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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第4章  活気ある町へ
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第109話 魔獣狩り 

 セリオンは取り囲まれていた、相手の魔獣は異様な姿をしていた。

いきなり湧いてでた魔獣に驚いて周りを見渡した一瞬の間に、銀髪の少年はいなくなっていた。


あの銀髪の子供はこいつらを呼び寄せたのだろうか?

どっちにしろ、あの子供も人間じゃない…人に似た魔獣もいると聞く。

いや、今は目の前に集中しよう、相手は4匹、でかいのが1匹。


―不味いな。俺の狩は隠れて、飛び道具で相手の動きを止めてから仕留める。こんなふうに、力押しで切り抜けられる戦闘スタイルじゃない。


人相手なら何とかできるが、この状況は圧倒的に不利だ。背後にまわられないように気を付けないと…


一番近いやつは牛のような体に長い毛が生え、顔は猿のようだ。

だらりと長い舌から漏れ出てくる脂臭い息が辺りに漂って、呼吸をすると一緒にその臭気まで吸い込んでしまい胸がムカムカしてきた。


乾いた地面を蹄で掻いて、頭を下げて角の間から睨み上げる猿のような顔は、今にもセリオンを刺し貫く気満々だ。


皮膚病のように体毛が禿げて赤黒い肌を斑に覗かせた黒い犬が3匹、素早く攻撃の配置についた。

ギラギラした眼でこちらを窺い、威嚇する唸り声と共に泡の涎を滴らせて牛の後ろに控えている。


牛がセリオンの体力を削ったところで一斉に襲うつもりかもしれない。


正面に立ったセリオンは、覚悟を決めて両手の長ナイフを強く握り構えると、すぐに異形の牛が頭を低く角を突き立て、土埃をあげて突進してきた。


ぐおおおおぉぉぉー!

咆哮をあげて迫ってくる角に、限界ギリギリのタイミングで半身を躱すと、通り過ぎる一瞬に右の動脈を深く切り裂いた。


血しぶきがどっと噴きこぼれると、魔獣は走る勢いを失い、よろよろ歩くと地面にガクッと膝をついた。

セリオンは余りに危うかった状況から、汗が背筋を滑り、落ち思わずほっとした声がもれ出た。


まだ、たった一匹を切り伏せただけだ、そこに黒犬のような魔獣が3匹同時に地を蹴ってセリオンを襲撃した。


口を開けて左右から迫ってきた黒犬をナイフで牽制していると、背後にまわった一匹が大きく飛び上がり、セリオンの左の上腕に嚙みついた。


がっぷりと牙をたてて、自分の腕にぶら下っている黒犬の顔を間直に見た。

黒犬は牙を埋めたまま唸ると、めくれ上がった口元から臭気を帯びた黒い血のような液体の粒が流れ出てきた。


―俺の血じゃない、何だこれは?


 セリオンの左腕にぶら下がった犬の口から流れ出た液体は血では無かった。

口からゴボゴボと湧いた赤黒い血の中からぬめりとしたヒルが立ち上がり、うねうねと伸び縮みして方向を探ると、セリオンの首筋に向かって這い上がってきた。


慌ててナイフで払い落とすと、犬の口からぬらぬらとした赤黒いヒルが次々と首筋を目指して動き始めた。

危うく悲鳴をあげそうになったセリオンは、慌てふためき右手のナイフでそいつらを払い落とす。


そして、すぐさま、左脇の隙間からナイフを黒犬の喉に突き立てた。

吹きだす血の中から、うようよとまた湧き出した赤黒いヒルを見て、気色悪さに虫唾が走り、口を開けて地面でもがいている黒犬の腹を思い切り踏み砕いて止めをさした。


黒犬は口から血を吐いたまま痙攣し、じきに動かなくなると、湧き出た奴らも消えてしまった。

仲間が簡単にやられて怯んだのか、2匹の黒犬は戸惑うように右へ左へと足踏みした。


セリオンは、先手を打って突撃した勢いのまま、ジャンプしてきた右の黒犬を勢いよく蹴り倒すと、吹っ飛んで行った犬は声も無く瓦礫にぶつかって頭がぐしゃっと潰れた。


残る左の奴は、口を開けて飛び掛かって来るところを、横に払い切りにした。

ザクっと肉を切った感触がしたが、口を切り裂かれた黒犬は怯む様子を見せなかった。


黒犬は血泡を吹きながら向き直ってこちらを睨みつけ、裂けた口から血がポトリポトリと滴ると、そこからまた先程のヒルが産まれ、蠢いているのを見て、セリオンは顔をしかめた。


 悪い夢でも見ているようだ、魔獣を何匹も仕留めたが今日の奴らは異常を極めている。

最後の黒犬の魔獣に集中して構えると、相手はすぐに飛び掛かって来た。


セリオンが除けると、黒犬はがちんと音を立てて空を噛んだ。握ったナイフのまま地面に叩き落とし、起き上がる前に上から覆いかぶさって、刃を突きたてて一気に腹を切り裂いた。


黒犬はぴくぴくと痙攣して二度と起き上がらなかった。

やっと静かになった辺りを見渡すと、先に死んだ犬は消えて魔石が落ちていた。2匹目、3匹目も消えると澄んだ濃い青紫の魔石に変化していた。


 セリオンは初めて手に入れた珍しく美しい色の魔石に見とれた。

そういえば、牛の方は違う色だろうか?近寄ると牛はまだ息があった。


地面をもがいている牛の首に後ろ側から刃を当てると、牛の呻き声がもれた。

『…し くれ…』

驚愕したセリオンが牛の顔を覗き込むと、牛はほんの少し顔を上げて彼と視線を合わせた。

『…すく…って…れ…』

猿だと思った顔は老人のものだった。


全身に恐怖が走ったセリオンはその首に充てていたナイフに力を入れて一気に刺した。


首の皮一枚で命を繋げていた魔獣は、しごく安らかな顔になると、『あ…りが… …う…』と呟き、ざっと砂が崩れるように消え去った。


後には、3センチ程の大きさの濃い緑の透明な魔石が落ちていた。

初めて手に入れる緑の魔石だが、不思議と喜ぶ気分にはなれなかった。


腕がズキズキ痛む、残らず落ちている魔石を回収すると1センチにも満たない石がパラパラとあるのに気がついた。

小さな赤黒い石、これも魔石だろうか。


どうやらあの赤黒かった虫らしい、思い出したくもないが。

今まで手に入れたことがある赤い魔石とは種類が違うようだ。


―これは色が濃いうえに透明度がない、しかし美しい赤だな。あの醜悪なヒルもどきの魔獣が持っていたとは思えないな。


 出血を止めるために腕を縛り、残さずに魔石を拾って集めた。

まさか昼間のうちに、こんな珍しい高価な魔石を持った魔獣達が出て来るとは。


もはや、拠点も安全な場所ではないかもしれない、あの悪夢たちは何処からか潜んでいきなり飛び出してくるのだ。

今までの経験では、夜のほうが活発に魔獣は活動するはずだ。


 夜になる前に町の外に出よう、そう思ってひとまず荷物を置いた廃屋に戻ろうとしたら、その前に人間がいて驚いた。

異臭が漂う体を引きずって男がよろよろと振り返った。


農作業に使うピッチフォークを地面に挿しながら、柄を肩に当てて、それに縋るように体を支えて歩いて来る。


瘦せこけて背の曲がった若い男はどうみても人間だ。だが、セリオンには銀髪の少年の恐怖が生々しく甦ってきた。


どんな幸運があれば、こんな魔獣がうろつく処で生き延びられるのか。

セリオンは慎重に間合いを詰めて言葉を掛けた。


「おまえ、アルバの住民か?今までどこで生活していた?」

「!お前はロビーナ家の者だな…」


戸惑うセリオンの返答を待たずに、男は叫び声を荒げてピッチフォークを振りかぶった。

素早く横に飛びのいて、セリオンの腹を狙って突き出してきた柄の部分を脇で抑え込んだ。


柄を持ったまま、動きを止められた男がギロリと睨んだ目が濁っている。

セリオンにはその濁った眼に覚えがあった。


他領地の郊外で、藪の中を覗けば、こういう濁った眼の、野ざらしの死体を何度も見かけたからだ。


男のあばらの浮いた薄い胸にはぽっかりと穴が開いている、そこから先程の赤黒いヒルのようなものが動いて落ちた。


こいつは生きている人間とは思え無い。気色が悪い、もうここじゃ何でも有りだな、一体どうやってこいつらは動いている?


生きる屍となった男からは鼻を衝く死臭が漂ってきた。

隙間だらけの黄色い乱杭歯の口から、ねばつく涎を垂れ流しながら男はいきなり吠えた。


「ロビーナ家の奴らは皆殺しだ!お前の命も今日で終わりだ!!恨みを晴らしてやる!!!」


男は絡めとられているピッチフォークから手を放して、襲い掛かって来た。

セリオンがすかさず前蹴りで地面に蹴り倒すと、男はぐしゃっと音を立てて地面に転がった。

めくれ上がったシャツの下は腹の中身が無く背骨だけが見えた。


「どうやら手加減は要らないな!」


セリオンは奪い取ったピッチフォークで男の胸を突き刺した。

男は突き立てられた柄を掴んで、何度も起き上がろうと足掻いた。


口からゴボゴボと血の泡を吹き、若い男の最後の言葉が耳についた。

「…や…っと…」


後の言葉は聞こえなかった、何故かセリオンの目には男の表情が変わった気がした。

すると、若い男は急にカタカタと痙攣を始めた。


地面に縫いつけられたまま、男の痙攣はますます激しくなったかと思うと、砂が崩れるようにザアッと溶けた。


 セリオンはキツネにつままれた気分で男の遺骸が在ったはずの場所をみた。ぼろ服の上には、3センチに満たない大きさの透明な石が転がっている。


手に取ると青黒く透明にみえた石は光を受けると、紫、緑や青にも見えるし、オレンジや赤にも見える。


―澄んだ黒の中に虹色が浮んでいる。

何て複雑な色あいをだす魔石なのだろう、こんな石は見たことが無い。

これをアクセサリーにしたら貴族の女たちは大金を積むだろう。


 セリオンは知らなかったが、アンジェがこれを見たらブラックオパールだと思ったに違いない。

暗い漆黒の宇宙に浮かぶ星雲のように煌めく宝石だった。

人に似た魔獣の残した魔石は何よりも抜きんでた美しさだった。


 やっと帰った廃屋の拠点に上がると、水桶の底が割れていて水が抜けて無くなっていた。

事態の不味さを噛み締める前に、強烈な眠りに襲われて倒れ込んだ。腕の痛みで目が覚めると、それはもう翌日の朝だった。


頭がズキズキしてひどい空腹と渇きを感じる。

水が無くなったのに、強烈な飢えを感じて燻製肉を口に放り込んだ。

セリオンは口の中でへばり付いている燻製した干し肉を、頬の内側でやっと出て来た唾液で戻していた。


暫くすると、乾ききった肉からじわりとうま味のあるエキスが口中に広がった。

水は持てるだけ持って来たが、毎日最低限の水分で動いていたのに、水桶が駄目になり残量は一切ない。

こんなことならもっと飲んでおけば良かった。


腕の傷のあまりの痛さで、嫌な匂いがする布を外して確認してみると、同時にぽこっぽこっと血が湧き出てきた。

一晩以上たっているのにまだ血が止まらないなんて、傷は思った以上深かったのか。


そう思い、ふと床をみると小さな血の染みが動き出したかと思うと、ゆらっと頭をもたげた。

慌てて傷口を見ると、あのおぞましい小さな魔獣達が湧いていた。


セリオンは嫌悪感を抑え込んで、ナイフの先でほじくりだして、残らず踏みつぶすと後には赤黒い小さな石が残った。


怪我は酷くなっていて、まるでスプーンですくった後のように、寝ている間に喰われたのか肉が削れていた。

肌の色は真っ白に変色してパンパンに膨れ上がっていた。腕からは既に腐乱臭がしている。


―おかしい?怪我の進行が早すぎる、もしかしてアルバだからか?


 このままだと、もう左腕は切り落とすしかないかもしれない。

情けない気分で窓枠から見える星を見上げて、闇の中でうろつく魔獣に気づかれないように息を殺した。


 いきなりモデムルーターが壊れまして、ネットに入れませんでした。

新しいルーターを送ってもらうまで投稿できず、間の悪いことにお盆ですぐには届かず…

突然休んでしまい申し訳ありませんでした <(_ _)>

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