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ドラゴンの守護者  作者: おとしんくるす


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25 パーティー

 クオートはメイドさんに案内され。ルナールがいるというピアストル邸の一室へと足を踏み入れる。


「あ……」


 広い豪華な部屋の中央で、椅子いすに腰かけたルナールがメイドさん達に髪を結ってもらっていた。

 自分の目に映った光景に、クオートはおもわず見蕩みとれてしまって身動きができなくなる。


 そこには、いつも見慣れた乗馬ズボンに実用的な上着を羽織はおり。腰に剣を吊ってローブをまとったルナールではなく。


 きらびやかで可憐なドレスを着飾って、ネックレスや髪飾りなどを装備したルナールがいたのである。


 純白のドレスは肌に密着して体のラインを浮き上がらせ、大きく開いた背中は雪のように白く美しい。スカート部分の横に入ったスリットからは、スラリとした綺麗な足がのぞいていた。


 真っ白い手袋をし、かかとの高い靴をはいたその姿は。全くもって上品な貴族のお嬢様にしか見えなかった。


(……まぁ、保護官長は本当に貴族のお嬢様なんだけどね。上品かどうかはともかくとして)


 そう思い直して、クオートは部屋の中へと足を進める。正面に回ってみると、改めて目を見張らされた。


 薄く化粧をされたくちびるつやっぽく、豊かな胸に細い腰。髪を結ってアクセサリーをつけた姿は絵画から出てきたように美しく、世の男性全てを見蕩れさせるほどの魅力がある。


 ……ただ一点。不機嫌極まりない表情を優しい笑顔に変えさえすれば、まるで物語に出てくるお姫様のようだった。


 ルナールは礼服に着替えたクオートを一瞥いちべつし、これまた不機嫌極まりない声を発する。


「似合わんな、その格好」


「あはは、ですよね。保護官長のドレスは似合ってますよ」


「……死にたいのか?」


「いえいえいえいえ! そんなとんでもない!」


 久しぶりに氷のような目でにらまれて、クオートは全力で後ずさる。

 まもなく髪を結い終えたメイドさん達が、『御用がありましたらお呼びください』と言って部屋を辞していった。


「…………」


 ルナールと二人残され、クオートはその場にいるのが苦しいほどの気まずさに襲われていた。


 その原因はルナールの不機嫌さもあったが。キュビエ公爵からもちかけられた取引の事が、頭から離れないのだ。


 ……いくらなんでもルナールを売るような真似はできないし。そもそもルナールはクオートなんかがなにを言った所で、耳を貸しはしないだろう。


 ――だったら一言、さりげなく婚約を奨めるような言葉を言ってもよいのではないだろうか?

 そうすればもしルナールが婚約した暁には、遠慮なく平和な警備隊長の任に就く事ができるのではないか……。


 そんな浅ましい事を考えていると、不意に留守番をしているエメリーの顔が浮かんでくる。


 公爵はエメリーにも望む人生をと約束してくれたが、あんなにもルナールに懐いているエメリーの事だ。望むのはルナールと一緒にいる事に決まっている。


 そして望まない結婚を強いられるルナールを、エメリーはどんな想いで見るのだろうか?


 そう考えると、クオートはどうしても婚約を奨める一言が言い出せなかった。


「……ねえ保護官長。パーティーに出るんだったら、エメリー達も連れてきてあげたらよかったですね」


 気まずさと沈黙に耐えかね、クオートは気持ちを切り変えようとルナールに話しかけてみる。


「お前は貴族連中のパーティーがどんな物か知らんからそんな事が言えるのだ。あんな所にエメリーやエルクを連れてくるなど、教育上よくないにもほどがある!」


「す、すみません……」


 怒鳴られたクオートは慌てて謝罪を口にし、部屋はまた気まずい沈黙が支配する。


 いくら機嫌が悪いとはいえ、あの言い方からするとルナールは社交界的なものが相当嫌いなようだった。


 ……重苦しい空気のまま沈黙のうちに時間が流れ、やがてパーティーの時間になったらしく、メイドさんが迎えに来た。

 クオートもルナールに付き添って、会場へと向かう。


(おお……)


 案内された場所は、会場全体を見渡せるステージの上だった。


 部屋はクオートが思っていたほど広くはなく、人数も20人ほどの小規模なパーティーだったが。並べられた料理や調度品はいずれもぜいを尽くしたものばかりで、部屋の一角には楽団まで呼ばれている。


 客は全員若い男で、高級軍人や貴族。ひょっとしたら王族までいるかもしれない……。


「うろたえるな。お前は私の護衛としてそばにいるのだ、堂々としていろ」


 ルナールに小声で言われ、クオートはなんとか背筋を伸ばしてみるが。完全な場違い感に、ひざは小刻みにどころではなく震えていた。



 ルナールの登場で、先程まで談笑していたらしい客がシンと静まり返り。視線が一斉にこの場の主役へと注がれる。

 ルナールはステージ上の椅子いすに静かに座り、クオートはその斜め後ろに立つ。


 ――キュビエ公爵の口からルナールが紹介されると、会場に集まった男達から一斉にどよめきが起きた。それは紛れもなく、ルナールの美しさに対する称賛の声である。


 クオートの第一印象は『今までに見た事がないくらい美しい』だったが、それは貴族達から見ても同じらしい。

 まぁ、性格の方はアレなんだけどね……。


 クオートが失礼な事を考えていると。どよめきが治まるのを待ち、ルナールの紹介が続けられる。

 15歳、キュビエ公爵の末娘、動物学者、受賞した賞の名前……。


 だが、なぜか五星級魔法士である事は伏せられていた。左肩の星も、肩につけられたリボンのような布で巧みに隠されている。


(相手が引いちゃうからかな?)


 クオートはようやく冷静になってきた頭で、そんな事を考える。


 五星級魔法士になる為の苦難を思えば、無理からぬ事だとは思う。

 屈強な軍人ならともかく、貴族の令嬢が挑むようなものではないからね。


 軍人でも上流階級出身者は最低限の三星級までしか習得しないのが当たり前だから、婚約相手の女性が自分よりも圧倒的に強いなんて知ったら、しり込みする人も少なくないだろう。


 ……もっとも、クオートにとって驚く場所は他にあって。それは歳が15歳という所だ。

 クオートが16歳なので、まさかの年下だったのだ。


 上司と部下という立場上、歳が下であっても命令口調なのはおかしくない。

 だがクオートは今までずっと、ルナールが年上だと信じて疑わなかった。


 それはルナールの知識と身にまとう雰囲気。そしてなにより、その堂々とした立ち振る舞いのせいだったのだろう。


 記憶を辿ってみても、クオートの人生でこんな15歳は見た事がない。自分が15歳だった去年は、野良猫と昼寝する日溜りの奪い合いをしていたものだ。



 ……ルナールの紹介が終わると、今度は男達が一人ずつルナールの元へ挨拶にやってくる。


 一人目は王族、二人目は貴族の名家、三人と四人目も貴族の名家、五人目は王国軍総司令官の息子……公爵が娘の婚約者候補として選んだだけあって、皆そうそうたる肩書だった。


 男達は順にルナールの前で片膝かたひざをつき。右手の甲にうやうやしくキスをすると、ルナールの美しさについて歯の浮くような称賛と、求婚の言葉を口にする。


 ルナールは表向きには柔らかい作り笑いを浮かべているが。クオートには今にも魔法で会場ごと吹き飛ばしかねないほどの苛立いらだちが、ビリビリと伝わってきていた。



(保護官長……お願いですから我慢してください……)


 クオートは祈るような気持ちで、男達の挨拶あいさつが終わるのを待つのだった……。

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