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吸血鬼のみる夢は  作者: とみ
第3幕~side光誠~ 動き出すココロ達
20/21

3ー4 新たな情報

「俺、帰った方がいいか?」


目を反らす理由も特になくてしばらく有希奈を見ていたら、急に健信がそう言った。


「いきなりなんだよ?」

「そ、そうだよ! あの………そう! 計画たてなきゃ!」

「計画って?」

「花火大会! みんなで行くんでしょう?」

「あぁ、そうだな」


少しだけ驚いた。


意外と早く出てきたんで、手紙を読む前に顔だけ見せに出てきたんだと思っていたからだ。


俺が手紙に書いた事も有希奈が出てくるきっかけのひとつになったのだとしたら………ま、悪い気分じゃないな。


そんな事を考えていたら、ガチャリと扉が開いた。


扉が開く音と共に有希奈が顔を伏せるのが視界に入った。


「じゃっじゃじゃーん!」

「じゃっじゃじゃーんって………」

「最近聞かねえなぁ」


初めて見るくらいにうかれた彼女がお茶を1つだけ持って帰ってきた。


お茶をこぼさないように、しかし気が急いているのか、弾むような足取りで有希奈に近づく。


「さあ有希奈! どうぞ! わたくし、心を込めて淹れさせていただきました!」


お茶はローテーブルを介さずに、有希奈に直接手渡された。


ゆっくりと口に含むと、緊張したかのように強張っていた有希奈の表情が少し解れた。


「うん………美味しい」

「~~~~~!!!!!」


声にこそ出さない………というより、嬉しくて声も出ない様子の彼女は、キョロキョロと辺りを見渡し、俺や健信の分のお茶を持ってきた教授の裾をくいくいと引っ張った。


「うんうん、良かったね」


教授が笑顔で返すと、彼女は首がもげそうなくらいにコクコクと何度も頷いた。


有希奈はお茶に視線を落としていたが表情は弛んだままだし、俺も健信も、微笑ましい光景を見て笑顔になった。


久しぶりに、いつもの俺たちが戻ってきたような気分になれた。





「さ、話を続けよう。みんな予定は大丈夫かな?」

「絶対行く! 予定あける!」


花火大会に話を戻すと、有希奈が凄い勢いで食いついてきた。


「はいはい。健信は?」

「花火大会ってこれだろ?」


健信はスマホを取り出し、花火大会のサイトを見せてきた。


「そうそう」

「俺、この花火大会の警備のバイトいれてんだよ」

「うそでしょ? なんとかならないの?」

「無茶言うなよ」

「むぅ………しょうがないか」


確かにバイトなら仕方ない。


続けて俺達は未だにじゃれあっている教授と彼女に目を向ける。

興奮冷めやらぬ彼女をあしらっていた教授が先に気づいた。


「わたしが行ってどうするの? 2人で行ってきなさいよ」

「ふ、2人!?」

「え? キミは行けないの?」


ひっくり返った声を上げた有希奈より、教授が何故かハナから勘定にいれてない彼女が気になった。


俺が目を向けると、彼女は一旦興奮を治め、顎に人差し指を充てて首を傾げた。


「ここからでは見えないのですよね? わたくしはご一緒出来ませんね」

「えぇ! なんで?」

「何か予定でも?」

「わたくし、ここから出られませんし」

「え………?」


俺は息が詰まったような気がして、言葉を出せなくなった。


彼女が「ここから出られません」と言った時の表情に見覚えがあった。

久しぶりに見た、何故か彼女が不安定な存在に見えてしまう、あの笑顔だったのだ。


「なんで? 夜だよ? 太陽出てないよ?」

「あの、そういう意味ではなくて………」


有希奈が食い下がり、彼女は眉を八の字にして笑う。

教授が間に割って入った。


「お時ちゃん………説明するね」

「はい」


教授は彼女にお茶を渡し、ソファに落ち着かせ、俺達を1度見渡した。


「お時ちゃんがこの家を出るのは、吸血鬼をやめなきゃいけなくなる時だけなの」






「吸血鬼を辞める………?」


つい言葉が零れた。


笑顔ではあるのだが、教授の表情や声音から不穏な匂いがしたように感じたからだ。


「そう。この家を出たら、お時ちゃんは吸血鬼ではいられない。ただの人間に戻っちゃう」

「いいじゃん別に! 一緒に人間やろうよ! ね?」

「人間やるって言い方、どうなんだよ」


椅子に座ったまま食い下がる有希奈を、健信がツッコミながら苦笑で止める。


唇を尖らせて尚不満げな有希奈の前に教授が仁王立ちした。

妙に真面目な表情の教授に、不穏な予感が強まる。


「有希奈、やめなさい」

「母さん! だって………」

「ちゃんと説明するから」


教授は最後にはにこりと微笑み、有希奈の反論をシャットアウトする。


ふと気になって彼女の様子を窺うと、彼女は口元にカップを留め置き、香りを楽しむかのように顔の下半分を隠していた。

気になる仕草だ。


教授が話を続けたので、視線は自然と教授に戻る。


「お時ちゃんが吸血鬼になれたのは、ずっとずっと昔の話」


教授が一旦言葉を止めて、ニヤリと微笑む。

あれは………悪ふざけを思いついた時の顔だ。


教授の視線の先には彼女がいたので、ターゲットが誰かはすぐにわかった。


「吸血鬼に年齢の概念があるなら、お時ちゃんは今「あああああああ!!!!!」………歳なの」

「ちょ、ちょっと!」

「あぁ、ごめんごめん。内緒なのね?」


カップを即座にローテーブルへ置き、立ち上がって奇声を上げた彼女に全員が注目する。


ニヤニヤと笑っているので、反省は絶対にしてない教授の謝罪を受けた彼女は、有希奈にお茶を褒められて喜んだ時よりも顔を赤くして、より早く小刻みな頷きを繰り返す。


なるほど。


教授も彼女の仕草が気になって、おちょくりを挟んだのだろう。


ここはのっかっておくか………


「乙女心ってヤツか」

「~~~~~!!!」


彼女は過去イチに顔を赤くして俺を睨み付けると、パタパタとスリッパを鳴らし、部屋から出ていった。


「え?」

「お時ちゃん………?」


見たことのない表情を向けられ、脳が活動を止めた。

時が止まったかのように感じたが、そう感じたのは俺だけだった。


「光誠………お前そろそろいい加減にしろよ?」

「は?」


健信に本気(マジ)モードで詰られ、脳は活動を再開した。

有希奈もジトリとした半目で睨み付けてくる。


「ごめん! いいかな? 話続けるよ」


教授がパンパンと手を叩き、注目を集める。


「まあ、お時ちゃんはあなた達の何百倍・何千倍も年上だって事だけわかってくれればいいわ」

「歳の差なんて………」

「問題はそこじゃなくてね」


再び食い下がる有希奈に、教授は苦笑で返す。


次の瞬間、一気に表情を真面目な物に変え、言葉を続けた。


「お時ちゃんが今、吸血鬼の枠を外れて身体が人間に戻ったら、その瞬間に彼女は不死の存在ではなくなる」


喉がヒュッと妙な音をたてた。


気が逸ったからか唾を飲むこともせずに、掠れた声で聞き返した。


「それって………」

「重ねた年月が一気に彼女の身体に現れる」


そこで教授は一度言葉をきって俺達を見渡し、眉間にシワを寄せ、沈痛な表情で次の言葉を口にする。


「きっと、死体も残らないわ」


リビングを完全な静寂が包んだ。


クーラーの起動音と外から聴こえるセミの鳴き声が、妙に耳障りだった。

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