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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第4章  活気ある町へ
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第118話 創造の炎

 暴れる蛇に、ディオ兄が弾弓で目つぶしを撃ってから動きが鈍くなった。

しかし、どうやって倒したらいいのか、この大蛇ったら念力MAXで撃っても平気なんだもん。

くそー!あたしの技は小者とセリオンさんを撃つしか能がないのか!


「こらアンジェ!口に出てるぞ!俺は的か!」


暴れる胴体をかわして、セリオンさんが蛇の口に石を投げ込んで叫んだ。

石を口の中に詰め込んで、牙の攻撃と動きを殺そうとしている。


彼は小剣で胴体の心臓を狙っていたが、とにかく動きまくって刺すことができないうえに、下手に近寄ると胴で締め上げられる。


それで、先に頭の動きを封じようとしているのだ、頭の動きが鈍くなると胴も動きが連鎖するからだが…


 胴体の動きがうねうねと余計にキモくなった!!!

ああもう!ギリシャの火みたいに燃やし尽くしてやりたい!


うーん、イメージで一応やってみるか、謎の古代兵器、ギリシャの火みたいな超強力な炎ができると助かる。

あれは製造が秘密にされていたから全然正体がわからないんだよね。


水をかけると炎が余計に広がるだけで消えない火、消せるのは砂だけ、でもあれは液体なんだっけ?

液体だと使いにくいかな?威力だけあんな感じで出来ると良いのになあ。


「アンジェ!アンジェ!!何ぼうっとしてるの!」

「え?あああ!!」


 岩棚に陣取っていたあたしに蛇の尻尾が勢いよく向かって来る。


―やられた…


ドンという音がした後に、眼を開けるとセリオンさんに護られていた、苦痛に顔を歪めている。


「セリオンしゃん!」

「大丈夫だ、それより危ないから蛇が届かないところに…」

そこに再び胴体がずるりとセリオンさんに向かって忍び寄って来た。


 その瞬間に頭に血が上った。

「あー!もう許ちゃないでちゅ!!これでも喰らりゃえー!」


やけっぱちで渾身の力を込めてデコピンショットを撃った…つもりだった…

出て来たのは…炎?


炎は見る見る間に巨大に育ち、ごうごうと音をたてながら揺れて浮んでいる。

ひー!何これ!なんで??

「わわ!アンジェ早く撃て!」


セリオンさんがディオ兄を抱えて逃げ出した直後に、炎は爆音をあげて蛇の胴体に飛んで行った。

炎はまるで意思があるように蛇の身体を吞み込んで離さない。


もがく胴体に激しく燃え盛る火が纏わりつくように燃えている。

首を落とされて開いていた喉の気管から炎が侵入し、蛇の内側から内臓を焼き始めた。


ドタンバタンと、岩場に体を転がしてもがく大蛇の身体から、鱗が剥がれて散らばっている。

セリオンさんがディオ兄を後ろに守りながら、壁の隙間に避難したあたしに呼びかけた。


「アンジェ!頭の方にも火を撃てるか?」

「やっちぇみりゅ」


炎を思い浮かべ思念を込めて蛇の頭を狙うと、簡単にそれは頭を燃やした。


 ぎえぇぇー!


炎が噴き出した蛇の頭は、耳障りな断末魔の声をあげて水溜まりに飛び込んだ。暴れるたびに火の塊が飛び散る。


「うわ!」飛んで来た火の塊をセリオンさんはディオ兄を抱えたまま避けた。

蛇の頭は水溜まりで消えることなく燃えている。


超高温の炎は脳内の水分を急激に沸騰させ、「バン!」と頭を破裂させた。

やがて、炎が消えると胴体も頭も、どちらも跡形も無く消えてしまった。


 セリオンさんとディオ兄が暫くの沈黙の後、我に返って騒ぎ出した。


「アンジェ!凄い!教会の絵にある、この世の終わりの炎みたい」

「お、おまえ!何て恐ろしい攻撃を!!」

「アンジェ、知らにゃいもん!勝手に出たんだもーん!」


セリオンさんが詐欺師をみるような視線で頬っぺたをムニムニした。


「それでアンジェは何を思い浮かべた?」

「うん、絶対消せにゃい、凄い炎の(いにしえ)の最終兵器」

「やっぱり、お前がイメージした結果だろうが…」


思い浮かべただけだもん!無邪気な赤ちゃんの想像だもん!


ぶうぶう文句を言ったら、今回はお陰で助かったけど、攻撃時はセリオンさんの許可を常に求めるように言われた。


「とんだ最終兵器だな…」


 水溜まりから、赤紫の透明な魔石が転がっていた。胴体が消えた辺りにも同じ色の魔石が残っていた。


「やっぱり魔獣だったのか、どうりでしつこかったな」

「この色合いは無かったね」


ディオ兄が赤紫の魔石を拾いあげてセリオンさんに渡した。

「魔石の色の法則性はわからん。一匹の魔獣からふたつ出たのも初めてだ」


 国がアルバの探索を禁止しているから、データがなかなか集まらない。

魔石の研究を進めるなら国の方針を変えてもらわないと無理だ。

森にいる魔獣は魔石を持っていると限らないが、アルバの魔獣は確実に魔石を持っている。


 洞口を出ると、おじさん達は入り口付近で怯えながら待っていた。

皆あたし達を見るとホッとして胸を撫でおろした、その中でシェルビーちゃんだけは満面の笑みであたしを見ている。


*にこにこにこ*

愛想の良い子だな、こっちも笑顔で返すと大喜びしている。


「有難う天使様♡」

ほえ?天使様?ああ、教会では神様に祈る人が多いけど、天使様に縋る人も多いからね。

タイミング良い助けを天使が遣わしたと思って御礼を言ったのか。


「名前はなあに?」

「アンジェでちゅ」

「わかった、アンジェって名前の天使様だね」

「?」


どうも誤解があるようだが、舌を噛むので説明は放棄してしまった。

彼女は先程まで命の危険があった興奮状態だ、もうしばらくしたら落ち着くから、そのとき誤解を解けばいいだろう。


 もう大蛇が死んだと分かると、おじさん達はようやくホッとしてお礼を言って喜んでいた。


 皆で、避難小屋で夜明かしをした翌朝、ディオ兄が昨日は出さなかったベーコンやチーズを出して、美味しい朝ごはんを作って全員に振舞った。

良かった…蛇肉が出なくて本当に良かった…


「アンジェどうしたの?」

ディオ兄が後片付けをしている手を止めた。

「うん、誰かアンジェを呼んじぇる気がちゅる…」


鬱蒼(うっそう)とした夏の緑の中、うねって伸びた山道の向こうに耳を澄ます。


アン…ジェ…アンジェ…遠くから声が聞こえる。

…パパだ!この声はパパの声だー!

「パパが来ちゃー!パパーここだよ!!」


 山の斜面の坂道を駆け下りる、でこぼこな山道だけどぴょんぴょん跳ねて走る。あたしの脚なら朝飯前、暗い樹林帯を下った先の稜線が見えた。

「アンジェ―!」


見晴らしのよい稜線を、日の光を浴びたパパが大きな手を広げて走ってくるのが見える。

あたしは嬉しさで足がもつれ、ころんころんと下りの山道を前転してしまった。


道に張り出した木の根っこに背中に打ちつけて痛い、転がり起き上がった先の、尖った砂利に膝をつく前にふわりと抱き上げられた。


「アンジェ!良かった。心配したよ」

パパの広く温かい胸にぎゅっと抱きしめられた。

パパのちょっぴり硬めの顎髭に、指を入れてそっと触り心地を確かめると、涙がどんどん湧いて来た。


「ごめんちゃい、パパ…ふぇ…えっぇ…」

泣き出したあたしの背中を優しい手が支えてくれる。

パパは分かってくれていた、よく無事でいたねと褒めてくれた。


「ルトガーさん!御心配掛けてすいませんでした」

「お義父さん!迎えに来てくれたの」


ディオ兄達が追い付いて来てパパとの遭遇を喜んだ。

次々にメガイラさんとダリアさん、他にも何人かの人の声が集まって来た。

その頃には、あたしはビービー泣いて止まらなくなっていた。


 パパは化け物が出たことを聞くと、洞窟にいた家族にバッソに避難するように勧めた。


「元の領地に戻るにせよ、安全が確認されてからでいいだろう。

君たちの領地の領主であるマルヴィカ卿には連絡して身の振り方を相談するから安心するといい」



喜んだ家族はパパに従い、パパの連れて来た捜索隊が、怪我人が出た時の用心に組み立ての輿を用意していたので、身重の奥さんをそれに乗せて山を降りることにした。


 ダリアさんはこんな時でもあたしの着替えをさせて喜んでいる。

メガイラさんが髭のおじさんと何やら話をしていたが、お眠のあたしにはよく聞こえなかった。


 やがてバッソ領に続く分岐点に入り、薄暗い植林地帯に入るとまた声が登って来た。何やらワイワイ騒いでいる。

お待ちになってくださーいと、誰かが叫んだあと、女性の声がすぐ下の崖から聞こえた。


「グズグズしているうちにアンジェに何かあったらどうするの!私は先に行くわよ!!」


カメリア様だ!普段の優雅な姿が嘘のように、ゆったりしたくるぶし丈のズボンの上に長いスカートを履いている。


貴婦人の登山用の装いだが、スイスのアルプスみたいな観光用登山道と違い、奥多摩みたいな植生の、泥や木の根っこが露出したバッソの狭い登山道で、こんな重い服ではしんどいに決まっている。


カメリア様のスカートは泥だらけで、手袋は穴が開いてしまっている。

服には汗染みが浮き、髪は乱れて、社交界で王妃と並び称せられる程の美人が台無しになっているのを、本人は少しも気にしていない。


「アンジェー!ディオー!何処にいるのぉー――!!!」

森が阻むように枝を伸ばした登山道でママの大声が響いた。

「ママー!!!ここでちゅー!」


パパの腕をすり抜けて、あたしは崖の上からママの腕のなかに飛び込んだ。

「アンジェ!良かった…」

「ごめんちゃい」


 抱きしめられて動けなくなった頭の上から、ママの涙が落ちて来た。

慌てて降りて来たパパに彼女は晴れ晴れと微笑んだ。

「アンジェがママって呼んでくれたわ」


*      *       *       *


 子供達の捜索を命令されたスレイは疑問に思っていた。

同じ男爵家のトバイアスは、何の疑問も無く赤ん坊を連れた紺の髪の男の子の聞き込みをしている。


―あの子達が魔獣狩りのセリオンを心配して家出したのなら、先ずはアルバに続く街道か、もしくは水晶山を探すべきだろう。


なのに、わざわざ少数で、旦那様自ら水晶山の捜索に向かった。

俺たちは発見の目が薄いフォルトナと、フォルトナの後ろに点在するアルバに向かう途中の村を調べるように言われた。


何故だ?男爵家には、何か秘匿されていることが有ると感じていたが、一体何を隠しているのだろう?


 それは、子供達に関わることだと今回の捜索で分かった。

まあ、あまり詮索して俺の身が危うくなるのは避けないと、カラブリア卿の手下は荒事に長けた者ばかりだしな。


 スレイは、暫くは男爵家に大人しく仕えようと考えた。


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