表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンの守護者  作者: おとしんくるす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/44

42 戦いが終わって

 まだ落ち込んでいる様子のルナールに対し。クオートは努めて明るく、元気付るように言葉を発する。


「保護官長、一旦研究所へ帰りましょうよ。悩むのは前に進みながらでもできると思いますよ」


 その言葉に、エメリーもうなずいてルナールを見る。


 あのスタンレーの山々が。今のルナールにとってはなによりの癒しになるだろうと、クオートは思う。



 ……長い沈黙の後。ルナールは感情を飲み下すように、一つ大きな息をついた。


「そうだな。クオート三士、エメリー、エルク。心配をかけてすまなかった。私はもう大丈夫だ、一緒に研究所へ帰ろう!」


 開かれた双眸そうぼうには迷いを振り切ったように、力強い意志の光が宿っている。


「ルナールさん!」


 エメリーが喚声を上げて飛びついていく。エルクも嬉しそうに羽をばたつかせていた。


 どうやら立ち直ってくれたようで、クオートもほっと一息をつく。


 ルナールはエメリーを抱き止め、頭を撫でてやりながら言葉を発する。


「エメリー、今日は本当に世話になったな。ありがとう。これからも一緒にいて私を助けて欲しい、頼めるか?」


「ルナールさん……はい! もちろんです!」


 エメリーはそう返事をすると、ルナールの胸に顔を埋めて泣きだしてしまう。


 しばらく愛おしそうにエメリーを撫でていたルナールは、ややあって顔を上げ。遠巻きにこちらを見ている兵士の一人に、馬車を取ってくるようにと命令する。


 指名された兵士はかわいそうなくらい狼狽ろうばいし、返事もそこそこに全速力で駆け出していった。


 馬車の到着を待つ間、クオートの耳元でルナールがささやく。


「クオート三士。私はこの先、どんな事をしても自分の罪が許されるとは思わん。だが、お前の言葉で前を向く事ができた。未来を見て生きようと思えた。ありがとう……」


「保護官長……そんな、俺なんて全然……」


「そんな事はないさ。私は自分で思っていたよりも、ずっと弱い人間だったらしい。お前がいてくれなかったら、きっと道を誤っていただろう。隣にいてくれた事、心から感謝する……」


 ルナールはそれだけ言うと、瓦礫がれきの陰に寝かせてあるクライゼン老人の元へと歩いていく。


 間もなく到着した馬車に遺体を丁寧に乗せ。ドラゴンの牙で作られた剣と槍、アルティアの目から作られたという指輪も探し出して、スタンレーの山に帰すべく積み込んだ。


 遠巻きに見守る兵士達は、誰一人声を発そうともしない。


 だが、クオート達も馬車に乗り込もうとしたまさにその時。遠くからかすかに地鳴りのような音が聞こえ、馬に乗った50人ほどの一団がこちらにやって来るのが見えた。


 ルナールはクオート達に馬車に乗るよう命じ、一人でその集団を待ち受ける。


 ――間もなく到着したのは、いかにも精強そうな騎馬部隊で。先頭の馬から降りたのはルナールと同じ金色の髪をした、長身の青年だった。


 青年は王国軍の軍服を身に着けており、階級は二等将官。クオートより七つも上だ。


 従う部下達も皆将官や高級士官で、参謀章やら勲章やら特技章やらをジャラジャラ着けた、まさにエリート集団である。


「……兄上、お久しぶりです」


 長身の青年にルナールがかけた言葉。その一言に、クオートの体が凍りつく。


 青年はゆっくりと辺りの惨状を見回し、キュビエ公爵が横たわっている所で視線を止めた。


「ルナール……おまえが父上を手にかけたのか?」


「はい」


 ルナールは目を逸らす事なく、まっすぐに相手の目を見て返事を返す。


 二人はしばらくの間、厳しい表情で見つめあっていたが。ややあって青年の方が言葉を発する。


「そうか……まあ、気持ちはわからんでもないがな」


(あれ?)


 青年の口から発せられた言葉は、クオートにとって予想外のものだった。

 てっきり、ルナールを父殺しとして糾弾きゅうだんすると思っていたのだ。


「兄上、私はスタンレーの研究所へ戻ります。申し訳ありませんが、後の事をよろしくお願いします」


「ふむ……」


 ルナールより0.2エーメルほども長身な青年は、妹を見下ろし。なにかを推し量るようにじっと見つめる。

 さすがルナールの兄だけあって、端整たんせいな顔立ちの美青年だ。


「……もしここでおまえを父殺しの罪で討ってしまえば。ピアストル家の財産も権力も、全て俺一人のものという事になるな」


「やってみますか? その代償、存外高くつくかもしれませんよ」


 この状況で。50人の精鋭騎馬兵を目の前にして、ボロボロの体のルナールはいささかもおじけづく事なく言い放った。


 馬車の中ではエメリーとエルクが早くも戦闘体勢だが。二人共消耗が激しく、とてもまともに戦う事はできないだろう。


 それはクオートも同じだったし、ルナールに到ってはなにをか言わんやである。

 闘志こそ鋭いが、本当は立っていられるのが不思議なくらいの重傷なのだ。


 二人は互いに相手を威嚇いかくするようににらみ合い、張り詰めた沈黙が流れる……。



「…………ふっ。ははは、相変わらず気の強い事だ。父上が敵わなかったのも無理はない。その様子なら大丈夫そうだな」


 しばらくして沈黙を破ったのは、兄の方だった。

 愉快ゆかいそうに笑い、ルナールの肩を叩く。


「父上はあんな人だったからな、これも因果と言うやつかもしれん。よかろう、後の事は俺に任せて、おまえは自分のやりたい事をやるがいい」


「兄上……ありがとうございます」


 どうやら、兄にとってもキュビエ公爵は相当に問題のある人物だったらしい。予想外の理解のよさに、安堵あんどしたクオートの全身から力が抜けていく。


 ルナールは頭を下げ、馬車へと歩みを進める。その後姿を見送っていた兄が、クオート達に向けて言葉を発した。


「君達がルナールの仲間か。偏屈へんくつな妹だから面倒事も多いだろうが、どうかこれからも一緒にいてやってくれ。よろしく頼む」


 どうやら、妹の事をとてもよくわかってくれているお兄さんのようだ。

 その言葉に、クオート達もかしこまってお辞儀を返す。


 ルナールが馬車に乗り込んで手綱を取ると、馬車はゆっくりと走りだした。


 ルナールの兄と50騎の騎馬兵、百人ほどの警備兵と使用人達が見守る中。クオート達はあまりにも多くの出来事があった場所を、それぞれの感慨を胸に秘めて後にするのであった……。



 ……ピアストル邸を発ち、ルナールは馬車をクライゼン老人の家へと向ける。

 主のいなくなった家の庭に、日当たりのよさそうな場所を選んで穴を掘った。


 ルナールは重傷で左手が使えないにも関わらず。クオートの制止を聞かずに、右手一本で穴を掘る。


 穴の前に三人と一匹が並び、クライゼン老人の葬儀が丁重に執り行われた。


 ひつぎもなく。花も庭に咲いていた野生のものだけの質素な葬儀だが、この場にいる誰一人として、そんな事を気にする者はいなかった。

 こういう事は、見栄えよりも心が一番大切なのだ。


 普段は神など信じていなさそうなルナールが、丁寧に祈りの言葉を読み上げる。

 そして、敬意と尊敬を込めてひたいに口付けをし。穴に寝かせ、土をかける。


 更に祈りを捧げ。儀式としての葬儀が終わってからも、ルナールはその場を動こうとはしなかった。

 クオートはすぐに寝てしまったのでよく知らないが。その日はそのまま、墓の前で眠ったのだそうだ。



 翌朝。エメリーが沸かしてくれたお風呂に入って血とほこりを洗い流し、傷の手当をする。


 昨日は疲れから、応急手当だけをして泥のように眠ってしまったが。改めて明るい場所で見ると、ルナールの怪我は実に酷いものだった。


 エメリーとクオートは魔力と体力の消耗こそ激しいものの、怪我はほとんどしていない。


 だがルナールは、エメリーがまゆを寄せながら調べた所。左の鎖骨さこつと手首を骨折。肋骨ろっこつも三本が折れ、ヒビが入った骨は数え切れないほど。


 他にも刀傷が三ヶ所に、切り傷やり傷、打撲だぼくあざなどは、それこそ数え切れないくらいだ。魔法薬で硬化した公爵の体を攻撃した手足も、皮膚が破れて酷い事になってしまっている。


 満身創痍まんしんそういという言葉はこんな状況のためにあるんだろうなと、クオートは変に感心してしまった。


 エメリーは無数にある傷一つ一つを丁寧に処置し、包帯を巻いていく。


「……エメリー、そんなに丁寧にしてくれなくてもいいぞ。これでは全身包帯だらけで動けなくなってしまう」


「ダメです。ルナールさんはすぐに無茶をするから、こんな時は動けないくらいで丁度いいんです」


 エメリーにそう言われて苦笑するルナールは、まだうれいの影を残してはいるものの、目はしっかりと前を向いていた。



 ……しばらくしてでき上がった包帯人間を見て、クオートが首をかしげる。


「保護官長、なんか左の方が怪我多くないですか?」


「意図的にそうなるようにしたからな。両手にダメージを受けてしまっては、その後の戦闘に支障がでるだろう」


「え……」


 傷の多くは、魔法薬で身体強化をされた剣士に痛めつけられた時のものだ。

 あの絶望的な状況の中、冷静にそんな事を考えていたとは、クオートは今更ながらに驚きを禁じ得なかった。



 治療が終わって簡単な朝食を食べていると、突然ドアがノックされる。


 包帯人間ルナールはとっさに表情を厳しくして身構えたが、それはルナールの兄からの使いだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ