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☆3 リビングオブザデッド




「ほうら、生肉だぞう」



 食卓(ダイニング)の、床にお皿にどさっと盛ったエサを置き、ゾンビに与える。

 人間様と一緒のテーブルではしつけとしてよくないからだ。

 しかし血の滴るグレイシービーフの生肉。血の滴る、……魔道冷凍庫から出して魔道レンジで解凍したてのほやほやだ。

 ちょっと焼いて塩胡椒でもしたら美味そうだ。

 通販でもかなり高価な品だった。実はだいぶ悔しいのだがゾンビといえば生肉なので仕方ない。肉のランクを下げておけばよかった、まさか今回成功するなんて。

 まあ寝てる間にはむはむされるよりはマシだろう。


 しかしハンスト。

 何故だ。ゾンビはいっこうに食べる気配を見せない。



「高価かったんだぞ? 好き嫌いすんな」



 と口元に持って行ってやったのに、いやいやをする。



「これは……」



 馬を水辺に連れて行く事は出来ても、馬に水を飲ませる事は出来ない、ってアレか。


 仕方ない、放っとこう。



「そこに置いとくから、腹が減ったら食べるんだぞ」



 居間(リビング)に行って(魔導)(ヴィジョン)をつけるが、下らない詠唱(うた)番組やニュースしかやっていない。

 通販で買い溜めしてあるお菓子を探す。コカ・飲料と芋チップスとチョコレートで、健康の三種の魔導器と言われている。

 薬草、コカの葉の汁が入った健康飲料はスカッと爽快で、芋チップスとしょっぱさとチョコレートのほろ苦い甘さがお互いを称え合って幾らでも食べられるのだ。


 それを食べ終えてさらにチョコチップクッキーの袋を開けた時、ゾンビがそばに寄って来た。



「何だ、これ食べたいのか?」



 物欲しそうにクッキーを見つめるゾンビ。



「変わった奴だな、お前」



 手を伸ばしてクッキーを渡そうとする。

 ゾンビは警戒しているのか受け取らない。



「ほらよ。好きにしろよ」



 と上下して促す。



「ぐるる」



 ゆっくりと手を伸ばしてクッキーを掴むゾンビ。

 隅の方に行って、もそもそと食べている。



「変な奴」



 ダイニングを見に行くと、ゾンビはグレイシービーフに手をつけてすらいなかった。



「勿体無いな、これ。……よし」



 魔石コンロに掛けたフライパンで焼いてステーキにする事にした。

 面倒臭いけど仕方ない。

 グレイシービーフはもともと数千年前に絶滅したナウマン象などと同時代の牛で、グレイシー博士が長きに渡る魔導研究の末、近年ようやく復活に漕ぎ着けたものだ。

 そしてそのあまりの美味しさから家畜化、食肉化が始まった伝説の食材なのだ。

 もっともな話だ。原始人が狩りを我慢出来ずにとうとう絶滅させてしまう程美味かったのだ。

 ダイスケ牛やヒョーゴ牛という名だたるブランド肉の中でも最高級品だった。

 ゾンビが失敗だったら自分で食べるつもりだったのだ。結果オーライだし、ゾンビも失敗作だ。あんな奴。


 焼き加減は当然激レア。

 サクッと表面だけ軽く炙る。

 そして塩胡椒を振って適当な皿に盛り付ける。


 もともと美味い肉は、下手に手を掛けない方がいい。

 血の滴る奴をナイフで切り分けフォークに突き刺し、そして口を大きく開けたその時だった。脳内では、肉汁でいっぱいに満たされた口のその味が先回りして拡がりかけて(・・・)いた、だがそれはまぼろしに過ぎなかった。


 家が爆破されたのだ。


 ※


 くっきーをもらった。


 知らない、あれ、誰だっけ。おじさんがくっきーを食べてて、見ていたらくれた。

 でも、知らない人から物をもらっちゃいけません。

 でもおいしそう。

 怒られちゃう。

 一つだけならいいよね。

 だめ?

 でもこのひと誰だっけ。

 なんかこのひと知ってる。

 うーんと、へんたいさんって呼んでたひとだっけ。

 たぶん知らない人じゃない。

 くっきーはおいしそう。


 手を伸ばすと、わたしてくれた。

 

 こぼすところを見られたら怒られちゃうかもしれない。

 わたしはへやのすみに行って食べる事にした。

 ぱさぱさしてる。

 味がよくわからない。でもきっと甘いんだ。


 すこしだけ、おなかがあたたかくなるような。そんなきがした。


 おじさんはどこかに行っちゃった。

 のこりのくっきーはどこだろう。

 探していると、くろい石みたいなかたいやつの入ったかんづめがあった。

 これ、食べれないかな。


 ※



「コラーッ! 何してるんだ!」



 急いでリビングに向かう。壁は崩れ、食卓は埃だらけだ。ステーキどころか机や椅子までも吹き飛んでしまった。


 冗談じゃない。


 埃だらけ煤だらけの格好で、肩を怒らせながら。

 何をやったか知らないが間違いなく、あのバカゾンビのせいだ。


 暖炉のそばに魔石の缶を置いていた。あれが怪しい。

 扉を文字通り破るようにして半壊したリビングへ突入、するとそこにゾンビはいなかった。



「は?」



 魔導銃。

 それを構えた覆面の男達。

 あ。これ、住居不法進入だ。

 頭がついてこない。四、五人の無法者が銃を構えて、俺を見ている。



「結界のアラームは……」



 プシュッ。

 先頭の一人が、消音魔導器をつけた魔導銃が俺を撃ち抜く。


 なんじゃこりゃあ。


 声すら出せない。

 俺は死ぬのか?


 あっけなく床に倒れこむ。

 実際、素人がこんな連中に目をつけられたら何も出来ないものだ。

 これまでか。

 来世では剣と科学の世界で無双出来るといいんだが。



「始末はすんだ。撤収」



 腰の魔導トランシーバーで多分仲間に連絡を付けると、足音も立てずに去って行く。

 ヒットポイントはまだ僅かに残っている。

 だがもう体が動かせない。

 屋敷に火をかけられたようだ。

 そこかしこから煙がくすぶり火の粉が舞い落ちる。

 熱い。

 腹を撃たれたせいか喉がカラカラだ。



「だれか、の、飲み、もの」



 最後の言葉がこれか。

 ここで焼け死ぬんだな。

 俺はそこで、諦めた。


 しかし、幸運にもその瞬間は来なかった。

 ポーションが喉に流し込まれたのだ。


 現代魔学の最先端。ヘヴィノベの世界にある科学医療ほど完璧ではないものの、HPは大幅に回復した。


 見上げると、ゾンビ。空のポーションの瓶を持っている。



「お前が助けてくれたのか」



 一本じゃ回復しきれない生傷を抑えて立ち上がる。



「ありがとう。でももうここはダメだ。……そうだ、地下室」



 ゾンビを復活させた地下室がある。

 あそこに逃げ込めば。



「付いてこい」



 奥の扉を破って、地下室への道を開く。

 あとちょっとだ。


 ※


 くっきーをくれたおじさんが倒れていたのでお水をあげたら生きかえった。


 くろい石をかじっていたら、大きな音がして悪いひと達がきた。

 きっとごうとうだ。

 ひとのおうちに入るときは、ノックをして、お返事があるまで入っちゃいけないのに。

 それをしないのは悪いひとだ。

 かべに穴をあけて入ってくるなんて、お行儀悪いですよ?


 くろい石を投げつけたけど全然かなわなかった。

 そのままてっぽうで撃たれてしまった。

 痛くないけど、とばされて怖いからそのまま動かずにじっとしてた。


 しずかになって、みたらおじさんが寝てた。


 床に落ちて栓のとれた瓶が転がっていたからそれをあげた。

 よろこんでたみたい。


 なんかけむい。

 前よりましだけどけむい。


 ※


 地下室。

 失敗作の猿が天井から白眼をむいてぶら下がっている。

 やっと辿り着いた。

 ヘヴィノベの胡散臭い科学知識によると地下にはニサンカタンソとかいう未知の毒物が充満してる状況だ。

 抜かりなく、魔導空気清浄機のスイッチを入れて、やっと一息つく。



「助かった」



 それと蒸し焼きになりそうなくらい暑いので、魔導クーラーを付ける。

 扉の隙間からは煙が漏れてきて、家の崩壊する音も聞こえる。


 現実感がなかった。


 燃え盛る炎も、自分が死にかけた事も。

 今まさに、思い出の品や集めたフィギュアが頭上で灰に変わろうとしているというのに。


 そんなはずないでしょ。


 心が、まだ現実を受け入れられないでいるのだ。


 そうだ、ゾンビは?


 ゾンビはまだちょっと燃えていた。

 燻製で乾燥させ過ぎたのがいけなかったのか、足元からちょろちょろと火が出ていた。



「早く言えよ!」



 さすがにゾンビには無理な相談だ。それは分かっている。

 急いで水を掛ける。


 おっとこの瓶はポーションだ、浄化されてしまう。これもウィスキーだからダメだ。水、水。


 そして叩いて消火を確認。



「ちょっとコゲちゃったな」



 とゾンビに話しかけるが、奴は別に気にしている様子もない。

 動作に支障もないようだ。よかった。

 火には弱いが、ゾンビは痛みも感じないし、物理耐性だって高いのだ。



「しかし、一体何が起きたってんだ」



 教会が死体を取り戻しにでも来たのだろうか。



「お前、何が起きたか分かる……訳ないよな」



 ゾンビは目の焦点が合っていない。

 平常運行だ。

 何を教えても出来ないしすぐ逃げる、能無し。

 喋り相手にもならない。作り出したのを後悔した程の、そんなダメゾンビだった癖に。



「お前がいなかったら死んでたな」



 と微笑み掛ける。



「助かったよ。ありがとう」



 そして頭をポンポンと撫でたら、噛み付かれた。

 ニコガブ、撫でガブという斬新なジャンルだ。誰が得するんだこれ。



「こら離せ、何だよもう。本気かよ」



 しばらく食らいついて離さなかったので振り解くのに難儀した。

 前にも言ったが、感染するタイプのゾンビじゃなくてよかった。

 ゾンビは本来、召喚されて使役されるだけの1代限りのものだ。剣と科学の物語の世界などではTウィルスとかいう病原体が原因で、噛んで増えたりもするらしいが。

 数分後、ようやくゾンビの魔の手から逃げ出して、張り倒す。

 仕方ない。こいつは脳が腐ってるんだ。



「ごめんな。でももう肉ないぞ? 上で燃えちゃってるだろうし」



 そうだ、あの最高級肉も食べられなかったのだ。

 思い出すと悔しさが蘇ってくる。

 天井を見て歯ぎしりをする。



「あ、サル食べる?」



 そこで目に付いた、引っかかっていた奴を取って渡すが、今度はゾンビは見向きもしない。



「好き嫌い激しいなお前。とにかく俺は食うなよ」



 今は炎の収まるのを待つしかない。

 足掻いても何も出来ないのだ。

 ゾンビがいるので迂闊に寝るわけにもいかない。

 考えるのも嫌になったので、魔導書を取り出して現実逃避をする事にした。





マナ無しさん

家燃えちゃったんだけどどうしたらいい?


マナ無しさん

釣り乙


マナ無しさん

IDはよ


マナ無しさん

あーステーキ食べそこなったクソ



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