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ドラゴンの守護者  作者: おとしんくるす


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30/44

30 それぞれの決意

「それで、どうする気だ? 警備隊ではすでに副隊長のユング士官長が、300人からの捕縛ほばく隊を揃えて待ち受けているぞ」


 ルナールの父。キュビエ公爵の圧力はついに、力ずくと言える段階にまで達していた。


 ルナールは少し考える様子を見せ、口を開く。


「ユング副長はたしか、五星級魔法士でしたね」


「うむ、そして公爵子飼いの部下でもある。本来なら、こんな辺境にいるような人材ではないだろうな」


「…………」


「他にも四星級魔法士が10人、剣士隊には一級練士の資格を持つ者が30人いる。他は三星級魔法士と二級練士だが、みな腕が立つ者ばかりだ」


「他ならぬ貴方が鍛えているのですから、そうでしょうね」


「……自慢する訳ではないが、いくら君が五星級魔法士で特級練士の腕前でも、まとめて相手をするのは到底無理な話だ」


「わたしも戦います!」


 そう叫んで、エメリーが立ち上がる。


「……意気は買うが、五星級魔法士が一人加わってもどうにかなる戦力差ではない。そもそも仮に警備隊を制圧できたとしても、君達は一生追われる身になってしまう。そして、次はもっと強力な部隊が派遣されてくるだけだ。そうなってはもう、ドラゴンの研究どころではないぞ」


「……やはり、元凶を元から断たねばなりませんか」


 ルナールの言葉に、ルビング隊長が表情を曇らせる。


「保護官長、君のしようとしている事はわかるつもりだ。だが、それはあまりにも危険な行為だぞ。しかも相手は実の父親だ」


「私は動物学者です。幼い頃に志し、夢に描いて努力もしてきました。私は自分の本分の為なら誰でも敵に回しますし、たとえ命を失う事になっても後悔はありません」


 ルナールは決然とした表情で言う。声は静かだったが、それが逆に決意の固さを表しているようで、クオートの背中を冷たいものが伝う。



「……君は昔から、言い出したら聞かない子だったな」


 厳しい表情でルナールを見ていたルビング隊長が、ふっと昔を懐かしむように表情を和らげた。


「あれ? 保護官長とルビング隊長って昔からの知り合いなんですか?」


 それまで黙って話を聞いていたクオートが、急に驚きの声を上げる。


「ああ、隊長は私の剣の師匠だ」


「まだ保護官長が子供の頃の話だがな」


「へぇ……エメリー知ってた?」


「はい。わたしがまかないとして研究所に行く時に、お聞きしました」


 エメリーの言葉を受けて、ルビング隊長が懐かしそうに昔話をしてくれる。


「あの頃の保護官長は、たしかまだ7・8歳だったと思うが、すでに身長ほどもある大人用の剣を振り回していてな。まるでなにかに取り憑かれたかのように、マメが潰れて皮が裂け。血が滲んだ手で、剣を握って向かってきたものだ」


(そういう所は変わってないんだな……)


「ワシは戦場にいた事もあるから、血に染まった剣ならいくらでも見てきた。だが、あんな風につかだけが血に染まった剣は見た事がなかったよ。見かねて休憩しようと言うと、飢えた猛獣のような目でににらまれてな。情けない話だが、子供相手に寒気を感じたものさ」


(ああ、わかりますわかります)


「あまりの気迫に押されて、つい本気を出してしまったりもしてな。毎日気を失う寸前まで鍛錬たんれんをして。剣を握れなくなってやっと終わったと思ったら、冷水をかぶって意識を戻し、今度は手にペンを縛りつけて勉強をしていた。あの幼さで、大した子供だと思ったよ」


(あ、なんか目に浮かぶように想像できる……)


「……その努力の甲斐あって叶えた夢だ、貫きたいという気持ちもわかる。それに、ワシは君の母上に恩がある身だ。あの方は君を産んですぐ亡くなってしまったが、君が自由に生きられるようにと望んでおられた。自分がそうできなかった分、余計にな……」


 その言葉に、ルナールの眉がほんの少し。ピクリと動く。


「だからワシは、君がどうしてもと言うなら止める気はない。最後にもう一度確認する。ルナール保護官長、君が進もうとしているのは茨の道どころではない。遥かに険しいし、実の父親を敵に回す修羅しゅらの道だ。今までの努力も含めて、全てを失う事になるかもしれん。それでもその道を行く覚悟があるかね?」


「はい。自分で望んで選んだ道です、背を向ける気はありません」


 ルナールはまっすぐにルビング隊長の目を見つめ、揺るぎのない声で返事をする。


「……そうか。わかった、ならばワシも手を貸そう。警備隊の方は任せておけ、こう見えても存外兵士達には信頼されておるのだ。ユングをなんとかして、君達が帰ってくる場所を守っておこう」


「ルビング隊長、恩にきます……」


「なに、愛弟子まなでしと恩人と、かわいい娘の望みだからな。それより、そもそも帰ってこられたらの話だぞ。あの公爵相手に勝算はあるのか?」


「…………」


(あれ? そこで黙り込むんだ……)


「……考えはあります。しかしあの男は周到で狡猾こうかつです、どこまで通じるかはやってみないとわかりません。ですが、いざとなったら喉笛のどぶえを食い千切ってでも亡き者にしてやります」


 ルナールは、真顔で恐ろしい事を口走る。


「む……そうか。まぁ、後悔しないのならそれでいい。エメリー、一応お前にも訊いておこう。お前はどうしたい?」


「わたしもルナールさんと一緒に行きます! なにがあっても、最期までお供します!」


「うむ、わかった。お前ももう一人前の立派な魔法士だ、保護官長の力になってやれ。クオート君、二人の事を頼むぞ」


「え、あ……はい」


(あれ? 俺にはどうするか訊いてくれないんだ……)


 クオートは心の中でそう思うが。たとえ訊かれたとしても、ここで『俺は抜けます』とは言えない雰囲気だ。



 なにやら大変な騒動の渦中へと、クオートは呆然としたまま飲み込まれていくのであった……。

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