サバイバル二十一日目
二十一日目
ギャッギャッギャ…
今日も謎の鳴き声が目覚まし時計代わりだ。
パッと布団片付けて、部屋を出る。
リビングでは田中さんと楓くんが二人で、何かを飲みながら話している。紅茶のような色をしている。
「おはようございます」
二人がこちらを見る。
「おはよう」
「おはようございマス」
「良い匂いですね、何を飲んでいるんですか?」
「ああ、香りの良い葉をいくつか乾燥させて、お茶を作ったんだ。ハーブティって言うんだってな。飲むか?」
「へぇ…ありがとうございます。頂きます」
たしかに良い香りがする。
少し酸味があって、さっぱりとした味も良い。体の中がすっきり綺麗になっていくようだ。
3人でハーブティを満喫していると、田中さんがおもむろに立ち上がった。
「ちょっと外見てくる」
そう言って、玄関に向かっていった。
「お気をつけて」
背中に声をかけると、こちらを振り向かずに手を振ってくれた。
ずずっ
ずずっ
意図せず楓くんと二人きりだ。
二人の時は警戒していたり、緊張しているのが伝わってくるのだが。慣れてきたのか、ハーブティの力か、今日はリラックスしているようだ。
「昨日は、お兄さんも田中さんも元気なかったデスが、どうかしました?」
声をかけてきた、俺はお兄さんらしい。
おじさんじゃなくて良かった。
「うん、ちょっと想定外のことがあってね」
「そうデスか。」
伝わっているのか、よく分からない返事だ。
目線も斜め上を眺めている。
「小鬼が近くの罠のところまで来ていたんだ」
ピクッ、と彼の肩が震えた。
「……」
小鬼という言葉を聞いた、楓くんの顔が真っ青になっている。
しまった、彼は小鬼から逃げて来たんだったか。怯えさせてしまっただろうか。
「あっ、でも大丈夫。ほら俺も田中さんも居るし!」
「……」
「こう見えても、俺は強いから!学生の時はほら、陸上部だったし!」
意味不明なフォローだった。
「ははははっ」
意味不明だが励ましたい意思は伝わったのか、笑ってくれた。
「ありがとうございまス、頼りにしてます」
青い目の端に涙を浮かべて、笑いながらそう言った。ちょっと仲良くなれただろうか。
その後は、お茶会の片付けを二人で一緒にしたのだった。
……
「近いうちに、この家出た方がいいかもなぁ」
昼食を囲んで居る時、田中さんがそう切り出した。心構えはしていたのでショックは少なかった。
「ちょっと見て来たが、またあの辺まで小鬼きとったわ」
あの辺、というのは昨日の罠の場所だろう。
「明日、俺の家に移動しますか?」
林の中のこの家よりは、危険は少ないだろう。大きさも3人で暮らすのに十分な広さがある。
「そうさせて貰おうかなぁ、今日荷物まとめておこう」
急な展開だが、何かあってからでは遅いのだ。彼の判断は間違ってはいないだろう。
「家、捨てますか?」
不安そうに聞いて来たのは楓くんだ。
今まで黙って聞いていたが耐えられなくなったらしい。
「捨てはしねぇよ、ちょっとの間。旅行みたいなもんだな」
そう言って楓くんの頭にポンっと手を置く。
強張った表情が緩む、少し安心したようすだ。
……
午後からは荷物をまとめるのに時間を使った。食料、水、燃料。
俺の家にもいくらか備蓄があるが、心許ないので必要なものをリュックにまとめて持っていけるように段取りする。
準備をしていると視界の端で、金髪の少年がリュックになにか平たいものを頑張って詰めているのが見えた。
「何を持っていくのかな」
後ろから声をかける。
「あっ…!」
びっくりしてこちらを見る。
手には本が握られていた、山の植物図鑑と表紙に書いてある。何というチョイス。
「あのっコレは…」
慌てている動きが小動物のようだ。
「本が好きなんだね」
「…はい。知識がいっぱいで、楽しいデス」
「それなら、うちにもいっぱい本があるから、着いたら好きなだけ見たらいいよ」
ぱぁっと笑顔になった。
どうやら本当に本が好きなようだ、知識欲というのはすごい。
俺は本を読んで眠くなるタイプだったが。
そうこうして居るうちに、田中さんも荷造りが出来たようだ。
俺のリュックにも、水と食料を分けてもらってギッシリ積み込んだ。
出発は明日の朝だ。
今日は、早めに休んで明日に備えよう。




