雪山サバイバル三日目
雪山サバイバル三日目
今日はわりと目覚めがいい、寒さで目覚める事が無かったからだ。ストーブのおかげだろうか、それとも体が慣れたのか。
窓の外をみる、どうやら吹雪は収まっているようだ。今日は外を探索することが出来るだろう。
「おはよう!」
気をとりなおしてクロに声をかける。今日は先に目覚めていたようだ、駆け寄って来た。
もふもふっ
頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めている。
もふもふっ
ひっくり返して首も撫でてやる、尻尾をぶんぶん喜んでいるようだ。
クロと遊ぶのもそこそこに、今日はかんじきを作る事にしよう。
かんじきは、靴に取り付けて設置面積を増やす事で、雪に足がめり込まないようにする道具だ。先日の失敗を教訓に、雪道対策をする。
記憶では楕円形だったはずだ。
完成形をイメージしながら木の枝を曲げて円盤を作り、荷造り用の細紐で適当に長靴にくくり付けた。
登山用のブーツなど持っていないので、長靴で代用してみる。スニーカーだと、雪が中に入るし、濡れるし大変だった。
枝を曲げる時、何本か折れてしまったが、コンロで炙ると、曲がりやすくなることに気がついてからは加工が捗った。
見た目は不恰好だが、無対策で雪上を歩きまわるよりはマシだろう。
「良いんじゃないか!」
自分で作ると愛着がわくもので、結構良い出来なのでは無いかと、自画自賛してしまう。
早く試してみたい気持ちに駆られ、早速出発する事に決めた。
「さあ出発しよう」
そう言ってクロの方を見ると、待ってましたとばかりに走り寄ってきた。どうやら一緒に行くようだ。
新しい装備を身につけて、意気揚々と玄関を出たのだった。
……
ザック…ザック…
「歩けるぞ!」
スニーカーの時とは大違いだ、見てくれに似合わず、かんじきはかなり効果があるようだった。長靴なので足にぴったりフィットしないのは難点だが、何か詰めると良くなるかもしれない。
燃料になりそうな木が、生えている場所は無いだろうか?自宅を中心に、四方を探索してみる。
今日は天気も良く、視界はクリアだ。見通しが良いので探索にはもってこいだろう。
……
「何もない……」
慣れない雪の斜面は歩きづらく、体力を消耗する。クタクタになるまで歩いたが、何も見つける事は出来なかった。
視界にあるものは3つだけだ、白い雪と岩肌と青い空。
美しいその眺めが、今は恨めしい。
帰り道を見失わないよう、家から見える範囲の探索に抑えたが、それにしても何もない。
(本当に、木一本生えていないんだなぁ…)
地面の雪を手に取り、ぎゅっと握って雪玉を作る。なんとなく、それを投げてみた。
ぼふっ
雪に埋もれて、雪玉が消えてしまった。
その瞬間。
ばさっばさっばさっ!
後ろにいたクロが、大喜びで雪を掻き分けて雪玉の跡を追いかけた。
ずぼんとばかりに頭を雪に突っ込んで、無くなった雪玉を探している。
しばらくすると、それは崩れて無くなってしまった事に気がついたのか、はっと顔を上げてこちらを見た。真っ黒の顔に、たくさん白い粒が付いている。
「はっはははははっ」
その仕草が可笑しくて、大笑いする。笑っている事が嬉しいのか、クロは俺の周りを飛び跳ねたのだった。
「もう一回やるか!」
なんて、しばらく雪玉でクロと遊んでいると、雲行きが怪しくなってきた。
あんなに晴れていたのに、山の天気は変わりやすいというのは本当のようだ。
雪が降る前に戻ろう。
……
ストーブで暖を取りながら考える。
何故家の周りが急に雪山になったのだろうか。
以前も池や沢が、ある日突然無くなっていた事があったが。この地形の変化と何か関係があるのだろうか。
考えても何もわからない。
今はっきりしているのは、このままでは数日で備蓄が尽き、凍死を待つだけだと言う事だ。
明日、天気が良ければ下山しよう。
この世界では、この場所で救助されるのを待つ選択肢は無いのだから。




