サバイバル二十四日目(前半)
二十四日目
「気をつけてな」
自作の松葉杖をつきながら、そう言って送り出してくれた。
「いってきます」
朝日に向かって、出発する。
今日までは、いつだって自分が生き残るために出発していた。この過酷な世界でのサバイバルのためだった。
しかし、今日は他人のために家を出る。
人は一人では生きて行けない。
捕まってしまった彼は、俺や田中さんの大切な家族だ。
失うわけにはいかない、必ず助け出す。
準備は万端だ。
リュックには水に入った水筒とペットボトル。それに金属製のカップ、これで直火にかけて温めることもできる。
それと燻製肉と蒸した芋を新聞紙のようなものに包んで持たせてくれた、十分な量だ。
また、火起こしが出来るように、例の金属の棒も持っている(正確にはメタルマッチなどど言うらしい)。
左腰にはナイフを吊るした。結構な頑丈で大きいナイフだ、鉈のように使うことも出来るだろう。
銃は背中に背負えるようにスリング(背負う紐の事らしい)が付いているので肩にかける。
弾帯(腰に巻く弾を差すベルト)にサボットスラグ弾25発を装備した。
田中さんの話では、小鬼は集落に十匹程いるらしい、対応できるだろう。
リュックと銃を両方背負うのは、干渉して持ちにくい、スコープなど壊れないか心配だが仕方ない。
今まさに、直面している問題は他にあった。
「お、重い…」
装備が充実していて嬉しいのだが、かなりの重量がある。
(これで二日間歩くのか…)
出発したばかりだが、先が思いやられるスタートであった。
……
藪を掻き分けながら進む。
棘の生えている植物などもあるので、目に当たりそうな、危険な枝はナイフで払いながら歩いていく。
しばらく歩いていたが、ふと見ると途切れ途切れではあるが、足跡がいくつも残されているのに気がついた。
まだ、新しい足跡だ。
形から考えても、これはおそらく、やつらのものだろう。
痕跡を辿って、追跡している気はなかったのだが。どうやら同じようなコースを、進んでいると言うことになる。
単純に歩きやすそうな所を進んでいた、だけなんだが……
(二足歩行の生き物が歩きやすい道って、決まっているんだな)
追跡は難しいと考えて、集落まで先回りする気でいたが、その前に移動中のやつらに追いつく可能性も出てきたようだ。
……
太陽の位置からすると正午前だろうか、焚き火の後を発見する。
十中八九、やつらによるものだろう。
火を起こす知恵があったことに、驚いた。
あの生き物は、武器と火を使うのだ。
これはただの獣ではない、用心して追跡しなければならない。
息を殺して、他に手がかりが無いか辺りを観察する。
カサッと言う音。
茂みに何かいるのか。
目線は茂みのまま、銃のボルトを引き薬室に薬莢を一発、直接込めた。
やけに大きく、自分の心臓の音が聞こえる。
銃を両手で保持し、右肩と胸の間にピッタリ銃床の後ろの部分をくっつけて構える。
ごくり、と息を呑む。
自分が緊張しているのがわかる。
茂みに隠れているであろう相手に対してか、それとも、この強力な武器を扱うためだろうか。
神経がピリピリしているのを感じる。
教えられた通り、ググッと頰に銃床をくっつける。右目の真下に銃口がある。
そのまま、息を殺して待った。
「……」
「…………」
カサッ
しかし、現れたのは少し大きくなった友達だった。そう、あの黒い、子犬に似た生き物。
クロだった。
一気に、張り詰めていた緊張が解ける。
「はぁぁー」
銃を下ろし、脱力する。
クロが尻尾を振りながら、寄ってくる。どうやらお弁当が目当てのようだ。
「また大きくなったな!」
頭を撫でてやると、ごろんと腹を向けて喜んだ。
腹もさすってやった、とても嬉しそうだ。
「そうだな、そろそろお昼にするか」
昼食は、この友達と一緒に取ることにしたのだった。




