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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第4章  活気ある町へ
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第139話 幼児は新たな出会いをする

 わんこ神の良い仕事を思いついたので、明日の予定を考え直した。

バッソのためにひと働きしてもらおう、それがいい。

相手は祟り神、怒らせないように丁寧にお願いしよう。


「実はアンジェはわんこ神と遊びたいのでちゅが、パパの頼みで馬車を襲った賊に会わないといけないのでちゅ。終わったら遊びまちゅ」


『えー!遊ぶと言ったじゃろうがー』

「アンジェが大暴れした後始末をちないと…パパにちかられる…」


ちょっと泣きまねをしてみせると、ううっ、とわんこ神が口ごもると溜息ついて、仕方ないのうと納得してくれた。


『そうか領主殿の命令では逆らえんな。供がダリア如きでは頼りないじゃろうから、わしも行ってやるぞよ』


「アンジェ、お仕事済んだらわんこと一杯遊ぶでちゅ」

尻尾はちぎれんばかりに振っている。どうやら嬉しいらしい。やっぱ可愛いなわんこ。


「お嬢様、この犬のお尻の毛をちょっと毟りましょうか?」

「ダリアしゃん、相手は仔犬でちゅ。大人の対応でお願いちまちゅ」


ダリアさんは頷いて、「わかりました。成犬になるまで待ちます」

拳をギリギリと握っている。相手が祟り紳でも全然怯まないダリアさん、やっぱり凄い精神力だな。


「わんこは、以前は祟り神でちゅよね。それじゃ呪いもするにょ?」

『大の得意じゃ!むしろ人を幸福にするより上手くできるぞ!』


普通なら隠すところを、かなり得意げに返事をかえされた。

き、危険だ…この仔と上手く付き合わないとバッソが祟られる。

しかし、根が単純だから気を付けていれば大丈夫だろう。

きっと…たぶん…ちょ…ちょっと危険かな…


「でも呪いは危ないきゃら使わない方が良いかにゃ…」


『何をいう、どんな呪いでも返す方法はあるぞ。よく丑の刻参りとかいうのがあるじゃろう?

あれは最強の呪いのように言う奴がおるが、あれは割り増しで呪いをかけた奴にお返しできる方法があるぞ』


「え?あの呪いは解くことができるにょ?」


『反魂呪い返しというての。ざっくり説明すると、呪われた者は経を書いた紙人形を持って西に向かって真っすぐ進み、出くわした川にそれを流す。帰るときに決して振り返らずに帰る。

それだけで、丑の刻参りの呪いを術者に割り増しで反撃できるのじゃ』


「その御経は?」

詳しく聞こうとしたらそっぽを向かれた。あくまで呪う方が好きらしい。

まあ良い、この仔の得意をしてもらえれば良い、それでは本題だ。


「わんこ神にしか出来ない凄い技を使って欲ちいのでちゅ。わんこは神威がある偉い神ちゃまでちゅから、それをバッソで生かして欲しいのでちゅよ」


『なんじゃ?言うてみよ』

*フン!フン!フン!*


わんこは盛大に尻尾を振って、鼻息あらく自慢げに目を合わせている。

よしよし、プライドをくすぐったぞ。


この仔の得意は祟りなのだから、バッソに悪事を働こうとしたら祟るようにお願いしておけばいいのだ。パパに知らせて、警邏兵さんの仕事を楽にしてあげよう♪



 翌朝、男爵家の屋敷前にマンゾーニ家の馬車が横付けされた。

老夫妻はフォルトナの屋敷に移ることになり、セルヴィーナさんをしっかり抱きしめて別れを惜しんでいる。


あたしはパパに抱っこされ、ハイランジア城に行くディオ兄のお見送りを兼ねて彼らの前にいた。


「君はセリオンといったな。セルヴィーナの護衛、よろしく頼む」

「お任せ下さい」

「御爺様、御婆様、有難うございました」


 セルヴィーナさんは、外に出るときはセリオンさんが従者として護衛に付くことになった。バッソでは危険が少ないけど、マンゾーニ卿の大事な御孫さんだし、なにより美人だからね。


パパと執事のランベルさんが挨拶をすると、夫妻は丁寧に感謝を述べた。

すると、最後にあたしの顔を覗いて言った。


「アンジェ、わしたちはフォルトナに暫く滞在してから王都に帰る。

その前にまた会おうな?」


「あい!アンジェもまたお爺ちゃんに会いたいでちゅ」


うっ、と呻いたマンゾーニ卿は胸に手を置いて目を閉じた。

なんだろう?心臓発作でなければ良いのだが、大丈夫かな。

暫くすると、卿は夫人にお腹を突かれて我に返り、声を絞り出した。


「そ、そうか。お爺ちゃんも今度会うときが楽しみだよ」

老婦人が手を伸ばして頬を撫でてくれた。

「アンジェ、王都に来るときにはセルヴィーナと一緒に、是非うちの家族に会いに来てね」


「あい、ありがとうごじゃいまちゅ。また来てくだちゃい」

パパがマンゾーニ卿と固く握手をし、夫人の手をとって挨拶して送り出した。


 門の外に、フォルトナから警護のため近衛騎士の小隊がお迎えに来ている。

ものものしい雰囲気だが、襲撃の後だったので仕方ないかもしれない。


しかし、カメリアママがこれだけの数の護衛を付けてくれたのだから、お爺さん達はかなりの重要人物なのだろう。


あのとき、馬車の襲撃に駆け付けて良かった。そうでなかったら、老夫妻達は死んでいたかもしれない。


あたしの暴れっぷりも、ハイランジアの血統だからという理由で充分誤魔化せたらしい。最高に都合いいな、ハイランジア!


しかし、マンゾーニ家と家同士の仲が悪かったのは聞いたけど、そもそもなんでだろう?今度パパに聞いてみようかな。


 今日のディオ兄はフェーデ君と一緒に、ハイランジア城でダンスと乗馬、マナー教室を受けに行く。

以前は、群がる女の子に怯えて二度と行きたくないと言っていたのに、フェーデ君も付き合うようになってからは、元気に通うようになっている。


「ねえ、ディオ兄はどうちて、張り切っていくようになったのきゃな?」

こっそりフェーデ君に聞いたら、よくぞ聞いてくれましたとばかりに得意げな表情になって答えた。


「へへ、ダンスってのは、男がリードするもんだろう?だから、ディオが下手くそだとアンジェちゃんが恥をかくぞ、そう言ったんだよ」


そんなことを言われてからは、発奮して熱心に取り組むようになったのだという。さすがフェーデ君、ディオ兄の親友と自称するだけある。


「おうちのためでちゅね。ディオ兄はやっぱり責任感が強いでちゅね」

「分かってないな…アンジェちゃんは…」


え?何?と聞き出す前に、フェーデ君は笑って素早く馬車に乗ってしまった。


「それじゃあ、お城に行ってくるね。アンジェもわんこと仲良く遊んでね」

「あい、行ってらっちゃい」


スレイさんが操るディオ兄達の乗る馬車は、お客さんの馬車に続くように護衛騎士団と共に去っていった。



 お見送りが終わると、パパはガイルさんと町の外れにある開墾地に向かうことになっている。そこで賊の人達が強制労働をしているのだ。

警邏兵の人達のお仕事が楽になると、昨日の晩、思いついたことをパパに提案しておいた。


賊の人達が反乱を考えないように、わんこ神に呪いをかけてもらうのだ。

話を聞いた後、パパはとても助かると喜んでいた。


「さあ、行こうかアンジェ」 「あい!」

さっそくお迎えにきたガイルさんと共に出掛けようとすると、セルヴィーナさんまで行きたがった。


「まあ、アンジェが行くなら乳母の私も是非お願いします」

「駄目ですよ、セルヴィーナさん。気の荒い罪人どもがいるのですから、屋敷で大人しくしていてください」


眉をしかめたセリオンさんが窘めると、彼女はとても残念そうだが素直に諦めてくれた。


「それじゃ、仕方ないわ。アンジェ、罪人さん達をいじめないようにね」


ニコニコしているセルヴィーナさんに、「さすが、的を射ている」とセリオンさんが感心したのでデコピンしておいた。


 しかし、セリオンさんはさすがに従者の訓練をしただけあって、セルヴィーナさんに対してとても紳士的だ。彼の意外な一面を見た気がする。あたしとはえらい待遇の違いだ。


 ヤモリンを頭に乗せ、わんこ神を抱っこしてパパとフレッチャに乗った。

ダリアさんは脚衣の上にスカートを穿いて別の馬に跨っている。


貴族社会では眉をひそめる脚衣だけど動きやすいため、海や山で働く庶民の女性は着るひとが多い。


「ダリアの住んでいた故郷では脚衣だけで馬に乗るのですよ」

「その方が楽でちゅよね」

バッソでも、脚衣の女性が当たり前になれば仕事が楽でいいのに。


 警邏兵さん達が監視している開墾地に行くと、警邏兵さんが急いでパパに歩み寄って来た。


「あの、ルトガー様、申し訳ないのですが、今日からひとり増えております」

「どういうわけだ?数は合っていた筈だが?」


「あの、身なりのくたびれた男が、飯を食いたいから手伝いたいと申しまして、罪人の仕事だから、一緒に仕事をするのは危険かもしれないからと断ったのですが。どうしてもと願ってきまして」


「変わった男だな。まあ罪人と一緒でいいなら構わん。日当はガイルに伝えておくから、住むところは大丈夫なのか?」


「森で寝ると言っておりますが」


「それも困るな、得体の知れない奴が野宿するのは。身分書か何か持っていないのか?まあ、浮浪者なら持っていないか」


「…でも高位の者ではないかと…その、長剣にはイチジク型の柄頭に包帯が巻かれております。

身分の証になる嵌め板を隠しているのかもしれません。

短剣にロンデルを持っているので多分騎士ではないかと」


「はあ?なんでそんな男が」


 長剣は高価だ、大きな剣になるほど剣を鍛える時間が必要になる。

水力が主な動力源となる時代では、水動力で剣を叩いているが、無い場合は人力のみで鍛えることになる。


それは、とてつもなく苦労を伴う仕事だった。

鍛え方が足りないと長剣は(もろ)く簡単に折れてしまう。切れ味と金額はその労力に見合ったものなのだ。


騎士として認められて与えられるのが金の拍車、他に騎士として持つものは長剣、盾、ロンデル短剣などがある。


そして、あたしがマンゾーニ卿から貰った短剣のロンデルは、防護用の円形鉄板の鍔(ロンデル)がついている騎士が所持する典型的な短剣である。


それを持っているということは、騎士もしくは貴族の可能性があるということである。


「それで、その男はどこにいる?」

警邏兵さんが指をさす方向をみたダリアさんが驚いた。

「まあ、あれは私の幼馴染のレブロスですわ!」


 ダリアさんの大声を聞いて、木の切り株を掘り起こしていた青年が振り返った。彼女の姿を見つけると、笑顔で手を振って歩み寄って来る。


あたしはわんこ神を抱っこして傍に近寄った。

「お兄ちゃんは何でボロボロなんでちゅか?」

「エヘヘ、山で崖から120メートルばかり滑落しちゃったんだよ♪」

不死身か!なんかダリアさんと同じ類の人の気がするぞ!


 汗染みの浮いたボロボロの服を着た青年、それは、マルヴィカ領を治めるマルヴィカ卿こと、ガエターノ・バルメラス伯爵の甥っ子、レブロスだった。


お正月までちょっと休むと書くの忘れてました。<(_ _)>

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