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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第1章 小さな兄と捨て子の妹
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第29話  投げ入れる花もなく

 様子を見に来てくれたガイルさんが帰ると、さっそくセリオンさんは貰った袋の中身を広げた。

ガイルさんがくれた布袋の中にはパンとワイン、りんごとベーコンとチーズ、フォルトナ市内でも有名な菓子店の焼き菓子が2個入っていた。


「お!ディオ凄いぞ。フォルトナで旨いと評判のバターケーキだ」

「俺、お茶いれますね。甘いお菓子だなんて夢みたい」


なんと!ディオ兄は甘味に飢えていたのか!

知らなかった…そりゃそうか子供だもんねえ、むしろ気がつかなかったあたしほうがおかしいのか。

お菓子か、前世は料理好きだったしお菓子もできるけど、そうするとオーブンが欲しいかなあ。


アルゼさんが工事をせっついてくれているが、廃墟だった屋敷の厨房はまだまだ使えない。屋根や窓枠、外壁を優先しているのでなかなか進まないだろう。


アルゼさんが買ってくれた温魔石の入った簡易コンロで火をおこしてお茶の用意だ。前世の感覚だとIHヒーター、実際の火ではないからね。

ディオ兄は今まで火事が怖いので廃墟の中では火を使わなかった。

外で料理しているため雨の日は料理できないと知ったアルゼさんは、「寒くなるのに温かいものが食べられないとは気の毒だ」と言って、プレゼントしてくれた。


木箱のテーブルの上にディオ兄がお茶の用意をしてセリオンさんに勧めた。

「このお茶結構うまいな、何でできているんだ?」


「それはほうじ茶だよ、市場で見かけた玄米というのを炒って作った。

皿とティーセットはアルゼさんがこないだ来た時に買ってくれたんだよ」


「へー、皿もいいのを買ってもらったな。じゃあ食おうぜ」


ふたりはいそいそと皿に乗ったバターケーキを食べた。

「美味いなあ。あ!アンジェは、お菓子はまだ駄目だからね」


いい匂いが羨ましくてついディオ兄の膝の上でガン見してしまった。

今まで気にしていなかったのが、目の前にあるとつい食べたくなってしまったのだ。


セリオンさんがクスクス笑っている、むううう悔しい。

くうぅ~あたしも食べたかったなあ…

手をパタパタとしてディオ兄の顔を見上げる。


『早く大きくなってお菓子食べたい!だけど、せめて離乳食を食べられるようにならないと話にならないね…』

「アハハ、よだれが垂れてる、アンジェはもう少し大きくなってからね」

笑ったディオ兄は布巾で優しく口元の涎を拭ってくれた。


「こんな旨いもの食べられなくて残念だなアンジェ」

わざわざ鼻先にきてケーキを食べるセリオンさんが憎たらしくて念力でデコピンしてやった。


 *ビッシ!* 「いってー!」

食い物の恨みは深いのだ。思い知れ!


 外はすっかり暗くなってきた。雨は上がったがかなり冷えて来ている。

「俺は外の様子を見てくるから、ふたり共用心して待っていろ」

『雨降っているから、ここから庭の様子を見せてあげようか?』

「セリオンさん、アンジェは自分の体験したイメージや外の様子を、意識を飛ばして見せることもできるよ」

「そんなこともできるのか?!」

『うん、やって良い?庭のイメージをセリオンさんに送るよ』


 体験したことのあるディオ兄はニコニコと静かに見ているが、セリオンさんは大騒ぎだ。

「うわ!これ動いてまわり見えるのか?」

『うん、屋上や木の上にも行って見られるよ。ある程度、自分が近いとできるの。いろいろ角度も変えられるよ』

ひょいっと高い木に視線を飛ばして移動し、枝の上から周囲を見渡した。

おお!と大喜びするセリオンさんに気をよくして、空中を旋回したり、宙返りしていたらセリオンさんを酔わせてしまった。ごめん!


*     *         *         *


 アンジェは疲れたのか赤子用の籠の中で静かに眠っている。

ディオは夕飯の支度に取り掛かっている、今夜はセリオンが泊まるので、「ごちそうするよ」と張り切っている。


 ひとり廊下に出ていたセリオンは、先程ガイルに渡した趣味の悪いネックレスを思い出していた。鎖の部分には少量の血と皮膚、髪の毛が付いていた。何故??

自分が身に着けていた物なのに、何故わざわざ外したのか。

あんなものは落とすなんてことはないだろう、ネックレスの留め金も和環も引きちぎられてはいないのだ。


それに他にも気になることがあった、鍵の付いている部屋のドアには誰かが蹴ったあとがあった。

よく見ないと分からない位だが、泥がわずかについていた。

セリオンはディオが怯えないようにそれをそっと袖で拭った。


 ここは誰が見ても気味の悪い廃墟だ、それを、ディオときたら平気で住んでいる。お陰でこっちも、だんだんと気味が悪いという感覚が麻痺してしまっていたのだ。


初めてこの廃墟をみたときの嫌な感じを忘れていたなと、黙ったまま鍵の掛ったドアの前に立ち尽くしていると、ドアノブが少し動いた。

ギョッとしたセリオンは息を呑んで後ずさりをした。


「セリオンさん、ご飯できたよ」ディオが廊下に出て呼んでいる。

「ああ、今行くよ」

きっと見間違いだと自分に言い聞かせてセリオンはドアの前から離れて行った。


*       *        *        *


 ディオ兄を守るため、あたしは気合を入れて家の周りに意識を張り巡らしていたが、すっかり肩透かしをくらったようだ。


 ディオ兄の掃除の後釜だったスカルトという子供は町から完全に姿を消してしまった。ルトガーさんが躍起になって、町を探しても見つからないので、面目が潰されたと苦虫をつぶしたような顔で毎日を過ごしている。

よその村や町にもお尋ね者として注意するように報告をだしたそうだ。


きっと早いうちにバッソが思ったより治安が良いため、見切りをつけてさっさと町を出たのだろうと、町の皆は噂していた。


 あたしとしては、ディオ兄に害を及ぼしそうな人がこちらに来なければよいのであって、そんな奴には会わないのが一番なのだ。 ルトガーさんの話では王都でも問題を起こして逃げていたらしい。


12歳のくせにすでに人攫いの手伝いをしていたというのだから、このままだと相当な悪党に育つかもしれない。早めに捕まるのが本人のためだろう。

ちゃんと罪を償って更生して欲しいものである。


*       *        *       *


 スカルトとブルートはそのまま二度とバッソに来ることはなかった。

ただひとつの町を除いて、他のどこの町にも現れることはなかった。

その唯一の町の名はアルバ…不毛の地の墓穴に彼らは横たわっている。


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