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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第7章 天国への階段
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第12話  見守る人々

 ルトガー親分の態度が軟化した理由がわかった。

初めて会ったときから、しばらくして、入れ替わり立ち替わりに、近所のおばちゃん達が押しかけて来て、生まれて間もない赤ん坊を人に頼ったら取り上げるとは何だと怒鳴り込んできたらしい。


 あたしをディオ兄が育てていることは、ここら辺ではかなり噂になっていて、もはや知らない人はいない状態になっているそうなのだ。

傍目にみても、妹のためにひとりで頑張っているディオ兄を哀れに思ったおばちゃん達が抗議に訪れ、ルトガーさんが参ったらしい。


そして、子育て相談は町のおばちゃん達みんなで協力してくれて、ディオ兄とあたしは町全体で気にかけて貰えるようになっていた。


「まあ、考えてみれば俺も厳しいことを言いすぎたと思った。そういうわけだから、しんどかったら一人で抱え込まずに頼っていいからな」


ルトガーさんはそう伝えたが、ディオ兄は、「有難うございます、俺ができることはなるたけやるように努力しますから、見守って頂けると嬉しいです」ときっぱり言った。


 ディオ兄の年であたしが何していたか思い出すとげんなりしてくるよ。

年取っても進歩してなかったし、人の本質なんてそうそう変わらない。

あ、ちょっと気が強くなったかな?


「俺なんか60過ぎてもなんの進歩もないよ。経験値は増えたかもしれないけど、やっぱり人生変わるほどの事件でもないかぎり、人間の本質何て変わらないのだろうね。俺、頭の中、いまだ中学生」


 酔っぱらったお父さんのよく言っていた話だ。

ギャハハと笑うお父さんをそういうもんですかと、眺めていたっけ。

あたしの場合は人生変わるほどの事件、「転生」がありましたが、ちっとも影響がありません。-泣き


ディオ兄は本当にいい子だから、気にかけて貰えるんだね。

彼は良い人たちに見守られているのだと、最近、よくわかって来た。


 しかし、ディオ兄はよく働く、小さい体で意外に力持ちだし、早朝から掃除洗濯、炊事や水汲み、市場での仕事は10時間くらいやっている。


休みの日はせっせと保存食料を作っている。

念話や念視はできても念力では細かいことはできないから、お手伝いがろくにできない。


うう、つまらん!こういう時に赤ん坊は自分で動けないからつらい。

身体が大きければ美味しい料理とか作ってあげられるのに、悔しいなあ。


『ディオ兄…何も出来なくてごめんね』

「だ~う、あいー」


 声を出してみるがディオ兄の反応が無い。

先程、本を開いて勉強していたが、疲れてうとうとしていた彼は完全に寝落ちしたようだ。


暇なので手をパタパタしてみる、こういう地道な運動が筋肉には必要だろうと頑張って毎日している。

ディオ兄の前でこれをやりすぎると何か不満があるのか、はたまた具合でも悪いのかと心配されてしまうので、あんまりできないのだ。


早く成長して彼の自立のお手伝いをしたい、大人の意識はあるのに何の力にもなれないのが何より辛い。


あたしが来たことを喜んでくれた彼だからこそ、もっと役に立ちたいのに。

くそ~、早く大きくなれ!あたし!!

*ジタバタ、ジタバタ、バタバタジタ*


「うふふふ」

若い男の人の声だ、いつの間にか、誰かが傍に来ていたようだ。

変だな、全然気がつかなかった。


 少し緊張して周りを見渡すが、まだ満足に動かすことができない首では周囲が見えない。

誰なの?顔を見せたまえ!

そう思っていると、あたしの入っている葡萄の蔓の籠をその人が跪いて覗いて来た。


長いさらさらの銀髪で琥珀色の瞳、穏やかな表情だ、それに育ちが良さそう。

随分と若いな、18歳くらいかな?誰だろうこの人?見たことが無い…


白い立ち襟の服を着ている、なんかカソリックの神父さんのような服だな。お、分かったこの服は神学生の制服でしょう?


「ふふ、当たりですよ。僕は王都にある神学学校の生徒です」

ぴや!今、今あたしの心の声が聞こえたの???

「ええ、そうですよ。聞こえています。会話しやすいでしょ」


妖怪サトリが出た…


「えっと、その妖怪というのが何かわかりませんが、アンジェちゃんが失礼なことを考えたのはバレていますからね」


はう、すいません。それで、あたしの名前を御存じのようですが、どなたですか?

「ディオ君の友達です、彼が読んでいる本は僕があげたものです」


ああ、あれですね。ディオ兄はとても大事に読んでいます。

それに勉強教えてもらったおかげで字を読めるようになったって、とても喜んでいました、有難うございました。


「ふふ、やっぱりお利口な妹さんですね。さすが、前世持ちの女性ですね」

は?もしかして、あたしの秘密を知っているのですか? 


「はい、結婚してみたかった、付き合った男にろくな奴がいなかったとか、あとは、実年齢は…今年で『言うなあああああ』歳ですよね」


言うなって!あんた女の年齢を口に出して言うなあああ!!

ハアハアハア…疲れるこの人!


「クスクス、分かりました。年齢は秘密ですね。うふふ」

絶対ディオ兄に言わないでくださいよね…

年齢知られたとたんに気味悪がられて、妹取り消しとかされたら泣くから。


「ええ、分かっていますよ。ふふふ。そんな薄情な子じゃないですけどね」

ほんと言わないで、若干、信用できないけど、頼みますよ。

「アンジェは心配性ですね。信用してくださいよ」


そんなこと言われても、正体も分からない人なんて信用できないでしょ?

お兄さんがただ者ではないことは分かったけど、なんか怪しいのは否めないです!怪しさ大爆発なのですよ!


「僕はディオを以前から見守って来ました。彼に役に立つような知識も与えました、元から神童と言って良いほど知能は高いですけどね。


それで、妹になった君にも協力しようと思いまして。

僕じゃできないこともあるし、いつも一緒にいられるわけじゃないのが口惜しくてね。

その点、君はいつも一緒ですしね」


ふーむ、ディオ兄のこと心配している訳ですか。

しかし知識を与えたって、本のことかな?ああ、勉強みてあげてたからか。


「僕の名前はアンジェロ・クストーデ、君の名前と似ているね。ふふ」


アンジェロ・クストーデ、なるほどよく分かりました。

彼はあたしの体をそっと抱き上げた、やさしく気をつけて左の腕に乗せ、胸に包み込んで話を続けた。


「アンジェ、君に念話などの不思議な力を授けたのは僕ですよ」


!!!なんですと!!!どうもうまいこと意思が通じたと思ったわー。

生まれ変わって超能力者になったのかと喜んじゃったよ。


凄いぜ!あたし!とか、喜びまくったのがちょっと恥ずかしい。

視線が合うとにやりとするアンジェロさんの顔を見てしまった。

うぐ…本当、恥かしい…


「それにね、視界が広いこと気づきました?君はディオの背中にいるのに何でそんなに周りが見えるのか考えてなかったでしょ。

それも僕。アンジェは年の割にはトロイですね。とても『言うなああああ!!!』歳とは思えませんね」


いや、あんた、いちいち言わんでいいでしょ!はあー!疲れる、この人。

にこにこしているのが余計に腹立つ!


「アンジェ、君達のために他にも力を分けてあげるよ。

あの子は知能が高いし、しっかりしているが、おとなしくて争いごとにはあまり向かないからね。


君にはそちらの才があるのでそれを開花しやすくしてあげる、それに念の力、まだ活かしきれてないから、いろいろ試して開花させてよ。


僕が与えるのは可能性、あとは君達次第だ。

あ、そうだ、もうひとり兄さんがいたね。

僕はもう行かなきゃならない、君達が助け合って生きていけるように、見守っているよ」


アンジェロさんはそっとあたしの額にキスすると籠の中に戻した。

そして、屈みこんで、良く寝ているディオ兄の額にもキスすると、さようならまた来るよと、にこやかに告げて立ち去って行った。


え?あれ?まだ、あたしには聞きたいことがあるのに。

どうやってあたしに念の力を与えたの?どうしてあたしなの?

ねえ!ちょっと待って!と、叫んだが既に彼は行ってしまった後だった。


「ううん…あ、寝ちゃったか。ああ!アンジェごめんね」

待って~と声を出さずにバタバタ手足を動かしていたらディオ兄にトイレと間違えられた。


 やはりまだ疲れているのだろう、生あくびをしているディオ兄に、たった今帰っていったお客さんの話をした。


『ディオ兄、今ね、神学生のアンジェロさんが来たよ。ディオ兄が寝ていたから、声を掛けずに帰ったけど』


え!ほんとう?と、声をあげた彼は慌てて外に出て行ったが、もういなかったとがっかりして帰って来た。

肩を落としている彼を見て、ほんとうに、なんでディオ兄に声をかけて起こしてくれなかったのかと思う。


そうだ、周りに視線を飛ばしてみよう。

………いない、もう影も形もない。あの人ったら足が速いな。


「アンジェロさんは初めて会ってからいつも夜になるとやって来て、勉強を教えてくれた。おかげで俺は読み書きや計算ができるようになって、アンジェロさんには本当に感謝しているんだよ。本もたくさん貰ったし」


庶民にとって本は結構高いものだ、食べるのに困るような人が多い世界ではぜいたく品だろう。


ずいぶん太っ腹だ、しかも彼はまだ若かったし、神学生だ。

木箱の中に収まっている本の数を思い出して疑問に思う。


浮浪児のディオ兄に、こんなに本を恵んでくれたのは一体何故なのか?

それに、あたしの力は自分の力を分けたって、一体どうやって?


 頭の中で彼の顔を思い出す、ニコニコしていたけど、そういえば口元が動いていなかった気がする。

あたしの念話は自分から話しかけるのが基本だ。


受信する側は声を掛けてくれないと通話は出来ない、念話の能力がないから。

彼は自分から話しかけて来たと言うことは彼も念話の能力があるのだろう。


 また会えるだろうか、何だか普通の人ではない気がする…



 読んで下さった方、有難うございます! (^^)/

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