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〈二〉― 5

耳に手のひらを当てて固く目を瞑った。

聴こえていた喧騒が遠くなり、瞼の裏を凝視する。無心でその状態を維持していると、肩を三回叩かれたので目を開ける。


「……行ったか?」


「うん。諦めるの早くなってきたね」


「ああ、運の良いことにな。ハァァ…」


自分の机周りにトオルしかいないことを確かめて、芯護はホッと胸を撫で下ろした。




歓迎とお祝いムードが冷めやらぬ教室で、芯護が戻ってから授業が二つ消化された。生徒のほぼ全員は、教師の話はそっちのけで芯護に寄ってきて騒ぎ、自分のせい(?)で学級崩壊した図には日頃からよくサボる芯護すら恐れおののいた。特待生外界組の追っかけにも言えたことだが、こいつらの情熱は確実に方向性を誤っている。と、ストーカーまがいの行為に手を染めながら超無自覚な芯護は思う。辛抱して付き合うのも馬鹿らしいので、奥の手として『見ざる聞かざる動かざる』の体勢にてクラスメイトを回避していた。

芯護が石像ばりに固まっているトオルが彼らを応対し、大人しく引き下がっていったら肩を叩いて知らせる。この方法が功を奏して、集まってくる頭ののぼせた有象無象の数は大分減った。それは喜ぶべきことではあるのだが、一躍時の人となった芯護の気苦労は蓄積したまま、いつかの時みたく机に沈み込んでしまった。


「メンドクセー……どいつもこいつもはしゃぎやがって、こっちの迷惑も考えろよな」


「仕方ないよ、やっぱり皆、興味あるんだから。俺もね」


「ねだられても出せないもんは出せないんだよ。『器』はセイレと連が持っていってるって、何度説明すれば済むんだ」


皆がどうして芯護に熱を入れているのか。それは生徒達の関心が、芯護の産み出した律神器にあるからだ。そうでなければ、落ちこぼれーズの特攻隊長が特待生並みに持ち上げられたりはしない。

しかし、だ。まさか自分が『器』を産み出して、どころか外界組にも劣らない人気を集めて持て囃される立場になるとは思ってもみなかった芯護は複雑な心境だった。律神器を発現したのは自分が望んだから、あの状況下ではやむを得なかったからで、名声が欲しくて発現したのではない。高慢高飛車な特待生ディスケルグならともかく、問題行動で目立ちながらもそれなりに地味な部類に入る芯護からすれば、皆からの扱われように不満を持つのは当たり前だ。

というか、これまでちやほやされた経験が絶するほどに無かったので、芯護は照れ臭いのだ。他所で騒ぐなり噂するのは勝手だが、直接自分を巻き込むのは勘弁して欲しかった。


「…悪いな、面倒なこと頼んで」


「気にしなくていいよ。それよりも、注目集めるのが嫌なら他の場所に逃げたらどう?」


「“あれ”を突っ切れっていうのか? 逃げ場があるようには見えないぞ」


トオルの提案に芯護は目をやる。

廊下では、“落ちこぼれが律神器を発現して悪人を成敗した”との噂を確かめるべく、他クラスの生徒がごった返していた。物見高い彼らは教室までは入って来ないようなので、実質この場に留まっているのが現状の妥当案となった。


「幸い、さっきので午前授業は終わりだからな。あいつらだってそう長くは居残らないだろ。全員食堂に引っ込んだ後に抜け出せば良いさ」


「でも、俺達が食堂まで行く時間は足りるかな? ここって位置的に結構離れてるけれど」


「最悪、飯は抜く。トオルはレンバノと合流して食堂に行ってこいよ。俺は自分の部屋に戻って夜まで閉じこもるから………と、また来た!」


話しているうちに、機を窺っていた生徒二人が近づいてくるのが見えた。芯護は手を素早く耳に、目でトオルに合図して閉じる。最後に見たトオルはやれやれといった感じで二人組へ向かい、芯護の捉える感覚は暗闇とほんのり聴こえる喧騒だけとなった。

身動きの取れない芯護はすることがなく、無心でいるのにも飽きた。そう長くは続かないだろうが、この騒動がいつまで継続されるのかと、暇を潰しがてら自分の先行きなどを心配する。一週間か二週間か…、いやまさか、一ヶ月はあり得ないだろうけれど、外界組に対する熱の下がり幅が低いこともあるから望みはかなり薄そうだ。

出来ることなら数日くらいで冷めてくれないかなー、なんて逃避気味に現実から目を逸らし、じっとトオルの合図を待ち続ける芯護は、


(………音が消えた?)


微かに聴こえていた話し声や物音の一切が無くなっていることに気づいた。いつまで経っても肩は叩かれないし、不審に思った芯護は薄く目を開けて、




教室から人の姿が、芯護一人を残して忽然と消えている光景を見た。




「…、トオル?」


教室全体を注意深く見回しても、机の下に潜って探しても誰も見当たらない。人が何の脈絡も無しに消えた……? と芯護が狼狽えていると、左右に二つずつ設けられた教室入り口の一つから声がした。


「芯護、皆先に行っちゃったよ。俺達も急がないと」


「え?」


声の主はトオルで、教室後方の半開きの扉から顔を出していた。急に消えてしまったことに驚きつつも、すぐに居場所が知れて安心した芯護は、トオルの言葉が腑に落ちなかった。

口振りからして生徒は全員教室を出たようだが、たむろう生徒達は雰囲気的にまだ食堂に行く気配はなかった。それに“急げ”とは、話の流れから『自室に逃げろ』となるだろうに、ではなくて『生徒達の後に続け』と言っているように聞こえた。

第一、目と耳を塞いで周囲の状況が判らない芯護を放っていくのは、気配り上手なトオルらしからぬ行動だ。色々と不可解な点が多くて悩んだ芯護は、動くよりも先に浮かんだ疑問の方を問いただした。


「急げって、何処に行くんだよ。なんで俺に教えてくれなかったんだ」


「何言ってるんだよ、さっき連絡があったでしょ。昨日の事件の説明も兼ねて避難訓練するから、緊急避難場所の隔離施設にって、“耳に声が届いただろう?”」


てっきり聴こえたかと……、と釈明するトオル。芯護は『耳に声が届いた』のヒントから、なんとなく覚えていた記憶の情報を引っ張り出す。

特待生外界組の中には、音響の万理を秘めた『器』を発現する律神士がいる。音の振動を操ることによって長距離まで届かせて、障害物は反射を繰り返してかわし、伝えたい人物へ直に言葉を伝達する。

覚えがある。芯護がしょっちゅう眺める『気になる少女』(えひな)といつも一緒の、仲の良さそうな女子生徒。黒のおかっぱ頭に、見た目に反して豪奢な首飾りを付けた、勝ち気そうな少女。

名は確か―――、




「聴こえないわよ。私の【木霊】は、アンタ以外を対象に言葉を伝えたんだからね」




芯護の背後から声がした。

トオルの顔は仰天して、芯護も即座にそちらを向く。そこには特待生外界組の一人が立って、きつく芯護を睨んだ上で、首から下げた【木霊】の首飾りに両手を添えている。

その姿勢は、律神器を発現する時の彼女の構え方だ。




「髄から震えろ………【木霊】〈ルクゥラ〉!!」




「ぃイ゛ッ!??」


ギィイイン!! と、

鼓膜が破れんばかりの大音響が壁となって芯護に襲いかかった。


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