1.04.第3の刺客
――第2の刺客………。
――じゃなくて、第3の刺客!
それはどう見ても弱者!芋虫よりも体格的に劣る……。
ただ問題は質より量!
――アブラムシかよ!
――油なんて名前つけやがって……、油……ヌルヌル……、今日からお前は、ヌル春川!通称ヌル!
――すっごい滑るよ!と言うか、テントウムシとか居ないのかよ!
大量のヌル!対処に困る……。
――どうしようか……。取りあえず……。
俺は唯一の毒?辛み成分配合、粘液をトラップ以外の部分からじわじわと噴き出させる……。
――そう言えば、唐辛子にも毒性が有った筈だな……確か、火病と呼ばれる精神疾患を誘発するとか……。
――まあどうでも良いか……。
流石は辛み成分!ヌル達が毒を嫌い面白いように誘導されていく……。
そして、ウツボカズラ型、二枚型の罠に自ら望んで入って行く。
罠の内部には毒性の無い粘液を大量に噴出!生物の弱点……、窒息を狙う!
ヌルは所狭しと罠の中、入ってしまえば外に出るのは困難、そして徐々に溜まって行く粘液!
――勇気だけは認めてやるが、俺の敵に回った事を後悔するがいい!く~くっく!
「な~にそれ?ダーリン何してるの?」
――うぉっ!ビックリした。ハニーか……。
ハニーこと、クルト様より言葉が届く……。
「随分楽しそうだったわよ……。ダーリン。」
――今の見てたの?
「ダーリンの事はいつも見てるわよ。」
――何、ちょっと恥ずかしいんだけど……。
「それで何してたの?まさか………………浮気!」
――あ~はっはっはっ!冗談!俺が浮気するとでも……?それに見てたんだろ、ハニー?
「ごめんなさい、分かってたんだけど……。ダーリンが楽しそうだったから、ちょっと意地悪してみたくなっちゃったの……。」
――いいさ、ハニー……。単身赴任みたいなもんだから、ワイフが寂しがるのも分かる。
「ダ~~~リ~ン!」
――ただ俺も食物連鎖最下層からの出発だ……。時間も労力もかかる……。何より先駆者がいないから、試行錯誤の繰り返しだ。だが絶対、ハニーを顕現し卑猥で淫乱な夫婦生活を実現させる。しばらく寂しい思いをさせるが待っていてほしい……。
「ダ~~~リ~ン!いいの!あなたが無事なら……。私の身体は永遠だから何時までも待ってるわ……。」
――ああ、俺も頑張るよ!
「ところで良いの?ハ~レム?」
――えっ!だって俺にはハニーが……。
「別に構わないは……。ダーリンの望みが私の望み!ハーレムの一つや二つ許容できない程、狭量じゃないわよ。」
――なるほど……。女神様は伊達じゃないって事か……。
「でもダーリンが見初める娘は、紹介してほしいかな……?」
――ありがとう、ハニー……。どうなるかは分からないが、その時は紹介するよ……。
女神様にハーレム容認して貰っちゃった……。
「で話は戻るわよ……。何してたの?」
――敵を倒してた!元の世界のアブラムシに似た昆虫、通称ヌルだ!
「アブラムシで間違いないわね……。なるほど今のダーリンの天敵に成り得るわね……。」
――でも大丈夫!対処法が見つかったし、美味しい餌に成り果てたよ。
「流石ダーリン、処置が早いわ。こういうのは予防と初動対応が重要なのよね……。」
――だと思ったよ……。
「でも気を付けてね……。これからもっと強い者が現れるわ。」
――ハニーは全ての生命に対して博愛主義じゃないんだね……?
「何を言っているのか分からないわよ……。博愛主義は人が作り出した造語、私達女神は生命を作り送り出す、全て平等に……。それだけよ……。強いて言うなら、私はダーリン主義ね……。」
――それを聞けて安心したよ……。天罰なんて、受けたくないからね……。
「まさかダーリンに天罰なんて起こらないわ……。そうね……起こるとしたら顕現が遅くなった分、纏めて子作りするくらいかしら……、生まれたての小鹿の様になるまで続けるから、それが天罰ね……。」
ハニーがサラッと、とんでもない事を言う。
むしろこちらも望む事ではあるのだが……。
ハニーの体力には底が無い……。
――な、なるべく早く顕現出来る様……、善処します!
「お願いね、ダーリン!この胸が締め付けられる感覚が、苦手なの……。」
胸……。呪い……。いや恋か……。一種の呪いだな……。
――ハニー、俺も胸が苦しいよ……。だけどそれは、恋だと思う。
「そうなの?初めての経験だから……。」
――そこで質問だけど、俺の生長ってどうかな?
「そうね……。トレント種の生長は、約100年かけて成木になるわ……。それを考えると、凄いペースで生長しているわね……。1年位で若木に至るんじゃないかしら?」
――それじゃ問題ないんだね?比べる者が無いから全然わからないんだよ……。
「問題ないわ……。心配性ね、ダーリン!それに、既に天敵との戦いに勝利してるのよ……。これからの生長も段違いに早くなるわ。」
――マナの搾取はやはり効果的なんだ?
「体内で、生産するよりはずっと早いわ……。」
――ありがとう、ハニー。生長方針の確認が出来たよ……。
「どういたしまして、夫を助けるのが妻の務め、気にしないで……。それじゃ、私も仕事に戻るから……。愛してるはダーリン……。」
――俺もだよ、ハニー……。
そうして、ハニー女神クルトとの会話を終えた……。
俺は、いつも通り生長する……。
――あれ?俺この世界に来て、生長と死闘の繰り返しだけだ……。
もう直ぐひと月になろうとしているのに、それしかしていない……。
まだ移動も出来ない俺は、それ以外にする事が無かった……。
――なんだか若干悲しくなって来た。……。
――でもそれしか無いし……、もう少し生長したら大物でも狙うか……。ジャイアントキリングだ!
ふと、某RPGでウネウネと根を這わせ、移動している草花のモンスターを思い浮かべる。
――あんな感じに移動出来ないのかな?
俺は根を動かそうとすると、魔力が消費されるのが分かった。
――だよな~……。
そうすると、今度はタマネギの大化けを思い浮かべる……。
――いや……、あれは無しだ……。
格好悪い……、球根に手足って……。
――うん?球根……。そうか……球根状にしてマナを貯めれば良いのか!
そうして球根にマナを貯める事を思い付いた俺は、直ぐに実行に移す事にした。
とは言ってもやる事は同じ、吸収→光合成→マナ蓄積→成長の繰り返し……。
その過程で、蕾が開花……、蜂、蝶などに似た昆虫が寄って来るようになった。
――蜂が欲しいな……。
俺は毒を持っている蜂を欲した……。
蜂の毒が有れば、大物も倒せる。
今のままでは、手詰まり感が半端ない……。
花に寄って来るのは分かっている……。
どうやって絡み取る……やはり4枚の花弁で抑え込むか?
花蜜が有れば寄って来るだろうし……やっぱりウツボカズラ型が安全か……。
そうして俺は少し大きめのウツボカズラ型トラップを作成した……。
――もしかして、ウツボカズラ対昆虫用装備としては有能過ぎなんじゃないか……。
――餌を入れれば勝手に入って来る……。
――あ~~でも蝶や蛾はダメかも……、鱗粉で無効化されそうだ……。
――……もっと作って置くか……。
更に周りにウツボカズラ型トラップを作る……。
そして俺の本体周りは、ウツボカズラの群生地帯となった……。
それが新たなる火種となる事を、俺はまだ知らなかった……。
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