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赤い眼の魔導士  作者:
本編
3/16

2 トーマスと赤銅の騎士

 ディアナはぼんやりと踊る炎を眺めながら、干し肉をかじっていた。

 昨日少し足の筋を傷めたせいで、今日は久しぶりの非番だった。

 王都を出立してから、4年がたつ。同輩の剣士たちは、死ぬか怪我を負い帰還するかして、もうほとんど残っていない。この戦いのはじめから討伐隊に在籍するディアナは、無駄に長くいるせいで、その赤毛が相まって赤銅の騎士、などという異名をとってしまう始末である。


 討伐隊に志願したのは、正しかったのかな。夏の終わりの少し冷たい夜風にぶるりと体を震わせて、星空を見上げる。


 「いくらなんでも薄着すぎるだろ」

 

 見上げた先には星ではなく、薄青色の双眸があった。魔導士隊に所属するいとこは、露骨に顔をしかめてディアナの頭から毛布をかぶせる。


「いやもうテントに帰るし」


 魔導士というのは、基本厚着だ。夏場でも肌を出すことはめったになく、フードに長いローブ姿。まあ、体動かさないし汗かかないのかもしれないけど。


(いや、それにしても力使わなさすぎでしょ…)


 ディアナは、隣に座ったいとこであるトーマスをちらりと眺める。

 戦闘において、前線で剣をふるうディアナたちが、魔導士の働きを直接見ることはほとんどない。それでも、いざ追い込まれた時の結界や回復魔法は、戦闘の陰の要ともいえる。

 剣士たちの間でのトーマスの評判は、概してよくない。というか、あまり認識もされていないように思う。

 この4年で、トーマスが主魔導士として戦闘する日は無くなった。補佐として最低限の魔術を使うことはできるが、主力を張る魔術は力不足だとの判断だ。

 それでもトーマスが王都に呼び戻されないのは、進んで死地へ赴こうという代わりの魔導士がいないせいだ。


 15年前に離れたいとこの、魔導士養成学校や魔導士隊での芳しくない評判を、ディアナは信じられない思いで聞いていた。幼いころにディアナに見せてくれた数々の魔術は、どう考えても落第生のそれではなかったように思う。

 しかし、討伐隊出立の朝、15年ぶりにディアナの前に立っていたのは、ひょろりとした顔色の悪い、いつもニヤニヤ口元をゆがめている頼りなくいけ好かない魔導士、評判通りの男だった。


 子供のころ、彼がディアナに見せる以外で、本気で魔術を使っていないことは分かっていた。利き腕が左であることも隠し、わざと子供っぽい失敗をしては母親の関心を引こうとしていた。

 まさか魔王との戦闘でまで本気を出さないことはないだろうと、ディアナはトーマスの評判が上がることを願って、女だてらに討伐隊に志願し、トーマスを推薦した。断るかとも思ったが、彼は討伐隊に加わった。しかし、だ。


(どこまで手を抜けば気が済むの。もうあんたは、天才少年でも何でもないのよ)


 ディアナはため息をつき、さっさとテントに引き揚げる。


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