出来たばっかりなんだ。

加熱するのはわかるけど、うまい食べ方が分からなくて、ディオが食べたら感想聞かせてくれ」


「はい、わかりました。御馳走さまです」


おお!サツマイモじゃないですか!こっちではマイナーなんだね。

焼き芋、天ぷら、いろいろあるけど、加工品を作るのが良いかな。


市場を後にするとすぐにサシャさんのところで授乳だ。


「ふーん、じゃあしばらくは雇って貰えるのね。それじゃあ、明日の午後は市場にあたしが寄るわ。

アンジェの授乳、足りないかなと思ってたの。

それに、ディオはお掃除の仕事もしているとセリオンから聞いたわ。あたしは内職の仕事ばかりだから忙しくないし」


これは有難い!実はお腹ペコペコだったのですよ。

ディオ兄にあまり負担を掛けたくなかったので、お昼前の授乳の後は夕方までぐっと食欲を我慢していたのだ。

ディオ兄はとても感謝してサシャさんに礼を言うと、ルトガーさんのところへ駆け出した。


 ガイルさんに挨拶をして執務室に入ると、そこにはルトガーさんの他にふたりのお客さんが、隅のソファーに座ってお茶を飲んでいた。


ふたり共、どうみてもこの辺りの人ではないだろう、どちらも30前半の男の人で、上品で優しそうな人は水色の髪を後ろに垂らして束ねて、眼鏡をかけている。


もう一人はどうやら従者らしい、鋭い眼光をしたこげ茶色の短髪の男性だ。

ディオ兄は丁寧に挨拶してペコリと頭を下げた。


「ああ、ディオ来たな。そいつらは無視していいぞ。客じゃないから」

苦笑いしているふたりを無視してルトガーさんが上機嫌で迎えてくれた。


 やっぱりルトガーさんは既に市場の手伝いのことは知っていた、ガイルさんの報告が上がっているだけじゃなく、ダミアンさんとポルトさんの素性まで調べてあった。


「あのふたりは安心できる相手だが、もしも面倒なことに巻き込まれたら、ガイルがいつも見回りをしているので相談しろ」


一体、どこから情報が上がっているのだろう。

今日はセリオンさんがいなかったが、何処に行ったのかな?

自分で仕事を探して市場のお手伝いをしたことを、ルトガーさんはとても喜んでくれた。


「二人で出し合って1時間に200スー出してくれるのか。凄いな、お前はその年で、下働きの大人の男と同じ給金を稼ぐようになった。えらいぞ、ディオ」


「そのまま雇ってもらえるかは、まだわかりませんけど頑張ります」


「いや、もう決定だ。あのふたりから、できれば午前中もディオに手伝ってほしいと頼まれたんだ。

丁度新しい孤児が来たから、ディオの担当だった飲食店街は、その子供にやらせる。

お前は市場に専念していいぞ」


 ルトガーさんはディオ兄の前に来ると、彼の頭をガシガシと撫でてからギュッと抱きしめた。

「本当にえらいぞ。ディオ」

ディオ兄を見下ろすルトガーさんの顔は真っ直ぐな笑顔で、まるでお父さんみたいに優しかった。


 あたしを乳児院に入れろと、叱りつけたけど、あれはこの人なりのディオ兄への優しさだったのかもしれないな。

ルトガーさんに褒められて、安心したディオ兄は誇らしげに晴れ晴れとした微笑を浮かべた。


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