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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第3章 男爵家の人びと
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第102話 四つ葉に想いを

少々遅れはしたが、なんとかセリオンさんがお叱りを受けない時間にお城に戻り、お昼を済ますことが出来た。

昼食の後は、カメリア様が弟のディオ兄に、今度、仔馬をあげたいから一緒に馬を見ようと誘われたので、セリオンさんと出掛けた。


あたしは他の馬と会うのは諦めて、お兄様の絵本が気になるのでディオ兄とは別行動をとった。


そういえば、町から帰りに、セリオンさんの乗った馬と、ダリアさんの乗った馬には念話で呼びかけたが通じなかった。

一体、フレッチャとどう違うのか、いまだよく分かっていない。


 お土産の絵本を見せてもらった、本はこの世界ではまだまだ高価らしい。

素晴らしい絵でかなり有名な画家が挿絵を描いているらしい。

画力があるだけでなく挿絵のデザイン性も高い。

ほとんど画集とういう出来だ。


そしてこの装丁も凝っている、ダリアさんの話によると王都の貴族の間では今ベストセラーの絵本らしい。

お話の筋は、箱入り美人の夢見るお姫様が白馬の王子様を待っていて、魔王に攫われてしまい、勇者に助けて貰って結婚してめでたしめでたし…


文句をつけたくないが、最悪なのがヒロインのお姫様である。

魔王に狙われているのに勝手にお城抜け出すとか、勇者が、見つからないように敵地に潜入してきたのに、「きゃー!助けて勇者様―!」とか安全なところから大騒ぎしたりするアホである。


階段から足蹴りして落としてやりたくなる女ですな。

最悪!あたしなら結婚なんぞしないで、褒美をもらってさようならだわ…

こんな女とくっつく勇者も災難でしょう…


まあ、画集としては素敵だ、すごく気に入った。

しかも、嬉しいことに、お兄様は自分のお小遣いからこの絵本を買ってくれたのだ。


パパの息子らしく優しい人だ。心づかいが嬉しい!絵本のセレクトは外れているけど。

ちょっと待て…まさかこの「外れ」も歌の呪いじゃないでしょうね?

…まさか、そんな訳はないだろう…


何かお返ししたいけど、買い物はできなかったし、明日の早朝で帰るならバッソに戻るわけにもいかない。

どうしようかと、ぼんやりとお城のお庭を、意識を広げて念視で眺めていた。

うーん、バッソにいたならまだ何かあげるものが有ったかもしれないのに。


あら、たくさん白い花が咲いている、あれはクローバーかな。

そうだ、四つ葉のクローバーはこちらでもラッキーアイテムかもしれない。

ちょっと探しに行こう、貴族のお兄様にはつまらない物かもしれないけど、感謝の気持ちは伝わるかもしれない。


『ダリアさん、こちらでも四つ葉のクローバーは幸運の品なの?』

『こちらでも?ああ、お嬢様の前世でも幸運の品なのですね』

『!!!』

ええ!ダリアさん、前世のこと気がついたの?


『お嬢様の前世の天国、その天国で同じ意味の花があるなんて感激です』

ふああぁー!びっくりした…

うっかり何か零していたのかと、どっきりしちゃったよ。


前世のことは秘密にしているけど、信用している相手にはどうしても守りが弱くなってしまうから、用心しないといけない。


 冷や汗の乾かないうちに、ダリアさんにお願いしてクローバーの沢山生えている庭に着いた。

早速、降ろしてもらうと這いつくばって探し始めた。


「お嬢様」

「あい」

「本当におひとりで探すのですか?一緒に探した方が早く見つかりますよ?」

「アンジェがお兄ちゃまのために、しゃがしゅでちゅ」


お兄様へのプレゼントなのだ、ここはひとりで頑張って探して、お礼の気持ちとして渡したい。


よし!探すぞー!三つ葉、三つ葉、三つ葉…なんで双葉……三つ葉…

やっぱり三つ葉………無いなあ…探すと結構ないもんだなあ…


見つける気持ちでないときには、眼の中に飛び込むように見つかるのに、何でこういうときには見つからないのかな?


ダリアさんは手助けしたくても、あたしが断ったため、困ったような顔で手持無沙汰から指を泳がせてウズウズしていた。


申し訳ないけど自分で見つけたいの、ごめんねダリアさん。

お兄様へのプレゼント…高価な絵本をお小遣いで買ってくれたのだ。

優しい兄様に何かしてあげたい。


念視を使って探してみようと思ったが、同じような物ばかりある状態を探るのは初めてで、上手く行かない。

傍から見るとクローバーの上をハイハイしているように見えるだろう。

しかー―――し!!!ど根性で、絶対に見つけるもー――ん!


…………あ!……違うか…………ないな…………どうして?…………

………日が伸びてきた…うう…涙が出そう…ううん、がんば!

…三つ葉…やっぱり三つ葉ばっかり…これも……違うな…


「お嬢様…お気の毒ですがもう諦めましょう。お兄様に何もあげなくても感謝の気持ちは言葉だけでも伝わりますよ」

「そうでちゅね…」


やっと諦めて立ち上がろうと前に手をついた、その時。

地面に手をついた指の先、おお!あった―――!!!

まごう事なき四つ葉のクローバー見つけたぁ――!


「ありまちたー-!あったでちゅー!!」

「まあ!やりましたね、お嬢様!」

歓喜の踊りと共に四つ葉のクローバー発見に喜びの歌を唄い出した。


お兄ちゃまのお守り~♪ お兄ちゃまのためのお守り~♪

お兄ちゃまを守るためにょ きゃわいい四つ葉めっけ~♪


「きゃー、お嬢様やっぱり可愛いです~!」

ダリアさんは、ひたすらあたしの御ひいきである♡


*       *        *        *


 少々離れた場所でルトガーに剣の稽古をつけられて疲れ果てたフェルディナンドとリアムが佇んでいた。

「あそこでアホな歌を唄っているのはアンジェかな」

「紛れもなく妹様でしょうね」

リアムの語感には他に誰がいるのだという含みがあった。


ルトガーが笑って息子の肩に手を置いて言った。


「アンジェは四つ葉のクローバーを探していたのか。もうバッソに帰る時刻だからな。

挨拶をしておけ、フェルディナンド。

きっとアンジェはお前のために何かしてあげたかったのだろう」


「し、仕方ありませんねえ。アンジェに声を掛けておきます」


照れくささを押し殺したフェルディナンドが近寄って行くと、アンジェが素早く兄の姿を見つけた。

ちょこちょこと危なっかしく駆け寄って、たった今手に入れた物を誇らしげに見せた。


「お兄ちゃま!絵本ありがとでちゅ。うれちかったでちゅ!」

アンジェは満面の笑みで四つ葉のクローバーを差し出した。


「これ、お兄ちゃまにあげまちゅ。お守りでちゅ」

小さな妹から受け取った四つ葉は珍しいことに、とてもきれいな薄いピンクの斑が入っていた。


フェルディナンドは四つ葉を持ったアンジェを抱き上げた。

「ありがとう、僕の妹」

そういうと、微笑んだ兄はギュッと妹を抱きしめた。

ルトガーは、子供達の様子を、眼を細めて眺め、胸の底がじんわりと温まった。


離れた場所でカメリアとディオ、セリオンがその様子を見ていた。

「初めの頃は心配したけど、仲良くなったみたいで本当に良かったわ。ねえディオ?」

カメリアが横にいた小さな弟に眼を向けて、優しく同意を求めると、弟の顔は明らかに引きつっていた。


「そうですね…本当に良かった…」

*ムカ ムカ ムカ*

(なんで急にアンジェに慣れ慣れしくしているんだ!始めは嫌がっていたくせに!アンジェにひっつくな!!!)


刺すような視線で、我が子を睨みつける弟を、カメリアは引き気味で見つめた。


その様子を見てセリオンは軽く溜息をついた。

―ディオの女の趣味が絶対に理解できない…


*      *       *       *


 

 そろそろバッソに帰る時間になった、ちょっとドキドキしながらボンボンを食べてからヤモリンを木箱から呼ぶと這い出してきた。

お昼の犬は念話が通じなかったので心配したが通じたようでホッとした。


『ヤモリン、あたし達これからバッソに帰るの。ヤモリンも一緒のお家で暮らさない?』


ヤモリンは落ち着かないように足を踏みしめた後、残念そうに言った。

「あっしは行けないでゲス。嫁さんを探して、あっしの卵を産んでもらうんでゲスよ。きゃ!恥かしいでゲス!!」


ヤモリンはテレまくって足をちょこまかと忙しく動かしている。

『バッソではお嫁さん見つからないの?』


『実は嬢ちゃんに会ったのは嫁さんを探すためだったんでゲス。

あの日、女の子のヤモリの声が地下から聞こえて、探しに出かけたんでゲス』


それで、たまたまあたしと出くわしたのか。


『そうでゲス、このお城なら仲間がいるのは確かでゲス。

あっしらは一度にたった2個しか産卵しないから、子孫を残すために確実に出会いたいんでゲス』


え!ヤモリってそんなに卵少ないの?

知らなくてびっくりしていたら、ディオ兄があたしを慰めた。


「アンジェ、何となくだけど話はわかったよ。ヤモリンのお嫁さん探しを応援してあげようよ」


「うん、俺にもなんとか話がみえたぜ。アンジェまたヤモリンに会いにくればいいじゃないか?」


 ディオ兄とセリオンさんにもあたし達の念話が何となくわかったらしい。

確かにそうだ。そこで、ヤモリンはお嫁さん探しに専念してもらうため、夜でも灯りを絶やさない城門の護衛所に置いていくことにした。


涙ぐみながら守備兵さん達にヤモリンをお願いしておいた。

灯りで虫が多く集まるので、きっと他のヤモリと出会えるチャンスがある。

きっと可愛いお嫁さんが見つかるだろう。


馬車に乗り込んだあたし達を、城門までカメリア様とお兄様が護衛と共に別れを惜しんで見送ってくれた。


「それじゃあ気を付けてね、アンジェはディオを連れてもっと遊びに来て頂戴、あなたはもう私の娘なのだから」

「ありがとごじゃいまちゅ」


頬を撫でてくれる手が暖かかった、ここで「ママ」と言ったらあざとすぎて嫌なので、敢えて言わずに我慢した。きっとそのうち自然に言える。


「ルトガー、フェルディナンドは明後日の授業に間に合わせるように、明日の夜明けに護衛を付けて王都に帰すわ」


慌てた兄様がカメリア様にそれがどんなに酷い行為か訴えた。


「母上そんな殺生な!無茶ですよ、王都迄90キロありますよ?騎馬では絶対に一日半以上かかります、2日でもきつい位ですよ?」


「おまえ、俺が菓子屋でボンボンの特注をしているのを見ていたそうだな。

ということは、あれは平日だから授業をさぼっただろう?」


パパに痛いところを衝かれたお兄様は、ビクッと体を動かし目をあらぬ方へと宙に迷わせた。

後ろに控えているリアム君は、だから言ったでしょとばかりに、遠い目をして顔を背けた。

優しい微笑をたたえたカメリア様がやんわりと厳しい言葉を掛けた。


「道中にはエルハナス家の配下の家があるわ。そこで馬を変えて行きなさい。

私も鬼じゃないから暗くなったら危険なので寝るのは許可します。その代わり、日のあるうちは全力で馬を飛ばしなさい。

明後日の学校の授業には必ず出席できるように頑張りなさいね」


「今は日が長くなっているからな、気合を入れて行けば大丈夫だろう。フェルディナンド、嘔吐と股ずれは覚悟しておけ。

ああ、馬の振動で疲れているところに、水分は大量に一気に取ると、吐き戻しだけじゃ済まなくなるから気を付けろよ」


「………」


青い顔をしているお兄様に、パパはバッソに戻る馬上からニコニコして別れを告げた。

一緒に行動する護衛達は口には出さなかったが、我が身の災難を嘆いていたようだったらしい。


ちなみに、何故かディオ兄はあたしを抱っこして馬車の中でニヤニヤしていた。


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