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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第2章 動き出した運命
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第39話  吊るし柿とにがにが燻製肉

 朝、外に出ると建物の陰で昨日より大きな霜柱を見つけた。

12月に入り朝が冷え込んできた、もうすぐ本格的な冬がやって来る兆しだ。


廃墟にある2階のベランダには沢山の美しい朱色の吊るし柿が下がっている様は実に壮観だった。

あたしはもっぱら鳥が食べに来ないように毎日念力で脅かしまくっている。


『こらあああああ!あたし達の生活の糧を食べたら承知しないわよ!!』


 渋柿を剥いて紐で吊るして、毎日、朝は干して夜取り込んだりするのは結構きつい作業だが、クイージさんが凄く力になってくれている。


延々と渋柿を剥く仕事をさせるのは何だか申し訳なかったけど、本人が楽しそうに手伝ってくれたので有難い。


侯爵様の配慮で、今年エルハナス家の料理人を引退したクイージさんがうちに来る、と聞いたときには本当にびっくりした。


有難いことにディオ兄の保存食料の手伝いをしてくれるお陰で、勉強の時間が削られることが無くなって助かっている。


ディオ兄が体を洗っているときなど、心配してあたしのお守りも買って出てくれた。


「嬢や、じいじだぞ。じいじ、ほうらおもちゃを買ってきたぞ」


クイージさんは誰もいないところで、お爺ちゃんの刷り込みをしようとしているのが笑える。

あたしの乳母代わりをしているサシャさんが働いている、市場の雑貨屋で買った小さな猫の人形を見せた。


握るのに丁度よくてフカフカしている布の人形はとてもかわいい。

どうも有難う、クイージさん。ディオ兄にも優しくしてくれて。


よし!そのうち「じいじ」と言って喜ばせてあげよう。


吊るし柿作りは地味で単調な作業だと思うのだが、クイージさんは楽しそう。


「種に気を付けて果肉を揉むのか…結構手間がかかるんだな」

「美味しくするためですから」

ただの吊るし柿ならもう少し楽だけど、さらに上の商品を作りたいからね。


「なるほど確かにそうだな、他の料理でも手を抜くと味が落ちる物は沢山あるからな。これからは、わしがガンガン手伝うから一杯美味い物を作ろうな。

わしの料理を教えるから、お前も考えたものを教えてくれ」


ワハハとディオ兄の肩を叩いて、また彼は柿の実を揉み続けた。

クイージさんが来てくれて、お陰でなかなかの上質な干し柿になりそうだ。


出来上がりに50日程かかるので、一苦労だったけど、年の暮れの冬越し祭には売りに出そうと思っている。


ただの吊るし柿なら一ヶ月くらいでできるけど、加工品として完成度の高いものを目指しているので、ちょっと頑張ってもらっている。

冷蔵庫も出来ているからケーキを作るのも良いなあ。


修繕中の家では塩漬けや干し野菜や干し肉を作って冬に備えている。


年越し後は市場の出店はグッと減る、春まで休む人が多い、ダミアンさん達も真冬は休む予定だから、ディオ兄の現金収入はアルゼさんからもらう管理費だけになる。


そこでディオ兄とあたしは現金収入を絶やさないため単独で出店を考えているのだ。


「しかし今日も売れたなあ、焼き芋すごいな」


ダミアンさんは、初めは馴染みのないサツマイモを大量に抱えて困っていたが、焼き芋が飛ぶように売れて嬉しい悲鳴だ。


「これだけ甘いものは砂糖を使った菓子くらいだからな。菓子より断然安いうえに、腹が膨れる。売れて当然だぜ」


「年末年始の祭りにはこれで菓子を作ってみます」

にこやかに話しながらディオ兄が心の声で話す。

『アンジェの手柄だけど…』


ハイハイ、そこは納得してもらわないとね。できることは何でもしないと、あたし達身寄りのない孤児なんだから、そしていつかお金持ちに成り上がるの!


「ディオ、俺たちは2月の15日まで休むけど、大丈夫か?」

「年明けにひとりで出店をやるんだって?何を売るんだ?干し肉か?」


ポルトさんはもう閉店に近い時間なのに、少ないが新しい商品出してきてスープ骨の横に並べている。


「はい、出店の許可が出たので日銭を稼ごうと思ってます。干し柿とお菓子を少し、小物とか燻製肉も」


それはいいなと呟きながら燻製肉を並べていたポルトさんが大声で反応した。

「燻製肉だって!?」


ポルトさんの出しぬけの大声にびっくりしたダミアンさんが(たしな)めた。

「なんだよポルト、アンジェちゃんが泣いたらどうすんだ」

「ああ、すまん。ディオ、お前燻製作れるのか?」


「ええ、市場の休日では時間が掛けられるので作っています」

ポルトさんがスープ用の骨の横に置いた燻製肉からひとつ取って見せた。


「これ試食してくれないか?どうも上手くいかなくて困っているんだよ。俺も加工品を作ってみたいと思って燻製をしたんだが」

ポルトさんが試食に燻製肉をナイフで薄く切り分けて配った。


「苦…いな…おまけに…少し酸っぱみが…何故だ?」

ダミアンさんが顔をしかめて、正直に売り物にできない味だと切って捨てる。


燻製肉の脇にはサービス品と書いてあった、本人も売れないが捨てるのは惜しいのでタダで配るつもりだったと話した。


「これは…」

『ディオ兄、きっと燻製の下ごしらえの水分の抜きがあまかったんだと思うよ』


 表面に食料の水分が残っていると、水分に煙の成分がくっついて、とんでもなく苦くて酸っぱくなっちゃうのだ。燻製を作るときによくある初歩的なミスですね。


ディオ兄がそう伝えるとポルトさんはパッと顔を輝かせた。


「やっぱり恥をしのんで話して良かった。お前は干し肉も俺より出来のいいものを作るから、何かヒントをくれるかもと思っていたんだよ」


「ポルトさんは下処理が充分でなかっただけなので、すぐ上手くできますよ」


「そうかあ、良かった!何しろ燻製小屋作って、温度調節の高い魔石まで買ったから、女房に引っ込みつかなくてさ」

それは失敗できないわね、ディオ兄にしっかり勉強させてもらいたまえ!


「あのスープ用の骨ありますか?」

最近ほかの町から越してきた若い奥さんだ、いつも夕方に骨を買ってくれる。

ディオ兄がすばやく対応した。


「ええ、ありますよ。うちはもう閉店なんで、良かったらこれ如何ですか?

肉屋さんが試しに作ったけど失敗しちゃって」


ディオ兄はさっきの試食用の残りの燻製肉を、外側を削り落とし、内側だけしっかりとナイフで削ると、どうぞとひと口分差し出した。


奥さんはモグモグすると、「少し焦げの匂いがあるけど普通に美味しいわ」と答えた。


「ええ、焦げ臭いでしょう?燻製が失敗すると外側が苦くて、酸味もでたりするけど中側はそうでもないので、良かったらスープの具にしてくれると有難いです」


「そうそう、これがはけたら帰ろうと相談してたから、よかったら全部持って行って下さいよ。

失敗したのでタダでどうぞ。そうすれば赤子が腹を空かせて泣く前に帰れる」


奥さんは大喜びで頷いた。ポルトさんが外側の苦い部分の肉をおとそうとしたが、彼女はそのままで良いと言った。


「年末年始に俺だけ店を出すのですが、そこでお買い上げのお客さんに損をさせないくじ引きをするので良かったら参加してください」


ありがとうと奥さんは買い物を済ませると、正月に来ると約束して帰っていった。


「あの、ポルトさん。なんでいきなり塊肉の燻製作ったの?」


「それはお前、ペラペラの肉より塊の方が豪華だからよ。だからこないだ楢の木っ端で、塩をふったでっかい生肉をドーンといぶして…」


この人は燻製の初歩から教えないといけないな…

後片付けをしているとアルゼさんがジョナスさん達護衛を引き連れてやって来た。


「ディオ君、デッキブラシと煙突掃除ブラシが出来たからサンプルに3個づつ屋敷の玄関に置いて来たよ。それから君の名前で発明登録したから」


おお!と聞いていたダミアンさん達から良かったなあと声が漏れる。


「有難うございます、いつから販売になります?」


「うん、年内は無理だね。ある程度、数が揃ったら販売するつもりだよ。

それで内職する人を募集するつもりだ。ここの町の産業にすれば君の住む町が潤うからね。

君も暇な職人さんとか知っていたら推薦して…あれ?」


そういうとアゼルさんは石焼き芋の箱に気がついた。

「これは?何だね?」


ディオ兄の発明登録を自分の事のように喜んでいたダミアンさんとポルトさんがそれに答えた。


「ああ、それはディオが考えた石焼き芋の箱で、それで焼いたのですよ」

「これ、冷めているけど、出来上がった焼き芋食べてみたらどうですか?」


ふたりが差し出した焼き芋をアルゼさんは護衛のジョナスさんと分け合って口にいれた。


「ディオ君…君が新しく考えたことは全部、僕かルトガーに報告しなさい。いいね、約束してくれ」


「そんなら干し芋とかは?この国では無かった食べ物じゃないですか?」

ダミアンさんが話に割って入って来た。


干し芋は無かったのか、いや石焼き芋も無かった、だいたいさつま芋がなかったならそうなりますか…


「ディオ君、今日は君の家に泊まることにするよ。いいね」


肩をガシッと掴んだアルゼさんは、有無は言わせないとばかりに言い放った。

その夜は、何か考えたものは全部申告しなさいとコンコンと説教されてしまった。


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