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フルーツビール 「こんなの、初めて……どっちもすっごく甘い!」

・一話完結スタイルです。

・気になる種類のビールやお店のお話からどうぞ。

・ふんわり楽しくお気軽に。難しいことはほとんど出てきません。


今年の春から社会人になる 舞浜みつき は、ビール好きの教育係 常陸野まなか から、日本には大手メーカーが作る以外にもいろいろなビールがある事や、その場で作られたビールをすぐに飲めるお店が身近にある事を教えられる。


そんなみつきが、ふんわり楽しくお気軽に、先輩や同僚たちといろいろなお店でいろいろなビールを飲むうちに、いつのまにかビールの知識がついたりつかなかったりする物語。

 社会人1日目、みつきは午前中の入社式と集合研修に続いて、いきなり配属された広報室での個別研修もなんとかこなし、定時を少し過ぎた頃にはデスクに突っ伏して脱力していた。


(はあ...知らなかったことばっかりで頭疲れたー。糖分摂取したい……)


 そんなことを考えていたみつきの隣では、社員寮の隣人でもあり、みつきの教育係でもあるまなかが、定時になると同時に帰り支度を始めていた。


「……お疲れさま。私、そろそろ帰るね。新人は残業なしで早く帰れるんだから、みつきちゃんも早く帰るんだよ……」

「あっ、そうなんですね。凄く皆さん忙しそうだから、お手伝いできることとかあるのかなーとか思ってました。まなかさん、もし良かったら一緒に帰りませんか?」


 無邪気に問いかけるみつきに、まなかは一瞬考えてから答える。


「……私、ちょっと寄り道して帰るけど、いい?」

「はい、ぜひ! 初アフターファイブ、実は楽しみにしてたんです!!」

 もし尻尾が生えていたら、全力で振っていそうな勢いで、みつきは帰り支度を始めた。


 §


 みつきを連れて、まなかがそそくさと向かったのは、駅前の雑居ビルの中だった。ビルの中にもかかわらず、小さめの居酒屋が連なり、店によってはもう出来上がっていそうなサラリーマンのおじさまの姿もちらほら。まるで、屋外の横丁の路地の中に迷い込んだかのような様相を呈している。


(ここが先輩が寄りたい場所?)


 そんな疑問を浮かべた頃、まなかは立ち止まって振り返り、みつきに声をかけた。


「……ここ」


 みつきは、今まで見てきた店とは全く異なる特徴に気がつき、思わず声を上げた。


「凄い! 壁に蛇口みたいななのがたくさんついてる!」


そんな驚きの声で気がついたのか、店内から、カラッとした雰囲気を漂わせたショートヘアの女性がまなかに話しかけた。


「いらっしゃい。今日は2人ね。好きなとこにどうぞ!」


挿絵(By みてみん)


 まなかに続いてカウンターに腰掛けたみつきは、メニューを見ながら問いかける。


「もしかしてここって、ビールのお店なんですか?」

「そう……さっき蛇口みたいって言ってたところから、ビールがでるの。このお店は30種類つながってる」


 30という数に圧倒されながら、みつきは質問を重ねた。


「すっごい数……ということは、海外のビールが飲めるお店なんですか?」

「ううん、このお店のは全部日本の。みつきちゃんは甘いお酒、好きだったよね?」


 いわゆる、"とりあえず生"の苦さにいまだ慣れないみつきの気持ちを察したかのように、まなかは提案した。


「……サワー、もあるんだけど、フルーツビールっていうジャンルがあるの。もしよければ……どう? 今日つながってる中なら、鳴子さんの山ぶどうエールとか、福島路さんのももふるヴァイツェンとかいいかも……」


 みつきはフルーツの名前を冠するビールがあることに驚きながらも、好奇心に胸を躍らせつつ答えた。


「せっかくなのでビールがいいです! おすすめしていただいたどちらも気になります!」

「……了解。マリ姉、5番と12番、あと27番をお願いします」


挿絵(By みてみん)


 みつきとまなかのやり取りをニヤニヤしながら見ていた先ほどの店員──まなかがマリ姉と呼んだ──は、みつきが蛇口みたいと称したものが壁一面に並ぶカウンター奥でビールを注ぎ終えると、2人の前に3つのビールを並べ、満面の笑顔で言った。


「こっちから、5、12、27ね。ビール沼へようこそ、みつきちゃん!」

「えっ?! 沼? えっ?」


 戸惑うみつきに、まなかが補足を入れる。


「沼っていうのは、はまると抜け出せないって意味。これが桃、これがぶどう。味見して、好きな方飲んでいいよ。私、いつも2杯飲んで帰ってるから……」


 なるほど、そういうことかと思いながら、みつきは恐る恐る桃とぶどうのビールを一口ずつ味見し、驚いた。


「こんなの、初めて……どっちもすっごく甘くて美味しい! 全然苦くないし、ビールって言うよりジュースみたい……。1つに選べないので……もしよかったら、両方飲んでもいいですか?」

「良かった……。マリ姉、14番もお願いしていいですか?」


 まなかは、みつきがフルーツビールを気に入った様子にホッとした表情を浮かべると、自分がもともと頼む予定だったのであろうもう1種類も追加でオーダーした。


 §


「まなかさん、今日はご馳走さまでした! ビールって、苦くないものもあるんですね! 大手が作ってる以外のビールもたくさんあるんだって知って、びっくりしました」


 2人は店を出て寮に向かう中、みつきは改めてお礼をするとともに、感想を伝えた。


「そうなの……種類、いろいろあって楽しいの。またお話もできてうれしかったし……。初アフターファイブ、どうだった?」

「すっごく楽しかったです! 仕事の疲れも飛んできました。もしよければ、またビールについても教えてもらっていいですか?」

「……うん、こんなふうに軽くでよければ。ちょこちょこ行ってるから」


 まなかは、少し照れたような複雑な笑顔を浮かべながら答えた。


「あっ、そういえば。まなかさんがカヨさんと寮で飲んでたのって、もしかしてフルーツビールですか?」


 みつきは、白葡萄のイラストが描かれた小さめのビール瓶のようなものを、先日まなかの部屋で見かけたことを思い出してたずねた。


「……そう。あれは北海道麦酒さんのナイアガラはニー。よく見てたね」

「やっぱりー! もう少し早くフルーツビールの魅力を知っていれば……無念です」

「まだ一本部屋にあるよ。この後来る?」

「はいっ! やったー!! じゃあ、おつまみ持って伺います!」


 こうして、みつきの新社会人初日であり、クラフトビールデビュー初日でもある月曜日の幕が閉じたのであった。

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