永遠に魔法少女
「桜……、ちゃん……、負け……、ない……、で……」
「凛ちゃん! 私、私絶対に負けないから! だから、凛ちゃんも……っ!」
血で染まった凛ちゃんの左手を両手で包み、私はそう誓った。
「後は……、お願い……」
凛ちゃんはそう言うと震える右手でリボンを取りだし、私に手渡す。
「これは……」
「うん……、お守り……、桜ちゃんが、ずっとずっと負けないように……」
そう言って微笑む凛ちゃんが私に手渡したのは、初めて私と買い物に行った時にお揃いで買ったリボン。
私と凛ちゃんの友情の証だった。
繋ぐ掌から、凛ちゃんの力が抜けていく。
「だ、だめ! 言ってたじゃない! 一緒に、一緒に最後まで戦うって!!」
「約束……、守れ……、な……」
「凛ちゃん! 凛ちゃん! 嫌だよ! 私を一人にしないでよ!!」
「ゴメ……ン……」
その言葉が私の親友、凛ちゃんの最後の言葉だった。
「凛ちゃん……、分かったよ、約束する。私は、私は絶対に負けない!!」
凛ちゃんの全てをかけた言葉は、私に力をくれた。
「覚悟はいい!?」
怪異を睨みつけると私は全力で魔法を放つ。
凛ちゃんから力をもらった私は、それまでの苦戦が嘘のような勢いで怪異へダメージを与えて行った。
「GAAAAAA!?!?」
消滅する怪異。
でも、凛ちゃんは帰ってこない……。
あの日のことを、私はずっとずっと後悔している。
◇
最初の怪異の出現、それは50年ほど前になるだろうか。
そして怪異の出現がきっかけとなり観測された異次元と瘴気。
国の調査の結果、異次元に生じた瘴気が一定値より大きくなると怪異となることが判明する。
さらに、怪異が成長すると現実世界に出現、被害をまき散らすということが分かった。
そしてそれと同時に見つかった魔法という存在。
その存在は、手の出せない異次元にある瘴気の元へ向かう道しるべ。
それを操るものは通常行けないはずの異次元に行くことが可能だった。
そして魔法は純潔の乙女でないと使用できない。
世界を守るため、少女たちは青春を生贄に捧げる。
彼女たちのことを人々は敬意をもってこう呼んだ。
魔法少女、と。
◇
国立魔法少女養成学校。
才能ある少女たちが10歳になると入学し、おおよそ14歳までに卒業する。
設立目的は異次元で発生した瘴気に対抗する力を持った魔法少女を国が保護するため。
尤もそれは100%建前だ。
純潔を散らした時、魔法少女は力を失う。
それを防ぎ、彼女達を管理するために作った男子禁制の少女たちの檻。
それが現実だった。
◇
ざわめく教室。
年度初め、今日はクラス発表の日だった。
初めて見る面々、その顔は希望に満ち溢れている。
そんな彼女たちと裏腹に、私は希望なんて持てなかった。
「は、初めまして! 私、桜さんをテレビで見てからずっとファンなんです!」
新しいクラスメイトは私に憧れの眼差しを向ける。
最強の魔法少女、そう言われる様になって何年経っただろう。
凛ちゃんから貰った力で最強となった私。
その苦悩を誰かに理解してもらえるとは思わない。
彼女の様な眼差しを受けたのは、もう数えるのもバカらしいくらいほどだ。
私はそんな眼差しを受けられる高尚な人間ではない。
本心ではそう思う。
「ありがとう。光栄だわ」
しかし、それを表に出すことは許されない。
それが私に課せられた運命。
もはや呪いともいえるそれは、私に逃げだすことを許さなかった。
「私も桜さんみたいに強くありたいです!」
「そう、がんばってね」
「はいっ! ありがとうございます!」
そう言って彼女は自分の席へ戻って行った。
◇
異次元で死んでも実際に死ぬことはない。
力を失い現実世界に吐き出されるだけだ。
全力を賭した戦いに敗北し、瘴気に飲まれることで魔法少女はその力を失う。
そして力を失った少女達は問答無用で卒業させられて一般社会に放り出される。
地位も名誉も失った彼女たちは、それからは普通の少女として過ごすのだ。
◇
「は~……」
私は寮の自室でワンカップを片手にため息をつく。
机の上には凛ちゃんからの手紙があった。
二人目の子供が生まれたらしい。
最強の魔法少女になってから20年。
未だ無敗の私は、魔法少女をやめられないでいた。
魔法少女(32)、もはや魔女だろう……。
あの日のことを、私はずっとずっと後悔している。
小説書くのちょっと疲れたので短編書いてみたのですがいかがでしたか?
叙述トリックに挑戦してみたのですがうまく引っかかってくれれば幸いです。
活動報告に蛇足を記載しますのでよろしければどうぞ。