1.07.寄生と獣と
土竜を退治し、哺乳類素材を手に入れた……。
毒の使い道も考察し、明確な上位種への道筋を考え付く事が出来た。
食物連鎖最下層からの脱出も、もう直ぐだ!
――だが、哺乳類の肉体手に入れたんだよな……。
土竜は目が退化している。
出来れば、複眼でなくカメラ眼……。
――欲しいな……。
――…………寄生、試すか。
まだ使ったことの無いユニークスキルを、土竜に行使する事を思い付く。
――どうすりゃいいんだ?
取りあえず、搦め獲っている土竜に、魔力を流す……。
――ん?違うか……。
――ん~~~?寄生か……。根を体内に這わすか……。
俺は生物にとっての重要器官、心臓を目指し背中から根を体内に侵入させる。
――おっ!繋がったような気がする……。
土竜の心臓の寄生には成功した様だ……。
――マナの搾取は出来るが、感覚が共感出来て無いな。…………脳か!
それに気付き、根を脳に向かわせる。
――よしっ!繋がった。これかっ!
神経の接続により、土竜の感覚が伝わって来る。
――お~~~!って、言ってられないな。
毒により、土竜の身体は蝕まれている。
主に血液!
俺は、血管内に粘液を流しマナの通り道を確保!
全身の掌握に掛かった。
――やっぱ!この感覚だよな!
そうそれは人の感覚に近い、哺乳類の感覚……。
――だが、まだ遠い……。
「ギュイ、ギュイ~~~!(早く人間になりた~~~~い!)」
どこぞの半妖怪の様な事を叫ぶ。
「ギュイ?ギュイギュイ。(あれ?声帯ゲットしてる。)」
完全に土竜を掌握できたようだが……。
絵面的に不味い……。
まるでマリオネットの様に、土竜の背中に毛細根が何本も刺さっている。
――これどちらかをメインにしないと駄目だな……。
――となると、マナの消費が少なく移動できるって事で、土竜か!
――でも、どうやって…………?
――真理
種族:精霊種トレント族
状態:寄生草
名前:大門文人
性別:男
属性:樹
スキル:真理 言語互換 共感覚 亜空間 検索 成長促進 魔力感知 気配遮断 偽装 体温調節
ユニーク:吸収 寄生(土竜) 触手 芳香 光合成 粘液 毒生成
祝福:クルトの寵愛
称号:女神クルトの伴侶
ステ―タスには、様々なチート級スキル!
これで何か思いつかなければ、しばらくはこのままと言う事になるが……。
――亜空間……使えるか?
俺は、亜空間による体の収納を考える……。
取りあえず実践……。
体を亜空間に押し込めて見る……。
――出来ないことは無いが……。亜空間を開きっぱなしするには、マナ不足になりそうだな……。
――そうするとやはり、しばらくはマナの確保か……。
現在直径5cm程のマナの球根は5つ、1日に1つは消費しそうだ……。
数を増やすか、肥大化させなければ移動もままならない。
まあ、昆虫とか小動物しか狩っていないから、しょうが無いと言えばそれまでだ……。
俺はマナの確保を最優先として、生長する事にした。
そう思ってから数日……。
マナの球根が少しづつ大きくなってきている。
それを目当てに、またしても敵がやって来る。
「ブフォ、ブフォ。(この辺から匂うな。)」
――心理!
ワイルドボア:野生の猪がマナの影響で、魔獣化した。
――!?
――これヤバイだろ!
――狙いは球根だろうな!
ワイルドボアはその3m程ある巨体で無造作に俺の身体《茎》を引きちぎり、真っ直ぐ球根に向かって来る。
――くっ!
――どうする……?
――土竜じゃ歯が立たないし、毒しかないか……。
――毒に体制はなさそうだが、聞くまでに時間が掛かりそうだ……。
ワイルドボアの皮膚は見た限りじゃ厚いし、通常の攻撃は通りそうに無い……。
その通常の攻撃と言っても、毒針と虫の牙くらい、まるっきり問題外だろう。
その鈍重な巨体に対し、毒の危機も遅そうだ……。
だからと言って、やらない訳には行かない!
ワイルドボアは、その口元の牙と鼻を器用に使い、球根が埋まっている土を掘り起こす。
そして目当ての物を見つけたのだろう、ワイルドボアが口を大きく開き、マナの球根にかぶりつく。
俺はその瞬間を狙いマナの球根に、大量の毒を生成する……。
「ブフォフォ~ン、ブフォフォ~ン!(やばっ!美味っめ~~~!久々の当りだ!)」
――くっ!美味そうに食べやがって!
――だが、それが命取りだ!
一つ目を食べ終わった、ワイルドボアは次なる得物に狙いを絞る……。
「ブフォブフォブフォ!(おっ!こっちにも有りそうだ!)」
――くっそー!
先程と同じように、食べようとした瞬間を狙い毒を生成する……。
だがそれでもまだ毒が効かない……。
更にもう一つ……、また一つ……。
そして、最後の一個が食べられようとしている……。
――くっ!これでも効かないのかよ!どんなに鈍感なんだよ、こいつ!
――俺の数ヶ月もこれで終わりかよ!
俺は、無性に悔しかった!
それもその筈……そのマナの球根が無ければ、初期までとは言わないが食物連鎖、最下層へと戻ってしまう。
この魔獣のひと時の食事に、全てを奪われたと言って過言ではない!
――ぶっ殺す!
そう心の中で叫ぶと、不意にワイルドボアが有る行動を起こす。
「ブッフォフォフォ~ン!(なんだか眠くなって来た~。フワ~~~!)」
そう昼寝である……。
ここ、ウツボカズラ群生地帯と化している、俺の上は日当たり抜群なのだ!
ここが何処かは分からないが、周りには鬱蒼と木々が生い茂っている。
森の中でも数少ない、日向ぼっこ場所だと自負している。
そうして俺の上で、横になるワイルドボア……。
――これはチャンスだ!
俺はその分厚い皮膚をしたワイルドボアの、皮膚の薄い所を探す……。
動物的には体毛が無い関節の内側が、比較的皮膚が薄い。
そして俺は、ワイルドボアの左前脚付け根部分に目を付けた……。
ここからだと心臓にも近く、脳にも近い。
――これから俺が何をしようかと言うと、こう言う事だよ!
俺は極細の毛細根を、ワイルドボアの汗腺にぶっ刺す!
汗腺……、それは皮膚の隙間、汗腺の奥はもう体内……。
極細の毛細根に、鈍感なワイルドボアは気付かない!
――ハッハッハッハ~!肉体だけで、勝敗が決まらない事を教えてやるよ!
俺は汗腺から、毛細血管に侵入心臓を目指す……。
途中血液からマナを吸収しつつ、粘液を生成して行く。
粘液が生成した所を俺の支配下とし、左足のシナプス回路を俺の物とした。
それにやっと気付いたのか、ワイルドボアは眠たそうにしながらも、四足で立とうとする……。
「ブフォ?ブフォフォフォ?(あれ?何が起こってる?)」
――今頃、気付いてももう遅いんだよ!油断したのが悪いのさ!
俺は、更に血管奥に侵入、一際太い血管に出た……。
静脈だ!
――後はこれを辿れば……。
――はい!心臓っと!
驚いたことにワイルドボアの心臓には、マナを大量に蓄えた黒い石が付いている。
――こっ、これは……。魔石と言う奴か?
魔獣と動物の違い!
それは魔石の有無で決まる。
そして人型の種族には魔石を有している種族も多く、一種の魔獣とも取れる。
が……基本、魔石を持っていない種族が人種と獣人種だけで、中には持っている者もいるが、適性が無ければマナに当てられ病気になってしまうとの事、適性が有る者は魔術師となれるらしい……。
――まあ、初めて見たが凄いな……。俺の球根と同じ使い方の様だが……マナの量が違い過ぎる。
心臓に到達した事により、ワイルドボアが地に伏せ、悶え苦しんでいる。
「ブフォ!ブフォ!(くっ、苦しい!)」
――楽にしてやるか……。
俺は、心臓内の血液を吸収、粘液を代わりに生成する。
そして、魔石に根を這わせ、その周りを覆い隠す様に球根を作成する。
――よし!
球根内に魔石を内包する事により、俺のマナ貯蓄量が大幅に増えた。
――これなら……。
既に死に絶えたワイルドボアの脳へ、根を這わせる。
そして……、脳内に到達、寄生し、ワイルドボアの身体を手に入れた……。
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