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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第7章 天国への階段
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第19話  まかない泥棒

 市場もお昼が近くなると、ディオ兄は(まかない)の支度に忙しくなる。

外でパパッと作れる料理で、食器が少なく済むものということで、今日は大根おろし醤油をかけた豚の生姜焼丼だ。


 この世界は味噌も醤油がある、見つけた時は嬉しかったなあ…

それになんと米がある!飢餓革命の後、強力な発言権を持った侯爵エルハナス家の指導の元、連作障害がない水稲、つまり米の輸入が始まり、国内でも作る人が多くなったのだそうだ。


米を炊いて、蒸らしている間にササっと豚肉を生姜と一緒に炒め、酒、砂糖と醤油と大根おろしのタレを絡め、ご飯の上に乗せてから薬味のネギを散らした。タレはやっぱり甘辛の濃いめだよね!

付け合わせにディオ兄が家で作った野菜の甘酢漬けを出した。


貰った野菜を使い切るため、いろいろ考えているのだよ。私たちは。

木箱のテーブルの上に4つの大根おろし生姜焼き丼が並べられた。

ほっかほっかのうちに召し上がれ~!


「お二人ともできましたよ」

雑貨屋のサシャさんに声を掛けましょうかというディオ兄の声をかき消すように野太い声が響いた。


「おい、今日の昼飯はなんだ?食わせろ!」

昨日の変なドアーフみたいな客がまた出た、しかも手にはスプーンとフォークを持っている。

食べる気満々の有無を言わせぬスタンバイ状態ですよ。


「「また出やがった!!」」ダミアンさんとポルトさんが同時に声を上げた。


「おい、あんた。金あるならもっといいところに行って食えよ。何でこんなところで(まかない)あさりにくるんだ」


「はあ?この小僧の料理が他で食えないから来たのだ!金は出す!さっさと食わせろ!冷めたらどうしてくれる!」


「だから、これは俺たちの賄なんだよ!因縁つけるんじゃねえよ!」


ああだ、こうだと、押し問答をしている間にいつの間にかワラワラと客が集まり、くださいなと声があがる。


「ちょっと、旦那、野菜くれよ。ジャガイモ、それからね~何が良いかな…」

「あんた、豚のもも肉、あとハムくれ。でっかいのがいいな」

「あ、はい。ちょっとお待ちを…あ、こら!待てー!」

「あの(まかない)泥棒!!!」


どんぶりを掴んだドアーフもどきのおじさんはまた逃げてしまった。

木箱のテーブルの上には大銅貨が置いてあった。

またしても持って行かれてしまった。何なんだ、あの人は…



「あの人まさか毎日来る気かな?」ディオ兄が困惑している。

買い物をした客は潮が引くようにいなくなり、後にはあたし達だけとなった。

ダミアンさんが急に笑い声をあげて大銅貨を掴んだ。


「思った通りだな。おう、ディオ飯にしようぜ。サシャさんは、今日の昼飯は旦那と食うそうだから。良いねえ夫婦仲良くて。俺も早く嫁が欲しいなあ…」


「フハハ、サシャさんと旦那がべったりくっついてたな。ふたりで手を取り合って、昨日の帰り道でも一緒にいてさ、声を掛けてみたら教会にお祈りに行くところだった。」


「え、じゃあ、あの変なお客さんが来るのは計算済みですか?」


「まあな、俺たちの昼飯を1000スーでお買い上げだぞ。いい客じゃないか。

ひとり分これから余計に作って、あいつにお前の昼代を出してもらうことにしたんだよ。

あの客が来ないときは時給込みで500スーを払うから心配するな」


ダミアンさんがさっきの客の1000スーをディオ兄に渡してくれた。


ポルトさんがにやついて、「確かにいい客達だよな。お前の作る昼飯に1000スー、それに俺たちが取り返そうとするたびに、値切りもせずに結構な量の買い物をする客、ひとりは昨日と同じ奴だ。あいつら仲間だよ」


「食わせろ親父のわがままに付き合わされている手下だろうな」


「ディオ、明日も来たら困ったふりをしていろ。素直に買ってもらうより、俺たちが儲かるから協力してくれ」


はう、なるほどがっつり儲ける気ですね。


 その頃、市場の見回りをしていたガイルは当惑していた。

手には空っぽになったどんぶりを持っている。


「変な客がディオに絡んでいると聞いて来てみれば…これはルトガーさんに報告だな。エルハナス家の屋敷のコックがなんでディオに会いに来るんだろう…」


どんぶり返しに行くかと、遠い目をしたガイルは市場のディオのところに向かったが、ふと足を止めた。

「どんぶり、洗って返す方が良いのかな?…」




 アゼルさんが訪ねて来た次の日から屋敷の改修が始まった。

沢山の大工や左官屋がやって来て、幽霊屋敷呼ばわりされていた廃墟はたちまち活気のある場となった。


侯爵様が仕事を急がせているということで、日曜もたくさんの大工さんや建具職人、左官職人が仕事に来ている。

もう肌寒い季節だというのに汗びっしょりの上半身裸で、井戸の水を汲んで体を拭いている人もいる。


 ディオ兄は管理人だから、たまには忙しい大工さん達を労って、お昼にお茶をだそうと、びわ茶と切った柿を持って行った。

そのなかに、少々浮かない顔の職人さんがひとりいた、あれ?この人は。


「皆さん、お疲れ様です。お茶と果物の柿をどうぞ召し上がって下さい」

「あれ?お前、サシャのところに来る小僧か?」

「はい?あ、バスクさん?」

「やっぱり、そうか。背中の赤子ですぐわかったよ」


 雇われていた大工さんのなかに、サシャさんの旦那さんのバスクさんがいたのだった。急ぎの仕事が入ったおかげですぐに仕事に復帰できたと、真昼の光の中で見る彼の表情はまるで違って優しかった。

バスクさんは今までの言動を謝ってくれた。


「ごめんな、酔ってだいぶ絡んだようで。あの頃、いろいろあってな、サシャどころか、他人のお前にも迷惑かけてすまなかったよ」


 そうでしたか、気になんかしていませんよ、と、涼しい顔であたし達は聞いていた。

ディオ兄もあたしも心の中でサシャさんの心配事が消えたことを喜んだ。


バスクさんは照れくさそうに、奥さんに謝って仲直りをしたのだと話した。


「俺が仕事していない間、サシャを雇ってくれてありがとう。

お陰でとても助かったよ、サシャが市場で働けるようになったのもお前の雇い主が口をきいてくれたそうじゃないか。本当に世話になって、すまなかった。

そういえば、お前と妹の名前聞いて無かったな。教えてくれ」


「俺がディオで妹はアンジェリーチェでアンジェです」


「そうか、お姫様みたいに可愛い、この子にピッタリな名前だな。

よろしくな、ディオ。そしてアンジェ」


バスクさんは大きな手でディオ兄の頭を撫でると、急に屈んであたしの顔の前で変顔をかましてくれました。


「あばばばば~」

*きゃきゃきゃきゃ*

『きゃははははははは』


 赤ん坊になったせいで笑いの沸点が低すぎる、お腹痛い。勘弁してほしい。

どアップは破壊力が有り過ぎなのよ!

ディオ兄の暖かい背中で、あたしは暫く変顔地獄で腹筋を責められたのだった。


お腹いたいよ~腹筋崩壊するよ~



 どうも長すぎるので、月、水、金の3回に分けて投稿します。よろしくお願いします。

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