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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第2章 動き出した運命
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第37話  市場に合わない徴税官

 屋敷の庭には柿の木の葉もだんだん落ちて少なくなった。


枝ばかりが目立つようになった渋柿の木に、取り残しの熟柿という御馳走を見つけた鳥が鈴なりになっている。

そのうちの数羽がディオ兄の吊るし柿に目を付けて近寄って来た。


『吊るし柿食べに来たら、ただじゃおかないからねー!!!』


全力で念を込めて脅しにかかると、鳥達はピヤッと羽毛を逆立てて慌てて去っていった。

ふっ、案外すなおじゃないの。それでいいのよ、フフ。


 アルゼさんにごちゃごちゃに描きいれた図を見せた数日後、私たちのところに紙と筆記具、そして文机が運ばれてきた。


運び込んだ人の他にアルゼさんと連れの人が来ていた。

前世みた刑事さんみたいな鋭い眼つき!アルゼさんの友達兼、護衛のジョナスさんだ。


「お二人ともいらっしゃいませ!」

「やあ、おはよ~今日もいい天気だね」

「アルゼ様、いらっしゃいませ」


アルゼさんはクイージさんがいると思っていなかったようで、えらく驚いたようだった。


「驚いた。姉には聞いたけど本当にクイージはここで働くのだね」


「はい、後を引き継ぐ弟子も育ちましたし、引退をお願いしたのですが、カメリア様がこちらを是非にと任せてくださいました」


「そうか、大人の同居人が居たら僕らも安心だよ」

「私も以前よりずっと体が楽になりまして、助かりました。カメリア様には感謝しております」


「うんうん、それは良かった。君も一緒にいるのだったら、早く調理場や食堂が使いたいだろうね。

なおさら屋敷の修繕を急がせてもらうように取りはかろう」


アルゼさん、「僕らも安心」?ああ、この間の事件で心配になったのかな?

だけど、こんなにディオ兄の所に来て、暇なのかこの人は?

侯爵様の弟とだと明かしてもらったが、まさか遊び人だろうか?


やっぱり、前世の昔の御貴族様みたいに領地の地代で遊んで暮らせるのかしら?確か、戦争にだけ参加する以外は、することがなくて遊んでたと本で読んだけど、こっちもそうなのかな?


そういえば商会をしていると言っていた気がする。お金持ちらしいし、経営を頑張っているのだろうか。


「今日はね、市場の仕事はお休みにしてもらうよ。この前、紹介してくれた道具を早く作りたいって言ってたろう?さっさと発明の申請をしないと真似されるから急がないとね」


そういうと、手に握っていた、ディオ兄が描いた図面を開いて見せた。

なるほど、今日はこれをきっちり分かる図面に清書させるために来たのだ。


「ええ?あの、俺がいないと迷惑がかかるので市場を休むわけには…」


「大丈夫、大丈夫。君の代わりに2人手伝いに行かせたから。クイージもいるし、お昼は市場に差し入れに行こうよ。今日の賃金は僕が払うからね」


ええっと、ようするに有無は言わせないようですね。

困ったディオ兄が、クイージさんをちらりと見ると、大丈夫とばかりに自分の胸を叩いた。


「坊、今日のところはアルゼ様の言うことを聞いて休ませてもらえ。役に立つものが早いところできれば助かる人もいるじゃろうし。

昼の差し入れはわしが手伝うからすぐに用意できるさ」


やっと納得したディオ兄は、「分かりました、お願いします」と答えた。


『確かに早くできたら嬉しいものね、できれば試作品を多めにして、こちらに貰えるか頼んでおこうか、アンジェ?』

『うんうん、賛成!』


それもそうだね、しかし、ディオ兄とあたしは市場のダミアンさん達の方は本当に大丈夫かなと思いながら、アルゼさんの申し出を受け入れた。


*      *       *       *


 ディオが屋敷で一生懸命にアルゼに説明しながら図面を描いてもらっているその頃、市場ではダミアンとポルトが呆れた顔で2人の男達を見ていた。


どうみても場違いな、キッチリとした灰色の制服を着こんだ、まだ若い男が2人、不服そうにぶすっとした顔で出店の前に立っている。


「おい、あんたら本当にディオの代わりなのか?」

「そうだ、今日はディオ少年の代わりに私たちが手伝いに入る…」


難しい顔をした男らは、仕方ないのだと言う面持ちで立っている。

それを聞いて理解できないとばかりに、頭を抱えたダミアンとポルトが呻いた。


「なんでフォルトナの徴税官のあんたらがディオの代わりにここに来るんだ??」


フォルトナから来た徴税官はぶすっとした表情で「私達とて理解できんわ!」と、投げやりに答えた。


 他所からやって来た商売人は、町で徴税官に税を払ってから町に入らなければ商売をさせてもらえない。

フォルトナでは市門がある、他所の商人が入るときには商品や量に応じて税金が掛けられる。

バッソは飢餓革命で壊されて以来、市門がなく貴族が多く住んでいる町ではないので徴税の額が少ない。


広場の出店の税金は、月払いにするとさらに割引をしてくれるで、他所からやってくる商人からバッソは人気が高い。


だから、フォルトナの市門で税金額を聞いた後に諦めて、税金が安いバッソで商売をする小商いがとても多い。


なので、市場にいる人たちはこの二人が着ている服がフォルトナの徴税官の制服だとすぐわかったのだ。

よそからやって来た市場の商売人達は好奇の目で見ていた。


*      *       *       *


「はあ?値引き?税と同じだ、値引きなどせんわ」

「真面目に払え、値引きなど図々しい」


やって来たお客さんに商売っ気がない徴税官の2人はけんもほろろだ。


「税金の取り立てじゃねえよ!かぼちゃだよ!客相手に態度でかすぎだ!」

「お前ら2人よりディオの方がはるかに役に立つぞ!」


お昼の差し入れに行くとやっぱりトラブっていた。

あちゃー!と言う顔でアルゼさんが額に手をあてると、ディオ兄も動揺してあわあわしている。


「計算が得意なら徴税官が手伝いにピッタリと思ったけど、そういうわけにはいかなかったね。アハハ」


 町の徴税官をするような人は、そもそも貴族出身者などが多いので気位が高い人が多いそうだ。 

そんな人に庶民的な市場の商売を任せてもうまくいくはずもないな。アルゼさんの人選がそもそも間違いですよ。


「君たち~、ちゃんと手伝わないと今後の評価につながるってこと忘れているのかな~?」

アルゼさんの登場で身を正していた徴税官さん達は、その言葉にギョッとして急にオドオドしだした。


訳の分からないところに無理やり手伝いに駆り出されたこの人たちも被害者だな、うん。


それより、差し入れにきたのだ。差し入れの弁当でも食べて元気を出してもらおう。ディオ兄が申し訳なさそうに近づいて声を掛けた。


「ダミアンさん、ポルトさん、今日はすいませんでした。

徴税官のお二人も今日は慣れない仕事を代わって下さって、有難うございます。お昼の弁当を持ってきたので食べて下さい。」


「「ディオ~~!お前どこにいたんだよ~~!」」

2人は抱きつきそうな勢い…あら、本当に抱きつかれちゃった。

*ぎゅ~!*


「アルゼ様、私達はもう用済みでしょうか?」

徴税官のおふたりはようやく解放の兆しに安堵の表情を浮かべている。


「ああ、どうやら向かないようだとわかったからね。後はディオ君と僕が残るから君たちは戻って良いよ。その前に、ディオ君が君たちの分も弁当を作ってきたから、食べて帰りなよ。

僕も一緒に食べるからね」


徴税官の2人は、アルゼ様がこんなところでと意外そうな声を上げた。

木箱の即席テーブルでディオ兄がさっさとお弁当を広げる。

家から持ってきたカップでお茶を淹れて皆に勧めた。


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