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 神話を略すとこうなる。

 我々の祖先は地球を捨て、太陽を失い、新たな宿場を求め、旅に出た。


 人類はいま、宇宙空間に巨大なポッドを造り、その中で暮らしている。


 ポッドは8本あり、第1ポッドにて定例大会議が行われた。


 閉会後、第6ポッドへと帰る宇宙船、おりひめでは微笑ましい時間が流れている。


「神話に出てくる太陽って星、どんなのかな?」乃々

「あれでしょ?」羅衣


 羅衣は窓の外の、人工太陽を指差した。


「小さいし、色も違うはずよ。あれはずっと白いままだわ」乃々

「たしかに神話じゃ、赤とか黄色になるってあるけど」羅衣

「お月様っていうのもロマンチックよね!」乃々

「乃々ちゃん、羅衣ちゃん。お願ーい」史由江

「はーい。休憩おしまいね」乃々




 乃々と羅衣は食事の載ったカートを押してブリッジへと向かった。


「失礼しまーす。お食事をお持ちしましたー」羅衣

「羅衣。その話し方はやめなさい。ここをどこだと思ってるんだ」優斗

「第六ポッド最大の輸送船、おりひめの指揮所でございますわよ。お兄様」羅衣

「本当に分かってるなら、改めなさい」優斗

「あんまり怒らないで。羅衣ちゃんはよく頑張ってるわ」乃々

「そうじゃ、優斗。羅衣ちゃんはまだ子供なんだしな」天源

「会長まで」優斗

「会長、本日のご夕食はアジのソテーでございますっ!」羅衣

「ありがとう。羅衣ちゃんも一緒にどうかね?」天源

「会長、お言葉ですが、調子に乗らせないでください」優斗

「お兄様もしっかりね。次々期政会会長候補さんっ!」羅衣

「乃々、しっかり躾けといてくれよな」優斗

「はーーい」乃々


 乃々と羅衣は皆に食事を配った。


「それでは戻ります」乃々

「またあとで」優斗

「えぇ、8時に」乃々




 二人はブリッジを出て、次はタワーに向かった。


「警務部長、お疲れ様です」羅衣

「おや、もうそんな時間かい?」詩波太

「時間をお忘れになるほど、いったい何を御覧になってらっしゃったのですか?」羅衣

「”新たな宿場”をさがしていたのさ」詩波太

「そんなもの、どこにもありませんでしょうに」羅衣

「手厳しいな」詩波太

「厳しいのは現実です。私じゃありません」羅衣

「本当に14歳だとは思えない言葉だな」詩波太

「39歳にもなってまだ神話を信じていらっしゃるのですか?」羅衣

「そのくらいにしないと、また優斗さんに叱られるわよ」乃々

「いいんだ、いいんだ。羅衣ちゃんの言うことにも一理ある」詩波太

「詩波太さんまで羅衣ちゃんに弱いんですね」乃々

「それ、僕ので最後かい?」詩波太

「はい。残りは私と羅衣ちゃんの分です」乃々

「では一緒に食べよう」詩波太

「ご一緒しますが、奥さんが知ったら嫉妬しますよ」羅衣

「大丈夫。やましいことは何一つないさ」詩波太


 三人は見飽きた大宇宙を前にして、食事をとった。


「羅衣ちゃん。この万にも及ぶ星々の中に、僕はきっとあると思うんだ。僕が生きているうちにたどり着けるとは思っていないけれど。見つけることくらいはできるかもしれない」詩波太

「キラキラしていて綺麗。それだけで十分です」羅衣

「羅衣ちゃん、それじゃ夢がないじゃない」乃々

「遠くの星なんかよりお姉さんのほうがよっぽど綺麗よ。それに夢なら、ベッドでいくらでもみれるわ」羅衣

「ありがと」乃々

「新居はもう決めたのかい?」詩波太

「いえ。ちょうど話しているところなんです」乃々

「そうかい。優斗を支えてやってくれ。僕にとっても、頼りがいのある後輩だ」詩波太

「ビシビシしごいてあげてください」羅衣

「僕らよりも羅衣ちゃんのほうが適役かもしれないけどね」詩波太

「アハハハハハ」乃々




 数時間後、船は第6ポッドへと帰着した。


 真っ白な政会本部、木造の家々、豊かな田畑、循環する川、差し込む人工太陽光。

 それが本来の第6ポッドだった。


「こ、これは、いったい何があったのじゃ」天源

「会長、マスクを」優斗

「火事だ!消火いそげ!」詩波太

「お兄ちゃん!乗って!」羅衣

「お前、いつの間に車の運転まで覚えたんだよ」優斗

「そんなことどうでもいいの。家に帰るわよ」羅衣

「おうっ。頼む、生きててくれよ」優斗




 町全体が燃えている。ポッド内上部は煙が充満している。

 早く避難船に入らなければ。


「お母さん!!お父さん!!」羅衣

「待て。崩れるかもしれない。お前は外で待ってろ」優斗

「でも」羅衣

「頼むから!!」優斗

「お願い、、、」羅衣

「もちろん」優斗


 優斗は燃え始めた生家に入った。


「おーい、どこだ!!」優斗


 返事はない。

 寝室にもいない。

 一番奥の部屋だった。


「おふく、、、ろ。ウァァアアア!」優斗


 両親の亡骸は必要以上に傷つけられ、原形がほとんどない。とても妹に見せられるものではない。


「羅衣、ここにはいないみたいだ。他を探そう!」優斗

「嘘だ!嘘つくときの目よ!いたんでしょ?」羅衣


 優斗は泣いていた。


「お母さーん!ただいまー!帰ってきたよ!おりひめに乗ったんだよ!」羅衣

「羅衣」優斗

「おかぁさーん。おとぉさーん」羅衣

「羅衣、行こう」優斗


 二人が離れた直後、生家は崩壊した。


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