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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第4章  活気ある町へ
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第123話 希少な魔石

 今日は土曜日、パパはいつもハイランジア城に土・日曜日はお泊りしている。

しかし、今回は希少魔石を披露するのでサリーナ先生が同行、そしてディオ兄とあたしも一緒に連れて来られた。


 山から帰った後、カメリアママが、ディオ兄が王都に行ったときに恥を掻かないよう、マナーと馬術、ダンスをもっと教えなければと急に言い出したのだ。


「アンジェも一緒にいらっしゃいね、見るだけでもお勉強になるから。

ああ、そのとき、アンジェに乳母と侍女は要らないわ。アイリスだけで充分だから、くれぐれも要らないわよ、わかったわねルトガー」


*にこり* 

パパは無言の圧力を感じ、怖かったのでカメリアママの言うとおりにしたそうだ。


セリオンさんはバッソに残りたいと言うので、水晶山でクロモジの採取をお願いしておいた。


「うう、スレイどっか荷台にでもこっそり乗っけて~」

「ダリア諦めろよ。もう出かけるから…な?」


 スレイさんが御者席で苦笑気味にダリアさんをたしなめる。

「お嬢様とあたしを離すなんてあんまりです、カメリア様…」


お見送りの皆が、涙目のダリアさんを慰めているのだが…

「ひゃう…お嬢様、どうか御無事で…」

今生(こんじょう)の別れじゃあるまいし、ダリアさんは大げさである。


 スレイさんは御者としては慎重な人で、馬車をのんびりと走らせる。

フォルトナまで5キロほどの距離を、歩くよりましな45分程でついた。


「それでは明日の午後に帰る、ランベルによろしくと伝えてくれ」

「はい、では2時ごろ坊ちゃま達をお迎えにあがります」

「スレイさん、気を付けて帰ってね」

「はい、坊ちゃまダンスの授業頑張って下さいね」


 馬車に乗ったスレイさんが去り際にそう言うと、ディオ兄の顔がげんなりと暗くなった。

どういう訳か、ディオ兄はダンスの授業があまり好きでは無いらしい。


以前、あたしがお眠の間レッスンを受けたらしいが、そのときに苦手になったようだ。

女の子が面倒くさいと言っていたが、どういう状態なんだろう?


あたしが、御者を務めるスレイさんに、「ばいばい」と声を掛けると、彼はいつものように人懐こい笑顔を見せて手を振って去った。


 本当にスレイさんは穏やかに笑う。たとえ相手が警戒していても、話すうちに、自然と肩の力が抜けて和んでしまう、そんな魅力がある人だ。



「遅かったわねルトガー、アンジェ、ディオよく来たわね。会いたかったわ」

「朝食を済ませて、直ぐに来たんだぞ…」


カメリアママ直々に、玄関ホールに姿を現すとパパの腕からさっさとあたしを取り上げた。


「ママ~、おひちゃちぶりでしゅ」

「まあ、アンジェ元気だった?今日はママのお城でお泊りしましょうね」

「あ~い」


「ママは魔石のお披露目が終わったら、アンジェと一緒に過ごしますからね。ちょっと待っててね」

頬っぺたを *スリスリスリ*


 少々苦笑しているパパと、微笑ましくみているセリーナ先生、そして、ディオ兄はちょっぴり引き気味に見ていた。


*      *       *       *


 王宮の仕事でとても忙しいさなか、アルゼが馬で滅多に来られなくなったフォルトナに慌ただしく着いた。

非常に希少な魔石が手に入ったので、是非見に来るようにとカメリアからの連絡を受け、矢も楯もたまらず馬を飛ばして来たのだ。


「あー、内腿がきっつい…」


 廊下を歩きながら、アルゼが腿をさすり疲れはてた顔で嘆いている。

執事と共に、迎えに出たカメリアが笑った。


「でも、その甲斐があったと思うわよ」

「父上は、もう魔石を見たのかい?」


「ええ、客間に入ったら驚くわよ。魔石の数が多いし、質が良い。とって来たセリオンはいないから、質問はルトガーにしてね」


「ああ、本当に期待しているよ。僕は、しばらくは王都に帰らなくても大丈夫だから、ゆっくり鑑定するよ」


「あなた、王宮の工事が忙しいのでしょう?」


「珍しい魔石が手に入ったと聞いたら、そんなもん放り出してきたのさ。

父上が倒れて床に臥せったと、言ったからしばらくは大丈夫!」


「まあ、呆れた、お父様にバレたら怒られるわよ」


「父上なら、きっと、ディオのために方便を使ったと言えば、「よくやった」って言うさ」


「確かに、言いかねないわ。ほんとうに悔しい程、私達の子供時代と扱いが違うわよね…」


カメリアは、子煩悩とは程遠かった父親が腹違いの弟にかける愛情に、自分達との余りの違いを見て、腹立たしいより呆れかえっている。


「セリーナの話では、父上はディオの母親とべったりだったらしいからね…

僕らの母上は気の毒な事に家同士の結婚だったから…」


「だから、お母様はお父様に逆らって、私とルトガーとの結婚を許してくれた。

それに、オリシエを蔑む意地悪な貴族連中のせいで、あなたが社交界から締め出されると分かっていても、あなたの覚悟を認めてくれたのよ」


アルゼは、貴族なら決して結婚相手に選ばない家の女性を妻に選んでいた。

そのため、アルゼの妻は社交界から存在を無視されている。


「母上は、きっと貴族であるより、僕らの母親であるという事を一番に思って僕達を愛してくれたのだと思う。おかげで好きなことをして、好きな相手と結婚できて有難かったよ」


「王宮の仕事が評判を取ったら、あなたを馬鹿にした連中の鼻をあかせる。

あなたの妻オリシエのためにも頑張りなさいねアルゼ」


*      *       *       *


 カメリアが部屋の壁際に控えていた侍女デゼリに目配せすると、彼女はおもむろに革袋を乗せた盆を、カメリアの前に置いた。

彼女は、これから出る反応を想像して悪戯っぽく微笑んでいる。


「それでは、お待ちかねの魔石をよくご覧になって下さい。全てハイランジア家が手に入れた物ですけれど」


カメリアはそう言うと、テーブルに置いたビロード張りのトレイに、革袋にパンパンに入っていた魔石を広げてみせた。

広く知られる赤と青の他に、緑、紫、黄色、ピンク、オレンジ…色々な色がある。


「まあ!こんなにたくさんの色合いと数、初めて拝見しましたわ…」


サリーナは興奮を禁じえなかった。密かに、アルバに行って手に入れた品だろうと想像していたが、想像以上の等級だったからだ。


「本当だ!凄い数だし、見たことも無い色がある!」

興奮したアルゼが手に取って見つめたのは、夜の闇を映し虹色に煌めく魔石。

「これだけの物なら一体いくらの値がつくか…」


アルゼは改めて虹色の魔石を光にかざし、眺めていて心底驚いた。

これだけの数の魔石が全て最上級かそれに準ずるもの。


何処で手に入れたのかは明白だ。ルトガーが彼を買っているのは知っていたが、セリオンの腕前がこれ程とは思わなかった。


カメリアがアルゼの掌から虹色のその石を摘まみ取った。


「ねえ、やっぱりルトガーこれが一番きれいよ。どうしてアクセサリーにするのが、気がすすまないの?セリオンがアンジェの誕生日のために手に入れた魔石でしょ?」


「うむ、残念だが…理由があるんだ」

カメリアの質問にルトガーの言葉は歯切れが悪い。


「それじゃあ、これは全部セリオンが?」


アルゼがトレイの上の魔石を指で広げる。魔石の山が崩れて赤紫の石が現れると、カラブリア卿がいそいそと立ち上がり、サリーナと隣り合うアルゼの横に立って指をさした。


「そうだが、これはセリオンだけではない。我が息子ディオも参加して手に入ったものだ」


カラブリア卿はそういうと、他にはない2個の赤紫の魔石に手を伸ばすと、ふたりの目の前でニヤリと笑って突き出して見せた。


「ひとつはセリオン、もうひとつはディオだ。カルバ村を襲った大蛇の胴体と頭から出たものだ」


「凄い!一頭の魔獣から二個出たのは初めでじゃないのかい?」

「それよりも、御自分の弟が魔石狩りに参加したことを驚きなさいよ!」


アルゼとサリーナは、我を忘れて魔石の前に顔を寄せ、興奮気味に凝視している。

カラブリア卿は溺愛する息子ディオの戦果に鼻高々で、カメリアも目を細めて微笑んだ。


「セリオンのメモを見て欲しい」


 ルトガーは重々しく言うと、魔獣と魔石を記録してあると告げ、セリオンが書きつけた板から、魔獣と魔石のことだけを複写した羊皮紙をテーブル上に広げた。


黙って内容を読んでいたアルゼはギョッとして、先程の虹色の浮く黒の魔石を見返す。

「人間らしきもの…」


サリーナは深い沼の色に似た緑の透明な魔石を恐々と眺める。

「これは、“人間かもしれないもの” ですか…なんとも不気味ですね…」


「セリオンにはその時の記憶が消えているので正直よく分からない。

だが、他とは違い恐怖心が強く動いたと覚えていた。それから、大蛇は村の人間を何人も喰っている」


カメリアは魔石の元の姿を想像して失望し、手に取っていた闇色の魔石をトレイに戻した。そして、ガッカリした様子でひとつ溜息をついた。


「そんなものを、アンジェのアクセサリーにするわけにはいきませんわね」


魔石に戻る前の正体を知った後では、その黒い色は不吉な闇にしか見えなくなった。中に潜む虹の輝きも、ただの美しさではなく、人を誘惑する罠のように感じられる。


「そうじゃな、アンジェにやるなら、エルハナスが仕入れている宝石から吟味すれば良い。

そんな不気味なものをわざわざ装身具にすることも無かろう」


 ルトガーがほっとしたとき、セリーナが色とりどりの美しい色の中に埋没する、妙な存在感がある小さく白い卵型の魔石に興味をひかれた。

手に取り光に当ててみると表面は滑らか、半透明で薄く光っている。


―変だわ、これだけが発光しているみたい…それに白と言っても白銀といったほうが近いくらい輝いて…でもほんのりと青みも浮かんで見える。

不思議…雪の輝きのようでもあり、月の光を映しているようでもある…


サリーナは覗き込んでいるうちに心が静まるような安寧を覚えた。


「その白い魔石は記述がないようだけど、セリオンが書き忘れたのかい?」


アルゼが記述されている魔石の内容を確認したが、それについては書いていないばかりか、全体の数がひとつ増えている。


サリーナから石を受け取り眺めていたルトガーが、不思議そうに首を捻った。

「変だな?こんなものがあったかな?全く覚えがないぞ」


カメリアも手に取ってしばらく眺めた。


「でも綺麗ですわ、見ているだけで気分が落ち着くようです。他のものとは違うのは拾ったのかもしれませんわね」


「どういう魔石にしろ、セリオン次第だね。そもそもアンジェのプレゼントのために危険なアルバに行ったのなら…」


カメリアが即座に眉をひそめて弟を窘めた。

「やあね、アルバなんて行ってないわよ」

「あ!なるほど、行ってない!」


アルバは国によって閉鎖されている土地、ルトガーが改めて内密にするように念を押した。


「これらの魔石の鑑定を依頼したいが、これだけの数と希少な色だ。

赤紫の2個以外は、口外しないと約束して頂きたい。入手した経路も人間も秘匿をお願いする」


セリオンと子供達のため、危険が及ばないように気遣うルトガーの思案の雲を払うようにサリーナが即答した。


「私は石そのものを研究できれば良いのです。これだけの物を集めたのですから入手経路を隠すのは当たり前です。


きっと、その方の名が知られたら、欲に駆られた輩が彼を利用しようとするでしょう。私は両家に仕える身、決して口外いたしません」


「僕も絶対に言わないよ。魔石はその使い道を考えれば良いだけ。

だいたい、国がいっさいアルバの情報を流す気が無いのだから、こっちだっていう必要も無いしね。

それより、今のままでセリオンは大丈夫なのかい?」


不安そうにアルゼが言う。もしも、セリオンが高価な魔石を狩ったとバレたら、よその貴族に目をつけられトラブルに巻き込まれかねないと案じたのだ。


すると、カメリアが答えた。


「それについては私に考えがあります。セリオンは子供達にとって大事な兄、私も彼のために一肌脱ぎますわ。ね、ルトガー?」

「ああ、よろしく頼む」


ルトガーが彼女の椅子に置いた手を握ると、カラブリア卿もその言葉に呼応するように頷いた。


「おまえやパーシバルですら認めた技量があるが、備えてえておいた方が良いだろう。」


 アンジェの運命が、セリオンが迎える筈だった未来を修正することになり、何もかも大きく変わろうとしていた。


長くなってしまって、すいません

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