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エピローグ
今年も、柔らかい若葉が山々を彩る季節がやってまいりました。喫茶店兼代筆屋の看板を軒先にぶら下げ、鼻孔をつく新芽の香りに、私はわけもなく深い吐息をつきます。
カウンターに戻ったところで、店の軒先に人影が立ちました。お早いお客様。今日は幸先の良い滑り出しです。
「エダ」
忘れようもない上機嫌なお声に、私の思考は止まりました。
「今日はいい天気だね」
固まって声も出せないでいるわたくしの前に、漆黒の双眸が近づいてこられます。
5年ぶりの端正なお顔立ちがぐにゃぐにゃに歪んで、自分はどうやら泣いているようだとぼんやりと考えておりますと、あの人ははじめて、カウンターを跳ね上げてわたくしのかたわらにお越しになりました。
「エダ」
15年前、16歳のころから存じ上げているその方の、胸が意外にも広くがっしりとしていることに、私はかすかに驚きながら抱きすくめられておりました。




