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第6章 疑惑

- 第6章 疑惑 -


ユーリーさんの初日のお仕事。


ちょっと心配なので、睡眠時間を削って窓から2人の様子を見ていた。


時々メアリーさんと言葉を交わすのは、警護の報告のためだろうか?


ユーリーさんがメアリーさんに危害を加えるようなそぶりはなかった。


私の思い過ごしならいいんだけど。


自己紹介の時のユーリーさんの表情が頭から離れない。


結局私は交代の時間まで、2人の様子を眺めていた。


「お疲れ様。2人とも。」


私が出迎えるとメアリーさんが少し驚いていた。


まぁ無理もないよね。


いつも起こされていた私が、起きているんだから。


「何か変わったことはありましたか?」


私が話題を逸らそうと試みる。


「警護と言うことに関しては、変わったことはありません。」


ユーリーさんは装備を外しながら答える。


「そうですね。いつもと同じです。」


メアリーさんは金シャチさんを起こしていた。


その後、昼食をとり私と金シャチさんは警護に着く。


メアリーさんとユーリーさん2人きりの部屋。


大丈夫かな?


外からだと部屋の中の様子はよくわからない。


「どうした? どこか悪いのか?


昼食もあまり食べていなかったようだし。」


金シャチさんが話しかけてきた。


「いえ、なんでもないです。」


私は怪しまれないように持ち場に戻る。


そんなことを何回か繰り返した後、夕方5時ころ。


いつも通りはしゃぎまわる姉妹が倉庫から出てきた。


執事さんも困り顔だ。


その様子を眺めながら、やっぱり中身がなんなのか、気になる。


仮にランさんやユーリーさんの言うように、モンスターだとしたら私たちはとんでもないモノを警護していることになる。


お日様も遠くの山に姿を隠そうかと言う頃、キスィメン邸に来訪者が来た。


誰だろう?


私は、馬小屋の陰からその来訪者がだれなのか?


気づかれないように、覗いていた。


すると、門から入ってきたのはギルドの幹部。


2人の冒険者を従え、ギルドの幹部の人がキスィメン邸にやってきたのだ。


どういう事?


ギルドの幹部の人が訪問なんて、よほどのことがないとありえない。


やっぱり、倉庫の中身のことかな?


私の胸は高鳴った。


ギルドの幹部御一行様は、そのまま屋敷へと通された。


きっと、応接室に通されたんだと思う。


どんな話をしているのか気になったけど、応接室の様子を外から見ることはできない。


2時間ほどたったころ、ギルド御一行様は屋敷を後にした。


一体どんな話をしたのだろう?


ひょっとして私たちもキスィメン4世さんに呼ばれるかと思っていたけど、その気配はない。


日も暮れて、辺りが暗く染まっていく頃、メアリーさんが私たちを呼びに来てくれた。


夕食の時間だ。


私は、少し眠気を感じながら部屋へと向かった。


部屋に戻るとユーリーさんも装備に身を包み準備万端だった。


私たちはリビングテーブルに並んだ食事をとるべくソファーに座る。


みんなでいただきますをすると、食事を始めた。


「え……と、夕方ごろギルドの方がこの屋敷に来ました。」


報告のタイミングを見計らって、夕方ギルド幹部が来たことをみんなに告げる。


「どういった要件できたのでしょうか?」


ユーリーさんが、食事の手を止めて訪ねてきた。


「いや、その……私たちは見ていただけなので……。」


正直私もどんな話をしていたのか知りたい。


「キスィメン4世さんからは何も聞かされていないのですか?」


「はい、呼ばれもしませんでした。」


ユーリーさんは興味津々という感じだ。


ユーリーさんは、その後右手を顎に当ててしばらく考え込む。


そしておもむろに、


「前に未遂だそうですが、侵入者がいたそうですね。」


「はい。確かにいました。私たちに気づいて、結局逃げてしまいましたけれど……。」


ユーリーさんの言葉にメアリーさんが答える。


「その侵入者と言うのは、どのあたりから入り込もうとしたのですか?」


ユーリーさんの言葉に、私は獣皮紙を取出し、


「このあたり……ですよね?」


と、メアリーさんに確認するように尋ねた。


倉庫のちょうど南側だ。


「皆さんはどこを見張るか、決めていらっしゃるんですよね?」


「一応……ね。」


ユーリーさんの問いに答える私。


「ここと、ここと、ここと、ここです。」


それぞれの持ち場を地図上で指差し、場所を確認した。


「じゃ、今夜はここを見張ろうかな。」


金シャチさんは、侵入者が入ろうとした場所を指差した。


「今まで通りでいいと思いますが。」


メアリーさんはボソリと呟く。


するとユーリーさんは少し考えて、口を開いた。


「私は外を巡回させてもらいたいのですが。


敷地の中はみなさんで巡回してもらってもいいでしょうか?」


え? 外?


「それって敷地の外っていう意味でしょうか?」


私は即座に聞き返した。


「はい、そうです。」


ユーリーさんは当たり前と言わんばかりの表情で答えた。


確かに、前回は塀を登るのに手間取って逃がしてしまいましたから、外の巡回も効果はあるとは思いますが……。


私は困り果てて、メアリーさんと金シャチさんの顔を交互に見比べた。


「お2人が良ければ私は構いませんが。」


金シャチさんとメアリーさんの反応を見る。


「はい、私もかまいませんよ。」


「僕もだ。問題ない。」


2人とも反対はしないんだね。


こうしてユーリーさんは1人で塀の外の巡回をすることになった。


大丈夫かな?


危なくないかな?


不安は募るばかり。


でも、決まったことは仕方がない。


ここは割り切っていこう。


そう自分に言い聞かせた。


ユーリーさんが門を出る前に、私はユーリーさんに駆け寄って、


「気を付けてくださいね。


何かあるかわかりませんし。


またモンスターが現れでもしたら……。」


と、危険なことを押し付けているような気がして、声をかけたのだった。


「いや、モンスターは問題ないんじゃないかな? 


どちらかって言うと……。」


と言って、ユーリーさんは背中を向けた。


そしてそのまま門の外へと出て行った。


なんだかやっぱり不安だな。


そんなことを考えながら持ち場に戻る。


まぁ、金シャチさんとメアリーさんが空から見張っていてくれるから何かあったらすぐ知らせてくれる……と思う。


何とか自分を納得させようと理由を探す。


ふと、敷地内を見回すといつもと違うという、違和感があった。


何だろう?


しばらく考えてみる。


そうだ、私設自警隊員の数が増えているんだ。


いつもなら、門番2人と巡回者3人。


でも、今日は巡回者が5人以上いる。


即席なんだろう。


装備は立派だけれど、動きはなっていない。


戦闘訓練を受けていないのはすぐに見て取れる。


まぁ、それでも人の目が増えるということは、その分死角が少なくなるからいいんだけど。


キスィメン4世さんも1言かけてくれればいいのに。


「連携、バラバラだよ。」


私は、この先に一抹の不安を抱いたのであった。


そんなこんなで、東の空が白みだした。


私は徹夜明けなので、思わず大あくびをしてしまった。


ちょうどそのころ、門から入ってくるユーリーさんの姿が目に入る。


私はユーリーさんに駆け寄った。


「どうでしたユーリーさん。


外に何か変わったことありましたか?」


「いや、異常があったら呼びに来ます。


私一人ではどうしようもないですしね。」


ユーリーさんはそういうと私の頭に右手を乗せる。


「私たちの方も、何事もありませんでした。」


あくび交じりに、私もこたえる。


クスクスと笑いをこらえるユーリーさん。


「それじゃ、食事を済ませましょう。」


もう一度私の頭に、右手を乗せてスタスタと部屋の方に歩いていく。


「待ってください。」


私はユーリーさんの後を追っていった。


「眠い……。」


食事をしながら、私はぼやいた。


瞼が重いよ。


2日連続の徹夜は、やっぱり眠い。


「こらこら、トモリ。よだれたれていますよ。」


ユーリーさんはナプキンで私の口の周りをぬぐってくれた。


「そんなに眠いなら、先に寝ていてもいいですよ。」


メアリーさんもクスクスと笑いながら言葉を投げる。


う~ん、食い気より眠気。


「じゃ、午前中の見張りをお願いしますね。」


そう言って私は、そのままベットに転がり込んだ。


そして意識は深い闇の底へと沈んでいったのであった。


「ねぇ、起きてください。


交代の時間ですよ。」


ユーリーさんの声で目が覚めた。


なんだかあんまり寝ていないような気がするけれど、お日様は空高く昇っていた。


昼食をとりながら、午前中の出来事の報告を受ける。


まぁ、変わったことはないとのことだったけどね。


食事を済ませて、私と金シャチさんが外に出ようとしたときに、思い出したことがあった。


「そうだ、みんなちょっと相談があるんだけれど。」


私は話を切り出した。


「え……と、今回の依頼、前金が500c先に頂いていました。


その内、ランさんの火葬とお墓代で100c使いました。」


先ずは前金を使ったという報告をする。


本題はここからだ。


「それで提案なんですけれど、あの時重症の人を蘇生させるために私は気絶蘇生ポーションを使いました。


そしてもう一人息があった人を、技能を使って蘇生を行いました。


それで、今気絶蘇生ポーションは手元にありません。


誰か持っていますか?」


先ずは確認。


みんなの顔を見渡すが、みんな首を横に振る。


「それなら、一応念のために買っておいた方がいいと思うんですけれど、いかがでしょう?」


そう、本題はここ。


あの惨事がまた起こるとは思えないけれど、あの時気絶蘇生ポーションがなければ、2人を救うことなんてできなかったかもしれない。


用心のためにも、1人1本くらいは持っておいた方が良いと思うのだ。


「必要経費だと思うから、買ってもらって構わないと思います。」


ユーリーさんがいち早く答えてくれた。


他の2人は?


私はメアリーさんと金シャチさんに視線を移す。


「メアリーさんに拒否する権利はないんじゃないですか?」


ユーリーさんが言葉を挟む。


やっぱり気にしているんだランさんのこと。


メアリーさんに敵意を向けている様子はないけれど……。


話は難航した。


やっぱり依頼料が減るのはいやだもんね。


金シャチさんはメアリーさんに、気絶蘇生ポーションを買わせたらいいと主張する。


でも、


「確かにあのときはメアリーさんの手違いだったかもしれないけど、いつ何時同じようなことが起こるとも限らないのも事実。


その時迅速に、回復できるよう準備しておく必要があると思うんです。」


私はもう誰も失いたくはない。


あんな思いをしたくはないし、してほしくもない。


ちょっとお金はかかるけれど、今すぐ必要なものがあるわけではない。


それなら、万一の備えをしておく方が良い。


その気持ちでいっぱいだった。


「トモリ。あなたたちこんなメンバーでチーム組んでいたのですか?」


ユーリーさんが半ば呆れた声を上げる。


「ええ、まぁ……成り行き上……。」


本当、まとまりがないんだから。


金シャチさんもメアリーさんも。


「これじゃ、犠牲者が出てもなぁ。」


小声で漏らしたユーリーさんの言葉が胸に刺さる。


やっぱりそうだよね。


ユーリーさんは妹さんを亡くしているんだもんね。


こんなパーティのために……。


どんどん思考が暗くなっていく。


ダメダメ、もっと前向きに考えなきゃ。


「それでどうしましょう?」


私は雑念を振り切るように、みんなに尋ねてみた。


「賛成です。」


メアリーさんだ。


金シャチさんはどうだろう?


メアリーさんの財布から買わせたがっていたけど。


「金シャチさんはどうですか?」


「賛成だよ。」


以外にもあっさりと賛成してくれた。


「ユーリーさんは?」


「間違いなく、賛成です。」


よし、これで全員賛成だね。


「では、400c残っています。何本買いましょう? 


最大4本までですが。」


できれば一人1本持っていてほしいんだけれど。


気絶蘇生ポーションは1本100cもする高価な品。


前金の残りもちょうど400c。4本買える。


「3本と、Hpポーション系とかを買っておいたらどうでしょう?」


ユーリーさんが案を出す。


「Hpポーションなら私が10本ほど持っていますよ。」


Hpポーションは、1本10c。


気絶蘇生ポーションの10分の1の値段。


むしろこっちの方を使うことになると思って、たくさん買っておいたんだ。


「私も10本持っています。」


え? メアリーさんも?


やっぱり魔法を使うからかな?


魔法と使うと生命力(Hp)を消費するしね。


「ええ? そんなに持っているの? 


よく買えるますねそんなに。」


ユーリーさんが驚いている。


ユーリーさんは装備にお金がかかっているもんね。


私とメアリーさんはリングにお金がかかるけど、他にはお金かからないから。


そんなこんなで、3本にするか4本にするか悩んだ結果、3本購入することに。


ユーリーさんは自分は前衛だからと言う理由で辞退した。


「では、行ってきますね。」


午後の巡回。私と金シャチさんの番だけど、依頼上1人起きていればいいとのこと。


なので、金シャチさんに巡回を任せて、私は気絶ポーションを買いに、ミソカツ亭に向かった。


ああ、なんだか久しぶりに来た気がするよ。


カランカラン


私はミソカツ亭の扉を開き、聞きなれた扉のベルの音に懐かしさを感じていた。


「お? トモリじゃないか。依頼は終わったのか?」


昼食の時間は過ぎて今はお客さんもまばら。


カウンターでグラスを磨いていたおやじさんが、私の顔を見て声をかけてくれた。


「いや、まだですよ。


ちょっと買いたいものがありましてやってきました。」


カウンターに向かって歩き出す。


ここミソカツ亭は宿屋兼酒場。


他にも、冒険で得た戦利品を買い取ってくれたり、冒険用品を販売してくれたりと冒険者にとって、とっても大切な場所でもあるんだ。


ちなみに私の装備もここで調達したんだ。


「お久しぶりですおやじさん。」


私は頭を下げた。


「おいおい、そんな大げさなことかよ。


まだ1週間もたってないぜ。


それより入用ってのはなんだ?」


おやじさんは、相変わらずだ。


ちょっと心が和んだ。


「ええ、実は気絶蘇生ポーションを買いに来たんです。


3本なんですがありますか?」


高額商品だからね、品切れの時もある。


私は恐る恐る聞いてみた。


「ああ、あるぜ。


アレか?


この間またモンスターが暴れたから、用心のために買いに来たのか?」


う~ん、当たらずとも遠からずってところだね。


「まぁ、そんなところです。」


私は苦笑した。


「で、依頼の方はどうだ?


みんなと上手くやっているか?」


おやじさんに悪気はない。


なんせあの惨状を知らないのだから。


私はランさんのことを思い出し、チクリと胸が痛んだ。


「ええ、まぁ。」


そう答えるのがやっとだった。


本当のことを話せば楽になるのかもしれないけれど、そんな時間も余裕もなかったんだ。


私は目的の品を手に入れると、おやじさんにお礼を言う。


そして、足早にミソカツ亭を後にした。


私がキスィメン邸に戻るころには、お日様は大きく西に傾いていた。


いったん荷物を部屋に持ち込み、リビングテーブルの上に置く。


その足で、再び庭に出て警護の続きを行った。


いつものことだけど、夕方5時ごろ、倉庫の中からはしゃいで出てくる姉妹の姿と困り顔の執事さんの姿が目に入る。


「だんだん、非日常に慣れてきているのかな?」


自然と言葉が口から零れ落ちていた。


お日様も西の山々に姿を隠し、だんだんと暗くなるころ、いつも通りメアリーさんが呼びに来てくれた。


私は金シャチさんと合流し、部屋へと向かう。


部屋の中にはこれまたいつも通りリビングテーブルの上に料理が並んでいた。


私が置いておいた、気絶蘇生ポーションは入り口付近に置いてあるワゴンの上に置いてあった。


私は、紙袋に入ったポーションを確認するとそれを手に取る。


「買ってきましたよ。気絶蘇生ポーション。」


そう言って、メアリーさんと金シャチさんに1本ずつ渡す。


2人はベルトポーチにそれをしまった。


「ユーリーさん、本当にいいんですか?」


ユーリーさんに残りの1本を差し出すが受け取る気配はない。


「ああ、それはトモリが持っていてくれ。


私には必要ない。」


そう言い残すとソファーに腰を掛ける。


仕方なく私もポーションをベルトポーチにしまう。


その後、みんなでいただきますをして、夕食を済ませた。


何だろう、なんとなく今日の夕食は味気ない感じがした。


きっと心の持ちようなんだろうな。


私は心のどこかで、ランさんを救えなかったことを責めているのだと思う。


そのせいでユーリーさんに負い目を感じているんだと。


食事をとるユーリーさんに自然と視線を向けていた。


「よし、じゃ今夜もしっかり警備するぞ。」


金シャチさんは左手を右肩に当てて右腕をぐるぐる回しながら言った。


「配置は昨夜と同じでいいですね?」


ユーリーさんが言う。


「はい。」

「問題ありません。」


私とメアリーさんが答えると、ユーリーさんは門の方へと歩き出した。


そして門番に門を開けてもらうと、夜の闇の中に溶け込むように消えていった。


「良し、頑張らないと!」


パチンと自分の両頬を叩くと気合いを入れなおした。


今日も満天の夜空。


星々が私たちを見守ってくれているようだ。


私は、自分の持ち場へと向かった。


その夜は雲一つない夜空だった。


満天の星星が語りかけてくるような、そんな気にさせるくらいのきれいな星空。


まだ、2月と言うこともあり、少し肌寒さを感じてはいるものの空気は澄んでいるようで私は思わず星空を見入ってしまっていた。


ガサガサ


風の音だろう。


私はいつの間にか地面に寝転がり満天の星空を眺め、物思いにふけっていた。


気が付けば東の空が白んでいた。


「え? あれ?」


そんなに長い間、星空を眺めていたっけ?


私は慌てて倉庫の方へと向かった。


倉庫の周りはいつも通り何事もないように静まり返っている。


「良かった。何事もない。」


倉庫をぐるりと一回り。


怪しい人影はいなかった。


「今日も、何事もなしか。」


このまま依頼終了日まで何事もなければいいのだけれど。


そんなことを考えながら、倉庫の正面扉の前までやってきた。


すると、予想だにしなかった光景が私の視界いっぱいに広がっていったのだ。


それと同時にサーっと血の気の引く音が聞こえてくるようだった。


何と、正面扉の南京錠が外されているではないか。


これは一大事、私の頭は真っ白になった。


「と、とにかくみんなに相談しないと。」


私は上空にいるメアリーさんに合図を送る。


そして、みんなを集めるようにお願いした。


幸いにも南京錠は、すぐに見つかった。


しかし……問題はそこじゃない。


この警戒をかいくぐって、何者かが侵入し、南京錠を開けたという事実。


これは、大失態だ。


言い逃れはできないだろう。


塀の外にいたユーリーさんも駆けつけて、いったん門番から死角になる倉庫の東側に移動。


みんなに状況を説明した。


「と、言うことなんです。


昨夜、何か変わったことありませんでしたか?」


「いえ、まったく気づきませんでした。」


「俺も気づかなかったな。」


「私もです。」


みんな異常に気づいていない。


よくよく考えてみれば、ガサガサと言う音を聞いた気がする。


風の音ならそんな音はしないはずだ。


あ~、なんであの時気づかなかったんだろう。


私のバカバカバカ!


「ちょっと、その南京錠を見せてくれませんか?」


「へ? 良いですけど……。」


こんなもの見てどうするんだろう?


ユーリーさんは南京錠を受け取ると、鍵穴の辺りをルーペ越しに目を凝らす。


私はかたずをのんでそれを見守った。


5分ほど角度を変えながら南京錠をくまなく調べ上げるユーリーさん。


そして、一言。


「これは素人の仕業じゃありませんね。」


いや、まぁ、確かに素人じゃないと思うよ。


私たちに気づかれずに進入したんですから。


これで素人だったら、私たち素人以下ってことですもん。


「これを見ろ、扉を開けた跡がある。


それもつい最近、おそらくは昨夜のうちだろう。」


金シャチさんが、倉庫の正面扉の床を見ながら言った。


どれどれ、私が覗き込んだけれどさっぱりわからない。


金シャチさんは野外でのサバイバルの訓練を受けている。


きっと何か気が付いたんだろう。


「これからどうします?


やっぱりキスィメン4世さんに報告に……。」


「いえ、報告はやめましょう。」


ユーリーさんは外された南京錠を、掛けなおした。


そして屋外系の7つ道具から聴診器を取り出すと、扉に当てる。


7つ道具と言うのは、その技能に必要な道具が入った道具箱のこと。


屋内系、野外系、知識系、クラフトマン系の4種類がある。


ユーリーさんが屋内系の7つ道具を持っているってことは、屋内系技能を持っているってことか。


戦闘以外でも、屋内系技能は使い勝手がいいからね。


まぁ、平たく言えば盗賊の技能だからね。


こういう時には頼りになるな。


そんなどうでも良いことを考えていると、


「大丈夫だと思います。


たぶん。」


ユーリーさんは聴診器をしまいながら息を吐く。


「中には人の気配はありませんでした。


賊の目的は分かりませんが、中の獣は無事のようです。」


ふぅ、と全身の力が抜けた。


気が付けば、屋敷は騒がしくなっている。


気づかれた?


私は、キョロキョロ周りを見渡した。


「怪しいですよ、トモリ。」


ユーリーさんが、私の頭を押さえる。


「そろそろ朝食の時間です。


いったん部屋に戻りましょう。」


そういうとユーリーさんが立ちあがり、堂々と部屋へと歩いていく。


金シャチさんメアリーさんもそれに続く。


「あ、置いてかないで……。」


情けない声を上げながら、私はみんなを追いかけた。


部屋に戻るといつものようにリビングテーブルの上に料理が並んでいた。


時間は7時前。


ユーリーさんはソファーに座ることなく、壁に背を預けて窓の外を眺めていた。


つられて私もその視線の先を見る。


倉庫の勝手口だ。


そう言えば、もうじき大量の肉が倉庫に運ばれていく時間。


私たちは食事をとるのも忘れて、倉庫の勝手口を食い入るように見つめていた。


朝7時、定刻通り大量の肉は倉庫の勝手口から中に運ばれていく。


かたずをのんでそれを見守る私たち。


しかし、そんな心配をよそに運び込んだ使用人たちはふだん通り勝手口から出てきたのであった。


ふぅ、緊張の糸が切れた。


気づけば冷や汗がしたたり落ちていた。


「何事もないみたいですね?」


「ええ、そうですね。」


ユーリーさんは、それでも視線を外そうとしない。


あの鋭い視線、やっぱりランさんに似ている。


そんなことを考えてしまう自分に少し嫌気がさしてしまう。


すると、キャッキャキャッキャと言う、はしゃぐ声が聞こえてきた。


あの姉妹だ。


ユーリーさんは、これを見るため視線を外そうとしなかったんだ。


姉妹たちはいつも通り倉庫の勝手口から中に入っていった。


もちろん困り顔の執事も一緒に。


そして10分ほど、息を飲んで変化がないかを確かめる。


「どうやら、何事もないようですね。」


ユーリーさんの一言で、私は全身の力が抜け落ちた。


これでもし何かあったら、キスィメン4世さんに会わせる顔がないよ。


「それより食事にしようぜ。」


金シャチさんは、装備を外してソファーに座っていた。


「そうですね。食べていないのも不自然ですしね。


いただくとしましょう。」


ユーリーさんの言葉で、私たちはみんなでいただきますをして食事をいただいた。


私は、食事をとった後入浴に向かった。


ベルを鳴らしリユさんに案内されてあの広々としたお風呂を独り占め。


冷えた体を温めると、眠気が襲ってきた。


部屋に戻ると、すでにユーリーさんとメアリーさんは警護に当たっているようだった。


そして、私は布団にもぐりこむ。


そのまま夢の世界に旅立っていったのだ。


「ねぇ、起きて下さい。」


ユーリーさんの声で目が覚めた。


お日様は天高く上っている。


交代の時間だ。


私は眠い目をこすって、ベットからはい出ると、着替えを始めた。


身支度を整え、みんなで昼食をとる。


「午前中何か変わったことはありましたか?」


「何もないです。倉庫の方も問題ないようです。」


ユーリーさんの言葉に一安心。


「それにしても何者なんでしょうね?」


目的もわからないし。


不気味だ。


昼食を終えたら今度は私と金シャチさんの番。


「それじゃ、行ってきます。」


私たちは、いつも通り巡回警護を始めたのであった。


「きれいな花壇。」


巡回中、庭の中央に位置する花壇に近寄ってみる。


あの姉妹が、花を散らしていた花壇。


今、あの姉妹は倉庫の中身に夢中で荒らされることはない。


甘い蜜の香りが何とも言えず、心地よい。


色も、白、赤、青、黄色とたくさんの色が規則正しく並んでいる。


本当、花を見れるなんて貴重なことだよ。


それなのにあの姉妹ときたら。


他人のことではあるけれど、なんだか腹が立ってくる。


じっくり花を堪能した私は、自分の持ち場へと戻っていった。


今朝、何者かによって外された南京錠。


今はしっかりと嵌っている。


ユーリーさんの話だと、いつも通りの反応だったらしい。


やっぱり気づいていないんだ。


それにしても賊の目的は、一体……。


いくら頭をひねっても、答なんか出てこない。


私に頭脳労働は無理だ。


私は倉庫周りに何か、犯人につながりそうなものがないか探して回った。


しかし、それらしきものは見つからなかった。


もし、何かあればユーリーさんたちが先に見つけているだろう。


ふう、とため息をつく。


気が付けば、お日様は西に傾きそろそろ倉庫の中の姉妹たちが出てくる時間だ。


私は慌てて倉庫から離れた。


倉庫の勝手口が開かれると、姉妹たちがいつも通りはしゃいで屋敷に入っていく。


それを追いかける困り顔の執事さん。


いつもの光景だ。


「うん、気づかれていないみたいだね。」


私は、そのことを再確認できて胸のつかえが取れた気がした。


と、そんな時だった。


門の近くに私設自警隊員が2人集まっている。


「なんだろう?」


遠巻きにそれを見に行くと、ベットで寝ているはずのユーリーさんが自警隊員の人と何かを話していた。


バックパックから双眼鏡を取り出して……。


何しているんだろう?


近寄ってみようとも思ったけど、ユーリーさんのこと。


きっと何かの策を実行しているんだろう、と思い邪魔をしないように見て見ぬふりをすることにした。


金シャチさんもユーリーさんに気付いたみたいだったけど、持ち場を離れる気配はない。


私は金シャチさんの方に向かった。


「何をやっているんでしょうね? ユーリーさん。」


「きっと、隠密行動の練習でもしているんじゃないか?」


「その割に、自警隊員とお話ししていましたよ。」


あれも隠密行動?


「いや、でも入ってくる時も見つからないようにしていたみたいだったから。」


「そうなんですか?」


ユーリーさんがどこかに出かけていた?


「それってユーリーさんが外に出ていたってことですか?」


私は金シャチさんに尋ねる。


「ああ、俺が見たときには外から戻ってきたところだったよ。」


寝ているはずの時間帯。ユーリーさんはどこに行っていたのかな?


みんなに何も言わず……。


少し様子がおかしい気がする。


やっぱりメアリーさんのこと狙っているのかな?


信じたくはないけど。


そんな考えを振り払うように頭を振る。


なんにしても、ユーリーさんが単独で何か行動しているのは事実。


私たちパーティを信頼してくれていないってことだよね。


……無理もないけど。


私の思考はよからぬ方へと向かっていた。


夕食時、いつも通り私たちを呼びに来たのはメアリーさんだった。


メアリーさんならユーリーさんがなんで外出したのか知っているのかな?


「私の顔に何かついていますか?」


思わずじっとメアリーさんの顔を見てしまっていたらしい。


「あ、いえ、なんでもないです。なんでも。」


やっぱり聞けないよ。


ユーリーさんにとってメアリーさんは妹の仇。


そして、こんなまとまりのないパーティ。


ユーリーさんにしてみれば、命を預ける相手としては信頼できなくても仕方がない。


だんだん自己嫌悪に陥っていく。


ユーリーさんのことが頭から離れないまま、夕食の席に着いた。


なんだか食事がのどを通らない。


ついつい視線はユーリーさんの方に向いてしまう。


昔おばあちゃんに聞いたことがある。


美味しい料理を毎日食べていると飽きが来る。


家庭料理は飽きさせない料理なんだって。


私たちはこの依頼を引き受けてから、おいしい食事を毎日食べている。


でも、初めて食べたような感動は今はない。


贅沢な悩みかも知れないけれど、これも飽きが来たってことなのかな?


そんなことを考えながら、料理を持て余していると、


「どうしたのですか?


召し上がらないのですか?」


メアリーさんが心配して私に声をかけてくれた。


「あ、いえ、そうじゃなくって……なんだか、食欲がないっていうか……。」


夕方のことも気になるし。


なんだか食事がのどを通らない。


「食えるときにしっかり食っとかないと、いざって時に力が出ないぜ。」


お肉を口いっぱいほおばった金シャチさんが言った。


「それはそうですけど……。」


やっぱり食欲ないや。


私は一足先にごちそう様をした。


食後のハーブティに手を伸ばし、気持ちを落ち着かせる。


「みなさん、ちょっと聞いてほしいことがあります。」


食事の手を止めて、ユーリーさんが切り出した。


「今夜ギルドの冒険者の方々が、この屋敷にガサ入れを行うそうです。」


ガサ入れ?


それって確か、強制的に家の中を捜索することだよね。


なんで?


「え? どういうことでしょうか?」


ユーリーさん。


「万一キスィメン4世が何かを隠していたとして、ガサ入れが行われて困るのはキスィメン4世でしょう?」


何かを隠し……それって、倉庫の中のこと?


「ギルドの幹部の方がこの屋敷にみえたのはご存知ですよね。」


コクリと頷く。


「その時どんな話が行われたのか? 


ちょっと聞きに行ってきたまでです。」


じゃ、夕方のあれはギルドに行っていたの?


「そうなんですか。」


私たちに黙っていったのは、どうして?


「一応私の仕事の一部ですので。


そこでギルドの幹部の人にお話を聞いた結果、今夜ガサ入れを行うということを聞き出しました。」


私は、突然の話に動揺を隠せない。


金シャチさんとメアリーさんはどう感じているんだろう。


2人に視線を向けると、メアリーさんが、


「……そうしたら、私たちの身が危ないのでは?」


そうだよ。突然のガサ入れ。


もし仮に、ユーリーさんの言う通り、倉庫の中身がモンスターならそれを護衛している私たちの身も危ない。


「いえ、ギルドは私たちの身の安全は保障すると言っていました。


私たちが護衛している、あの依頼品については何も聞かされていないのですから、と。


それともあなたは、依頼品について何か聞かされていたのですか?」


ユーリーさんはにっこりほほ笑む。


「危ないものだとは思っていたが……。」


金シャチさんが呟く。


「その程度のことなら大丈夫でしょう。きっと。


まぁ、キスィメン4世のせいと言っても過言ではありませんから、彼女が死んだのは……。」


ユーリーさんは呟くように言った。


やっぱり、ランさんのこと許していないんだ。


「それは何時ころなのですか?」


ガサ入れが行われるとき、なるべくスムーズに事を進められるように私たちも協力しなきゃ。


こうなったら、一か八か。ギルドの意向に従うまで。


「深夜の1時と聞いています。」


ユーリーさんはゆっくりと答える。


「……深夜1時……。」


メアリーさんが確認するように呟いた。


このことがキスィメン4世さんにバレるとギルドの捜査にも支障が出る。


絶対、他の人に知られるわけにはいかない。


「じゃ、僕は少し横になるよ。少しでも体力を温存しておきたいから。」


金シャチさんはベットにもぐりこんだ。


残った私たちは、それぞれガサ入れが来た時の準備を始めたのであった。
















































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