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ドラゴンの守護者  作者: おとしんくるす


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43 みんなで一緒に

 訪ねてきたルナール兄からの使いは、ルナールの無事を確認すると。手紙を置いてすぐに帰っていった。


 その手紙には、『後の事は自分が処理しておくから、気にせずにおまえは好きな事をやれ』と書いてあったらしく、ルナールは『兄上……』とつぶやいて、少しだけ目をうるませていた。


 クオートも手紙を読ませてもらったが、王国宰相であったキュビエ公爵については、とりあえずやまいに倒れた事になり。いずれ頃合を見て、病死と発表されるらしい。


 屋敷の爆発やエルクが上空を飛び回った事も、どんな手を使うのか知らないが、もみ消してくれるのだそうだ。

 権力者というのは、こんな時実に頼もしい。


 この家もピアストル家の管理下でこのまま保存されるそうで。『おまえが王都に来た時の宿にでもしろ』と書いてある。


 なんだかすごく物分かりのいい手紙で逆に不安になるが。考えてみれば、後継者争いの相手にもなりかねない妹が、自主的に辺境に去ってくれるのである。

 兄としては願ったり叶ったりで、最大限気持ちよく送り出してあげたいという事なのかもしれない。


 ……そんな事を考えながら手紙を読んでいたら。最後に『自由にしていいと言ったが、父上の葬儀にはちゃんと出席するように。仮にも公爵家の娘であり、王位継承権を持つ者であるという自覚を忘れないように』と書いてあったので、ただ妹の奇行に理解があるだけのお兄ちゃんな気もしてきた。


「……ていうか保護官長。王位継承権なんて持ってるんですか?」


「ああ、私の祖父は先王の弟だからな。たしか17位だったか18位だったか忘れたが、そのくらいの継承順位だったと思う」


 ……なるほど。仮にも公爵家のご令嬢とあれば、そのくらいの立場でもおかしくないのかもしれない。

 思っていたよりもずっと高貴な存在だった事を知って、クオートは改めてまじまじとルナールを見る。


 というか、なんで自分の王位継承順位を正確に覚えていないのだろうか?

 驚異的な記憶力を持っていて、二ヶ月前のエルクの身体測定結果を正確に覚えているくらいなのに……。


(……まぁ、興味がないからなんだろうな)


 まだ半年も経っていない付き合いだが。ルナールは王位に対する興味なんて、ドラゴンに対する興味の一万分の一も持っていないのは間違いないと思う。



「……さて、研究所に帰る準備をするぞ」


 そう言って立ち上がったルナールに、クオートが疑問の言葉を投げる。


「え、でも手紙に。『公爵の葬儀に出席しろ』って書いてありましたよ」


「葬儀などまだ先だろう。死去の発表まで早くて一月。それから知らせを国中に飛ばして、参列者が集まるのを待ってからになるから、最短でも秋。年をまたいでもおかしくない。そんなに待っていられるか」


 ……なるほど。王国宰相ともなると、葬儀一つでも国中から人が集まる大掛かりなものになるらしい。


 偉い人も大変だなと思いつつ、クオートも研究所へ帰るための準備に取りかかる。

 主な案件は、空き家になってしまうこの家の整理だ。


 ――ルナールが蔵書の山に手をかけた所で、エメリーが飛んでくる。


「ダメですよ! ルナールさんは重傷で、絶対安静なんですから! わたし達がやりますから、座っていてください!」


「いや、しかし……わかった、大人しくしているよ」


 有無を言わせぬエメリーの気迫に押されたのか。ルナールは椅子いすに腰を下ろして、クライゼン老人の蔵書を読み始める。

 やはり、エメリーには猛獣使いの才能がありそうだ。



 クオートとエメリーで掃除と整理をはじめ。丸一日かけて作業を終えて就寝すると、翌朝はもう研究所へ帰る日だ。


 クライゼン宅はルナール兄の配慮で、定期的に修繕や庭の手入れなどの管理が行われるとの事なので。後は任せる事にして。クライゼン老人のお墓にもう一度全員でお参りをして、王都を発つ。


 重傷のルナールの代わりにエメリーが馬車の手綱を握り。クオートは荷台の揺れをものともせずに眠りにつ……こうとしたのだが、ルナールが話しかけてくる。


「……なぁ、クオート三士」


「はい」


「……今回の件で、お前には本当に助けられた。正直、どれほど感謝しても足りないと思っている」


「え、いや。そんな事……」


 予想外の事を言われて困惑しつつ、クオートはルナールの様子が少しおかしい事に気がついた。


 いつものルナールらしくなく、なにか自信がなさそうで、伏せ目がちなのだ。視線も微妙に合っていない。


「クオート三士、あのな……」


「はい?」


 まったくもってルナールらしくない歯切れの悪さで、なおも少し逡巡しゅんじゅんしていたが、意を決したように言葉を発する。


「世話になった礼に、もしお前が望むならだが、あの男がお前にした約束を履行してくれるよう、兄上に頼んでみてもよい。どうだ?」


「え……?」


 ルナールの言葉に、クオートは目を見開いた。

 平和な辺境部隊の隊長勤務という、クオートにとって夢の生活が再び目の前にぶら下げられたのだ。


 それは好きなだけ寝ていても誰にも文句を言われず。身の回りの事は全てだれかが世話をしてくれる、天国のような暮らしである。


 ――すぐにでも飛び付こうとしたクオートの脳裏に、ふっとエメリーの顔が浮かんできて、のどまで出かかった返事が止まる。


 もしもクオートがいなくなると知ったら、エメリーは悲しむのだろうか? ……ひょっとしたら、泣いてしまったりするのだろうか?


 散々お世話になったエメリーを悲しませるのは、クオートにとってとても心が痛む事だった。正直、涙目になられただけでも耐えられる気がしない。


 まして、そのまま涙目で無理に作った笑顔を浮かべられ。『寂しいですけど、お元気で……』なんて言われた日には、とても背を向けて去るなんてできるとは思えなかった。


「…………」


 ――半年前のクオートだったら、一秒も迷う事なく悠々自適の生活を選んでいただろう。


 だがクオートは迷い、心は大波に翻弄ほんろうされる小舟のように揺れ動いた。

 ルナールが不安気にじっと自分を見ている事にさえ、まったく気付かないほどに……。


 クオートの頭の中を、エメリーの泣き顔と悠々自適の生活とが駆け巡り、困惑の極みへといざなっていく……。


「キュイ キュイ」


 さっきまでエメリーの隣で行儀良く座っていたエルクが、いつのまにかクオートのそばに来て服の端を咥え、軽く引っ張る。


 そのつぶらな瞳を見ていると、クオートはなぜか『行くな』と言われているような気に襲われた……。


 ――それは無意識の感情の表れだったのか。ともかく少し冷静さを取り戻したクオートは、改めてルナールへと視線を向ける。


 ルナールはどこか不安そうに。落ちつかない様子で、そわそわしているように見えた。


(ああ、保護官長もエメリーの事を心配してるんだな……)


 そう理解をして、クオートは揺れる心が次第に一方へと傾いていくのを感じる。


 ……自分にとってルナール達の存在が想像以上に大きくなっていたのを知って、クオートはなにか不思議な気持ちになりながら。

 意を決して、言葉を発した。


「せっかくですけど、転属の話はお断りします。俺も一緒に、研究所へ連れて帰ってください」


「──そうか、わかった。一緒に帰ろう、クオート三士!」


 返事を聞いて急に元気になったルナールを見て、クオートは驚きつつ首をかしげる。


 ……結局、エメリーの事を心配していたからだろうと納得し、話も終わったようなので、今度こそ横になって夢の世界に旅立つ事にした。



 ……三人と一匹を乗せた馬車は、なぜか妙に嬉しそうにニコニコしているエメリーの操縦で、夏の明るい日差しを浴びながら一路南西へと。


 あの懐かしい山中の研究所へと向かうのであった……。

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