~エピローグ~
王都を発って20日ほど。
クオート達は研究所に戻る前に警備隊に立ち寄り、ルビング隊長に報告をする。
隊長は三人の元気な姿を見て事の外喜んでくれ、公爵を殺した話には少し表情を曇らせたが、ルナールが元気そうなのを見ると、安心したように表情を和らげた。
警備隊で食料などの補給物資を受け取って一泊し。懐かしの研究所へと帰り着いた日の夕方。
夕食の席になんだかやたらと豪華なごちそうが並んでいるのを見て、クオートとルナールは顔を見合わせる。
なにかのお祝いだろうかといぶかしんでいると、そこにエメリーが大きなケーキと、なぜかルビング隊長も伴って姿を現わしたのだった。
「ルナールさん、クオートさん。御婚約おめでとうございます!」
「「……え?」」
エメリーの言葉に、二人の声がきれいに重なった。
「いや、まさか君達二人が婚約とはな。エメリーに聞かされた時には驚いたが、存外似合いの夫婦になるかもしれん。おめでとう!」
ルビング隊長が、本当に嬉しそうに祝福してくれる。
「ええと……あの……」
クオートには、この状況に心当たりがあった。
キュビエ公爵との決戦の前、ルナールが公爵に対するカードの一つとして、婚約話をでっち上げたのだ。そしてそれを公爵に対して。エメリーもいる所で口にした……。
「あ、あの……エメリー?」
「なんですか、クオートさん?」
(う……)
本当に心から祝ってくれているのだろうエメリーの嬉しそうな顔を見ると、クオートはとても『あれは嘘でした』とは言い出せなかった。
ルナールも同じなのか、顔を耳まで赤くしてうつむいている。
「今日はめでたい日だ、大いに祝おうではないか!」
「腕によりをかけてごちそうをつくりましたから、たくさん食べてくださいね!」
「ピピーッ!」
場の空気的に否定ができない間に。なんだかどんどん引っ込みがつかなくなっていく。
クオートは天性の主体性のなさを発揮して、早くも状況に流されつつあった。
ルビング隊長からお祝いの言葉を受け、エメリーに勧められるままに料理を食べる。
ルナールも、いつもならきっぱりと否定しそうなものなのに。クオート同様流されるようにお祝いを受けている。
あまり困っている様子がないのを不思議に思いながら、クオートはエメリー心尽くしの料理に舌鼓をうち、ルビング隊長に肩を抱かれて冷やかされていた。
……パーティーは夜まで続き、明日の仕事があるからとルビング隊長が席を辞した時点で、一応終了となった。
テンション高く、ゴキゲンで後片付けをするエメリーを見ながら、クオートはそっとルナールに話かける。
「保護官長、どうするんですか?」
「……どうと言っても、事実として認めるしかなかろう」
「え……まぁ、保護官長がそれでいいのなら、別にいいですけど……」
クオートは『とりあえずそういう事にしておいて、自然消滅を演出するつもりなのかな?』と理解し。一旦引き下がる。
二人の間に微妙な認識のズレを生じさせつつ、クオートとルナールは公式に婚約関係となったのだった。
「そうだ、今夜からお二人の寝室は同じにした方がいいですか?」
「「──は?」」
片付けを終えて戻ってきたエメリーの言葉に、またも二人の言葉がきれいに重なった。
「いや、さすがにそれは……」
「そうですか。そうですよね、まだ婚約で結婚じゃないですもんね。失礼しました。ふふっ……」
そう言って照れくさそうに笑うエメリーを見て、クオートの脳裏にキュビエ公爵との決戦前。ルナールが結婚を真面目に考えてみてくれと言っていた事が思い起こされた。
(……まさかね。あれは大事を前にした心の揺らぎだよね?)
半ば自分に言い聞かせるようにそう結論付けて、改めてルナールを見る。
と、ルナールはまるで気恥ずかしさを振り払うかのように、口調を正して言葉を発した。
「明日は二時出発の予定で調査に行くから、二人共そのつもりで準備をしておいてくれ」
「はい!」「はい?」
今度はエメリーとクオートの声が重なったが、内容は同じではない。
「ちょ、保護官長。二時って真夜中ですよ?」
「心配するな、現地に着く頃には夜が明けているだろう。三ヶ月近く調査ができなかった分を取り戻さねばならんからな」
(あ、これは本気で言っている目だ……)
クオートの心の中に、やっぱり辺境部隊の部隊長にしてもらえばよかったかなと。そんな後悔が湧き上がってくる。
……ともあれ、これがここでの日常であるのも確かなのだ。
だからこそクオートは、馬に乗りながら熟睡するという特技まで身につけたのである。
……しかし、それと二時起きが平気かどうかは全く別の話だ。
クオートは気が遠くなるのを耐えながら、王都にいた時には見た事がなかったほど目を輝かせているルナールを見て、やれやれと溜息をつく。
……こうして、正反対の性格をした二人の婚約者と、二人を慕う少女。心を通い合わせたドラゴンとの共同生活は、これからも続いていくのである。
いつの日か遠い未来に、誰か一人が欠けるまで……。
本作はこれで完結となります。
お読み頂いた皆様、ありがとうございました。
文章量に制限がある公募投稿作であった都合上、文庫一巻分相当で終了となる事をご了承ください。




