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ドラゴンの守護者  作者: おとしんくるす


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7 謎の手紙

 クオートが研究所へ来て一週間。人間の順応性とは恐ろしいもので、当初は三日で死ぬと思っていた環境にも、それなりに馴染んできた。


 クオートの馬はすっかり夜道に馴れ、今では寝ている主人を乗せて、毎日の往復をしっかりこなしてくれている。

 ルナールが『お前の馬は主人より賢いな』と言っていたが、本人も全くその通りだと思う。


 ルナールは基本的に、最低限の手伝いさえしていれば後はなにも言わない。おかげでクオートは往復の移動時間にたっぷりと眠る事ができ、なんとか過労死を免れている状態だ。


 移動中の馬の上で熟睡するなど普通はなかなかできる事ではないのだが。天性の怠け者ゆえのどこでも眠れる才能が、思わぬ所で役に立っている。


 研究所の前任者たちが全員辞めてしまった問題も。ルナールの性格は厳しいものの、期待されていないからかあまり要求は多くないし。やたら長い勤務時間は、半分を占める往復の行程を睡眠時間に当てる事で解決した。


 行き先がドラゴンの出没地帯で命がけなのはどうにもならないが、まぁルナールがまだ死んでいないのだから、意外と危なくないのかもしれない。


 クオートは持ち前の能天気さでそう考え。それなら、エメリーが私生活全般の面倒を見てくれるこの職場は、案外当たりなのではないかと思いはじめていた。



 ……そんなある日の事。調査から帰るといつも明るい笑顔で迎えてくれるエメリーが、どこか浮かない表情をしていた。


「ルナールさん、今日警備隊の方がいらしてこれを……」


 そう言って差し出したのは、高級そうな封筒に御大層な封蝋ふうろうがされた手紙だった。

 ふもとの警備隊からは数日置きに食料や日用品が運ばれてくるので、それと一緒に手紙も届けられたのだろう。


 ルナールはそれを見ると、露骨ろこつに不愉快そうな表情を浮かべる。


「わかった。ありがとう、エメリー」


 ルナールは重い声でそれだけ言うと、手紙をしまってさっさと厩舎きゅうしゃへ戻ってしまう。

 いつもは一緒に馬の世話を手伝うエメリーが、立ったまま悲しそうにそれを見送っていた……。


「……ねぇ、エメリー。あの手紙なんなの?」


「わたしにも詳しい事はわかりませんが、ルナールさんのお父様からの手紙みたいです」


「保護官長のお父さん?」


 たしかルナールの父親といえば、名門ピアストル家の当主にして王国宰相。つまり、この国で国王の次くらいに偉い人だ。


「保護官長って家の話はしたがらないけど、親と仲悪いのかな?」


「わたしもよく知らないんです。ルナールさんはその話をするのをすごく嫌がりますから。でもあの手紙がきた時は、決まって機嫌が悪くなってしまわれるんです……」


 エメリーはそう言って目を伏せる。


「……わかった、俺がそれとなく訊いてみるよ」


「クオートさん! あ……でも……」


「大丈夫だよ、訊いてみるだけだし。いつもお世話になってるエメリーをこんなに心配させるなんて、酷いよね」


「そんな、わたしは……」


 普段ならこんな厄介事には頼まれても首を突っ込まないクオートだが、エメリーには本当に色々お世話になっているのだ。

 そのエメリーが今にも泣きだしそうにしているのは、さすがに捨て置けない。あえて火中の栗を拾う覚悟を固め、厩舎へと向かう。



 ……厩舎では、ルナールが愛馬に餌を食べさせながらブラシをかけてやっていた。

 クオートは自分の馬を隣に繋ぎ、水と餌をやりながらまずは横目で様子をうかがう事にする。


 いつも無愛想なルナールだが、今日は輪をかけて人を寄せ付けないオーラを放っている。話かけるには勇気が要ったが、エメリーに約束した手前ここで退く訳にはいかない。


 目を合わせないようにし、馬の世話をしながらそれとなく言葉を発する。


「保護官長、さっきの手紙はなんだったんですか?」


 クオートは基本、『それとなく』とか器用な事は苦手なタイプだ。


「…………」


「……あの、保護官長? 聞いてま……ひっ!」


 反応がないのを不審に思い、ルナールの方に目をやったクオートは、短い悲鳴を上げて持っていたニンジンを取り落とした。


「──貴様には関係のない事だ」


 ルナールは顔をわずかに伏せているので、髪に隠れて表情はよくわからない。しかし、冷たく重い響きをはらんだ声だけで十分にわかる。これは不機嫌なんてレベルではない。


 恐怖にひざが震え、心が折れそうになるが、一瞬浮かんだエメリーの悲しそうな顔が、クオートの決意を繋ぎ留めてくれた。


「お、俺には関係なくても、エメリーにはありますよね? エメリー、すごく心配してたんですよ」


「…………」


 エメリーの名前を出すと、ルナールの気迫が少し緩んだ。鬼の保護官長も、エメリーには弱い所があるのだ。


「……これは私個人の問題だ。それでエメリーやお前に心配をかけた事は詫びよう。だがお前に干渉されるような事でもない。そんな事を気にしている暇があったら、少しでも調査の役に立つよう仕事を覚えろ。二人になったのに、効率が1.1倍にしかなっていないぞ」


 怒鳴ったりする訳ではないが、静かで威圧的な口調が逆に怖い。


 そして、ルナールは気分によって人の評価を不当に変えたりするタイプではないので、1.1倍というのは正当評価なのだろう。本人もあまり役に立っていない自覚はあったが、どうやら思った以上に役に立っていなかったらしい。


 ともあれ一応意図は伝わったようで、夕食の席でのルナールは表面上いつも通り振る舞っており、エメリーも嬉しそうに話をしていた。



 結局事情はさっぱりだったが、エメリーの笑顔だけでも頑張ったかいがあったなと、クオートは密かに自己満足に浸るのだった……。

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