雪山サバイバル五日目
雪山サバイバル五日目
目覚めると辺りは暗闇だった、いやまだ目覚めていないのだろうか?
昨日はどうしていたんだったか、家の窓を閉めた?
どうして暗いんだろうなぁ……
何となく考えがまとまらない、ふわふわする気がする。
しばらく考えて気がついた。
「……!」
いや、昨日は雪洞を作って雪の中で寝たはずだ。そうすると、入り口が雪で埋まってしまったのだろう。
手探りでスコップを探し出し、おおよそ出入り口としていた場所に当たりをつけて掘り出す。
ぼこりと雪を退かすと、光が見えた。
外を覗くと、ごおと唸る風の音。
日は昇っているようだが、真っ白で1m先も良く見えない。
こんなに視界が悪いと、歩く事はできないだろう。
「恐ろしい天気だなぁ、クロ?」
と振り返るが、どこにも彼の姿は見当たらない。
「どこだ」
雪洞の中、外の周りも見渡すがクロの姿は無い。リュックの中まで、ひっくり返して探したがどこにもいないのだ。
どさりと腰を下ろす。
どうやら眠っている間にどこかへ行ってしまったようだ。心配だが、この吹雪の中探しに出かけると、ミイラ取りがミイラになるだけだろう。
何にせよ、天候の回復を待つしか無い。
風が吹きこまないように、出入り口を小さな窓の大きさだけ開けて再び埋める。
そして吹雪が止むのを待つ事にした。
……
何時間くらい経っただろうか。
ずっと小さくなって座っているが、手足の先が恐ろしく冷たい。手を閉じたり開いたり、足は揺すって見たり、動かしてはいるが、そう温かくはならない。
風が無いだけマシだが、雪の中は寒い。凍えてしまう。
布団が欲しい、いや、寝袋がいいな。
ちゃんとした登山用のやつがいい。
あと、このくそったれ雪の地面が冷たすぎるから保温マットが欲しい。
いや、何でもアリならコタツが最強か。
なんて、ふざけた事を考えていると、入り口のあたりからごそごそと音が聞こえてきた。
「クロ!」
急いで、塞がりかけている入り口を開ける。
するとそこには雪で真っ白になったクロがいた。
「無事だったか!」
そう声をかけると、嬉しそうに尻尾を振って近づいてくる。
ところで彼は、何か咥えているようだ。
何か、白く太いロープのような形だが……。
大きさは1mくらいだ。
よく見ると頭が付いている、だが手も足も無い。蛇のような生き物なのだろうか。動かないところを見ると死んでいるようだが。
近くに寄って、もう少し観察する。
この顔はナマズだ!ナマズが一番近いだろう。
そうやって一人で納得していると、クロがどうぞと言わんばかりに俺の近くに置いてくれた。
「なぜこんな雪山にナマズが」
思わず口をついて出たが、観察しているとエラが無い。陸上で生きる生き物なのだろうか。
変な生き物には慣れている。雪の中を泳ぎ回るナマズが居たとしても、もう驚かない。
それより問題は、こいつが食べられるかどうかだ。
クロが咥えて持ってきたくらいだから毒は無いと信じたいが……。
ナイフを取り出して捌いて見ることにした。
だんと頭を落として、腹を開く。すると、驚いた。
この大きさの生き物にしては、やけに内臓が小さい。それにもまして異様なのが、お腹側についている肉が、殆ど脂身だ。
背中側にも厚く真っ白な脂身の層が出来ている。
赤身の筋肉は、背骨の周りに少しだけだ。
なるほど、皮下脂肪を蓄えることで、この環境に適応しているということか。
「そうだ!」
ピンと来た、この大量の脂身は燃料になるんじゃないだろうか。いかにも燃えそうだ。
ぐっぐっと腹から切り出した脂身を金属カップに入れる。
そしてランプの芯代わりに、裁縫セットから切り取った糸を垂らした。
チッチッ……
メタルマッチの火花をカップの中の芯に何度か飛ばすと、ぽうっと芯に火が灯った。
成功だ!
「やった!」
安定して燃えている。ロウソクよりも少しばかり立派な灯が灯った。
雪洞の中はオレンジ色に彩られて、きらきらと綺麗な輝きを見せる。
小さなランプの火だが、ほのかに暖かささえ感じる。
この大きさで安定した火であれば、雪洞の中でも明かりの代わりに使えるだろう。
ナマズのランプに大満足の俺は、その火を利用してお湯を沸かすことにした。
ランプの上に、雪を入れた鍋をかけて待つ。
小さな火なので、雪を溶かすのは少し時間がかかりそうだ。その間に、クロと一緒にジャムを食べる事にした。
……
雪洞の外はまだ吹雪のようだ、明日は止んでくれると良いのだが。
コポコポ…
しばらくすると湯が沸いたようだ。
照明件、調理用の燃料が手に入った事で生活が一気に豊かになった。
制御の容易な火があるというのは心強い。体を温める事も、調理することも、明かりを得る事もできるのだ。
「はぁー」
白湯を飲んで一息つく。クロもいつの間にか丸くなって休んでいるようだ。
元気が出てきたので白ナマズの処理をやってしまう。
内臓と、肉と、脂に切り分けて。肉は焼いて食べる事にした。脂の塊は燃料として置いておくのが良いだろう。食べても美味しくないと思う。
(割と綺麗に捌けたな……)
こうしてバラして見ると、赤身が本当に少ないのがわかる。
できた肉を一口大に切り分け、鍋で焼いてみた。じゅうという食欲をそそる音がする。
さあ、食べてみよう。恐る恐る口に運ぶ。
……パクリ
「うん、美味い!」
魚肉ではなく、哺乳動物の肉の味がする。筋張っていて独特の匂いがあるが、新鮮な肉は久しぶりだ。
肉の焼ける匂いにつられて起きて来たクロと一緒に頂いた。空腹も手伝い、パクリパクリと、一匹分の肉を食べ切ってしまった。
……
食事を終えた後は、二人で固まって休む事にした。そうしたというより、クロが寄ってきて結果的にそうなった、ということなのだが。
クロには感謝している、彼が居なければ俺は今日を乗り越えられたかわからない。
この雪山に来て、生きる事の難しさをまた教えられた思いだ。
明日は、天候が回復しますように。
そう祈りながら目を閉じた。




