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明日から突然サバイバル生活!  作者: ELS
(第1章)北の山林でサバイバル!

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サバイバル二十二日目(後半)

二十二日目(後半)


気がつくと、視界には背の高い木々と、その間から見える空が広がっていた。

どうやら気を失って、仰向けに転がっていたらしい。

なぜ俺はこんな山中で寝転がっているんだったかな…日光浴をしていた覚えはないが。


(そうだ、楓くんは?)


状況を思い出して、起き上がろうともがく。


「痛って…」


頭の先から足の先まで、あらゆる場所が痛い。

痛みで体を起こすことを断念した俺は、もう一度空を見上げることになった。

小鬼はどうやら、ここまでは追いかけては来なかったようだ。


「お兄さん!大丈夫?」


楓くんの声が聞こえる、どうやら心配して声をかけてくれているようだ。

滑落する彼を助けようとして、ミイラ取りがミイラになった間抜けな俺だが、心配してくれているようで良かった。


「うっ……」


気合いで上半身を起こして、声の方を見る。

泣きそうな顔でこちらを覗き込んでいる楓くんと、目があった。


「良かった、生きテて!」


彼の服はかなり泥だらけになってしまっているが、目立った外傷も無く、元気そうだ。


(俺の方は……)


起き上がり目視で確認する。

命に関わる大きな怪我はなさそうだ、幸い骨折しているようにも思えない。

しかし、擦り傷や打撲が各所にあり、しばらくは痛みに耐えなければならないだろう。


ぬるり


頭を触った時に嫌な感触があった。

頭から出血があるようだ、切れてしまったのかもしれない。

自分では確認できないので、楓くんに見てもらう。


「そんなに傷大きくない、大丈夫ソウ」


そう言って、リュックから水筒とタオルを取り出した。

どうしたのかと思っていると、おもむろに傷口に水をかけて来た!


「あっ!」


しみる、そういう事は声をかけてからやって欲しい。

心の準備が出来ていないので思わず声が出てしまった。


傷口を洗ってくれた後は、タオルをターバンのように頭に巻いてくれた。


「これで大丈夫、すぐ血も止まりまス」


結構乱暴な応急処置だ。彼は繊細なのか、大胆なのか、わからない。

しかし血が垂れてくることも無くなったし、助かった。


「田中さんは無事でしょうカ」


心配そうな顔だ。


「わからないけど、一旦あの家まで戻ってみよう」


無事だと言ってやれば良かっただろうか。

しかし俺には気の利いた事を言ってやれるような余裕は無かった。


「はい、でも…」


転がり落ちた斜面を見上げる、かなりの急斜面だ。

この程度の怪我で済んで良かったと言える。


「たしかにこれは登れないなぁ。迂回して、戻れる道を探すしかないだろう」


「わかりました!」


力強い返事だった、思ったより彼は強い子なのかもしれない。

痛む身体を引きずって歩き出した。


……



(駄目だ…迷ってしまった)


歩けそうな場所を選んで、迂回を重ねた結果だ。

来た道を戻るべきだろうか、いや、戻れたとしても斜面を上がれるとは思えない。

おおよその方角はわかるが、家の方角に向かって歩けない。どんどん遠ざかっている気もする。


あれからどれくらいの時間が経過しただろうか。水筒の水はもう二人で分けて飲みきってしまった。


「…落ち着いて聞いて欲しい」


立ち止まって、楓くんに向き直る。


「迷ったみたいだし、しばらくすると日が暮れるだろう。今日はこの辺りで野営しようと思う」


彼は騒ぐこともなく、コクリと頷いた。


「田中さんも気になりマスが、僕たちも危険な事は分かってます」


賢い子だ。


大きな岩があったので、そのまま寝床に利用することにする。

岩陰に枝で組んだ壁を立てかけその上に大きな葉をさしかけて雨風をしのげるようにした。

寝る場所の石や木を退けて整地して、枯れ草を積んでおいた。

そのまま地面に寝転がるよりは体温が奪われないで済むだろう。


火が欲しいが、マッチもライターもない。

知識や経験があれば火きり棒でも火起こしが可能だろうが、俺の腕では時間と体力を無駄に使うだけになるだろう。


その夜は二人、寄り添って眠る事にした。



……



「楓くんは、田中さんの家に来る前はどこに済んでいたの?」


くっついて目を閉じながら、話しかける。


「僕は…お母さんと、森の東に住んでいました。そこに後からあいつらが来て、お母さんは殺された。」


気丈に振る舞ってはいるが、10歳ほどの少年には耐え難い出来事だっただろう。

真っ白な顔の青い目に、涙を浮かべながら続ける。


「また、田中さんまで、死んでしまっていたらと考えたら…」


ぷるぷる小さく震えながら話す最後の言葉は、やっと絞り出したような大きさだった。


「ごめんなさい、聞いてくれてありがとう」


黙ってぎゅっと背中を抱いていると、安心したのか眠ってしまったようだ。


(田中さん、無事でいてくれよ)


そう、祈りながら眠った。

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