2ー2 光誠とお話します!
「今日はまた色々とキミに話を聞きたくて。いいかな?」
気を取り直したように光誠がわたくしに声を掛けてきます。
光誠が有希奈のお茶に受けた衝撃から立ち直れた事への安堵が半分。
これから光誠に色々と質問される事への憂鬱さが半分。
そういった複雑な感情に、どうしてもなってしまいます。
仕方ないし、当然の事なのです。
何も知らない相手と仲良くなれる人など存在しませんし、相手の事を知るには対話したり、共に何かを行ったりして、相手の情報を収集する事は必要なのです。
光誠が質問をするのは、本心から彼がわたくしと仲良くなろうと努力してくれる事の証明になり得ますから。
でも、前回光誠が行った類いの質問をされると、まるで「あなたはわたし達人間とは違う存在です」と言われているような、絶対に踏み込めない壁を作られているような心地になってしまい、胸がざわざわと騒ぎます。
それに、有希奈の友人である光誠はそんなことないと信じてはいますが、今まで生を繰り返してきた中で、仲良くなる以外の目的を持ってわたくしに質問を重ねる輩を知ってもいますから。
しかし、ざわめく胸の内をありのまま表情に出すのは、淑女らしからぬ事です。
お客様である光誠の気分を害する事のないよう心を定め、笑顔を崩さずに返事をします。
「勿論です。わたくし、光誠が来るのを本当に楽しみにしていましたのよ」
「そっか。えっと………どう? だんだん慣れてきた?」
少し………少しだけ面食らいました。
覚悟していた類いの質問が来なかった事。
やはりわたくしがまだまだ今の時代に慣れていないと明言された事。
そして、光誠の笑顔がほんの少しだけ陰っていたように感じられた事。
わたくしの覚悟や、感情を隠す努力が見抜かれているような心地がして、少しだけ落ち着かない気分になりました。
「ええ、徐々に。有希奈も大変良くしてくれていますし………」
落ち着かない気分の時は、落ち着ける相手についつい頼ってしまいます。
わたくしは有希奈に視線を送りました。
この1週間で有希奈とはかなり仲良くなれたと自負しています。
有希奈からは、今のところ打算も何も感じず、ありのままをさらけ出してくれている気がして、落ち着けるのです。
「わたし達、マブダチだもん………」
はっ!
これは、この1週間の研鑽を見せる時!
「「ねー!」」
やりました!
わたくしと有希奈の「ねー」はぴったりと合いました。
嬉しさの余り有希奈の両手を握って「すきんしっぷ」をしてしまう程です。
「おぉ………すごいな」
光誠も、わたくしと有希奈の仲の良さに感嘆の意を示します。
確信しました。
今日のわたくしの調子は絶好調です!
今なら光誠とも「ねー」を合わせる事が叶うやもしれません!
「もちろん、光誠もですよ!」
「………?」
「ねー! ………あら?」
「ちょっと、光誠!」
「え? 俺!?」
やってしまいました!
秘技「ねー」は、やはり今の有希奈との間柄くらいに仲良くないと成功しないのですね!
それに、よくよく考えれば「ねー」はいつも有希奈から仕掛けてくれていました。
わたくしにはまだ「ねー」を仕掛ける程の技術が備わっていなかったのですね!
有希奈が光誠を詰るようにわたくしをかばいますが、これは良くありません。
悪いのはわたくしなのですから!
「有希奈お待ちを。光誠は悪くありません。まだまだわたくしの精進が足りないようです」
「いや、その………精進って?」
「この時代に馴染む為の精進で御座います。その………わたくし、ずれているでしょう? 皆の常識と」
罪悪感からか、ついつい後ろ向きな言葉を紡いでしまいます。
これはいけません。
背中に力を入れ、笑顔を保ちます。
「いや、まぁ………」
「そんなことないって!」
「ありがとう。………有希奈はこう言ってくれるのですが、わたくしも阿呆ではありません。気づいているのですよ? 先日、わたくしの言葉に皆凍り付いてしまわれたでしょう?」
現状を打開する為には、現実的問題を直視し、改善策を練る事!
わたくしは笑顔を保つ事を意識しながら言葉を紡ぎます。
先ずは問題の原因について!
「いや………」
「それは………」
「原因はわたくし達の『じぇねれーしょんぎゃっぷ』で御座います!」
「え?」
「ジェネレーションギャップ?」
「そうです! 幾度も同じ事を繰り返しているのですもの。わたくしにはお見通しです! 5つも歳が離れれば、常識は異なってくる物だというのに………」
「それだけが理由とは思えないけど………」
光誠はわたくしの考えた問題の原因に納得していないようです。
しかし、何事もやってみなければわかりません。
一先ずは協力を取り付ける事が肝要!
原因である「じぇねれーしょんぎゃっぷ」を取り除くには、わたくしだけでは不可能ですから。
「とにかく! 皆に協力いただきたいのです。勿論、ご迷惑でなければ、ですけど………」
「もちろん! 全然迷惑じゃないよ!」
「俺も構わないけど………それで、何をすれば?」
はい! 言質、とれました!
次は改善策の提案です!
「沢山お話をしてください。今の世で流行っている事、自分が好んでいる物。何でも構いません。わたくしに教えてくださいませんか?」
「全然大丈夫! たくさんお話しようね!」
「ありがとう有希奈。光誠も構いませんか?」
「構わないけど………ひとつお願いがあるんだ」
ひくりと喉がひきつったような心地が致しました。
要求に対する交換条件の提示。
わたくしが条件をのめない場合、交渉は決裂してしまいます。
意を決して、光誠に続きを促します。
「お願い………わたくしに出来る事でしたら」
「キミの事も沢山教えて欲しい。自覚があるようだからハッキリと言うけど、俺達がズレているように感じるのは年齢差だけが原因じゃないと思うんだ」
思っていた以上に踏み込んだお話が来ました。
こんなにも光誠がわたくしの事を真剣に考えてくれていたとは思っていませんでした。
しかし、嬉しさよりも恐れが大きい気がします。
わたくしは次に光誠が何と言うのかをはっきりと恐れていました。
掻かないハズの冷や汗が流れたような気がして、ごくりと唾を飲みました。
しかし、何も聞かず、なかった事には出来ません。
「年齢差だけじゃない………それ以外の原因が?」
「うん。キミが吸血鬼で、俺達が人間だから」
「光誠!」
ここまで如実に境界線を引かれたのは、ほぼ守人とだけ付き合ってきたわたくしには初めての経験でした。
目の前が真っ暗に変わっていくのを感じます。
しかし、完全に視界が黒に覆われる刹那、光誠の顔が目に入りました。
光誠は、柔らかな、親しげな、優しげな笑顔でした。
光誠はわたくしを拒絶している訳ではない………?
まだ話の全てが終わった訳ではない。
そう考えたわたくしは今一度身体に力を入れ、視界に光を入れました。
光誠の目を真っ直ぐに見つめ、次の言葉を待ったのです。




