表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日から突然サバイバル生活!  作者: ELS
(第2章)雪山でサバイバル!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/115

雪山サバイバル四日目

雪山サバイバル四日目


朝日が昇る。


遮る物のない日の出は恐ろしく綺麗で、そして神秘的だ。


(さあ、覚悟は出来た)


ついに、この時がやってきた、この雪山からの自力での下山である。

いつ変わるかわからない山の天気に、この気温である。万全の準備が必要だろう。


いつかの山林と同じようにはいかない。

この地では、ただそこに居るだけで、命を奪われる危険性があるのだ。


インナーの上下は予備分も用意して、リュックに入れた。

セーターの上にダウンジャケットを来て、ニットの帽子を被る。

手袋と靴下は二重だ。


長靴には、手製のかんじきを装着している。


リュックの中にはタオル、裁縫道具。片手で扱える小さい鍋。

食料は干し肉と干し魚、ジャム。

火起こし用に新聞紙と薪と小枝を何本か、メタルマッチ。

水筒、金属カップ


リュックの外側に飛び出すようにスコップを、腰にナイフを装備した。


思いつく限りの装備をする、雪山どころか夏山すら登山経験は無いが、命がけで下るしか無い。どれくらいかかるだろう、二日か、三日か、いずれにせよ。


「必ず生き延びてやる」


そう呟きながら、クロの方を見る。

どうやら兄弟は準備万端のようだ、尻尾を振って玄関で待っている。


一点の雲も留めぬ空の下、俺たちは歩き出した。目指すは下山、とにかく下に向かって進むのだ。


……



天気も良く、かんじきの力もあってか足元も悪くない。

順調に進んでいるのでは、無いだろうか。

不思議な事だが必死で歩いていると、こんな雪に囲まれた場所でさえ、じんわりと汗をかいている。

露出している顔は痛いほど冷たいのだが。


ここは、どの程度の高さなのだろうか。

木が生えていないところを見ると、割と高そうではある。


「観光で、来たかったなぁ…」


真っ青な空と、どこまでも続く白い大地。

今まで感じた事のないほど、空気は澄んで綺麗だ。


今は風も無く、この世界で動いているものは俺たちだけ。

聞こえるのは、ざくりざくり、ぎゅっぎゅという俺とクロの足音と息づかいのみ。


ふっと立ち止まる、降り積もった雪が音を吸ってしまったのか、完全に無音だ。

まるで世界から俺たち以外は全て、居なくなってしまったのではないかとさえ思う。


知られざる自然の美しさに感動しつつ、歩を進めていった。



……



太陽が傾き始めた頃から、風が強くなり始めた。

ごぉぉと風が吹いて、雪が舞い上がる。

生命を拒絶するこの大地が、牙を剥き始めたのだ。


「ぉおっ!」


風に煽られてよろめく。

さらに風が吹き始めると、一気に寒くなって来た、体の芯から冷えていくのを感じる。


風があるだけで、これほど違うのか。


さらに先程までの汗が冷えて、体温を奪っている、まるで背中に氷の柱を入れられたようだ。


ガタガタと体が勝手に震えだす。


急激な体温の低下に一向に震えが止まらない、このままでは命に関わるだろう。


ざくり、ざくり。


凍えながらもしばらく歩き続けたが、もう限界だ。


「はぁーはぁー……」


風がしのげる場所を探すが、見当たらない。

代わり映えしないこの景色の中で、快適なホテルを探すのは絶望的だ。

手頃な洞窟でもあって、避難して、なんて事を少しは考えたが、都合良くはいかなかった。


しかし予想は出来ていた、洞窟が無ければ作れば良いのだ、建材は此処に沢山ある。

スコップを取り出し、斜面に穴を掘りはじめた。斜め上に向けて洞窟を作るイメージで雪を掘り出して行く。


しかし、ざくっ、ざくっと軽快に掘れていたのは初めだけだった。

途中雪が氷のように硬くなっていたり、入り口が埋まってしまったり、予想以上に作業は難航した。


慣れない土木工事に、小一時間はかかっただろうか。手袋の上から伝わる冷気で、手の感覚が無くなって来ていた頃に、それはようやく完成を迎えた。


(……出来た)


一人と一匹が、ギリギリ入れる程度の大きさの洞穴を掘る事が出来たのだ。


雪洞の中に入ると、風が凌げるだけで凄く暖かく感じる。

リュックを椅子の代わりにお尻の下に敷いて、座って休憩する事にした。


風を防げるようにはなったが、疲れと寒さで、もはや全く動けない。

火を起こす体力も無く、手は動かない。足は相変わらず貧乏ゆすりをやめないでいる。


雪山を舐めていた、準備さえすれば簡単に下山できると思っていた。

ひょっとして、このまま緩やかに死ぬのだろうか……。


(……死にたくない)


そんなことを考え始めた時、クロがゆっくり近づいて来た。


さすがに彼も寒かったのか、それとも青白い顔でガタガタと震えている俺を気遣ってか、ぴったりとくっついてくれた。ふかふかの毛皮と熱い体温が心強い。


彼の体を抱くようにして、しばらく小さくなって座っていると、冷えきった手にじわりと血が通って行くのを感じる。


その時に、命が繋がったと思った。



……



こくりと首が縦に揺れて気がついた。

暖かくなって安心したのか、どうやら眠りかけていたようだ。それとも少し眠っていたのか。


クロが心配してか、こちらの顔を伺っている。お前は命の恩人だな、何て呟いて頭を撫でてやった。


ちらりと雪洞の外を見る。

太陽は低く、沈むのを待っている状態だ、あたりはもう薄暗い。


風と雪も収まっているようだ。


入り口の前で火を起こす事にした。

先日と同じように雪を踏み固め、薪を何本か並べて直接雪に当たらないようにして、その上で火を点ける。

今は風もなく穏やかで、かじかんだ手でも火を起こすことができた。


カップに、ぎゅっと雪を入れ、その上から少しだけ水筒の水を入れる。それを焚き火にかけ湯を沸かした。


「熱っ!」


不用意に触ってしまった、こんな極寒の地で火傷するなんて洒落にもならない。

雪で少し冷ましてから飲む。


ごくりと食道を熱いモノが流れていく。体の中から温まるのがわかる。


「ははっ」


なぜだろう少し涙が出て来た。身体が温まる事が、嬉しい。


濡れてしまった衣服が、なるべく乾くように焚き火に当てる。

また、干し肉を茹でてスープにして、クロと一緒に食べた。干し肉はこれで最後となる。


残る食料は、ジャム一瓶と干し魚がいくらかあるだけだ。


今日は雪洞の中で、クロと一緒に小さくなって夜を過ごしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ