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吸血鬼のみる夢は  作者: とみ
第3幕~side光誠~ 動き出すココロ達
18/21

3ー2 繋ぐ手・繋げないココロ

「手紙を出すのはどうだろう?」


不意に口をついて出た言葉に、俺自身が驚いた。

けど………悪くないかも。


「手紙ですか? 同じ家に住んでいるのに?」

「たまたま顔を合わせた時に話したり、メールを送ったりするのは、その時に機嫌が悪かったら伝わる物も伝わらない。でも、手紙にして渡しておけば、有希奈が自分で目を通すタイミングを選べるじゃないか」

「なるほど………」


勢いに任せて考えを告げると、彼女は顎に手を充てて考えこんだ。

それは、長い時間続いた訳ではない。

次の瞬間には、彼女はにこりと明るさを取り戻した微笑みを浮かべ、俺の手をとったのだ。


「それは良い考えです!」





「何? どうしたの?」


こちらを真っ直ぐに見つめ、キラキラと光る彼女の瞳や、俺と手を繋ぐ彼女の手の柔らかさと、相反するかのような冷たい体温。


そういった物に意識をとられ、言葉を失っていると、教授の声が聞こえた。


無意識に視線をそちらへ向けると、教授は驚いたかのように目を見開き、コーヒーのお代わりを持って立っていた。


思わず手を離そうとしたが、彼女の細腕からは考えられない程の力に捕らえられ、動けない。

彼女とは違い、体温が上がり汗をかきだした自分の手に気づいたが、彼女は気に止める様子もなく、手を繋いだままで俺を教授の側まで引っ張っていく。


「あの、すぐに筆記具を用意していただけませんか? わたくし、有希奈に手紙を書きたいのです!」


彼女がキラキラとした瞳のままで教授に告げる。


彼女にしては早口な言葉と、握りこぶしにした両手をぶんぶんと振る速度が、彼女の興奮度を物語っていた。

握られたままの俺の手もぶんぶんと振られ、気恥ずかしい気持ちが高まっていく。


それを確認してか、教授はにこりと笑い、彼女の頬に手を添えた。


「これはまた………かわいらしいアイデアねぇ」

「はい! 光誠の提案なのです。素晴らしいと思いませんこと?」


次の彼女の言葉で、教授は笑顔の種類を変える。


「へえ………光誠がねぇ」

「なんですか………いいじゃないですか」

「善は急げ! 早く、筆記具を!」

「はいはい」


からかいモードになった教授を、彼女が止めてくれた。

本当にスイッチがはいったら面倒この上ないからな………

助かった。


部屋を出ていく教授を見送るが早いか、彼女はくるりと振り向いた。


「光誠! あなたは健信に連絡をとってください!」

「健信に?」

「はい! せっかくです。皆で手紙を出しましょう!」

「皆でって………俺も?」

「当たり前ではないですか! さぁ早く!」

「わかったわかった」

「あぁ、腕が鳴ります! 待っていなさい! 有希奈!」


まるで顔の周囲に「わくわく」という文字が踊っているかのように、テンションが上がった彼女を見ながらスマホを取り出す。

彼女は落ち着きなく、うろうろと居間の中を歩き回ったり、お気に入りの椅子に座りながらそわそわと視線を泳がせたり………

ついには待っていられなくなったのか、教授を探しに居間を飛び出した。


そわそわとする彼女を眺めているのは楽しい時間だったので、少し残念な気持ちだったが、ようやく落ち着いて健信に連絡をとれる。





健信へ向けて送信を押したちょうどその時に、教授が大量の便箋やらペンやらを持って、居間に帰ってきた。


両手がふさがっている教授の為に、居間の扉を開けた。


「あぁ、ありがとう」

「教授、彼女は?」

「あぁ………テンション上がり過ぎてたから、お茶淹れに行かせたよ」

「落ち着きますか………?」

「無理じゃない?」

「ですよね………」


教授と苦笑を交換する。

ローテーブルにぶちまけられた筆記具を手に取り、以外と教授のイメージに合わない少女趣味な便箋が多い事に苦笑いを深める。


教授に少女趣味な便箋について突っ込もうかと視線を向けると、何故か立ったまま真っ直ぐにこちらを見ている教授と目が合った。


「どうしたんですか?」

「いや………何でもないよ」

「はあ………座らないんですか?」


そう言葉をかけると、教授は1度口を引き結んだ後で、どこか咎めるような口調で続けた。


「光誠、アンタさ………」

「………はい?」

「お時ちゃんの事、いつまで『彼女』やら『キミ』だなんて呼んでんの?」


はっきり言って、混乱した。


何故咎めるような口調なのか?

何故その呼び方ではいけないのか?

何故咎めるような口調なのに、教授の表情は憂鬱そうに歪んでいるのか?


「………いつまでって?」


本当に意味がわからないと、人間は同じ言葉を繰り返す。

まさか自分が実践してしまうとは。


「お時ちゃんが最初に何て言ってたか覚えてる?」

「最初………?」

「最初に、アンタ達に何て呼んで欲しいと言ってたか」

「吸血鬼………」

「その事について、何か考えた?」

「………教授」

「何?」

「これって、真面目な話ですよね?」

「そうだね。割りと」


少し落ち着けた。

それなら、考えたしな。


「自分に置き換えて考えたりはしてみました。自分が他人に『自分の事は人間と呼べ』って言う時の心理状態っていうか………」

「そう、考えてたんだ」

「俺は相手と仲良くしたくない、距離を置きたい時にそう話すかなと………ただ、彼女には当てはまらないとも思いました」

「当てはまらない?」

「彼女………あの時笑ってました。だから………」

「うん。当てはまらないなら?」

「それは………わからないです」


教授は無言で顎をしゃくった。

続きを促されていると判断し、言葉を紡ぐ。


「だから、彼女を何と呼ぶかは保留してます」

「保留」

「彼女の事をもっと知れて、彼女に関する情報が増えた時に、自ずと定まるかと思って………」

「なるほどね。甘えてる訳だ」

「甘え?」

「それか、逃げてるか」


思わずムッとした。

明らかに教授は、俺に対して挑発する目的で言葉を選んでいた。


だから、俺は深呼吸する。

落ち着いて………挑発に乗らないように。


教授の手のひらで転がされるのは真っ平ごめんだが、あるいは、俺がそう考えて行動すると読まれている可能性もあるか………?


教授は、いろんな意味で予測不可能だから。


「相変わらず光誠はバカだよ」

「俺がバカ………?」

「考えが足りないっていうか、踏み込みが足りないっていうか」

「………」

「何故、お時ちゃんが自分を『吸血鬼』と呼ぶように言ったか、結局答えを出してないよね?」

「それは………」

「お時ちゃんの事を知れたら自ずと答えが出るとでも思ってる? 本当に答えは出るの?」

「………」

「自分に置き換えてどうすんだよ。お時ちゃんの立場で考えろよ」

「………」

「呼び方も、結局問題の先送りだよね? 自ずと定まるって何?」

「………」

「呼び方に模範解答を求める事こそがバカの考えだよね。アンタは何と呼びたいのさ?」

「俺が何と呼びたいか………」

「ずっと受身では、お時ちゃんと仲良くなれるのは表面上だけだよ。それはさ、お時ちゃんに言われた通りに『吸血鬼さん』と呼んで、興味本位で、お時ちゃん自身を見ずに質問ばかりを重ねる輩と、どう違うのさ?」


途中からは何も言えなくなってしまっていた。


教授はニヤリと苦笑して「ごめんごめん。冗談だから」なんて、どう突っ込めばいいのかわからないような大嘘を吐く。

そのまま、彼女を手伝いに居間を出ていった。


1人残された俺は、自分が理屈っぽい人間だとは思っているが、やはり、本気になった教授には勝てない、なんて、現実逃避気味な思考を重ねてしまう。


お茶を淹れて彼女が戻ってきた時には、いつもの教授に戻っていて。

健信が来ても笑顔で迎えて。

彼女の結局下がらなかったテンションに引きずられて、みんなで笑顔になって。


でも、俺のモヤモヤとした気持ちが晴れるのは、ずっと後の話になる。

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