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吸血鬼のみる夢は  作者: とみ
第2幕~sideお時~ 次第に仲良く
10/21

2ー3 光誠が知りたいです!

「俺はこのズレを埋める為には、お互いが歩み寄る事が必要だと考えてる。キミだけがこちらの事を知ろうと努力するのは不公平じゃないか。俺達からもキミに歩み寄る努力をさせて欲しい」

「光誠………」

「駄目、かな?」


わたくしは混乱致しました。


光誠がひとつひとつ言葉を選びながら、慎重に、大切に、わたくしの為に言葉を紡いでいる事がわかったからです。


これまでは簡単でした。

必要以上にわたくしの事について知ろうと質問を重ねてくる輩は、本当はわたくしに興味などないのです。

彼らが知りたいのは「吸血鬼」もしくは「不死の存在」について。


興味本位、学術的な価値………そういった事についてのわたくしの価値を図る狙いがあって、わたくしの事を知ろうとするばかりで、その度にわたくしは辟易とし、守人に守られてきました。

よって、必要以上にわたくしの事を知ろうとする輩とは会わない。

これが今までの対応だったのです。


でも、光誠は違います。


目が違います。

光誠はしっかりと真っ直ぐにわたくしを見つめ、ふんわりと柔らかくわたくしを見つめます。


真っ直ぐにわたくしを見つめる目には、わたくしの色々なものを見透かされる気が致します。


今まではわたくしを知ろうとする者達に対し、空気を凍り付かせる程の失敗をしてしまった時、逆にあなた方の事を教えて欲しいと望んでいました。

悪意のない者なら、見て見ぬ振りをして自分達の事を話してくれました。

悪意のある者なら、失敗につけこんで更に質問を重ねてきました。

今までそうやって悪意の有無を判断してきたのです。


光誠は、わたくしの失敗を流しつつ、しかし質問はやめない、自分達の事も教えるというのです。

今までの作戦が見抜かれている心地が致しました。


柔らかくわたくしを見つめる目には、わたくしのいたらなさを教えられる気が致します。


わたくしは、皆とわたくしの違いを年齢差が原因だと断定しました。

これは、今の世に生きる皆がわたくしとの生物としての違いを必要以上に意識せぬよう、年齢差に置き換えて誤魔化して伝える、無意識の習性です。


そう、無意識だったのです。

光誠に、それは無意識に逃げているのだと、無意識に皆との間に壁を設けようとしているのは、わたくし自身だと、教えられたような心地が致しました。





本当に不思議なひと………





ここまで考えて、わたくしは混乱を抜け出しました。

そして、ふわふわとした暖かな気持ちに包まれている気が致しました。


光誠からの暖かな提案に答える為に、わたくしは椅子の上で背筋を伸ばしました。

真っ直ぐに光誠を見て、息を吸います。


光誠からの暖かな目に答える為に、今の自分の感情に任せて顔を弛めました。

柔らかく微笑んで、光誠を見ます。


わたくしが何と答えを返せばよいか、答えは明白でした。





「喜んでお話させていただきます!」




光誠はわたくしの言葉を笑顔で受けとると、あれだけ嫌がっていた有希奈のお茶を一口、コクリと飲みました。


わたくしも初めて光誠達に会った時、同じ行動をしましたので、どういった思いが光誠にあるのかわかります。

あれは、自らの感情を隠したい時にする行動です。

相手に自分の感情を真っ直ぐに見せないよう、何でもいいから手元にある物で、それがたとえ有希奈のお茶でも、顔の一部を隠してしまうのです。


光誠がどんな感情をわたくしに隠したいのかまではわかりません。

ですが、その柔らかい表情からは、それが悪いものだとは思えません。


知りたい、と想いました。


光誠の考えが、感情が、思いが、何なのか知りたい、わかるようになりたい、と。


本当に、本当に久しぶりにそんなことを想いました。


有希奈は嬉しそうな満面の笑みで、わたくしと光誠をニコニコと眺めていました。

有希奈は本当に素敵な女の子です。

まるで、わたくし専用の物差しのよう。


あの笑顔を見ると、わたくしと光誠との距離が、この数分で間違いなく縮まったのだと、測ることが出来ました。

有希奈がいればこそ、わたくしはそう信じて暖かな気持ちにもなれるのでしょう。


今の世を生きる間、有希奈にずっと隣にいて欲しいと、そう想いました。





「ねえ、なんかゲームしようよ! ゲーム!」

「いや、有希奈。今の話聞いてたか? お互いの事を話そうって………」

「ゲームしながらでも出来るじゃん! お時ちゃん、何したい?」


有希奈はわたくしの手をとりながらニコニコと笑います。

本当に楽しい気分なのだとわかります。

有希奈の「すきんしっぷ」は、善い気持ちをもっともっと善い気持ちにしたい時に良く出るのです。


「花札は如何?」

「懐かしいな………花札」

「花札もいいけどさ、あれやろうよお時ちゃん!」

「あれ、というと、あれですか? 面妖な人形がそこかしこに色ペンキを塗りたくる………」

「そうそう! 光誠ヤバいよ! わたしより強いから!」

「本当に? それはやばいですね!」

「おいおい………彼女に変な言葉ばっか教えんなよな」

「無理ー!」


やばいです!

有希奈に釣られてわたくしも楽しい気持ちがいっぱいです!

心がウキウキとして、身体がむずむずとして、淑女らしく座っているのが難しいくらいです!


「じゃあわたし、部屋からとってくるから! やっぱ大きな画面でやった方が盛り上がるし!」

「では、わたくしはお茶とお菓子を用意します!」

「あ、俺も手伝うよ」


わたくし達は皆立ち上がり、楽しい「げいむ」の為の準備に動きます。


光誠と台所に向かっていると、ダンダンダン! と、有希奈が勢いよく階段を上る音が響きました。

有希奈の浮かれ具合に、思わずクスリと笑ってしまいました。





わたくしが水屋箪笥から皿やお饅頭を取り出していると、光誠がほぅと息をつきます。


「どうされました?」

「いや、慣れてる感じが少し意外で」

「何故です? わたくしだってこの家族の一員なのですから、家事の手伝いくらいやりますよ」

「キミの言葉使いや立ち居振舞いを見てると、なんか、意外だったんだよ」

「何です? それは」


クスクスと笑ってしまいます。

本当に気分がいいです!

調子に乗ったわたくしは、自分が如何に榊家の台所に精通しているか、披露します。


「わたくしはこちらの『電気こんろ』を用いて料理をする事もありますし、あちらの糠床を毎朝かき混ぜるのもわたくしの勤めです」

「へえ………あの教授の台所に糠床があること自体が意外だな」

「まあ! 光誠、失礼ですよ。あと、これが有希奈のお茶用道具です」

「あ………ああ………」


あ、いけません。

少し調子に乗りすぎたかもしれません。


有希奈のお茶用道具を置く区画には、多少なりお茶の作法を身につけたわたくしには、不可解な物が多いのです。

「トマトジュース」や「塩胡椒」、様々な紅茶の茶葉とまぁちゃんの好きなコーヒー豆を混ぜ込んだ「有希奈すぺしゃる」等はまだわかるのですが、「くえん酸」など食べ物ですらないでしょう!? 

有希奈は「後味が癖になる」などと言いますが、「食えん」のでしょう!? お茶に入れる物とは思えません!


光誠も魔窟のような有希奈のお茶区画を見て、動きを止めました。

やはり、有希奈のお茶は今の世の常識ではなかったようで、こっそり胸を撫で下ろします。


「なんか………納得したって言うか、その………凄いな」

「光誠もそう思われますか? わたくしは今の世になって、お茶の作法が変わってしまったのかと不安になりました」

「いや、俺もあんまり詳しくないけど、おかしいとは思うよ。キミが教えてあげるのはどう?」

「でも、有希奈は研究したりして、楽しんでいるようですし………」


光誠と話していて、ふと気になった事がありました。

楽しい気分が続いていたからでしょうか、ついつい口にしてしまいます。


「光誠はわたくしを『彼女』や『キミ』と呼びますね?」

「え? あ、あぁ………」


光誠は言い淀んで、こめかみをポリポリと掻きました。

もしかすると、聞かない方が良い話題だったのでしょうか?


「キミをどう呼ぶかは、保留にしてるんだ」

「保留………ですか?」

「ああ、もっとキミの事を知って、俺の事も知ってもらって、きちんと情報が集まってから、正式に決めようと思ってる」


思わずわたくしの目は真ん丸に広がりました。

そして、可笑しくてクスクスと笑ってしまいます。


「光誠は本当に『じぇんとるまん』です………」

「何だよ………笑うなんて、酷いな」


どこまでも真面目で、どこまでも慎重で、本当に大切にわたくしの事を考えてくれている。


こんなひと、初めてかも………


「わかりました。ゆっくり考えていてくださいね。わたくしもゆっくり貴方を知っていきますから」


そう言うと、またわたくしの知らない光誠が垣間見えました。

今度はそっぽを向いてわたくしに顔が見えないようにした後でこめかみをポリポリと掻くのです。


いつかこの顔の時の光誠の感情がわかるようになるのかしら………

訪れるかどうかもわからない未来を思い、わたくしの胸は高鳴るのでした。

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