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ドラゴンの守護者  作者: おとしんくるす


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22 地獄から天国へ

 クオートが目を覚ましたのは、刻印開始から三日目のお昼頃だった。


 確かめるように体を動かしてみるが。手足は金属のように重く、とても起き上がれそうにはない。


 顔だけなんとかエメリーの方へ向けると、ぼやけた視界の中に静かに横たわるエメリーと、脇に座って頭をでてやっているルナールの姿が映った。


「保護官長……」


「クオート三士、起きたか。具合はどうだ?」


「すっごく体が重いです……エメリーはどうですか?」


「無事に終わったよ。終わった途端気を失うように眠ってしまって、四時間ほどだ」


「そうですか……良かった……」


「ああ、よく頑張ったよ。本当に強い子だ……」


 ルナールは目に涙を浮かべながら、乱れたエメリーの髪を手櫛で整えてやっている。

 ……服も乱れ、汗で体に貼り付いているが、左肩にはくっきりと紫色の星が刻まれていた。


 ずっとエメリーに付き添っていたのか、エルクも寄り添うように眠っている。


「クオート三士、なにか食べられそうか?」


「え……すみません、食欲はあまり……」


「そうか、ではこれだけでも飲んでおけ」


 ルナールは立ち上がると外から取っ手のついたカップを持ってきて、クオートの体を少し抱き起こすと、スプーンで中の液体をすくって口に含ませてくれる。


「う、にが……」


「我慢しろ、牛の肝臓と薬草を煮出したスープだ。血液の回復を助けてくれる」


 ……舌が麻痺するかと思いながら、カップに半分ほどのスープを飲み終えると。今度は甘い香りがする、柔らかい物体が口に入れられた。


「アミス草の実だ。口直しにめていろ」


 クオートには聞いた事もない植物だったが、小指の先くらいの大きさで弾力があり。舐めていると甘酸っぱい香りが口から鼻へと広がって、口の中をいやしてくれる。


「しばらくすると香りがなくなるから、ここへ吐き出しておけ。のどに詰めないように気をつけろよ」


 ルナールはそう言うと、クオートの枕元に小皿を置いてエメリーの様子を見に戻る。なんだか気持ち悪いくらいの優しさだった。


「保護官長、ありがとうございます……」


「気にするな。それより扱える魔力が増えた分、制御の訓練もしないとなんの意味もないぞ。増えた魔力を持て余すようでは、四星級でも三星級の熟練者に遅れをとるからな」


「はい……」


 ……一瞬別人なのかと思ったが、やはりルナールで間違いないらしい。


「ともあれ、今は魔力が回復するまでゆっくり休め。王都まではまだ20日ほどあるからな」


「了解です」


 訓練はともかく、休めという命令の方は大歓迎だ。なにしろクオートは、本気を出せば一日23時間寝られる男なのである。


 香りのなくなったアミス草の実を吐き出して目を閉じると、エメリーの穏やかな寝息が聞こえてきた。


(御苦労様、エメリー……)


 小声でそう言って、クオートは自分も夢の世界へ帰っていくのだった……。




 翌日から早速王都へ向かう旅が再開されたが、クオートもエメリーも消耗が激しく。最初の数日はほとんど寝たきりの状態だった。


 その間はルナールが一人で、馬やエルクの世話から洗濯までしてくれ。立ち上がれない二人を抱えて宿の部屋まで運んでくれさえした。


 クオートにしてみれば天国のようなものだが。エメリーはこの状況が落ち付かないらしく、なにか手伝おうとふらつく体で起き上がろうとしては、ルナールに注意されていた。


 クオートは快適な環境にごきげんの自分と比べ、居心地が悪そうにシュンとしているエメリーを見ると、同じ人間でこうも違うものかと不思議な気さえする。


 しかしさすがのクオートも、栄養があって消化の良い食事をルナールが自らつくってくれて。それを手ずから食べさせてくれる時には、言いようのない緊張と恐怖で味を感じないほどだった……。


 一方エメリーは、この時だけはこの上なく嬉しそうにしているので。やはり人間には個体差があるのだなと、今更ながらに実感させられる。




 ……10日ほど経つと疲労も和らぎ、血液も徐々に回復してきた。


 さすがにまだ走ったりするのは無理で、少し動くとすぐ息切れしてしまうが、軽い動作くらいならなんとかなる。

 エメリーはさっそく、水を得た魚のようにルナールの手伝いをしていた。


 一方のクオートは、宿主を見つけたコバンザメのように完全寄生状態で。一日20時間くらい眠っている。

 ルナールに言わせると、たまに死んでいるのではないかと確認したくなるのだそうだ。



 ……大陸南西端の研究所から、大陸中央に広がる中央高原を迂回して進む道のりは穏やかで、風が初夏の草の香りを運んでくる。


 この辺りはどこまで行っても見渡す限り平地と畑が広がっていて、王国の穀倉地帯といわれる温暖で肥沃ひよくな土地柄だ。


 住民もどこかのんびりした人が多く。街に立ち寄ったり宿に泊まったりしても皆親切で、この上なく快適な旅だった。



 しかし、そんなクオートにとって夢のような日々も。馬車が王都に近付くにつれて終わりを迎えようとしているのだった……。

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