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赤い眼の魔導士  作者:
本編
6/16

5 左利きの魔導士

 翌日、生き残った討伐隊全員に集合をかけたアラン参謀長は、できることをする、と静かな声で告げた。

 参謀長の表情は淡々としていたが、彼が昨晩一晩中懊悩していたことは、隊員ほぼ全員が分かっていた。それでも彼の指示の内容は、この戦局でもこれっぽっちもあきらめた様子はなく、みな驚愕に声もない。どういう精神力をしているのだろうか。


 参謀長からの指示で、これまで使われることのなかった、攻撃用の魔法陣を使用することとなった。陣内へ敵を追い込めば、力弱い魔獣は殺せるほか、強い魔獣にも相応のダメージを与え、行動を制限できる。ただし、この魔法陣は作成に時間がかかり、今の魔導士分隊の力では完成までに1か月は要する上、維持にも人手がかかる。

 併せて戦闘時には、防御用の結界以外に、敵の行動を封じる結界の展開も行う。

 魔導士への負担は高く、また結界に人手を割かれて回復系の魔術はほぼ使用不能となるが、魔獣が魔力を意志を持ち操るようになった以上、今の戦力でできることはこれしかない。何とか魔力で魔獣を捕縛し、剣士がとどめを刺す。



 「ねえあなた、どうしていつも半分しか起きていないの」


 ほとんど手元に目もやらず、無造作にいびつな魔法陣を書いていくトーマスに、セラが見かねて声をかけた。

 これまではやる気のない魔導士でもいないよりましと見逃していたが、戦局がここまで切迫している今、黙っているわけにはいかなかった。特に魔法陣は、鎖と同じで一番弱い部分が全体の強さを決める。合同で作り上げる魔法陣に、不出来な紋を書かれるのは死活問題だった。


「いつも、左半分の脳みそしか使っていないでしょう。渡り鳥でもあるまいし」


 トーマスは薄ら笑いをやめず、右手を動かし続ける。

 いやな男、セラは眉をしかめた。

 彼の使っていない残りの半身には、相当な魔力があろうと思われる。以前の戦闘中に一度だけ、彼の左の人差し指がかすかに動き魔獣の炎が吹き飛ぶのを、セラは目撃した。トーマスのいとこにあたる、赤毛の女剣士に叩きつけられそうになった炎だ。


 「赤銅の騎士」は良い剣士であると思う。筋力、持久力は人並みだが、正確な剣筋と冷静な判断力、敏捷性は、群を抜いている。でも、この過酷な戦場で彼女が数少ない生き残りである理由は、それだけではない。いつも紙一重のところで、このやる気のない魔導士の左指がかすかに動いているに違いない。


「なんなら、代わりをよこしてもらうから帰ってもらって構わないのよ。あのかわいいいとこの剣士さんに、あとに響かない怪我でもしてもらって、一緒に帰ればいいじゃない」


 はじめて、トーマスの口元から薄ら笑いが消えた。


「できるわけ、ないだろう」


 ぞくりとするような表情だった。


「分かったわ。とにかく、あなたは攻撃の魔法陣は書かないで頂戴。邪魔だけはしないで」


 お手上げだ、とセラは踵を返す。あの裏表のない気持ちのいい性格の赤銅の騎士と、この陰気な魔導士がいとこだというのは、血統というものあてにならないものだと思いながら。


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