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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第7章 天国への階段
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第5話   クレーマーさんにはお帰り願います

「だから荷物を運んだのだから手間賃寄こせって言ってるんだ!」

「いや、あんた金額正しいか?」


 ここは町で一番のサングリア広場だ、眺めのよい高い建物が四角い広場を囲っている。

広場には市が立つ、場所は早い者勝ちで役所の許可書があれば誰でも出店できる。

そのため早い時間から場所取りのために多くの人が馬車で来ている。


さっさと場所を決めて営業しないと、人の流れの良いところは直ぐに埋まってしまうので、みな大急ぎで荷馬車から荷物を降ろして箱の上に戸板を渡して即席の店を作るのだ。


広場の入り口で言い争っているのは、どうやら出店にきた八百屋さんと辻馬車の御者のようだった。

しばらくふたりの言い分を聞いていたが、どうやら運賃がトラブルの原因らしかった。


「3ケースで一人分の運賃だと言ったろ!3つで一人前の座席を埋めたんだからな。こっちは人様乗せての商いだ、荷馬車じゃないのに乗せてやったんだ。9ケースで3人前、お前が乗って4人前の運賃だろうが」


「確かにそうだが、ええっと、2人掛けの内席に6ケースだったから内席2人前で、ひとり分だと750スーだから、外席は3ケースだから1人前で570スー、俺の分を合わせて、えっと…」


「だからよ、全部で2800スーだよ!」

「あの、4人分で2640スーです、だけど、この場合は2450スーです」


思わずディオ兄が口を挟んでしまったら、肩を怒らせた御者の男にギロリと睨まれてしまった。


「なんだと小僧!適当な数を言うな」


「いや、内席は2人分では1500スー、外席は2人分で1140スー、合計で2640スーですが、ルトガー親分から辻馬車の手荷物ひとつは運賃が加算されないと聞きました。


3個分が1人前の約束で乗ったなら、外席のひとり分から3で割って1ケース分190スーを引いて2450スーになります」


「う、そんなもん、知るか!そんな決まりなど聞いたことない!それに、これは他の客に迷惑だったからだ!余計にとるのは当たり前だ!」


いや、それ、あと出しの言いがかりつけるのかい!初めに計算を誤魔化そうとしたし、これはもう、場所取りを早くしたいのを知っての嫌がらせなのだろう。

食い下がれば根負けして余計に払うと足元を見たに違いない。


「お前は関係ないだろうが!あっちに行け!この浮浪児!」

「おい!やめろ!」


顔を赤くして怒った御者がディオ兄に鞭を振り上げた。

八百屋さんが止めようと叫び、あたしは思わずディオ兄を守りたくてと精一杯の声で叫んだ。

「ほぎゃあああー!」

やめてええええぇ


 鞭を持った御者が一瞬ビクンと動きを止めた、そして、そのまま顔を引きつらせて動かなくなった。

その腕をがっちりと掴んでいたのは、ルトガーさんのところの用心棒の大男、ガイルさんだった。

見ただけで一歩後ずさりしたくなるような威圧的な双眸(そうぼう)で御者を見下ろしている。


「今、聞き捨てならないことを聞いたな。辻馬車の決め事を知らないだと?

客の手荷物ひとつは別運賃を取らないというのは、国の決まり事だぞ。それを知らないということは、あんたモグリか?モグリなら町の治安を守る警邏兵に突き出すぞ」


「いや、俺はそんな…ちょっとうっかりしただけだよ」


「ふん、俺は市場でもめ事が無いように見守るのが仕事だから、そんなことはどうでもいい。

さっさと賃金貰って帰りな。おい、あんた」


ガイルさんは農夫の若い男の人に顔を向けると、お金を出すように指示した。


「あんた小金が多いな、俺が数えてやろう。ひい、ふう、みい…ほらよ。ここは俺のシマだからな、まだ不満なら俺が聞くぞ」


ガイルさんは農夫さんの両手を広げさせて、彼の財布からお金を並べると、その中から、さっさと細かな硬貨を選んで御者の手にのせ、でっかい手で御者の硬貨を持った手をグッと力を込めて握りこんだ。


「あんたが、今、打ち据えようとしたこの子は浮浪児じゃねえ。バッソを仕切っているルトガー親分が気に入って、仮親として後見をしている。手を出す前に俺が止めた事を感謝しな。あの親分は気性が荒いので有名だからな」


2mを超える巨体の肩をいからせ、手を離すと、ギロリと人睨みしてさっさと行けとばかりに、街道を顎でしゃくった。

「は、はい、そんじゃ俺はこれで失礼を」


へこへこと低姿勢になった御者は、あたふたと去って行った。

その場に残った3人のうち、ガイルさんはしてやったりとニヤリと笑い、ディオ兄は呆れてガイルさんの顔を見上げた。


「ガイルさん、今、穴銅貨一枚分、500スー、少なく渡したでしょ?」


「腹が立ったからな、赤子を背負った子供を打ち据えようなんて奴からは誤魔化していいのさ。それに3ケースがおひとり様なら、ひとり分づつの手荷物を引いて1950スーで問題ないだろう、ハハハ」


ウハハ、賛成です。

ディオ兄は小さく、ガイルさんたら悪い人だなあと笑った。


「えっと、取り敢えず、2人とも有難う、助かりました。なあ坊主、良かったら今から出店を出すのを手伝ってくれるか?賃金は小銅貨で1枚だ。品物を並べ終わるまでで良い、おまけにジャガイモを分けてやるよ」


「本当ですか?有難うございます」

「良かったな、ディオ。俺はもう見回り続けるから行くよ。それじゃあ旦那、うちのディオをよろしくな」

「お世話になりました、バッソの親分さんによろしくどうぞ」


 ガイルさんと別れた後、大急ぎで市場の場所取りのお手伝いが始まった。

まだ、わりと良い場所が残っていて、肉屋さんの隣に設置することができた。

野菜を出店に並べ終わると、八百屋さんは約束通り小銅貨の100スーとジャガイモが6個入った包みをくれた。


「ディオって言ったか?お前、暗算できるの?」

「はい、買い物に使う程度の暗算なら大丈夫です」


「なら、午後の1時から手伝ってくれないか?俺は暗算苦手でな。

午後からは、いつもお客に追われて間違えてばっかりなんだ」


「午後からなら良いですよ、俺の仕事は午前中で終わりますから」

「よし、じゃあ決まり。午後1時からで1時間につき小銅貨と穴鉄貨が一枚づつだ。それでいいか?」


一時間で150スーだ!ディオ兄は大喜びで快諾した。


 掃除の仕事に割り振られた下層民向けの飲食街に着くと、ディオ兄は辺りの代表がいる店に挨拶を済ませ、掃除道具を受け取りさっさと仕事を始めた。


どこに行っても運搬で一番使われているのは馬だ。馬は1年にどれだけ馬糞を出すかというとなんと6トンに及ぶ。

そんな馬が町中でウロウロすると、たちまち町は馬糞だらけだ。


ディオ兄は麻袋を取り出すと、そこらの馬糞を箒で集めて、小さな板でうまく袋に放り込んだ。

他のごみは金属やボタン、ぼろ布などは別に売れるので取っておき、お金になりそうもないごみは町のごみ捨て場に捨てる。


「アンジェ今日は怖かっただろう?ごめんね、俺が余計なことしたから、お前が打たれなくて本当に良かった」

『ガイルさんが来てくれて良かったね、ディオ兄かっこよかったよ』


それまで申し訳なさそうだった彼は、やっと安心したように微笑んだ。

暖かい背なかで、あたしも微笑んだ。


*         *         *         *


 その頃、ガイルは不思議な思いで先程の事を思い出していた。


―おかしい、さっきは俺の手は御者の腕を掴むのが遅れて、ディオが殴られたと肝が冷えたのに、何故か間に合っていた。

あのとき、奴の体は一瞬硬直して動きを止めていた。まるで、誰かがあの男を一瞬の間、止めたかのようだった。


にぎわい始めた市場を見回るうちに、ガイルは苦笑した。


―そんなわけあるはずはないな。それより、ディオが新しい仕事が得られそうだとルトガーさんとセリオンに教えたら、喜ぶだろうな。


 ガイルはまた町の見回りを続けるために雑踏のなかに紛れていった。




拙い文章ですがよろしくお願いします、読んで頂けたら幸いです。

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