第 3 章 秘密の……
私たちは今、ミソカツ亭にいる。
今後のことを話し合うためだ。
日は大きく傾いていて、お店も活気を増してきたころ。
私たちが円卓を囲んでいると。
「嬢ちゃん、いつもの頼むよ。」
常連のキュアベッツさんが私の背中を突っついた。
「え? あの……。」
私は声を詰まらせる。
今は私は冒険者。これからのことを話し合わなくちゃならないのに……。
キュアベッツさんを皮切りに、常連さんが次々、私に注文しだす。
も~、これじゃ話し合いができないよ。
「良いよ。行って来い。」
ランさんが困り果てている私にささやきかける。
「特に急ぎの話があるんじゃないんだ。
ひと段落ついてからでも遅くはないさ。」
ランさんがウィンクする。
「はい。じゃ、失礼します。」
やはり2か月もバイトをしていただけに店の状況はよく知っている。
放っておくわけにはいかないよね。
私はおやじさんに注文を告げるとスタッフルームへと駆けて行った。
「ありがとうございました。」
嵐のような夕食の時間帯が過ぎ、店内にはお客さんもまばらになった。
店を後にしたお客を見送ると、みんなのいる円卓に向かった。
もうすっかり遅い時間だ。
「ごめんなさい。遅くなりました。何か決まりましたか?」
私がみんなのいる円卓のイスに腰掛ける。
「おう、お疲れさん。
いや~決まったことと言うか聞き忘れたことが発覚した。
警護をする1週間の食費なんかの必要経費のことをな。」
ランさんがジョッキをあおる。
「はぁ、そうですね。
そういえば聞いていませんでしたね。」
私が頷くと、金シャチさんが。
「いざとなったらこれを使えばいい。」
と言って、バックパックから瓶詰を取り出した。
「100個あるから、大丈夫だよ。」
金シャチさんは自慢げだ。
「は?」
ランさんが、驚きの声を上げる。
「そんなに買っているの?」
メアリーさんが、金シャチさんのバックパックを覗き込む。
「まぁ、いいや。特にやることはないな?
なら、明後日昼まで自由行動でいいだろ?
明後日の昼前にここに集合で。」
ランさんは、みんなの顔を見回す。
「うん。それで良いと思います。」
まだ詳しい話は聞いてないもんね。
動きようがないよね。
金シャチさんとメアリーさんもうなずいた。
「よし、じゃ明後日昼前にここに集合。
それまでは自由行動だ。
これで解散。」
ランさんがそう言うと席を立つ。
「はい。」
私もお盆を持って席を立ち、円卓の上の空のお皿をかたずけ始めた。
その後、結局私は何をしていいのかわからないので、集合時間までここミソカツ亭でバイトをすることにした。
あっという間に時間は過ぎて、集合時間。
まだお昼前と言うこともあって、お客はまばらだ。
「よし、みんな揃ったな?
じゃ、行くぞ。」
ランさんがバックパックを肩にかける。
う~、とうとう初の依頼、冒険が始まるんだね。
なんだか胸が高鳴ってきた。
何があるかわからないから、冒険者装備をすべて持ってきた。
バックパックも、半分くらいは詰まっている。
武器は護身用の短剣と、ショートボウ。
矢筒には20本の矢が入っている。
できることなら、これらを使うことがないと良いな。
そんなことを考えていると、キスィメン邸についてしまった。
「相変わらず、すごいお屋敷だな~。」
門越しに見える立派なお屋敷は、私の好きな冒険小説に出てくる王子様のお屋敷のよう。
ふと、花壇が目に入る。
この間、姉妹が花をめちゃくちゃにした花壇だ。
それが、またきれいに花が並んでいた。
こんな短期間に、花は咲かない。
と言うことは植え替えたということ。
あんなにたくさんの花を植え替えるなんていくらかかるんだろう?
私はどうでもいいことを考えていた。
「依頼を受けた冒険者だ。
今日来るように言われたんだ。
主人に取り次いでくれ。」
ランさんが門番に言う。
すると門番の1人がお屋敷の方へと歩いていく。
しばらくすると、この間のメイドさんがやってきた。
「どうぞ、お待ちしておりました。」
深々と頭を下げると、私たちを屋敷の中へと先導する。
その優雅な動きに思わず見惚れてしまう。
「こちらで、しばらくお待ちください。」
先日通してもらった応接室に通された。
メイドさんが入れ替わりで、食事を運んできてくれた。
見たこともない食事がリビングテーブルいっぱいに並べられた。
ミソカツ亭でも見たことがないような料理の数々。
思わずよだれが……。
「旦那様はもうしばらくお時間がかかります。
それまで、お食事を召し上がってお待ちください。」
メイドさんは深々と頭を下げると、この部屋から出て行った。
「食べていいんだって。
せっかくだからいただきましょうよ。」
私はソファーに腰を下ろすとナイフとフォークを握る。
「そうだな。
飯でも食って待っているか。」
ランさんもソファーに腰を下ろした。
続いて金シャチさんメアリーさんも。
「いただきます。」
みんなで、いただきますをすると私は目をつけていたお肉に手を伸ばす。
「ふう、美味しかったね。」
あれから1時間ほどが経った。
所狭しと並んでいたお料理は、ほとんどなくなっていた。
私は自分のおなかに手を当てて至福の時を過ごしていた。
コンコン
扉がノックされる。
「どうぞ。」
ランさんが答える。
「お下げしてもよろしいでしょうか?」
メイドさんが部屋の中にハーブティーを持って入ってきた。
「ああ、ごちそうさん。美味かったぜ。」
「ありがとうございます。
では失礼いたします。」
メイドさんはランさんの言葉に返事をすると、リビングテーブルの上のお皿をワゴンに乗せると、代わりにコップを並べ始める。
その後、並べたコップにハーブティを注いでいった。
「今しばらくお待ちください。」
深々と頭を下げるとメイドさんは、この部屋を後にした。
メイドさんが去った後には、甘酸っぱいハーブティーの香りが部屋いっぱいに広がった。
食後のハーブティ。
やっぱり、富豪の人って私たちと住んでいる世界が違うんだな~。
そんなことを考えながら、窓から見える景色を眺めていた。
するとまた例の姉妹がやってきて綺麗な花壇にダイブするのが目に入った。
追いついた執事さんは困りまり顔だ。
見る見る間に、整然と並んでいた花々があっという間に花吹雪に変わっていった。
姉妹の去った後には、あの綺麗な花壇はまた無残な姿をさらしていたのだった。
これではせっかくの景色も台無しだ。
自由行動の間、キスィメンさんの噂をいろいろ聞いたけど、娘さんを溺愛していて甘やかしているっていうのは本当みたいだね。
本人は高評価の職人さんなのにね。
ちょっと残念な気持ちになる。
そんな時、この部屋の扉が開かれた。
私は開かれた扉に視線を移す。
そこに立っていたのはもちろんこの屋敷の当主。
キスィメン4世さん。
彼は、そのままズカズカと部屋に入ってくると、ソファーにドカッと腰を下ろす。
「待たせたな。
では早速だが本題に入ろう。
先ずは前金だ。確認してくれ。」
ドシャリと無造作に置かれた布袋には、おそらく大量の金貨が入っているに違いない。
見たこともない大金が……。
「トモリ、確認してくれ。」
ええ? 私ですか?
ランさんの方を見ると、すでにキスィメン4世さんに視線を向け、前かがみになっていた。
私はランさんに言われた通り、その布袋の中身を数え始めた。
「質問良いか?
前回聞き忘れたんだが……。」
ランさんが先に切り出した。
「なんだ?」
キスィメン4世さんは、じろりと視線をランさんに向ける。
「この1週間の食事とかの必要経費はどうなるんだ?」
ランさんが単刀直入に聞く。
さすがランさん。
直球だ。
私は金貨を数えながら、感心していた。
「うむ、警護中のお前たちの部屋を用意させた。
もちろん食事も付きだ。
何か用があればお前たち専属のメイド、リユに何なりと言ってくれ。
リユ、後でこの者たちを部屋に案内するように。
後聞きたいことはあるか?」
キスィメン4世さんは、扉の前に控えているメイドさんに指示を出した。
メイドさんはペコリと軽く頭を下げる。
「その場所はどこだ?」
ランさんが、問いただす。
「後でリユに案内させる。」
キスィメン4世さんが答える。
「屋敷の地図とかは?
警備のために屋敷内の地図が欲しいんだが。」
ランさんが仕切っている感じだ。
金シャチさんもメアリーさんも黙って口を挟もうとしない。
「屋敷内の地図か。
ちょっと待っておれ。
リユ、獣皮紙とペンを。」
「はい、どうぞ。」
メイドのリユさんは、エプロンのポケットから獣皮紙とペンを取り出しキスィメン4世さんに渡した。
受け取ったキスィメン4世さんは、それを受け取ると屋敷の敷地内の位置関係を書き始めたのであった。
本当に簡単な地図だけど、キスィメン4世さんは地図を書き終えた獣皮紙をリビングテーブルの中央に広げる。
「で、警護は俺たちだけなのか?」
ランさんはその地図を一瞥すると次の質問を投げかけた。
「前にも話したが、私設自警隊がおる。
昼間はそいつらが護衛の任を受け持つ……。」
ソファーに背を預け直すキスィメン4世。
「そいつらと一緒の部屋なのか?」
ランさんの質問は止まらない。
「お前たちとは部屋は別だ。」
キスィメン4世は、当たり前のように答えを返す。
「秘密厳守っていうからには、俺たちの役割ってのがあるんだろう?
他に警護に当たる奴らもいるみたいだし、俺たちはどういう警護をすればいいんだ?
どの辺を見て回ればいい?」
さすがランさん、あらかじめ質問を考えていたかのように次々質問が飛び出てくる。
私は金貨の数を数える手を休めて、獣皮紙に視線を落とした。
正面に門があり四方は塀に囲まれている。
広い中庭があり、東側に馬小屋、馬車置き場、倉庫が並んでいる。
で、南に2階建ての屋敷があり、屋敷の西側1階部分に塗りつぶされた部分がある。
きっとここが私たちの部屋と言う意味だろう。
「お前たちの警護は、主に夜間の警護だ。
わしの私設自警隊も3人ほど警護に当たるが、どう警護するかはお前たちに任せる。」
キスィメン4世がランさんを見て答える。
「で、取引はここでやるのか?」
ランさんが、すかさず次の質問を投げる。
「いや、別の場所だ。
今夜北西地区にある、倉庫にわしと同行してもらう。
もちろん警護の為でもある。
お前たちは倉庫の外で警護をしてもらう。
取引が成立したらお前たちを呼ぶから、それまで倉庫の周辺に怪しいやつがいないか警備をしてもらう。
その後、受け取った品を屋敷の倉庫に運んでもらう。
もちろんその間も怪しいやつが追ってきていないか、細心の注意を払うように。
また、運ぶ荷物も高価なものだからな。
慎重に扱うように。
無事屋敷の倉庫にその品を運び終えたら、屋敷……荷物の警護に当たってくれ。
警護について具体的にどうするかはお前たちに任せるが、昼間はわしの私設自警隊が警護を行う。
お前たちは主に夜の警護についてもらう。
かといって何かあると困るので、昼間1人は警護についてもらう。
それを1週間行う。
その間に何もなければよし、何かあればお前たちで対処してくれ。
1週間後何事もなければ、後金を払おう。
もちろん契約通りここでのことは全て忘れてもらう。
他に質問はあるか?」
じろりと私たちをなめまわすようにキスィメン4世さんは見回した。
「いや。」
ランさんはそっけなく地図に視線を落とす。
私は止めていた手を動かし、続きを数え始めた。
「では、リユ。
彼らを部屋に案内して差し上げなさい。」
キスィメン4世さんは、席を立とうとする。
「かしこまりました。
どうぞ、こちらです。」
「あ、ちょっと待って。」
残りの金貨を素早く数えると、布の袋に入れなおした。
そうして私たちはリユさんの案内で、用意された部屋に案内された。
やっぱりあの地図の黒く塗られたところだった。
部屋の広さはミソカツ亭の大部屋(6人部屋)くらいの広さがある。
ベットは4つ。応接セットも置いてある。
それ以外は特に目立ったものはない。
応接室にあったような陶磁器も置かれてはいなかった。
質素な部屋ではあるけれど、掃除は行き届いている。
清潔感あふれる部屋だった。
庭に出る扉がある。
この部屋自体、最近つくられたように屋敷から張り出していた。
庭を一望できる部屋だ。
でも倉庫が屋敷の陰になってよく見えない。
倉庫の警護をするなら、外でと言うことなのだろう。
「滞在中のお世話は私が行います。
御用がありましたらこのベルでおよびください。」
リユさんはそう言うと、大きめの呼び鈴をランさんに渡した。
ピカピカの呼び鈴だ。
「滞在中の食事もこの部屋に運ばせます。
この部屋には、表に出る扉がありますのでそちらをお使いください。
屋敷の中への立ち入りはご遠慮くださいね。
入浴の際もおよびください。
ご案内いたしますので。
その他、御用の際はいつでも私を呼んでいただいて構いません。」
リユさんは簡潔に要点をまとめて説明してくれた。
食事付の依頼なんだ。
また、あのおいしい料理が食べられる。
私がそんなことを考えていると、ランさんが。
「何か打合せすることとかあるか?」
う~ん、打ち合わせって言ってもな~。
なんせ、依頼を受けるの初めてだし、何をどうすればいいのかさっぱりわからない。
「ランさんは何かあるのですか?」
逆に聞いてみた。
「いえ、何もなければ入浴にでも行こうかと思って。」
「あ、それいいですね。
私もご一緒いたします。」
金シャチさんとメアリーさんは、体を休めておくと言ってベットに横になっていた。
「じゃ、行きましょうか。」
ランさんが、ベルを鳴らす。
すると、しばらくしてメイドのリユさんが来てくれた。
「ご用件は?」
「入浴をしたいのだが。
案内してくれるか?」
「かしこまりました。
どうぞこちらへ。」
リユさんに案内されながら、私とランさんは浴室に向かった。
赤い絨毯の上を歩きながら……。
「わぁ、広~い。」
思った通り、このお屋敷のお風呂は広々としていた。
私が通っている銭湯くらいの広さがある。
いや、もっと大きいかもしれない。
「なんだかもったいないですね。
2人で貸切ですよ。」
思わず浮かれてしまう。
ランさんは終始無言だ。
まぁ、いいか。
私はかけ湯をして体を洗う。
「この石鹸、すごいですよ。
泡立ちもいいしなんだか肌がすべすべします。」
私の使っているの石鹸とは大違いだ。
さすが富豪。
いちいち驚かされる。
体をきれいにしたら、今度は湯船につかる。
お風呂の広さは、ミソカツ亭の大部屋くらいある。
その中心に、ツボを抱えた少年の彫刻が鎮座している。
全体的に白が基調のこのお風呂。
お湯加減もちょうどいい。
お湯に何か混ぜているのかな?
いい香りがする。
「ランさん、よかったですね。この依頼受けて。
美味しい食事に、きれいなお部屋、それにとっても気持ちいいお風呂まで。
至れり尽くせりですね。」
私は思わず鼻歌を歌いたくなるくらい、はしゃいでいた。
「俺は先に出る。」
ランさんはそんな私にかまわず、そっけなく言い放った。
「あ、待ってください。私も出ます。」
慌ててランさんの後を追った。
「ふぅ、いい湯でしたね?」
部屋に戻ると、金シャチさんとメアリーさんは熟睡していた。
「ああ、そうだな。」
ランさんはそっけなく答える。
私はタオルで濡れた髪を拭きあげながら、そっけない態度のランさんに視線を向けていた。
犬種のランさん。
お風呂から出たら毛繕いをしていた。
そうだよね。ランさんは犬種の獣に近い方の種。
あの石鹸で体を洗ったら、せっかくの体毛の油が落ちちゃうよね。
動物にとって体毛の油が落ちるってことは、いろんな不具合が出るってことだもんね。
人間にとってはいいことでも、獣に近い犬種のランさんにはちょっとここのお風呂は酷だったのかもしれないね。
そんなことが脳裏をよぎった。
私は髪が渇いたら、いつものポニーテールに縛りなおす。
お風呂のいい香りがまだ漂っている。
窓の外を見れば、もう日は傾き、お日様は山の陰にその姿を消していた。
そう言えば、自己紹介はしたけれど、まだみんなのこと何にも知らないんだよね?
そう考えた私は、唯一起きているランさんに声をかけた。
「ランさん。ランさんってこの街出身なんですよね?
何年ぐらい住んでいるんですか?」
「ん? そうだな、物心ついた時にはこの街にいた。
お前はどうなんだ? トモリ」
「私ですか?
私は生まれも育ちもこのダイナゴヤです。
とは言っても、パパやママはあちこち放浪している行商人なんですけどね。
今は病気のおばあちゃんと、住んでいます。」
私は包み隠さず、身の上話をした。
「病気なのか?」
「はい、パパやママは年に数回しか帰ってこないんですが、お金は置いて行ってくれます。
そのお金で生活は何とかできるんですけど、おばあちゃんの薬代が高くて……贅沢はできません。」
そう、薬代ってバカにならないもんね。
「病気の祖母がいるのにいいのか?
泊まり込みの仕事なんか受けて。」
ランさんが向き直る。
「平気です。
近所のおばさんが面倒見がよくって、私の留守の間はおばあちゃんの面倒を見てくれていますから。
それにそのおばちゃんにだけは、私が冒険者だってこと話してあります。
おばあちゃんや両親には内緒ですけどね。」
話したら反対されるのわかっているから。
「そうか、なら一安心だな。
しかしトモリ、これだけは覚えておけ。
冒険は常に死と隣り合わせだ。
特にヒーラーのお前は、知能の高い敵にもっとも狙われやすい。
なぜだかわかるか?」
ランさんが真剣に語る。
「……いえ、わかりません。」
私は素直に答えた。
ヒーラーは後方で、怪我した人の治療をするから、むしろ安全じゃないの?
そんな疑問が、頭に浮かぶ。
「ヒーラーと言うのは、相手にとっては厄介な存在なんだ。
せっかく傷を負わせても、怪我を治癒してしまう。
だから、ある程度知能の高い敵はまずヒーラーをターゲットにして、回復をできないようにしてしまうんだ。」
え~、ちょっとショック。
安全だと思っていたのに、実は狙われやすいなんて。
でも、ランさんの言うことももっともだ。
もし敵にヒーラーがいれば、確かに厄介。
ヒーラーを先に叩くという選択をするだろう。
私、間違った選択をしたかも……。
そんな様子を見てか、ランさんは続ける。
「だから俺たちは、ヒーラーであるお前を守る。
お前が倒れたらパーティは全滅だからな。」
そうだよね。回復できなければ、犠牲者が出る可能性は高い。
「だからお前は、まず自分が狙われているという自覚を持て。
そして、自分の身を第一に考えるんだ。」
ランさんの熱弁が、私の心を動かす。
「私の身を第一に?」
「そうだ、俺たちは多少の傷を受けても、ヒーラーであるお前が危険な状態なら、まず自分の身を危険から遠ざけるんだ。」
「危険から遠ざかる……それって、みんなを見捨てるってことですか?」
私にはそんなことできない。
「いや、違う。
見捨てるんじゃなく、安全を確保した上で、回復を行うんだ。
危険な状況で回復をすることは、自殺行為に等しいからな。」
確かにランさんの言うとおりだ。
回復魔法には生命力を使う。
もし、危険な状態で回復魔法を使えば、私の生命力は奪われ、簡単に殺られてしまう可能性がある。
私が殺られたら、みんなの回復どころではなくなってしまう。
「わかりました。ランさん。
でも、私だってみんなに守られてばかりではいませんよ。
みんなが生き残れるように、全力でサポートしますから。」
私は右腕で力瘤を作って見せた。
「ああ、期待している。」
ランさんはそういうと、リビングテーブルに無造作に置いてあった獣皮紙に視線を落とした。
やっぱりランさんって頼りになるな。
いろんなこと知っている。
私も、頑張らないとね。
さっきのランさんの言葉をかみしめる。
それからほどなくして、金シャチさんとメアリーさんが目を覚ました。
きっと彼らも私の知らないことを知っているんだろうな。
なんとなくそんな気持ちで2人に視線を送っていた。
コンコン
扉をノックする音が聞こえた。
「は~い。どうぞ。」
私はその場で答えた。
「失礼します。」
リユさんだった。
扉が開かれワゴンに乗った料理が部屋に運ばれる。
リビングテーブルに所狭しとお料理が並べられる。
どれも見たことのないような料理ばかり。
ぐ~。
おなかの虫が鳴いていた。
「お食事がすみましたら、お呼びください。
それから旦那様からの伝言です。
本日夜11時に出発をする。
細心の警護をするように心がけてほしい。
とのことでございます。」
リユさんは、私たちを見渡した。
「そのつもりだ。」
ランさんが答える。
「夜の11時っていうと……後、4時間ほどですね。」
メアリーさんが、窓から外を見ながら答えた。
すごい、星を見て時間を読み取ったんだね。
私も習ったけど、正直よくわからないのに。
「では、よろしくお願いいたします。」
深々と頭を下げるとリユさんは部屋を後にした。
「さぁ、食べよう。
食べなきゃ力が出ない。」
金シャチさんがフォークを握って、お肉に刺す。
そのまま、丸ごとお肉を自分の口に持ってきて豪快にかじりついた。
男の人ってこういう時いいよね。
私は、別のお皿の料理を自分の皿に少し取り分けた。
メアリーさんも同じように、自分のお皿に取り分ける。
やっぱり絵になるなぁ。
翼人の人って。
思わず見惚れてしまった私であった。
食事を済ませると、食後のハーブティが振る舞われた。
う~ん、至福の時間。
私はこの至福の時間を楽しんでいた。
その後特に打ち合わせもなく時間が過ぎていく。
私は『冒険者初心者読本』を読み返し、訓練で習ったことを思い出していた。
そして、11時。
私たちは、真新しい装備に身を固めて警護の準備は整っていた。
「よし、時間だ。良いな?」
ランさんの言葉にみんなが頷く。
私はゴクリとのどを鳴らし、たとえようもない緊張感でいっぱいになった。
緊張している私を驚かせるかのように、屋敷側の扉が無造作に開かれた。
その音に思わず心臓が口から飛び出しそうになる私。
気が付いたらランさんに抱きついていた。
「しっかりしろ、トモリ」
抱きついていた手を、引きはがすランさん。
「でも……」
やっぱり、いきなりは怖いよ。
「準備は良いか?
そろそろ出かけたいのだが。」
その声は聞き覚えのある声。
そう、キスィメン4世さんの声だった。
キスィメン4世さんは、その手に大きめのアタッシュケースを持っていた。
おそらく商品購入のための金貨が詰まっているんだろう。
私たちは、まずキスィメン4世さんを無事取引現場まで護衛するんだ。
あのアタッシュケースを守るために。
私は大きく息を吸うと、ゆっくりと吐いた。
よし、気合いを入れなおして立ち上がる。
みんなも、緊張の色は隠せないみたいだ。
「行先ぐらい、教えてくれよ。」
いや、ランさんは慣れているのか緊張している感じはない。
「北西の倉庫街だ。
わしが道案内をする。」
キスィメン4世さんは、言い放つ。
「すぐの場所か?」
ランさんももう少し踏み込んで聞き返す。
「すぐの場所ではないな。
歩いて1時間くらいかかるところだ。」
キスィメン4世さんは、そう言うと私たちの顔を見回す。
「では、出発だ。
道中の護衛もお前たちの任務だ。
それを忘れるなよ。」
キスィメン4世さんがそう言い放つと、庭園に出る扉を開き外に出て行った。
私たちは、慌ててその後を追いかける。
夜中の街は真っ暗で不気味だ。
ランさんが持つ松明の明かりと、月の明かりだけが私たちを照らしてくれる。
視界は極端に狭い。
10m位先は真っ暗闇だ。
私たちは、キスィメン4世さんを挟むように、ランさんと私がキスィメン4世さんの前を。
金シャチさんとメアリーさんが後ろを歩いている。
分かれ道に差し掛かると、その都度キスィメン4世さんは指示をくれる。
こうして私たちは、闇に包まれた街を徘徊することになったのだった。
どれくらい歩いただろう?
そろそろ北東地区(富裕層の住む地区)を出るころだった。
目の前にうっすらと明かりが見える。
その明かりはゆらゆらと揺れながら、私たちの方に近づいてきた。
ランさんはいったん足を止めた。
そして松明を私に渡すと、腰のヌンチャクに手を伸ばした。
道の端に寄り、キスィメン4世さんを取り囲むように、私たちは配置につく。
ランさんは、じっと揺らめく明かりに目を凝らしていた。
「何者だ?」
聞きなれない声が、不意に浴びせられた。
松明の明かりに照らされて、その人物の姿があらわになる。
どう見ても冒険者らしい。
そう言えば、モンスター騒動の後、ギルドの冒険者たちが交代で夜の街を巡回していると聞いたことがある。
その人たちかな?
そんなことを考えていると、松明に照らし出された人物は2人だとわかる。
ゆらゆらとしていた明かりは松明の明かりだった。
「どうする? キスィメン4世。」
ランさんが警戒したまま小声でキスィメン4世さんの指示を待つ。
「ここで待っておれ。わしが話をする。」
キスィメン4世さんは、私たちを押しのけて、巡回中の冒険者2人のところに向かった。
「何を話しているんだろう?」
思わず声が出る。
「さぁな。」
ランさんが、じっとその様子を見ながらそっけなく答える。
10分ぐらい話をしていたかな?
キスィメン4世さんが戻ってきた。
「じゃ、出発だ。」
キスィメン4世さんは短く言うと、歩き出した。
巡回中の冒険者2人とすれ違ったけど、別段怪しい動きはなかった。
どんな話をしたのかな?
ちょっと気になりつつも、おいて行かれないように、足を早めた。
それからまた、暗闇の中を歩いていく。
大通りに差し掛かる。
そう、区画を分ける中心の広場から門にかけて伸びる大通りだ。
これでやっと、北東地区を抜けたことになる。
そして今度は北西地区。
この地区は公共性の高い施設が密集している地区だ。
ミソカツ亭もこの地区にある。
私もなじみのある地区なので、ちょっと緊張が解けた。
でも、こんな夜更けに街中を歩いたことはない。
し~んと静まり返ったこの街は、昼間とはまるで違う顔を見せていた。
もうどのくらい歩いたのかな?
おそらく北西地区の中心に向かっている。
確か、北西地区の中心には倉庫が立ち並んでいる場所がある。
この方向だと、そこに向かっているような気がする。
ちらりとキスィメン4世さんの方に視線を向けるが、彼はアタッシュケースを抱いて、まっすぐ前を向いて歩いていた。
怖くないのかな?
私は、なじみのある地区とはいえ夜の闇に覆われた街に、恐怖を感じていた。
「ここだ。」
突如、キスィメン4世さんが足を止める。
ここは、北西地区のほぼ中心にある倉庫街。
その一つ、一際頑丈そうな大きな倉庫がこれまた頑丈そうな塀に囲まれて建っていた。
倉庫の大きさは9m×9mほどの広さがある。
周りに人の気配はない。
「ずいぶん歩いたな、メアリー今何時頃かわかるか?」
「はい、え~と……。」
ランさんの質問にメアリーさんは満天の星空に視線をはわす。
「深夜1時と言ったくらいですね。」
メアリーさんが言った。
え? と言うことは、ずいぶん長いこと歩いてきたんだ。
出発は11時ごろだったはずだよね。
実に2時間くらいかかっている。
昼間なら、キスィメン4世さんの屋敷からこの辺りまで1時間もかからない。
やっぱり慎重に歩いてきたから、時間がかかってしまったんだね。
私は自分で納得していた。
「お前たちはここで待っておれ。わしは取引をしてくる。
わしが合図をしたら、倉庫に来るのだ。
それまで周りの警戒を怠るでないぞ。」
そう言い残して、キスィメン4世さんは倉庫に向かって歩いて行った。
周りの警戒って言っても……。
倉庫の四方は3mほどの高さの塀に囲まれている。
この倉庫はほかの倉庫とは異なり頑丈な作りになっていて、大きさも一回り大きい。
もともと何の用途に作られた倉庫なのかはわからないけれど、四方を囲う塀がある倉庫と言えば数は少ない。
それだけ厳重な倉庫なんだ。
私たちは、もう一本松明に火をつけて2班に分かれて倉庫の周りを巡回し始めた。
「ランさん、こんな丈夫な造りの倉庫で取引って、どんな商品なんでしょうね?」
2班に分かれたのはランさんと私、金シャチさんとメアリーさん。
私は疑問をランさんにぶつけてみた。
「さぁな。詮索は無しじゃなかったっけ?」
ランさんが闇に目を凝らしながら答える。
「それはそうですけど……。」
やはり気になる。
アタッシュケースの大きさから、かなりの額の取引なのはわかるけど……。
やっぱり気になるよ。
「まぁ、これだけ頑丈な作りの倉庫での取引だ。
おおっぴらにできない代物なのは間違いないな。」
ランさんが私の頭に右手を乗せる。
「それって、どう言う……。」
「お、合図だ。倉庫に向かうぜ」
ランさんの言った意味を反芻してみる。
してみるけど、答なんて出てこない。
私たちは、キスィメン4世さんの方へと向かっていった。
ちょうどそのころ、倉庫の勝手口から7人の人物が出て行ったのが分かった。
一人はでっぷりとした人。
この人が、キスィメン4世さんが持っていたと思われるアタッシュケースを抱えていた。
と言うことは、この人が商人?
その他の6人はおそらく護衛だろう。
そのうちの一人のマントの奥にちらりと剣が見て取れた。
私たちは彼らと入れ違いになるように、キスィメン4世さんのもとにたどり着いた。
「待たせたな。
では荷物を運んでもらう。
先ずは正面の扉を開ける。」
キスィメン4世さんの手には、南京錠の鍵が握られていた。
倉庫の正面に回った私たち。
正面の扉の大きさに、驚いてしまった。
6m位の幅があり、高さは3mほどか。
よほど大きな荷物を扱う倉庫らしかった。
そこには扉をしっかりと閉めるために、かなり大きな南京錠がついていた。
キスィメン4世さんは、手に持っている鍵を使い南京錠を外す。
「では、扉を開いてくれ」
キスィメン4世さんは、外した南京錠を持って、後ろに下がった。
「よし、金シャチ、開けるぞ。」
ランさんは真っ先に扉の前に立つと、金シャチさんに声をかける。
2人がかりで、頑丈そうな扉は、重々しい音を立てて開いていく。
私の持っている松明の光が、倉庫の中に少しづつ差し込んでいった。
中には天井近くまで積み上げられた藁を乗せた荷車が1台、ポツンと置いてあった。
「これが、護衛対象の荷物?」
思わず声に出してしまった。
「そうだ、高価なモノだからな。
くれぐれも慎重に扱うんだぞ。」
キスィメン4世さんは、手に持っていた南京錠を、倉庫の中の回収BOXに入れ、荷物の側へと向かっていった。
私たちも、恐る恐る荷物に近づいていく。
うっ、なんだろう?
獣のような匂いがする。
かすかだけれど、獣特有のあの匂いが倉庫内に充満していた。
「さぁ、運び出せ。
ワシの屋敷まで運ぶんだ。」
キスィメン4世さんは、そういうと私たちに視線を向ける。
「……わかった。金シャチ前を頼む。俺は後ろから押そう。」
「私も手伝います。」
ランさんの指示で金シャチさんは荷車を引く役に、ランさんとメアリーさんは後ろから荷車を押す役になった。
「私は?」
どうすればいい?
ランさんに問いかける。
「トモリは、前にいて松明の明かりで道を照らしてくれ。」
ランさんは、そう言うと荷車の後ろに回り込んでいった。
どうやら思った以上に荷車は重いようで、3人でまずは倉庫の外まで運び出した。
「倉庫の扉を閉めるぞ。金シャチ、頼む。」
ランさんと金シャチさんが、あの頑丈で重い扉を閉める。
そんな光景を見ていると、ふと視界の端にキスィメン4世さんの姿が映った。
なんだかそわそわしている気がする。
どうしたんだろう?
「早くするんだ。おいお前。」
え? 私?
「はい、なんでしょう?」
いきなり怖い顔をしてキスィメン4世さんが近づいてくる。
「周りに怪しいやつはいないんだろうな?」
「は、はい。
先ほどから倉庫の周りを巡回していましたけど、人の気配はないです。」
そんなに、怯えなくても。
私はこの闇の街の方がもっと怖いよ。
お化けが出そう。
そんなことを考えながら、キスィメン4世さんの問いに答えるのだった。
ランと金シャチさんが扉を閉め終わると、さっきと同じように金シャチさんが前、ランさんとメアリーさんが後ろに回って荷車を、動かし始めた。
私とキスィメン4世さんは一番前で、荷車が通る道を松明で照らしていった。
「キスィメン4世さん、ずいぶんとたくさん藁を買い込んだんですね。」
この藁の量でも、あのアタッシュケースの中の金額にははるかに及ばないだろう。
そんな軽い気持ちで、聞いてみると。
「詮索は無しだ。そういう契約であろう。
お前たちはこの荷物の安全に全力を尽くせばいい。」
やっぱり来た時よりも、何かにおびえるようにそわそわしている。
「……はい。」
私はそんなキスィメン4世さんの行動に違和感を感じながら、道を照らしていった。
倉庫に向かうときよりも帰り道の方が時間がかかった。
当然と言えば当然。
なんせ、帰りは荷車を引いての帰路だったから。
キスィメン邸に着いたころには、うっすらと東の空がしらみ始めていた。
キスィメン4世さんの指示で、最近造られたと思われる真新しい頑丈な作りの倉庫。
これも9m×9m位の広い倉庫だ。
そこに荷車を運び込むように指示をされる。
私たちは言われるがままに、荷車を倉庫に運び込んだ。
「よし、では扉を閉めてくれ。」
キスィメン4世さんは荷車が完全に倉庫の中央に収まったのを確認して指示を出す。
「おい、金シャチ。」
ランさんが金シャチさんを呼ぶ。
2人でまた頑丈で重そうな扉を閉める。
最後に大きな南京錠で、扉が開かないように鍵をかけるキスィメン4世さん。
それが終わると、安心したのか表情が柔らかくなる。
「では、荷物の警護を頼んだぞ。」
キスィメン4世さんはそう言い残して屋敷へと入っていった。
そう、ここからが依頼の本番だ。
私たちは夜間の荷物の警護を担当する。
私設自警隊員も3人ほどいるけど、昼間ほどの人数じゃない。
それに、昼間みたいに人の目があるわけでもないので私たち冒険者に警護の依頼が回ってきたんだと思う。
そんなことを考えながら、しらみがかった東の空を見上げながら、私たちは敷地内の巡回警護を始めたのだった。
私たちは一応持ち場を決めた。
私は屋敷正面の門の東側。
馬小屋、馬車小屋、荷物のある倉庫が南に向かって立ち並んでいる場所の、北側。
つまり、北の塀と馬小屋の間の辺りを中心に警戒をする。
金シャチさんは、門を挟んで反対側。
西側で遠巻きに私から倉庫までを一望できるところに陣取って、監視をしてくれる。
そしてメアリーさんは、荷物のある倉庫の南側、倉庫と塀の間で見張りをする。
最後にランさん。
荷物のある倉庫の西。
倉庫と塀の間を中心に警戒をするといった具合だ。
「とりあえず、日中のシフトを決めようか。」
装備を外し、ソファーに腰を下ろしたランさんが切り出した。
「確か、一人は連絡要員として起きていないといけないんでしたよね?」
私は料理を口に入れながら、依頼内容を口に出す。
「そうだ、そこでだ。
俺とメアリーが午前中警護をする。
金シャチとトモリは午後から警護に当たってくれ。」
「え? かまいませんけど、一人でよかったんじゃありません?」
素直な疑問をランさんにぶつける。
「2人の方が何かあった時に動きやすいからな。
いやだというなら、一人ずつのシフトを組むが……。」
ランさんが答える。
確かに何かあった時1人より2人の方が良いよね。
睡眠時間も確保できそうだし。
「そうですね。
私はランさんの意見に賛成です。」
「ほかの2人は?」
ランさんがメアリーさんと金シャチさんの顔を覗き込む。
2人はコクリと頷いた。
「じゃ、決まりだな。」
ランさんは、パンをちぎって口に放り込んだ。
「それじゃ、食事が終わったら休んでおけよ2人とも。
メアリーはもうひと踏ん張りだ。」
ランさんの指示はいつも明確だ。
しかも的確だ。
「わかりました。それじゃお願いしますね。
ランさん、メアリーさん」
私たちは食事を済ませ、ランさんとメアリーさんを見送ると、ベットにもぐりこんだ。
自分で思っているより疲れていたのか、私は深い眠りの底に引きづりこまれていったのであった。
「おい、起きろ。」
「う、う~ん。」
ランさんの声で目が覚めた。
まだ眠い目をこすっていると、リビングテーブルの上には所狭しと料理が並んでいた。
窓から外を見れば、お日様が高々と登っていた。
あれ? あ、そうだ。
昨夜、取引現場に行って、荷物を運んで……私と金シャチさんは、午後の見張りだったっけ。
まだ目覚めきっていない頭で、記憶の断片をつなぎ合わせる。
「とりあえず飯だ。
それとみんなに話したいことがある。」
ランさんはそういうと金シャチさんを起こしに行った。
私は、着替えを済ませ装備を整えると、自慢のポニーテールを縛りなおした。
話ってなんだろう?
そんなことを考えながら、ソファーに腰を下ろした。
料理を囲んでみんながソファーに腰を掛けている。
いただきます。をして料理を食べ始めた。
お日様の様子からして、正午を回ったころだろう。
「ところでランさん、お話ってなんですか?」
今朝方何か事件でも起きたのかな?
料理を取り分けながら、ランさんに聞いてみた。
「ああ、それなんだが。」
ランさんがフォークを置いて、真剣な顔になる。
何だろう?
私は思わず身構えてしまった。
「昨夜、俺たちが運んだあの荷物。あれは獣だ。
今朝方倉庫に牛1頭分の肉が運び込まれた。
つまりそれだけの食糧を必要とする獣、モンスターの可能性もあるな。」
モンスター?
と言うことは、あの噂は本当だった?
「確証はあるんですか?」
ランさんに聞いてみる。
「確証はない。だが状況証拠から考えると、その可能性が高いな。」
ランさんは答える。
モンスターがいる。
いつ、暴れるかわからない。
そんなものを私たちは警護するの?
背筋に冷たいものが走った。
でも、警護の品は詮索しちゃダメなんだよね。
キスィメン4世さんに聞きに行くわけにはいけない。
昼食を終えた私たちは、再び警護に当たる。
午後は私と金シャチさんだ。
ランさんとメアリーさんはそのままベットにもぐりこんだ。
お疲れ様です。
眠かったよね。
私と金シャチさんは、屋敷の敷地を警戒するように巡回する。
昼間は夜中と違い、キスィメン4世さんの私設自警隊員も警護に当たってくれる。
実にその人数は10人ほどだ。
それ以外にもメイドさんや、執事さん、この屋敷で働く人たちが忙しく働いている。
これだけ人の目があれば、簡単には侵入できないだろう。
やっぱり昼間は、私たちの出番はなさそうだね。
やはり昼間は何事も起きなかった。
夕方ごろ、倉庫の中からはしゃいで出てくる姉妹が目に入った。
執事さんも、困り顔だ。
倉庫の中……あんな小さな姉妹がはしゃいでいる。
モンスターじゃないのかな?
何か別の……そう、ランさんの勘違いとか。
普通モンスターを目の当たりにすれば、怖がるもんね。
そうか、そうだよ。
きっとランさんの勘違い。
私の肩が軽くなった。
そして夕食前、再び奇妙な光景を目にする。
それは、牛1頭分はあろうかと言う大量の肉が、例の倉庫の中に運ばれていくというものだ。
あんなに大量の肉、いったい何人前くらいなんだろう?
あの倉庫は、実は食糧庫なんじゃないかな?
「どう思います? 金シャチさん。」
隣にいる金シャチさんの袖を引っ張る。
「ん? どうかした?」
「え? 金シャチさん。今の見てなかったんですか?」
「今の? 何?」
「牛1頭分くらいの肉が、倉庫の中に運ばれたところですよ。」
もう、肝心なところを見ていないんだから。
「ああ、ランの言う通りなんじゃないの?」
度胸が据わっているのか、興味がないのか。
金シャチさんの答えは、適当感があふれていた。
もう、頼りにならないな。
知り合って今日で、4日目。
金シャチさんの冴えた姿を見たことがない。
こんなに大きな剣を持っている戦士なんだからもっと頼れる人かと思っていたのに。
なんだか、心配になってきた。
それからしばらくして、メアリーさんが私たちを呼びに来てくれた。
待ちに待った、夕食の時間だ。
私のおなかの虫が、ぐ~となっているのが聞こえた。
部屋に戻ると、ランさんも装備を整えて待っていてくれた。
みんなが揃ったところで、いただきますをして、料理に手を伸ばす。
私は簡単に日中の様子をみんなに話す。
特に変わったことと言えば、小さな姉妹たちが倉庫からはしゃいで出てきたところと、肉が運ばれたということぐらい。
あとは私設自警隊員が倉庫の方には近づかず、敷地内を巡回していたことくらいだね。
きっと私たちで、倉庫を守れっていう意味なんだろう。
それって万一何かあった場合、私たちのせいってことにするつもりなんだと思う。
まぁ、そのために雇われたと言えばそうなんだけどね。
「そうか、わかった。で、今夜の布陣だが、昨夜と同じでいいか?」
食事を済ませたランさんが、獣皮紙に書かれた、敷地内の地図に視線を落とす。
「そうですね。特に変える必要はないと思いますね。」
昨日も何もなかったしね。
私はランさんの意見に同意を示す。
金シャチさん、メアリーさんも頷く。
「じゃ、決まりだ。みんな、配置についてくれ。」
ランさんの掛け声に、私たちはそれぞれの持ち場へと向かったのだった。




