サバイバル二十四日目(後半)
二十四日目(後半)
さあ出発しよう。
荷物を背負い、歩き始める。
するとクロが、当然だと言わんばかりについてくる。
今は、いつ小鬼に出会う事になるかわからない、置いていくべきだろう。
「一緒に居ると危ないぞ、また今度な」
そう声をかけて、小走りで距離を取る。
すると、トコトコトコとクロも小走りでついてくる。
(こいつを引き離すのは無理だな……)
初めて見た時は本当に小さかったが、今はもう芝犬の成犬くらいの大きさだ。
足の大きさから推測するに、もっと大きくなるだろう。
「危なくなったら、逃げるんだぞ。」
そう声をかける。
返事のつもりなのか、尻尾をふるふるっと振ったのだった。
森林を彼らほどの速さで動ける生き物は少ない。
小鬼でも、まず捉えることはできないだろう。
朝の緊張感は何だったのか、思いがけず楽しい二人旅が始まってしまったのであった。
……
あれから何時間経っただろう。
気温は暑くない今日だが、かなり汗をかいている。目に汗が入ってくる。
「はぁっ…はぁっ…」
今日は一日、歩き続ける予定だが…。
荷物を持って、山林を歩くと言うことがこれほど辛いとは。
荷物を降ろして休憩する。
リュックと銃を背負った肩が、とにかく痛い。
歩くと言うことが、こんなに体力を使う行為だとは思わなかった。
水を飲んで、ちょっと芋を齧った。クロにも少し分けてやった。あいつは元気そうだ、息一つ切らしていない。
ぱたぱたと何かに興味を示しては、一人で遊んでいる。
荷物を背負っていないとはいえ、かなりの時間歩いたように思うが、これが種族の壁か。
こっちは満身創痍だが、かれらにはお散歩レベルなのだろうか。
腰を下ろすと、色々なものが見えてくる。
シシの実が落ちているのに気がついた。以前これでジャムを作った事がある、凸凹がある紫色の果実だ。
前に食べた物より熟している、紫色の皮がもはや黒に近い。
痛んでいないだろうか?拾って皮を剥いて匂いを嗅いでみる、甘い匂いだ。
恐る恐る、齧る。
「美味いっ!」
完熟すると、ここまで甘くなるとは。以前食べた物もさっぱりしていて美味しいと思ったが、これがシシの実の本気か!
思わぬデザートに、元気が出てきた。
さあ、今日はもうすこし先に進もう。
……
少し、開けた場所に出た。
大きな倒木がある、雷でも落ちたのだろうか。
途中休憩を取りながら、歩き続けた。
もうそろそろ日も暮れる、今日はここまでだろう。
シェルターを作って休もう。
細い木をナイフで切る。スパッと切れるわけはないので、少し削った後、折りとる。
その枝葉を倒木に差しかけてシェルターとする。簡単な作りだが、十分雨風防ぐことができるだろう。
次に寝床とする部分の整地だ、石や虫がいないように掃除する。
そういえば、この林はほとんど虫を見かけない。快適で結構なことだが。
次は焚き火だ、夜は冷える。
暖を取るためにも焚き火は必要だろう。
歩きながら、焚き火に必要な枯れた小枝を拾っておいた。
火口は芋を包んでいた新聞紙で良さそうだ。
しかし、小鬼たちも火を使っていた以上、炎の光が見えると接近に気がつくかも知れない。
気休めかも知れないが、穴を掘って、その中で焚き火をすることにした。穴の底に火口の新聞紙、その周りに小枝をテントのように組んでメタルマッチで火をつける。
パチパチ…
上手くいったようだ。
火が安定したところで、小さな丸太をくべて炎を安定させる。
焚き火の火を見れた事で、安心した。
辺りが暗く寒くなっていく中で、炎の暖かさと明るさがどれだけ心の支えになる事か。
簡単な食事を済ませて、装備をもう一度点検した。
明日は、小鬼に追いつくか、運が良ければ集落の前で待ち伏せも出来るだろう。
クロはもう隣で寝息を立てている、俺ももう今日は休もう。
必ず助け出す、そう決意して目を閉じた。




