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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第1章 小さな兄と捨て子の妹
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第21話  夜空に泳ぐ

 アンジェはいつものようにセリオンに連れられて、酒場で夕飯にありついていた。もっともアンジェは授乳が終わりディオとセリオンが食べているのをただ見ているだけだが。



むうー、いつも見ているだけでつまんないな。あたしも早くご飯が食べられるようになりたいな。あ、でも念力の力使えるんだから、無理やり消化できないのかしら………ま、危ないからやめとこう…

セリオンさんが食べているあれは何だろう?

くわー!美味そうに食べてくれちゃって!憎たらしいー!!


『セリオンさん、それなあに?』

「うん?ああ、これはラム酒に漬けた果物だよ。砂糖も入っているし、3年物だからな、うまいぞー」


ほう!あたしは梅酒の梅が大好物なのよ。子供のときあれだけ6個食べて酔っぱらって爆睡したことがあったっけ。

思い出したら食べたくなってきたな…

だめだめ!まだ赤ちゃんだって忘れちゃダメよ。

…でも、舐めるだけなら大丈夫なのでは?

舐めるだけ…うん!雰囲気だけ楽しむ!良いんじゃね?


目の前にある良い香りのラム酒漬けのプラム…干して濃縮した味のプラムを、ラム酒をたっぷり吸わせてツヤツヤにしている。セリオンさんがそのプラムの薄切りとフレッシュチーズを挟んだおつまみを口の中に放り込んだ。

薄いスライスだから大丈夫だよ!きっと!!


*パクッ* おお!美味い!口の中で甘みと香りが広がる。

このラム酒も上物じゃないの?角のない良い味をしている。

それなのに砂糖いれちゃうなんて、なんて贅沢!

久々のお酒の香りだ!うひー!懐かしい!!ああ、お酒飲みたい!!!

あたし、まだ歯が生えてないけど、口の中で繊維が解けるから、飲み込めるんじゃね? *ごくん* お、飲めた!


あれこっちは桃みたい、こっちのほうが柔らかいだろう。

どれ、これもパクッとな! * パックン*

うまうま~!下で転がしていると溶ける~!どれどれ次いくか!

*パクッ* うひー!う・ま・いー!!




「うん?あれ!今アンジェがラム酒漬け食べたよ!!!」

「何だって!この子まだ離乳してないでしょう?吐き出さないと!!」

「逆さにするか?」

「いや背中叩いた方がいいだろう」


がやがやと集まって来た常連客も混じって大騒ぎになってしまった。

ディオが改めてアンジェを抱いて様子を見る。


「呼吸は大丈夫そうだけど何だか酔っぱらってない?」

「ふにゃ~ぶぁ~ぶぅ~~~」

赤い顔でご機嫌の赤子のアンジェを見て皆の力が抜けた。

*うきゃきゃきゃきゃ*

「笑ってるな…」

「うん、笑っているね…」


ケラケラと笑い出したアンジェに、ディオとセリオンは脱力したが、酒場の女将は心配のあまり二人に言い放った。


「あんた達、この後、急に悪くなるかもしれないわ、強い酒なんだから。

喉につかえなかったようだけど、この後、胃から戻して詰まらせるかも。

ドットリーナ教会の神父さんなら医者もしている。赤ちゃんだから用心し過ぎることはないよ。診てもらいな!」


「そうだな、よし、ディオ行くぞ。アンジェを抱け」

セリオンが釣りは要らないと穴銀貨を一枚置いて会計を済ませると、ディオの荷物を引っ掴み外にでた。ディオは背中にアンジェを背負い遅れて出て来た。


「俺は先に行って神父さんに用意してもらうから、お前後から来い!」

振り返って、セリオンはそれだけ言うと脱兎のごとく走り出した。

神父が教会にいれば良いが、居なければ5キロ先の医者の所に行かねばならない。

何としても神父の身柄を抑えねば!


ディオは息を切らせて懸命に走っていた、今は良いがアンジェが後から具合が悪くなるかもしれないと聞いて気が気でなかったのだ。


―こんなに走って、もしかしたら揺れて気持ちが悪いかもしれない。

様子がわかるから、胸に抱えた方が良いかも。


そう思ったディオは背負い紐を緩めて抱えようとした、そのときだった。


いきなりフワリとアンジェが浮いた、そして風船が空に飛ぶように手から離れてしまったのだ。必死に飛び上がったがするりと離れて行った。

「!アンジェ!!」


思わず出した声に自分自身が驚き、そして周りを見渡し、誰もいないことを確認すると溜息をついた。

ハッと我に返って夜空を見あげるとアンジェの姿は既に見えない。


「大変だ…」

青ざめたディオは教会に先に行ったセリオンに知らせるためにいっそう速く駆け出した。


*      *       *       *


 ふにゃ~いい気持ちだ~~

夜空に浮かんでいると風が気持ち良いなあ~

酔い覚ましには丁度いいわぁ~~~~


やっぱり上から見ると前世の日本とは比べようがないわね。

灯りはあっても小さな光だけだし、それもポツポツと極めて少ない。


蝋燭は馬鹿にならない消耗品だ、貴族の屋敷では執事が燃え残りの蝋燭をこっそり市場で売りに来たりする。セリオンさんに聞くところによると上級使用人の特権で小遣い稼ぎになるらしい。

溶けた蝋燭すらリサイクルするために売買の対象になるのだそうだ。


ふっ、どうりで黄色い灯りだらけだわ…


東京の色とりどりのネオンが懐かしい。

しかし、それでも勝っているものはある、星の光だ。

空中を漂ってクルンとひっくり返り、背泳ぎのような体勢になって天を仰ぎ見てみる。


 あたしがバッソに来た時は、まだ夏の終わりで天の川が見えていた、親戚の田舎でみたそれよりも圧倒的に星の数が多かった。


親戚の家は野中の一軒家のようなところでサーファー向けの民宿をしていたが、見える範囲にポツポツと近所が増えるとやはり天の川は年々と見えにくくなっていった。


あの圧倒的な星の群れはもう登山の山小屋くらいしか見えないのだろうか。

今のあたしは前世とは違う星が見えているが、それもまた冷たい空気のなか研ぎ澄まされたような光で輝いている。


またクルリと返り、遥か下に見える町の灯りを見て現実に戻された。

ここが今あたしの生きる場所、以前の家族はどうしているだろう。


…………泣いても仕方ない………


ん?こうして見ると結構近くに村があるのかしら?


驚いたのは、それらの近くの小さな村よりも、もっと遠いはずの場所に明るい場所があったことだ。しかも、その光の具合からかなり大きな町のはずだ。

もしかして、あれがフォルトナかな?



酔っぱらってすっかり守りのガードが下がり、注意力が散漫になって、自分に向かって突っ込んで来る飛行物がいるのを、アンジェは気がつかなかった。

*ガツン* 目から火が出るような衝撃を後頭部に受けた。


「ふにゃああああ~~~!」


アンジェは、情けない声をあげながらどんどん高度を下げて行った。

ぶつかって来たそいつも道ずれにして。



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