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明日から突然サバイバル生活!  作者: ELS
(第2章)雪山でサバイバル!

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雪山サバイバル十二日目(後半)

雪山サバイバル十二日目(後半)


家の近くまで戻ると、ゆみちゃんとクロが温泉の外周で何かしているのを見つけた。


白い湯気のなかで、ゆらりと浮かぶ人影。


ハーフパンツに素足で、膝下位まで湯に浸かって水面をじっと眺めている。

前傾姿勢の為、肩まである黒髪が前に集まって、まるで真っ黒なのっぺらぼうだ。

どうやら何かを探しているらしいが、貝だろうか。


こちらの姿を認めた彼女が声をかけてくる。


「おかえりなさーい!」


大きな声を上げ、手を振ってくれた。


「ただいまーっ!」


風が少し出てきたのもあり、声量を上げないと向こうまで届かない。自然と大きな声になる。


「何をしているの?」


近づいて、そう尋ねる。

屈んでいる彼女が、ゆっくりと体を起こし、汗で顔に引っ付いた髪をかきあげて答えた。


「何か魚みたいなのが居たから、釣りをしているんですよ!ほらっ」


そう言って見せてくれたのは、どうやら何かの針を曲げて作った釣り針のようだった。

それを糸に繋いで、何か餌のようなモノまで付けているようだ。

綺麗な加工だ、どやっとでも言うように胸を張って見せるだけの事はあるな。


「すごいね、釣れてる?」


「まだです!魚は沢山居るんだけどなぁ」


「そっか、頑張って。俺もちょっと外周を散策してから戻るよ」


「はーい」


ちらっとクロの方を見る、顔を水面から出して、ばしゃばしゃと楽しそうに泳いでいる。

頼むからもうすこし遠くで泳いでやってくれ。


さあ、俺も何か探して帰ろう。



……



太陽が一番高く昇る頃に、家に集合する事になった。


ストーブの火で、濡れた衣服を乾かしながら釣果の確認だ。もはや訊ねるまでもなく、どんよりとした空気を纏った彼女からは良い結果が得られそうにはないが。


「何も釣れませんでした……」


「うーん、残念だったね」


クロが泳いでいた所為か、餌が悪かったのか、原因はわからないが大漁とはいかなかったようだ。

缶詰もまだあるので食料には余裕があるが、今のうちに調達可能な食料の種類を増やすべきだろう。


「こっちは貝をまた拾ってきたよ」


「おぉー」


食べられる事がわかったので、同じものをいくつか獲ってきた。また焼いて食べるのが良さそうだ。



楽しい食事の後に、今日の調査結果を切り出した。


「今朝あいつの足跡を辿った時の事なんだけど、巣のような場所に辿り着いたんだ」


「巣ですか」


「うん、巣なんだけど。そこを調べてみると、骨や毛が落ちていたんだ。吐き戻す習性があるのか、偶々なのかわからないけど、やっぱり人も喰うみたいだね」


「……」


おおよそ予測は出来ていたが、やはりショックのようだ。


「それで、その巣までは歩いて20分位の距離だった」


深刻そうな顔で、こくりと頷く。


「どうしようかな」


そう言って天井を見上げる。


「ここを追い出されて、生きていけるのかと言ったら、それはどうかわからないし。かと言って、いつ見つかるのか竜に怯えて暮らすのもなぁ」


思った事がそのまま口から出た。怖がらせないように、もう少し取り繕って話をした方が良かっただろうか。


「ううーん、象の倍はありましたよね。大きさ」


「確かに、しかも俺たちを丸呑み出来そうなくらい顎が大きかった」


議論は続くが、具体的な行動案は出ないまま。つまりは現状維持するしかない。


あの竜が、気まぐれに河岸を変えてくれるのを祈りながら。



……



ぐらっぐらっ


外は月すら寝静まり真っ暗な夜だ。少し吹雪いているようだが、風にも雪にも負けず、アレは今日も来た。


目を覚ました我々は目で合図をし、窓から見えないようそれぞれ隠れた。

俺とクロはテーブルの下に、彼女はベッドの下へ。


ずしんという音と共に、家全体の揺れを感じる。今日はかなり近い。


次の瞬間


バリバリバリッ!


恐ろしい轟音と共に、ドアが破られた。ぬぅっとばかりにドアから、巨大な頭が入って来た。まるで暴君竜が白亜紀から蘇ったかのようだ。


未だ燃え残りのある薪ストーブの灯りを受け、ぼんやりと照らし出されたその頭部では、ぎょろりと鰐の如き瞳のみが異様に主張している。


彼には玄関が小さすぎたと見える、少し顔を傾ける度に、ドアの周りがメリメリと悲鳴を上げて割れていく。


左へ、右へと室内を見回す。


ぐるるとも、ごおおとも分からぬ風音が、喉の奥から聞こえてくる。

俺たちに出来る事は、見つからぬように小さくなり震えて待つ事だけだ。


暫しの静寂。


思わずごくりと喉がなる、その音さえも恐ろしい。


どれ位の時が、経っただろうか。


ついに諦めたのか、歓迎されぬ訪問者は静かに吹雪の中へと消えていった。

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