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ドラゴンの守護者  作者: おとしんくるす


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26 ルナールの婚約者選び

 ルナールが婚約者を選ぶパーティーの席で。クオートは胃壁いへきをガリガリ削られる思いで、次々にやってくる男達を見守っていた。


 一応名目上は護衛であるが。警戒しているのは周囲ではなく、ルナール本人がなにかやらかさないかである。


 そして仮に。なにかやらかしたとしても、止める自信はないのであるが……。



 ……数えてみたら全部で15人が集まっていたらしい男達の挨拶と求婚は、延々一時間ほども続き。ルナールがまとう空気がどんどん冷たく、冷ややかになっていくのを、クオートは震えながら見つめていた。


 正直、どうして男達が気付かないのか不思議でしょうがない。


 ルナールの顔に貼り付けられた笑顔は確かに美しいので、それに気を取られてしまっているのだろうか?

 あるいは上流階級の皆さんには、空気を読むという技能が生まれつき備わっていないのだろうか?


 クオートが見る限り。ルナールが男達を見る目は、俗に言う『ブタを見るような目』という形容よりも、まだ酷い。

 むしろ以前、警備隊で飼われているブタを見ていた時の方が、断然優しかったと思う。


 動物学者であり、ドラゴン以外の生物にも関心が深いルナールである。

 今目の前に群がっている男達。ピアストル家の令嬢との結婚という利権と欲望に目をぎらつかせている者達を、ブタよりも下等な存在に見ているのは容易に想像ができた。


 ……正直な所。わりと鈍感なクオートにも、この場に満ちている嫌な空気が感じられる。


 醜い欲望が渦巻き、それでいて表面だけは取り繕った上品さが貼り付けられているのだ。


 みな笑顔を浮かべて談笑しているが、本当に心から笑っている人間は一人もいないだろう。


 ルナールが、教育によくないのでエメリーやエルクを連れて来たくないと言っていたのも納得だ。


「おいルナール、皆さんと歓談でもしてきなさい」


 公爵にうながされ、ルナールは無言のまま立ち上がってステージを降りる。


 立ち上がった瞬間、『ギリッ』と歯噛みする音を聞いたクオートは、慌ててその後を追った……。



 男達の群れに向かうルナールは、剣こそ持っていないが斬り込みに行くような気配を漂わせている。


 ルナールが下に降りると、その気配も感じとれない鈍感で無神経な男達が次々と話しかけてくる。


 ……ルナールはかたわらで見ているクオートがぞっとするような作り笑いを貼り付け。最低限の言葉だけを交して、男達との間に壁を構築していた。


「ルナール殿、私に美しい貴女とダンスを踊る光栄をお与えください」


「いえ、今日は特定の方とよしみを深める場ではありませんので」


「ルナール殿はスタンレーで研究所の所長をしておられるそうですね。私の父は王立科学院の顧問をしているのですが、よろしければ一度会いにいらしてください」


「そうですね、機会があればお伺い致します」


 ……クオートにはわかる、これは全く行く気がない返事だ。


 ルナールの心はすでにここにはなく、あのスタンレーの山々へと向いているのだろう。


 一年の期限付きとはいえ、この中から誰かを婚約者に選びさえすれば、また研究所へ帰れるのだ。


 ……しかし、一年後にはどうなってしまうのだろう? 再び王都に呼び戻され、そのまま望まない結婚をさせられてしまうのだろうか?


 政略結婚は貴族にとってあたりまえの事だと知ってはいるが、実際にその場面に立ち合ってみると、なんとも言えないやりきれなさがある。


 クオートはルナールに同情すると共に。自分が地方の平凡な商家の子供に産まれた事を、両親に感謝するのだった……。



 男達のルナールへのアプローチは、依然として続いている。


 ルナールは平静を装って巧みにかわしてはいるが、いつ怒りが限界を突破するかと、クオートは気が気ではなかった。


「スタンレーといえば、たしかドラゴンの産地ですね」


 さっき王国軍総司令官の息子だと名乗った男の言葉に、クオートの心臓がドキリと高鳴る。


「この剣はドラゴンの牙を削って作られた、最高級の品なのですよ」


 自慢気に腰の剣を抜いた男の行動に、クオートは顔から血の気が引いていくのを感じた。


「ドラゴンといえば、先だってお父上から我が父にドラゴンの眼の欠片が献上されてきましてね。宝飾品に加工させている所なので、よろしければ完成したらお贈りいたしますよ」


 たしか王族だと名乗っていた男が言葉を重ねる。

 本人は気付いていないのだろうが、命知らずにもほどがある発言だ。


「アルティア……」


 ――ルナールが小声で呟いたのを、クオートはたしかに聞いた。


(いかん、これはいかんぞ)


 クオートはとっさに近くのテーブルにあったグラスを取り、よろめいたふりをして中の液体を全力でルナールにぶちまける。


 ――会場の空気が一瞬で凍りつき。赤い果実酒を頭からかぶったルナールは、綺麗な髪もドレスもまだらに赤く染まってしまう。


 クオートの顔に冷汗が浮かんでいるのは、ドレスをだいなしにしてしまったからではなく。右手に落ちた雫が『ジュッ』と音を立てて一瞬で蒸発するのを見たからだ。


 明らかに、目の前の男二人を焼き尽くすような火属性魔法発動一歩手前だった。


「ああっ! 保護官長すみません、今すぐ着替えましょう!」


 会場の止まった時間が動き出す前に、クオートはルナールの左手を取って迅速に部屋から引っぱり出す。


 呆気にとられる男達を後目しりめに。クオートは早足で、元いた部屋へとルナールの手を引いていく。



 ルナールは意外なほど、素直にクオートの動きに従った……。

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