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明日から突然サバイバル生活!  作者: ELS
(第3章)迷宮でサバイバル!

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迷宮サバイバル五日目(後半)

迷宮サバイバル五日目(後半)


建物の外は、目につく範囲には屍小鬼どころか、小さな生き物すら見当たらない。


部屋の中では、虫などがたくさん目に付いたが。さて、どこかに隠れているのか、それとも生息していないのか。


そして外の空気が良いのか、ひらけた場所で木々も気を使ってくれたのか、先程までよりスムーズに進む事ができている。

自生している植物の種類は、建物の中の物とさして変わらないように見えるのだが。


また楓くんも同じようで、何度か体調を聞くが、いつも答えは“大丈夫デス”だそうだ。

顔色も良いし、息もさほど切らせていない。

本当に大丈夫なのだろう。


「あ、コレ食べられますヨ」


突然立ち止まって、声がかけられた。


ばさりとミニチュアのヤシの木のような植物から、おもむろに実を引きちぎった。俺の背丈程しかない小さな木だ。


その実を渡してくる。


「僕らはアドの実って呼んでまス、美味しいデスよ」


見た目や大きさはヤシの実にそっくりだ、緑色で……しかしブヨブヨで柔らかい。

実物は見たことがないが、ヤシの実って硬いんじゃないのか?

ナイフを入れると、スッと抵抗なく刃が通った。

少しばかり切り出してみる。実の中は白色で、熟したアボカドのようにねっとりしている。


「えぇ、大丈夫かコレ」


彼の方を見ると、真面目な顔でこくりと頷いた。どうやらいってみろとの事らしい。


恐る恐るそのカケラを口に運ぶ。


むぐむぐ……。


うん


ぐちょりと芋虫を噛み潰したような食感で、味は鼻水を生臭くしたような風味だ。


最悪に不味い!


「うぇぇぇ……」


思わず涙目になり、非難の眼差しを彼に向ける。


「アハハハハハハッ」


何を思ったのか、大笑いだ。


「ゴメンなさいっアドの実を、本当にそのまま食べるっておかしくて、はははっ」


どうやらこれは、調理が必要なものらしい。分かるわけがない、止めてくれよ。

でも、先程はフライパンで彼の事を内心笑ってしまっていたので、お互い様という事か。


「ごほっごほっ、これ本当はどうやって食べたら良いの」


咳き込みながらたずねる。


「これは、火を通すんデス。また食事の時に食べましょう。本当に美味しいデスよ」


一瞬疑ったが、今度は本当だろう。いくつかリュックに入れて持っていくようにした。



……



幾度かの小休止を挟んだのち、ついに外周の建物を、木々の間から目視するに至った。

ついにたどり着いたのだ。


「たどり着いた……」

「つきましたネ」


そう、この外周の建造物の中にゆみちゃんが居るはずだ。静かに気持ちが焦る。


しかし。


空を見ると、太陽は建物の向こう側へ姿を消し、透き通った青は神秘的な茜へと姿を変えていた。


どうする、中に入るとなると、途中で日が暮れてしまうだろう。ここで野営をすべきだろうか。


「お兄さン」


考えながら立ち尽くしていると、彼から声がかけられた。


「ココは……」


「うん、今日はここで野営しよう。突入は明日だ」


「ハイ」


ミイラ取りがミイラになる訳にはいかない。無理をしない、落ち着いてがサバイバルの鉄則だ。



……



今回は、寝床から離れた場所に火を起こした。調理場と寝床を離したのだ。


火で暖を取れないのが気になるが、夜でもそこまで冷える事はない。上着を着ていれば何とか耐えられるだろう。


それよりも、屍小鬼が寄って来る可能性の方が危険だ。

負傷しているし、今度も撃退できるとは限らない。


「さて……」


「できましたヨ」


できたというのは、例のアドの実だ。焚き火の下に埋めて、熱を伝える調理法を取っている。

灰の中から出てきたソレは、皮がパリパリに焼けて真っ黒になっている。


「香ばしくて良い匂いだね」


なんだか食欲をそそる良い匂いがする。最近はまともにご飯を食べられていないので、常に空腹なのも効いているのかもしれないが。


「熱っ!っとどうゾ」


半分に割って、その片方を渡してくれた。

昼に見た物と、印象が違う。ホクホクで…焼き芋のようだ。

火傷しないようにかぶりつく。


「いただきます」


ぱくり。


むぐむぐ……。


甘い!見た目通り、焼き芋に近い味と食感だろうか。生臭くてネチョネチョしていた刺身とは大違いだ!


火を通すだけで、これ程美味くなるとは!


「うぉっ美味しいコレ!」


「でしょウ」


ぱくりぱくりと、食べ進めていく。

その様子を見て納得したのか、心なしか胸を張って彼も食べ始めた。


大満足の夕食となったのだった。



……



「うそだろ」


包帯を変えようと傷口を確認すると、今朝の傷がもう、カサブタにようになり、殆ど治りかけていた。コレはそんなに浅い傷では無かったと記憶している。


いや、良い事なんだが。


思っていたのと違う結果に、少し恐怖を感じる。なぜこんなに怪我の治りが早いのか。

楓くんは、良かったデスねなんて喜んでくれているが。


「うーん」


念の為に、包帯をもう一度新しいものに交換しておいた。

ぽりぽりと、頭をかきながら考えたが原因はわからない。


「ん?」


手には抜け毛、しかも銀色の。いや、白髪かな。


「苦労してるからなぁ……」


不思議な現象に困惑しながらも、その日の夜は更けていったのだった。

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