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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第7章 天国への階段
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第2話   ディオ兄の決意

 旧王都の外の町バッソ、そのとりわけ猥雑な雑踏が行き交う地区に来た。

旧王都は3メートルの高さの城壁で囲まれているが、その外の壁に引っ付くように出来ている町がいくつかある。

その中のバッソと呼ばれる町は、旧王都市外の中ではなかなか人口も多いし、活気がある町だった。


ディオは町の中央にあるもっとも繁栄している地区の裏通りに入ると、間口の狭い石造りの4階建ての建物へ向かった。


ディオが入って行った建物の入口には、いかにも用心棒といった強面の30代半ばくらいの大男が立っていた。彫が深く濃い眉と四角い顎、ごつい顔を肩まである栗色の髪が縁取っている。

それに、顔だけじゃなく、体つきも非常にごつい。分厚い胸筋がシャツの上からでもはっきりわかる。


決して高級ではないのに、着ているものがこざっぱりしていてさり気なくおしゃれだ。革の靴を見てもちゃんと手入れされて艶がある。彼はディオを見ると表情を緩めた。


「こんばんはガイルさん。ルトガーさんいます?」

「ようちび、いるぜ。その赤子は?」


「俺の妹のアンジェリーチェ、アンジェって呼んでやって。

ついでに、俺も名前を変えました。デスティーノ、ディオって呼んで下さい」


「ほう、前より呼びやすいし良い名前だ。ディオか、いいよ。そう呼ぶように他の奴らにも言っておこう。上に早くいけ、セリオンがいるぞ」


 ディオが笑顔で礼を言うとガイルさんは2階に行けと道をあけてくれた。

どうやら、顔つきとちがって優しそうな人みたいだ。


分厚い胸筋と丸太のような腕がゴリラみたいだけどクスクス。

いや、笑っちゃいけない、ごめんなさい。


 2階に上がるとまた用心棒がいた、今度は20歳くらいの男の人だ。

彼は両の腰に細身の短剣を吊るしている。

痩せた長身で切れ長の目が鋭い、深緑の短髪だ。


抜き身の刃のような鋭い目が、一瞬、こちらを品定めするように探ってきたが、彼はすぐに緊張をといた。ディオは躊躇することなく彼の直ぐそばに近寄った。


「こんばんはセリオンさん、見て俺の妹」

「やあ、ちび。どこかで拾ったのか?」


「うん、バッソの東のごみ捨て場。今日から俺の妹になったアンジェリーチェことアンジェだよ。

可愛いだろう、ついでに俺も今日から名前を変えた。

デスティーノでディオって呼んでもらうことにするよ。」


 おや、こちらの人のほうがディオは気安い態度だ。

このセリオンという若者も優しい眼差しでディオを見ている。


それにしても捨て子と聞いて誰も動揺しない、犬の子だってもう少し騒ぐよ。

少なくともうちの母親はそうだ。

この世界はかなり捨て子が多そうだね。それだけ厳しい生活の人が多いのだろう。


「そうか、良い名前だな。前の名前、お前は平気だったが俺は呼ぶのが嫌だった。神父さんだって意味が悪いから、再三、変えろと言ったのに、友達の思い出があるからって変えなかった」


「名前を変えたら、友達の思い出も一緒に無くしちゃうみたいで、悪いなと思ってた。でも、アンジェ…、えっと神学生のひとが絶対変えた方が良いって言ってくれたんだよ」


「なるほど、一時期、お前は神学生から勉強を習っていたと言ってたな。

頭が良いんだから学校に行ければ、お前なら出世できるだろうに」


 そういうとセリオンさんは、一瞬、寂しそうな表情を浮かべてディオの頭を撫でた。

どうやら彼は兄貴分なのだろう、彼も懐いているみたいだ。

ディオは安心してセリオンさんの手に頭を委ねている。


「おっと、親分は忙しいからな早いところ会っちまえ。おい、新しいちび、ルトガーさんの前では泣かずにお行儀よくしてろよ」


少し屈みこむとセリオンさんはあたしの鼻をチョンと軽くつついた。

「だあ!」抗議のために手をばたつかせた。

止めんか青年!赤ん坊をからかうな!あたしの名はアンジェ!記憶力悪いの?


「アンジェと呼べだって」

「あはは、気の強い女の子だ。アンジェよろしくな」


今度は頭を優しく撫でてくれた。そうそう、赤ん坊には優しくね。

そのまま、頬を「柔らかいなあ」と、そっと触った、そしてゆっくり撫でた。

「ふふ、可愛いな」


うん、思ったよりいい人だな、この人。結構イケメンだし。

『こちらこそよろしくね』

「ばぶ~」

「うん?気のせいか?」

「どうしたの?セリオンさん」


「いや、なんかアンジェが“こちらこそ”と言った気がした。まさかな、さあ早くいけよ」


 うわー、危なかったー!あたしの馬鹿―!危ない、危ない。

うっかり念話しちゃったよ~

 冷や汗が出ているあたしを抱いて、「めっ」と苦笑した後、ディオは息を整えてからドアをノックした。


 ちょっぴり緊張している顔もかわいいなこの子。


「こんばんは、ルトガーさん。面会をお願いしたいのですが」

「小僧か、入れ」


 ルトガーさんは、束ねた長めの髪と髭は落ち着いた色味の赤毛、ドスの効いたバリトンボイスが似あっている苦み走った40歳くらいの口髭のイケオジでした。額に大きな向こう傷があって、時代劇に出てくるヒーローみたいだ。

天下御免の向こう傷!なんてね♪あの時代劇、お爺ちゃんが好きだったなあ。


 部屋の中はこの人の執務室みたいだ、質素だけど整頓されている。

彼の机の背後にはこの国の神様の絵姿が入った額縁が飾られている。

どうやら、ルトガー親分は信心深い人らしい。


「ぶ~あぶう」*おじゃましますよ*

親分はあたしを目に留めるとびっくりして立ち上がった。


「お前どうした、その赤子?」

「拾いました、それで育てる許可をもらいたいんです。この子を妹として育てさせてください。それで、俺にもっと仕事振って下さい。この子の食い扶持を稼ぎたいんです」


「子供が子供を育てる気か?ふざけるな!貧困地区は大人だって子を捨てる奴がいるくらいだぞ。

この子も捨てられたんだろう?乳児院に連れていけ!」


 叱りつけられたディオはしばらく黙り込んでいたが、親分を真っすぐ見据えて絞り出した声を震わせて逆らった。


「俺は神様に家族が欲しいと毎日祈った。そうしたら、この子が居た。神様が俺に贈ってくれたんだ…俺の家族だ、俺の妹にする!」

 おとなしいディオのあまりの興奮ぶりに、あたしはどうにも出来ずに慌てるだけだった。


 そのとき、興奮して泣き出したディオを、部屋の中にいつのまにか入って来たセリオンさんが後ろから肩を抱きとめた。

セリオンさんはあたしを抱えて泣いているディオの、抱き寄せた肩を落ち着かせるように、ポンポンとあやすように叩いた。


「ルトガーさん、ちょっとの間、様子を見てやりませんか?俺が目を光らせますから。もしも、この子を育てられないのに我儘言ったら、ぶん殴ってでも引き離して、赤ん坊は俺が乳児院に連れてきますよ」


「しかしなあ…セリオン。赤ん坊なんだぞ…」


「こいつは孤児院でひどい目に遭っているから。だから、心配なんです」


 親分はまだしゃくりをあげて泣いているディオを見ていたが、溜息をついて、天井を見上げてから言い放った。


「セリオン、赤子のミルクが必要だろう。バスクとサシャの息子が死んだばかりだ、乳が出るかもしれないから、お前付き添って頼んでやれ。


おい、金を持っているか?タダでは駄目だぞ。乳を分けて貰ったら礼をちゃんとしろよ。

掃除の仕事は公平に割り振っている、他の孤児の手前、お前だけに贔屓はできないから、まずは自力で仕事を探せ。

自分で育てると啖呵を切るなら、人の厚意に甘えようと思うなよ。

ちゃんと育てろ、甘えたことぬかしたらすぐさま取り上げるからな」


 ディオのクシャクシャになった顔が輝いたが、またボロボロと涙を零して、しゃくりをあげるばかりでうまく答えられない。

握りこぶしで顔をグシグシと拭ってコクコクと頷くだけだった。

よし、代わりに答えといてやろう。


『ルトガー親分よ、幼き子ら、ディオとアンジェに対する恩情を褒めて遣わそう。これからこの者らの成長を見守るのだぞ』


ビクッと感電でもしたようにルトガー親分の体が強張った。

急に椅子から立ち上がると耳に手をあてた。うふふ、このくらいの悪戯なら罪はないだろう。


 親分はハッと我に返ると、「なんだ、今の声…」と呟いた。

ディオを落ち着かせていたセリオンさんはそんな親分に気がつかなかった。


「ルトガーさん、それじゃ連れて行きますよ」

「お、おう。セリオンはもう今日はあがっていいぞ。お疲れさん」

「はい、おやすみなさい。ほれ、ディオ」

「親分、ありがとう…ございます…おやすみなさい」


親分はぴらぴらと手のひらを振ってドアを閉めさせると、誰もいなくなった途端にガバッと立ち上がって両手を空に向け、天井を仰いだ。


「神よ!何処(いづこ)にて、私をご覧になり、導きたもうか!どうか願わくば、この国とバッソの民をお救い下さい」


 おお、親分の様子が気になって神経を尖らせていたら、聞こえたばかりか、中の様子まで見えたよ!凄いなあたし!どうしちゃったのよ、あたし!

この能力、旨く使えばディオの力になるかもしれない。


「良かったなあ、ちび。あ、ディオだったな」

「ありがとうセリオンさん」


 セリオンさんの顔を見上げるとなかなかいい男である。

夕方の喧騒のなか、彼はあたし達を連れて、途中、商店で食料品を買い込んでいた。


街からは外れてしばらく歩き、バスクさんとサシャさんという夫婦の小さな家に着くと、セリオンさんが声を掛けた。


「こんばんは、バスク、サシャ、いるかい?相談が会って来た」


 なかからおずおずと影の薄い女の人がでてきた、この人がサシャさんか。

20代の前半だろうか、若いが髪に艶が無い。あきらかに栄養が足りない食事をしているのだろう。

きれいな顔立ちなのに勿体ない、実に勿体ない。


「まあ、セリオン。こんばんは、バスクに用なの?」

「いや、今日はあんたに頼みごとが有ってね。辛いかもしれないが助けて欲しい赤ん坊がいるんだ。俺の弟分が捨て子を拾って来た。」


言われてサシャさんはディオの腕の中のあたしを見てびっくりした。

そして、すぐに中に招き入れてくれた。


 ドアを入るとすぐに木の小さなテーブルとイスがあり、ベッドも同じ部屋にあった。あとは奥に衝立のようなものが有るだけだった。


台所は無いのか、そういえば以前の欧州では貧民の家には台所が無かったって本で読んだわ。


「この子はディオが今日拾って来た。親は口減らしに捨てたらしい。それで…」

「この子に母乳をあげて欲しいのね」


「あの、大銅貨があります。これで妹にミルクを飲ませて下さい」


金額の交渉もしないうちにディオは頼んでしまったが、サシャさんは良い人だった。


「夜中と早朝は無理だから朝は7時くらいなら良いわ、大銅貨ならまる3日赤ちゃんに飲ませてあげる。でもいいの?君のご飯の余裕があるの?」


「俺、今日のパンがあるから、明日もっと仕事を増やせるように探してくるのでお願いします」


「それじゃ俺とディオは席を外すから、赤子に飲ませてあげてくれないか」


「竈のあるところが奥まっているから、そこでお乳をあげてくるわ。外は小雨がまだふっているでしょう?中で待ってて」


 サシャさんは椅子を奥に移動すると、あたしをディオから受け取って奥の竈のまえに移動した。

セリオンさんとディオは背を向けて待っている。


サシャさんは優しく胸に抱きよせると、「良い子ね、しっかり飲んでね」と囁いた。


サシャさんはやはり栄養が足りないようで、乳の出がわるいが頑張って出してくれた。おかげでお腹が膨れた。

あたしが乳首から口を離すとサシャさんはほっと安心の吐息をついて服の胸元を整えた。


「乳の出が悪いから時間が掛ったけど、お腹は一杯になったようだわ」

『お腹いっぱいだよ~ディオ~』


ディオはあたしが腕に戻って来ると、「お兄ちゃんだよ、それか、ディオ兄と呼ぶの。いい?アンジェ、分かったね?」と言い聞かせてきた。


 セリオンさんが不思議そうな顔をしているのを、この時、あたしとディオは気がついていなかった。


「あぶ~」『あい、わかりました』

「アンジェは良い子だね、よしよし。あ、サシャさんありがとうございました。明日からの分の大銅貨です、あの今日の分は穴銅貨で良いでしょうか?」


窮屈そうに片手で大銅貨を差し出し、ディオ兄があたしを抱っこしてニコニコしていると、サシャさんが感心した。


「子供なのにしっかりしているのね。うちの飲んだくれに習わせたいわ」


「サシャが立ち直っているのに、バスクはまだ死んだ子を嘆いているのか…」

「帰ってきたらとっちめてやるわよ!」


サシャさん、見かけと違って気の強いカカア天下のようです。

これなら旦那も近いうち立ち直るね。強制的だろうけど…


「坊やありがとう、でも今日の分はいいわ。この大銅貨でご飯が食べられるからしばらくしたら乳の出も良くなるでしょう。明日は朝7時くらいにいらっしゃい、お乳をあげるからね。夜泣きしないといいけど…」


「あそこなら夜泣きしても大丈夫だろう。ちびの住んでる周りは誰も近所がいなから、心配ないよな。

アンジェ、腹が空いても朝まで泣くなよ」


こら、青年、ほっぺをつんつんするな!

「あぶ~~~」


「ああそうだ」とセリオンさんが麻袋の中身をテーブルに開けた。

チーズと干し肉、パン、干し魚とジャガイモや玉ねぎなどの野菜が出て来た、塩まである。


「あんたから赤子の乳をもらうなら栄養が足りてないと出ないだろう?たっぷり栄養付けてもらわないと、俺の弟分の妹が死んじまうからな」


 沢山の食料を見てサシャさんは呆気にとられていたが、やがて涙ぐんで何度もお礼を言った。

サシャさんとは翌朝、また授乳してもらう約束をして別れた。


良かった、これであたしのミルク問題は解決だけど、まだ小さいからね。

ディオ兄には迷惑かけないようにあたしも頑張らないといけないな。

しかし、まだ何をどう頑張ればいいのか一切分からない。(泣)


 どういう理由で超能力もどきの力があるのかわからないけど、これで何とかディオ兄の助けになれるように頑張ろう。



次話設定わからなくて泣きました。( ;∀;)

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