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いちわめ。

ことは、ジャスミンが五歳の時に遡ります。

ジャスミンは、あれから本にしか興味を示さなくなり、早々に文字を覚え、家にあった絵本は勿論、国の図書館の絵本も全て読破していきました。そして、齢五歳にして五百頁以上の文学書やミステリーにまで手を出すようになっていました。

それに危機感を覚えたのはお母様です。

ジャスミンは“一応”子爵家のご令嬢でした。例え、あまり目立たないお家であったとしても、貴族は貴族。幼年の頃から、いつか嫁ぐときのためにお勉強をして、位の近い貴族の男の人にお嫁さんにして貰うのが常識でした。

けれど、ジャスミンの本好きは異常です。ジャスミンは朝昼晩のお食事と、入浴と、睡眠の時間の他を全て本に費やしていたのです。しかも、それすら渋々です。お母様とお父様とお兄様に泣いて頼まれた結果です。ご令嬢の読書好きは、割と好まれるものなのですが、ここまで来ると、お嫁さんに貰ってくれる方がいるかどうかとても怪しいところです。


「ジャスミン。」

ジャスミンは、顔を上げて首を傾げました。

「なぁに、お母様。」

勿論その手には本が広げられています。ジャスミンの顔は、早く本を読むのに戻りたいから要件は早くしてくれと云わんばかりでした

お母様は溜息を零し、心を鬼にして云いました。

「立派な淑女になるまで、貴方を書庫と国の図書館には行かせません。」

ジャスミンは悲愴な顔をして、たちまちその美しい瞳に涙を浮かべました。

けれど、お母様の決意は固いものでした。

「その本も没収です。」

お母様は、ジャスミンの手から本を取り上げ、使用人にジャスミンの部屋にある本を全て書庫に移動させました。

「書庫には鍵をつけます。使用人には云ってあるので、国の図書館には馬車を向かわせることもできません。諦めて、淑女になるためのお勉強を頑張りなさい。」

「そんなぁ!」


お母様が部屋を出ていったあと、ジャスミンは暫く呆然として座っていました。

本はジャスミンにとって全てであり、それ以外に何をすればいいのかなんて分かりません。

辺りを見渡しても今迄ジャスミンを取り囲んでいた愛しの本たちはどこにもいません。

ジャスミンはベッドに入って、泣きました。その泣き声は廊下にも響き、通る使用人達は心を痛めながらも、ジャスミンのためだ、と思い、慰めることも、ジャスミンのお母様に可哀想です、と云うこともしませんでした。


そんな日々が暫く続きました。ジャスミンはベッドの中で泣きじゃくり、目を腫らして使用人に引き摺られるようにしてダイニングルームに連れていかれ、ひとくちふたくち食べて、「もういいわ」と云うと、またベッドで泣きじゃくる。その様子を見て誰もが心を痛めました。

でも、お母様の意思は固く、皆それがジャスミンの為だと分かっていました。


ある日のことです。

ジャスミンたち一家は伯爵家のお茶会に招待されました。ジャスミンは、その日もしくしくとお茶会の隅で泣いていました。すると、ある赤毛の男の子が近付いてきました。

「やーい!泣き虫!」

ジャスミンは苛立ちました。この男の子に自分の気持ちなんか分かるもんか、と思いました。

ジャスミンは、男の子を睨みつけました。

「泣き虫、お前、本ばっかり読んでる奴だろ!噂になってるぞ!」

ジャスミンは驚きました。噂になっているなんて、知りもしなかったのです。

「お前の家族も困ってるってな!お前みたいな泣き虫、立派なレディになれる訳ないもんな!」

赤毛の男の子は、ジャスミンを笑いました。

そのとき、黒髪の男の子が近付いてきました。

「可哀想だろう!やめろ!」

そこから、二人の男の子の口論が始まりました。


それを見たジャスミンは、ときめき.........ませんでした。


ジャスミンがどんな気持ちなのかも知らずに、勝手に知らない男の子が目の前で口論しているのに、腹が立ちました。

それに、自分自身にも。


そこで、ジャスミンは決めました。

誰にも本を読むのを邪魔されないくらい、立派な、淑女になってやろうと!

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